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宇宙ゴミ掃除をビジネスにする話  作者: ダイスケ
3章:インドは世界を追っている
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第20話 野菜を買うように

「ここ一週間で、これまでの一生分よりも飛行機に乗った気がする。この場所も遊びで来るなら気分も違うんだろうけどな・・・」


空港に降り立ったシャルマを出迎えたのは、バカンスでビーチへ向かう人々の群れ。

ロケット開発のために身を捧げる気概はありつつも、彼自身は若く遊びたい盛でもあるから我が身を振り返り多少は思うところがないでもなかった。

インターン生でここまでくる学生がほとんどいないせいか、集合研修のときのようなバスの迎えはない。


「まあ、一人の方が気楽か・・・」


ラップトップとノートと僅かな着替えだけを詰めたバックパックを背負って、空港のタクシー乗り場へとシャルマは歩きだす。


トゥンバ赤道ロケット打ち上げ基地はインドの南端の都市ティルヴァナンタプラムの郊外にあり、赤道に近い灼熱の太陽が照りつける昼間に歩いて向かったりしたら、せっかく下ろした白いワイシャツと革靴が駄目になってしまう。


「これは時間がかかるな・・・」


うんざりしながら空港前でレジャー客達に混じってタクシーの長蛇の列に並んでいると、タクシーの列にスポーツタイプの赤いテスラ車が無音で割り込んでくるのが視界に入った。インドの金持ちには、よくある行動だ。


と、その真っ赤なテスラのガル窓が上に開いたかと思うと「シャルマ!」と自分の名前が呼ばれたような気がして、シャルマは自分の耳を疑い、次に自分の目を疑った。


バンガロールで別れた筈のアーシャだった。


あの睫毛の長い瞳、あの濡れたような黒い髪。そして弾けるような笑顔。間違いない。


「君はバンガロール配属だったんじゃ?」


思わず列を離れて駆け寄ったシャルマに、アーシャは「いいから乗って!」と合図する。


「いや・・・」と遠慮しかけたシャルマだったが、タクシー待ちの列の人々の冷たい視線に促され慌てて助手席に乗り込んだ。


なぜここにいるのか。バンガロールはどうしたのか。そもそも自分の飛行機の時間をどのように知ったのか。

聞きたいことが多すぎて、どうやって話を切り出そうかと躊躇っていると、ミーシャが前2つの疑問については、あっけらかんと種明かしをしてくれた。


「バンガロールの方はすっごく嫌な奴がいてね。お父様に頼んで変えてもらったのよ!こっちの方が面白そうなんだもの!」


「ああそう・・・」


お父様に頼んで配属を変えてもらったとは、どういうことだろう。

頭に渦巻くさらなる疑問を整理する時間を稼ぐために「いい車だね。空港で借りたの?」と車を褒めると


「まさかよね。今朝買ったのよ!いい車よね、あたしテスラって静かで好きよ」


と新鮮な野菜でも買ったようにさらりと言われたので、シャルマは細かいことを考えるのをやめた。


車の性能のお陰か運転者の腕か、アーシャがテスラを快調に飛ばすと、30分もしない内に目的地が見えてきた。


インドが誇る2つのロケット発射場の1つ、トゥンバ赤道ロケット打ち上げ基地である。


シャルマが到着したティルヴァナンタプラムがそうであるように、各国のロケット発射場の多くは、赤道付近にある。


アメリカは全土にロケット発射場があるので置くとして、欧州宇宙機関が属するフランスはギアナ、日本のJAXAなどは遥か南の種子島にわざわざロケット発射場を建設している。


ロケットで衛星を地球軌道に投入するためには、第一宇宙速度である7.9km/秒を出す必要があるのだが、地球の自転を利用すると、それがずっと楽になるからだ。


赤道付近での地球の西から東へ自転する速度は、0.46km/秒に達する。西から東へロケットを打ち上げると上記の条件に、少しだけ下駄を履かせることができるわけだ。


だから多くのロケット発射場はロケットの打ち上げと墜落のリスクに備えて東側に海か人口希薄地帯がある立地に建設されることになる。


ロケットというのは推進剤が自重の9割を占めるほとんど全体が燃料タンクと言っても過言ではない機械であり、その打ち上げエネルギーを少しでも節約できる赤道付近の発射場というのは、宇宙開発を手がける各国にとって重要な戦略資源である、と言えよう。


そうした重要性にも関わらず発射場への出入り自体は、拍子抜けするほどあっさりしたものだった。

夏の暑さにうんざりした様子の警備員が、チラッと身分証をチェックすると簡単に車が通される。


「なんだか、バンガロールとは随分違うんだね」


「だって、今の打上場には何にもないもの」


アーシャの言う通り、ロケット打ち上げ予定のない時期の発射場は、だだっ広いコンクリートのグラウンドとロケット搬送のための黄色いペンキで引かれた線、それに巨大な倉庫のような幾つかの建物以外には何もないように見えた。


仮に何かの妨害工作を試みる者がいたとしても、何もなさ過ぎて途方にくれるに違いない。


「ロケットの組み立てと衛星の取り付けは施設は別よ。あの辺りの建物に入るときは、それはもうチェックが厳しいんだから」


と彼女は口を尖らせた。


あの建物の一つが、シャルマの配属先になるのだ。


一通りの紹介や準備を終えたインターン生のシャルマに与えられた研究課題は、衛星分離機構の改良と改修の設計、テストになった。


シャルマは推進系の部門に配属されなかったことに軽く失望したが、取り組んでいるうちに、その技術的奥深さとインド宇宙開発における機構の重要性に気が付いて、次第にのめり込んでくことになる。

この後の内容が難しいのと量が多いので、今日は少なめ。


→平日の昼間更新は調べ物が多くて(こっそり)書くのが難しいので、夕方から夜になります

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