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宇宙ゴミ掃除をビジネスにする話  作者: ダイスケ
5章:若者はアイディアだけで走り続ける
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第34話 いっそスマホを

「いてて・・・」


「徹夜明けのテンションで、あんまりそっくり返るからだ」


腰をさすって起き上がる小林の腕を掴んで引き起こしながら、苦い顔で説教をする。


このやり取りも高校時代から何度繰り返したかわからない。

小林が暴走し、志乃田が咎める。

ある種のお約束のようなものだ。


「で?何を考えてあるんだ?このカード衛星、将来的には切手衛星ピコサットになるんだったか?これを活用する方法がなにかあるんだろ?」


「あーうん、一応は・・・。だけど、これって志乃田の専門じゃないかと思うんだ」


少しだけ自信なさげに小林が上目遣いで問題をこちらに振ってくる。


「俺の?」


「うん。このカメラ、小さいけど衛星から離れて視野角を取れる、っていうのは観測に便利でしょ?」


「ああ、まあな。アンテナがあってデータ送信ができて、ある程度の距離が取れたらな」


カメラが複数あれば三角測量の要領で距離を測ることができる。

空気による視野の距離減衰が起こらない宇宙空間では、彼我の距離を確かめるためにはレーザーや電波などをぶつけて返ってくるまでの時間で距離を測るか、三角測量の要領で異なる地点からの視野角のズレで距離を測ることになる。


前者の方法はレーザーの発振器やレーダーなど特別な機器が必要になる。

そしてSDCCコンテストから支給された部品リストに、その種の部品はない。


「JAXAがキューブサットに積める合成開口レーダーを持ってたはずだけど、さすがに支給されないか」


「アメリカのコンテストだからね。日本も渡さないじゃない?」


もっとも合成開口レーダーでデブリを観測するデータの分析のスキルを2人は持っていないから、例え部品だけが支給されても使いこなすことはできないだろう。


必然的に2人が取れるのは後者の三角測量ということになる。

その場合、2つ以上のカメラがあれば良いが、その距離は離れているほど測りやすい。


「だが、それもカメラが安定していないと意味がないぞ。宇宙空間で衛星から位置も角度も不明な画像のデータなんか受け取っても意味がない。ただのノイズだ」


「んー、位置はね、GPS信号を受け取ればわかる、と思うんだ」


「・・・その手があるか」


GPS衛星の軌道はおよそ20,000km。(準天頂衛星など、より低軌道のものもある)

今回のSDCCで目標とする高度にもよるが、もっともデブリの多い高度は800から850km前後だから、仕様としてはそのあたりを目指しておけばいいだろう。

GPS衛星はアメリカ、EU、中国、インド、日本の打ち上げたものが多数入り混じっているから、それらのGPS衛星のうち地平線上に見えるものから適宜、取得できるデータがあればいい。


「GPSチップもスマホから取れるしね」


かなり前からスマホにはGPSチップが標準装備されている。位置情報サービスに必要だからだ。

それをオークションで買い取った廃棄スマホから引き剥がせばGPS信号の受信はできる。

あとは内部データを弄って地表の高さ設定を軌道まで変えればいい。


「なんかもう、スマホをそのまま打ち上げた方が良さそうだな」


「ふふっ。志乃田もそう思う?だけど液晶がダメなんだ。宇宙空間にでたら凍るから、一発でアウト」


「あー。液体だものな。液晶って」


「そうそう」


古典SF映画で火星に事故で残された人がノートPCを起動しようとして一発でダメにする、というネタを見た覚えがある。

それにしても部品の宇宙空間での耐久性の問題をあげるなら、この切手衛星ピコサットには大きな欠点がある。


「そもそも、こいつは宇宙空間でどのくらい持つんだ?」


「さあ?やってみないとわかんないよね。低軌道なら宇宙放射線は地磁気でカバーされるから、少しは持つだろうけど。ええと、CPUは部品リストにある信頼性が高いものを使うから、ある程度は持つと思うよ」


「なら、専用部品は中古スマホのチップ類だけか。こいつらが問題だな。下手したらデブリを量産するだけになる」


「そこはねえ、目をつけてる材料はあるんだ!部品リストのシリコン系の熱に強い接着剤!これで基板を樹脂でコーティングしちゃえばいいと思うんだ。さらに上から白色を吹き付ける!」


「熱伝導対策か。まあ、それで少しは持つか」


接着剤で固めれば振動にも強くなる。白く塗れば光を反射する。

それで基板とチップの耐久性は上がるだろう。

メンテナンスはできないが、使い捨て衛星と割り切るならば、そのくらい思い切った構造で良いのかもしれない。


「あとは、衛星の角度が安定して取れない問題は残るな。それと距離の問題だ」


残る問題点を口に出してみたものの、志乃田の懸念は「待ってました」とばかりに嬉しそうに待ち構えている小林の笑顔に捕まることになる。

このあたりの内容は緊張しますね。

アイディア、ご意見、感想等いただけると嬉しいです

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