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宇宙ゴミ掃除をビジネスにする話  作者: ダイスケ
5章:若者はアイディアだけで走り続ける
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第33話 それは切手サイズの

小林が思いついたこと、のヒントがこの基板にあるという。


志乃田は渡された基板を観察するために視線をおとす。


基板自体はオーソドックスなものだ。ただ、四隅から数センチの針金が伸ばされているのと中央に小さなカメラらしきものがついているのが特徴と言えば特徴と言えるだろうか。


「・・・ひょっとして外付けのカメラの部品か?」


設計予定のキューブサットには光学センサーを積む予定であるが、視野角は限られている。

推進系を別キューブに載せたことで空いたスペースに他の方向を見ること出来る簡易なカメラがつけば観測方向の自由度が上がるかもしれない。


「だが、こんなカメラじゃ使い物にならんぞ」


志乃田が構想する多数の光学系キューブサットによる軌道上のデブリ監視網においては、高い精度でデブリを連続的に追跡できること、が必須の要件である。


超高速で飛行するデブリを高い精度で捉えるためには、カメラ本体に首振り機能が必要になるし、超遠距離のデブリに焦点を合わせるだけの焦点距離の調整機能なども必要になる。


基板に固定されただけの簡易な超小型カメラの出番はない。


「惜しいね!」


と、徹夜明けのテンションのせいか、小林が満面の笑顔になった。

研究室の女子学生達が可愛らしい、と評する顔も今は少しイラッとする。


「で、正解は?」


いかにも喋りたそうで、それでいて少しだけもう少し気を持たせよう、と迷い、我慢できないから言ってしまおう。

それだけの感情の動きを忙しく数秒で表情を変化させた後、小林が座ったまま胸を張って、断言した。


「ふふん。それはね、衛星です!」


「衛星?」


衛星の部品ではなく、衛星本体。

この小さな板が。


「そう。日本初のカード衛星です!正確にはチップサットとかピコサットとか言うらしいけど」


昔の衛星は小型バス程のサイズで重量も数トンはあったという。

そうなると一度のロケットの打ち上げで衛星1基を軌道に載せるのがせいぜいで、衛星打ち上げは極めて高くつくため永く国家事業の時代が続いてきた。


だが、そうした状況を電子機器の小型軽量化が劇的に変えた。

衛星はどんどん小さく軽くなり、一度の打ち上げで複数の衛星が相乗りをすることが珍しくなくなった。

今回の応募に出そうとしているキューブサットも、その衛星小型化の時流の中にいる。


それにしても、小さく、軽い。


「本物はもうちょっと小さく軽くできると思うんだけどね、とりあえずの試作品だから」


「・・・もっと軽くなるのか」


「うん。カメラとアンテナがついただけの基板だからね。配線と素材を工夫すれば、もっと小さく出来るよ。頑張れば切手サイズくらいまで」


「・・・SFだな。ちょっと安っぽいつくりだが」


「そう!さすが志乃田。そこもポイント!安いんだよね、それ。基板はそのへんに転がってるのを使ったし、カメラはネットオークションで落とした壊れたスマホから剥がしてくっつけてあるだけだから」


言われてみれば見たことのあるサイズのカメラ部品である。

研究室の隅の廃棄物処理場を改めて見れば、部品取りに使われたらしき何台もの壊れたスマホを見出すこともできた。


「しかし、これをどう使うんだ。ちょっと面白そうだ、とは俺も思うが」


衛星というからには、キューブサットに積むのだろう。

小林が集中するほど小さく軽くできるのならば、積むだけのスペースはある。


ただ、どうやって役立てるのか。適当に切り離しただけでは、役に立たないデブリを増やすだけである。


「ふふん、それも考えてあるんだ!」


鼻高々の小林がさらに胸を張ろうとしてそっくり返り「あ」と声を残して椅子からガシャンと転げ落ちた。

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