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宇宙ゴミ掃除をビジネスにする話  作者: ダイスケ
2章:極東の若者の小さなアイディア
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第11話 飛ばしたいけど飛ばせない

憧れの藤井太洋先生に感想をもらって嬉しい。

警備員に教室を追い出され建物の外に出ると、日はすっかり沈み空には星が瞬いていた。


2人はダンボールを積んだ台車を慎重に押しながら小林の研究室へと向かって歩いていく。


「何だか、どこの学科も研究予算かねがないねえ」


「そうだなあ」


若い研究者が顔を合わせると、研究予算かねがない、ポストがない、という話になる。

それは国内トップの国立大学である志乃田が所属する研究室でも変わらない。


国立大学の独立法人化を進めたのはいいが、それで一体どこの誰が得をしたのだろう?

世間を恨み愚痴も増えようというものだ。


「星を見上げりゃ学問ができた昔が羨ましい、と思う時があるな」


天文学をやろうと思えば資金かねが要る。

天体望遠鏡などの観測機器の観測時間を貰うには実績と学閥こねが要る。


分野によっては計算機を動かして論文数を稼ぐ連中もいるが、志乃田は観測機器を使った観測に拘りたい。


「あーーー。自分の観測機が欲しい!」


夜空を見上げて叫んでしまうのは、思い通りにならない現実へのせめてもの抵抗だろうか。

もちろん、ただの妄想ではあるが、最新の観測機器さえあれば幾らでも発見も論文もできるのだが。

もちろん、同じことを考えている研究者は多いだろう。


天文学は、巨大で高価な観測装置を必要とする領域である。


何しろ、相手は宇宙なのだ。


遠くを見ることのできる観測機器ができれば、次の装置はさらに遠くまで観測できる装置を開発しなければ意味がない、と観測機器は恐竜的な進化を遂げていき、元から高額であった建設費用は機器の高度化にともないますます値上がりすることになる。


例えばハワイにあるスバル望遠鏡の建設費は400億円。ところが最新の30メートル望遠鏡T.M.Tは1500億円と膨らんでいる。


そこまで建設費が高騰すると1カ国で負担することはできないためアメリカ、カナダ、中国、インド、日本の5カ国共同出資の巨大事業となった。


観測時間は業績は加味されるものの出資比率に応じて割り当てられることになり、1年は365日しかないわけで、そうすると下っ端の院生に回ってくる機会などほとんどない。


「いっそ観測機器をドローンで飛ばしてみるか。成層圏の彼方まで」


「無理だよ、法律違反だし」


志乃田のぼやきに小林が律儀に指摘する。


「真面目に答えるなよ。冗談に決まってるだろ」


中国のドローン業界が深センという精密部品製造の企業群を抱えて飛躍したのと比較して、日本はドローンの分野では完全に出遅れた。


ドローンの黎明期に、首相官邸へのテロ未遂が起きたことが痛かった。

マスコミの偏見に満ちた報道に煽られて極端な規制ができ、ドローン開発への資金投入が停まってしまった。その間に世界は先に進んだ。


今ではドローン業界は設計開発まで手がける中国、部品提供に徹する台湾、高機能ドローンを開発するアメリカ、という構図ができてしまっている。


規制大国ニッポン万歳だ。


「ほんとはね、雲の上までドローンを飛ばしたいんだ」


小林がポツリと言った。


「どうやるんだ?」


志乃田は知っている。小林が言葉にするときは、おおよその技術的な目処がついているときだ。


「ほら、気象観測用の気球があるでしょ?あれに展開型のフェザープレーンを結びつけて。強風域を抜けちゃえば高空で飛ばせるでしょ?」


小林の言葉を翻訳すると、要するに高度数十kmまで上昇できる気球に箱を結びつけて飛ばす。

そしてほとんど空気がない高度まで達したら箱を開放して、普通はインドアで使われるような重さ数十グラムの模型飛行機に自律操縦機構を組み込んで飛ばしたい、ということらしい。


「制御はどうするんだ?」


「姿勢維持はAIだね。追跡と目標指定はGPS情報をメールで飛ばせる」


「イリジウム・ネットワークか」


アメリカの会社が繰り返し打ち上げの新方式を完全にモノにしてから、情報通信会社は大手もベンチャーも多くの衛星を軌道に投入してきた。

その成果の1つが衛星携帯電話会社の提供する全地球をカバーするメール通信網である。


極端なことを言えば、地球のどこからでもイリジウム携帯のサービスを利用すればデータをメールという状態で受け取れる。それが例え、大気圏の上層部を飛行するドローンでも、だ。

メールサーバーを経由するのでリアルタイムに操縦することはできないが、元からリアルタイム操縦はAIによって自律させるし、風に乗るだけのフェザープレーンであれば速度は大した事はない。


「それをさ、何十機も飛ばしてみたいんだ!すごいと思わない!」


両手を振り上げて目を輝かせる小林に、こいつは高校時代に改造ミニ四駆を何台も走らせていたことから変わらんな、

と志乃田は苦笑した。


なんのために、などと理由はない。飛ばしたいから飛ばしたいのだ。


天から予算獲得の機会チャンスが降ってこないものか。

空を見上げる志乃田の情報端末に、一通のメールが届いた。


そのメールには、極東の平凡な大学院生に過ぎない2人の目標を一変させるだけの魅力ある情報が記載されていた。

明日も更新します。感想等いただけると嬉しいです。


→7月12日に拙著「異世界コンサル株式会社」が幻冬舎様から発売されます。

それまでは、こちらの更新を停止いたします。

ご了承ください。

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