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宇宙ゴミ掃除をビジネスにする話  作者: ダイスケ
1章:それはアメリカから始まった
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第02話 怪しげなナードの話を聞いてみよう

2話目を投稿します。話の方向が見えてくるまで、少し急ぎ足で進めるつもりです

「へー・・・うちの大学にこんなところがあったのねえ・・・」


自宅に招かれたらどうやって断ろうか。


などとエミリーは自分の貞操面で懸念を抱いて会うことにしたのだったが、マイクの兄はそうした心情を慮ってか、あるいは単に成金趣味なのか、はたまた屈強な体躯を誇るエミリーにその手の妄想を抱かなかったのか。


エミリーとマイク、その兄は大学内の施設である来賓会議室で会うことになった。


「優秀な学生と投資家をつなぐのも私達の立派なビジネスだからね」


会議室に現れたマイクの兄であるジェイムスは、エミリーに言わせれば、典型的な成金のナードだった。


小太りで背が低い体をブランドもののポロシャツとジーンズ、右腕と左腕の両方に、金ピカの時計と機械式のデカい時計をしている。


特徴的なのは、その表情だ。笑顔を浮かべているように見えて、目の奥は笑っていない。


あんまり好感は持てないタイプね。それに油断できない感じ。


エミリーの自分の警戒心が高まるのを感じたが、一方では安心もしていた。


腕力ならあたしの方がずっと上みたいね。何かされることはなさそう。


工学の世界は頭だけでは回らない。純粋な筋力が必要になる場面もある。


女性の中でも大柄な部類に入るエミリーは、そうした面では屈強な自分を誇りに思っていた。

論文に詰まるとジムでトレーニングに励む彼女の腹筋、背筋、上腕二頭筋は、最近のストレスも相まってスゴイことになっている。


「それにしても災難だったね。研究の衛星がデブリにぶつかったって?」


ジェイムスの挨拶にエミリーは自分の失礼な感想は胸の内に引っ込めて対応する。


「そうなんです。犯人がわかっているのに悔しくって・・・」


ジェイムスは意外な言葉をきいた、と片方の眉を釣り上げてみせた。


「へえ。犯人がわかるのか」


そこでエミリーに同行していたマイクが手元の端末を見えるように動かす。


「そうなんだよ、兄貴。ほら、こうやって軌道を辿ってみせるとソ連の衛星のデブリだってのは明らかなのに・・・」


それまで朗らかに雑談していたジェームスの表情が、肉食獣が獲物を見つけたときのように豹変した。


「マイク、その計算は確かか」


「う、うん。確かだと思うけど。一応、このソフトは世界中の軌道計算屋が使ってるし、データもアップデートしてるから。法律的なことはよくわかんないけど、技術的には確かだよ」


「そうか。少し待ってろ」


そういうと、ジェームスはバッグから大きめのメモパッドを取り出し、猛烈にペンで何かを書き出した。

数式であればエミリーにも理解できるのだが、ジェームスはその手前の何らかのモデルを考えているようだった。


「あなたのお兄さん、変わってるわね。何をしている人なの?」


鬼気迫る様子でメモを書いては廃棄し、また書いては廃棄するジェームスの邪魔にならないよう小声でマイクに問いかける。


「さ、さあ。僕もよく知らないんだ。なんか金融商品の開発をしているとか言ってたような」


不明瞭な答えしか返って来ないが、大人の男兄弟の情報交換など、そんなものかもしれない。


小一時間ほど怪しげな落書きを続けた後、ジェームスは急に立ち上がった。


「マイク、この大学にVR会議室はないか?あと眼鏡グラスの貸出もしてるよな?」


「あ、ああ。だけど有料だし結構高いよ?」


通信設備と演算設備の整った会議室のレンタル料金は高い。


自分達のような学生は、せいぜい市販の情報端末につないで安いVR眼鏡でチャットをするのがせいぜいであるし、それですら高額な趣味の域を出ない話でしかない。

一方でVR会議室は高度な推論AIを動かすだけの演算設備があり、そこに人がいるかのような自然な環境を作り出すパワーがある。相応に金もかかるわけだが。


「いいんだ。金ならだす!」


金なら出す、ね。人生で1度は言われてみたい言葉ね。できればプライベートで。


エミリーは小柄なジェームスがせかせかと歩くのについて行きながら思った。


まあ、もうちょっとだけ背が高くてフットボールでもしているギークだったらいいんだけど。

ギークは良いけど、ナードは駄目。

フットボールをしている男で、数学ができる男なら、もっといいんだけど。


エミリーが馬鹿な妄想に浸っている間にVR会議室の準備が整ったらしい。


会議室に備え付けの彼女の月収を上回りそうな眼鏡を渡されて、エミリーは戸惑う。


「ね、ねえ!これから何をするの?説明してちょうだい!」


「ああ。そうだな。君たちには、これから社長に会ってもらう。その時に一緒に説明する」


時間がないから、と急かされて渋々眼鏡をかけると、途端に周囲が真っ白な会議室のような場所が視界に映し出される。

VR会議室というやつだ。そこにポロシャツとジーンズで頭を剃った精力的な様子の男が現れた。

と、挨拶すらなくジェームスに向かってツカツカと歩み寄った。


VR会議室の中で歩くなんて、よほど広い会議室を持ってるのね。


歩き方が自然なことからも、会議室の中で実際の体を眼鏡をかけたまま動かしているらしい。

よほど広いオフィスを持っているか、それとも田舎の広い土地に構えているのか。


「すまんね。なにしろ発射場にいるものだから」


男の言葉に、エミリーは納得した。ロケットの打ち上げ発射場は僻地や砂漠にあるものだ。

エミリーも衛星打ち上げの打ち合わせのために何度か発射場を訪問したことがあったが、そのたびに巨人の国に迷い込んだ小人のような気持ちになったものだ。


「それで、ジェームス。こちらのお嬢さん達は魅力的だが、大手企業通信衛星打ち上げの立会いをキャンセルさせるほどのものなのかね?」


「マークス、それは請け負うよ。君が抜群に気に入りそうなアイディアを持ってきたんだ。彼女たちは、その証明をしてくれる」


「ほう」


マークス。その名前に聞き覚えはあった。彼女がいかに世間ずれしていたとしても。

IT業界で財をなし、ロケット業界に切り込んだ風雲児の起業家の名前ぐらいはニュースフィードで目にしたことがある。


「なにしろ、このアイディアが上手く行けば、会社は成長し、宇宙は綺麗になり、プチャーチンから金を巻き上げられる。愉快な話だろ?」


小太りで眼鏡の成金ナードは、肉食獣のような笑顔を見せた。

残念ながらウォンバットのようにしか見えなかったが。

次の投稿は夜になるかと思います

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