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 書いていた手紙を八つほどに折り畳んだ。一度開いて、折り目に沿ってゆっくりと破っていく。あまり見られたくない部分は、より念入りに刻んだ。黒いごみ袋に入れ、包み、ごみ箱に放り込む。ごみ箱の中には、同じような黒い袋がいくつもたまっていた。


 ボールペンの先が少しかすれ始めていた。


「おい!」ドアの向こうから声が聞こえた。「聞こえてんだろ、さっさと出て来いグズがっ」


 弟の声だった。


 一晴は「はい」と返事をし、そっとドアを開ける。弟が、固定電話の子機を持って立っていた。それを投げつけるようにして渡すと、ドスドスと足音を立てながら居間に入っていく。チッという大きな舌打ちがここまで聞こえてきた。壁が薄いからだ。


 一晴は、子機をもったまま外へ出た。カラスの鳴く声ばかりが響く外だ。


「もしもし、お電話代わりました」


「一晴君、今の、弟さんだよね」


「はい」


「その、一晴君の家、大丈夫なの」


「大丈夫です。お金のことなら、俺はバイトしてますから。だから、何年かかったって必ず」


「そういうことじゃないの。一晴君、ちゃんと生活できてるの」


「高校には通えていますし、三食きちんと食べれています。眠ることも出来ます」


「今、何か楽しいことはあるの」


「そんなことを聞くために電話したんですか」カア、とカラスが一晴の頭上を越えた。鳴き声はもう聞こえなくなった。


「・・・・・・分かってると思うけど、今月の話よ」


「はい。わざわざありがとうございます」


 電話の相手は何も言わないので、一晴も何も言わなかった。やがて諦めたように「じゃあ、また、直接話しましょう」と電話が切れる。一晴は、もう何も喋らない電話の子機を力の入らない手で引っ掛けるように持ったまま、立っていた。


 ふと思い出したように顔を上げ、家に戻る。玄関先に電話の子機を置いて再び出てきた。財布も携帯も、何も持っていなかった。口先を少しだけ半開きにし、目つきは鋭いまま、ゆったりと歩いていた。

 ふらふらと歩き続けて、一晴の家からは少し距離のある駅まで辿り着いた。最寄り駅の一つ先の駅だった。


 太陽の灯りが落ち、街の灯りが少しずつ点き始めていた。流石に、駅の周りは明るかった。駅と近くのコンビニの間の少し広い通りに、ギターを持った男が二人立っていた。


 ときどき声を裏返して切ないメロディーを歌う男たちの前で、一晴は足を止めた。ギターを弾く男の手をじっと見た。


 時折人が止まってはまた流れていく中で、その流れを遮るように、一晴は微動だにせず、ただじっと立っていた。曲が終わって拍手をすることもなければ、曲の合間に冗談を言った男に対し表情を変えることもなかった。


 路上ライブを終えた男たちがギターを片付け、不気味そうに一晴を見て立ち去っても、それでもまだ、一晴はそこに立っていた。日付は回っていた。明日も朝からアルバイトの予定があった。




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