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宇宙ゴミ掃除をビジネスにする話  作者: ダイスケ
1章:それはアメリカから始まった
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第03話 必ず金を払いたくなるアイディアなんだ

ジェイムスはVR空間の会議室で、小さな体を精一杯背伸びして大きな身振りで説明を始めた。


「アイディアを一言で表現すると、宇宙掃除ビジネスだ。こちらで勝手に宇宙を掃除し、代金はゴミの落とし主に請求する」


「だめだジェイムス、宇宙掃除は儲からない。あれは政府かNPOがやる仕事だ」


マークスの反応は、にべもない、という言葉を形にしたような返事だった。

まったく取り付く島もない。


ところがジェイムスは否定的な反応にも、うんうんと深く頷いてから続ける。


「まあ待てよマークス。たしかにゴミ掃除はもうからない。だがな、必ず政府が金を払いたくなるし、企業も列になって金を払いたくなる。そういうアイディアを考えたんだ。これから説明するのが、そのアイディアの根幹さ。マイク、例のソフトをここに表示できるか?」


「うん。やってみるよ」


VR空間上でマイクが指を動かすと、起動された衛星軌道のシミュレーションが空間上に大きく表示された。


「こいつか。これは知っているが、これがどうかしたのか?」


「知っているなら話は早い。先日、こちらのお嬢さん、エミリーの研究室のロケットが打ち上げをした際にデブリにぶつかられたわけだが、これは遡っていくと、ぶつけたのはソ連の衛星のデブリであることがわかった」


ジェイムスの説明に従い、軌道が逆計算されてアニメーションが動いていき、仮想空間上で打ち上げ事故を再現した。


「まあ、よくあることと言えばよくあることだ。軌道は今や完全にゴミの海だ。だから打ち上げの安全な時間帯は価格が高く設定されている。おおかた、打ち上げ費用をケチって危険度の高い日に打ち上げたんだろう」


マークスの辛辣な指摘に、エミリーは歯噛みした。

研究費が不足していたのは事実だし、打ち上げの安価な時間を選択したのは自分である。

車の多い通りを横断したから事故にあったのでは?と言われれば返す言葉もない。


「そこですよ。打ち上げ日や時間帯の制約は、会社にとってもかなりの機会損失になっていますよね?」


「まあそうだな。もしもーーーそんな日が来るとしてだがーーーデブリがなければ、今の倍は打ち上げられるし、衛星を保護する打ち上げ機のシールドの重量も減らせる」


軌道上を超高速で移動するデブリは、ほんのチリ程度の大きさでも拳銃弾以上の破壊力がある。

今では衛星を保護するために重要部分を保護するために何重もの炭素繊維を束ねたデブリシールドを装備することは必須となっていた。

シールドには重量があるわけで、それはグラムあたり100ドルとも言われる打ち上げ価格に跳ね返っていく。


「それで?ポイントは何なんだ?」


「ポイントはですね。我々が被っている莫大な迷惑料を、全部まとめて計算し、しかるべき筋に請求書を送りつけてやろうってことなんです」


ジェイムスの言葉に、VRモデルで再現されたはずのマークスが目を瞬かせたように見えた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ジェイムスはVR会議室で説明を続けた。


「第一弾として、今このとき軌道上を飛び交っているデブリ全てに、タグをつけるんです。いつどこの国が打ち上げたデブリなのか。できますよね?」


エミリーは口を出さずにはいられなかった。


「そんなこと出来ると思ってるの?ジェイムス、あなたデブリがいくつあるか知っているの?それにデブリは常に動いているのよ?」


「正確にはわからない。ちょっと調べてみようか。IADC(国際機関間デブリ調整会議)かNASAに情報があるだろう?・・・ええと数十万、数百万のオーダーか。意外と少ないな」


「少ない?少ないってことはないでしょ?膨大な数よ!」


「いや、金融で扱っている数字に比べれば、これぐらいどうってことないさ。数がわかっているってことは軌道もわかっているし、いつ発生したものかも辿れるんだろう?」


叫ぶようなエミリーの指摘も、ジェイムスはまるで動じなかった。


「兄貴、そりゃあできなことはないけど、僕の個人情報端末じゃ無理だよ。全部のデブリの軌道を辿ろうと思ったら、大学の専用機をかなりの時間使わないと」


「それぐらいの金は出すさ。なんなら会社ゴールドマンのシステムを使ってもいい。処理能力に不足はないはずだ」


「まあ・・・それなら大丈夫だと思うけど。でもたぶん、このソフトも改良しないと。そもそも何十万のデブリをおっかけるようには出来てないしね」


「それも人手を貸そう。いや、そうだな。デブリのタグ付けについてはデータ分割してクラウドで賞金を出してもいいかもしれない」


「SETI方式だね」


SETI。つまり地球外生命体探査計画では、外宇宙文明探査のために電波望遠鏡で収集した膨大なデータから有意の信号を検出するために、今で言うクラウド処理を行った。

データセットを分割し、ネットを通じて処理を配布したのだ。

データセットを受け取った個人はPCの空き時間で計算資源を提供し、処理されたデータセットはネットを通じて返送され統合される。


「つまり各デブリについて処理を依頼するわけか。悪くない」


マークスが頷いたことで、一応は企業としての意思決定が進んだことになる。

ジェイムスは説明を続けた。


「そして第二弾。各デブリの危険度をスコアリングする。物理的危険性、経済的な迷惑度、滞在時間」


「物理的危険性は、質量と相対速度よね。それはデータもすぐに出るでしょうけど、経済的な迷惑度とか、滞在時間ってなに?」


「エミリー、滞在時間は、たぶんすぐに燃え尽きるデブリと燃え尽きないデブリの差のことだと思うよ。だけど経済的な迷惑度ってよくわからないなあ」


エミリーの疑問に、マイクが補足した。


「マイク、そこが軌道の専門家の知恵を借りたいところなんだ。よく知らないが、軌道には人気のある軌道や経済的に安価な軌道というのがあるんだろう?」


「そうだね。軌道と一口で言っても、高さで分類する軌道もあるし、軌道傾斜角、要するに黄道面の傾きで分類する傾斜もある。離心率で測るやり方もあるし・・・」


「わかったわかった。要するにだ。金になって儲かる軌道に、どのデブリがどれだけの迷惑をかけているか。それを知りたい。例えば、これから1年間の間に、その人気の軌道をどのデブリがどれぐらい横切るか、その計算はできるんだろう?」


「うーん・・・難しいけど、データさえあれば出来なくはない、と思う。物凄い計算量になると思うけど」


「それはさっきも言ったように、金なら取り返せる。大学の計算機でも会社ゴールドマンの計算機でもいくらでも使ってくれて構わない」


「それで?迷惑の度合いをスコアリングする、という発想はわかった。それで、ここからどうやって金にするんだ?」


「そこですよ。マークス。ここが肝心なところです」


今や、このVRの空間を、この小さな小太りの男が支配しているかのように見えた。

今日はここまで。明日も2話は更新したいところです。

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