制服と名簿
「で、でも魔王吸血鬼レイチェルってどうなの。可愛いらしいやん」
「いやいやいやいや、明らかにおかしいやつが紹介文書いてるでしょ」
俺みたいな奴が。
俺こんな奴と一緒に遊びたくないわ。
同族嫌悪か。
「教会では祈らないようにしましょうね」
「全くその通り」
天使だか神だかいう勢力も相当狂っていそうだ。
そういえば月の男、モンデンキントは勢力が神だと言っていなかったか。
あいつはオーグメンティンの部下になっていたはずだから、スタープレイヤーの名前としての神とは別なのか。紛らわしいな。
しかし神ではないにせよ、大物の庇護下に入るというのは、大事なことだと思われる。
いや、神の傘下に入るつもりはないが。
例えば皇帝の傘下になれば、俺に喧嘩を売るなんて、あんた皇帝とことを構える気かよ、と言える訳だ。
しかしながら、こうやって見るとまともに庇護してくれるやつが一人も居なさそうだ。
皇帝はエルフを差別するそうだしな。これもどこまでほんとかわからんが。
召喚士カスミガガリは一見まともそうだが、誰とも敵対しないってことは守ってくれないって事だ。単なる移動屋か。
畢竟エルフとスライムごときを守ってくれるスタープレイヤー様はこの世には居なさそうだ。
「いやスライム単体なら守ってくれる人居るでしょ。私だけ皇帝の仲間になってもいい?」
「ダメです」
俺は即答した。
「なんで?」
俺は答えた。
「せっかくおんなじゲームやってる人に会えたし一緒に冒険しようよ!」
「えーー」
恥も外聞もない。
現実で身元がわかっているプレイヤーは貴重だ。
しかも、自分も相手に知られている訳で、そういう人に他の勢力に行かれてしまうのも危険な事だ。
レベルも高いし。
しかも女子高生だし。
「だってぽよぽよさん美人だし」
「え、お前マジできもいな」
素で引かれた。何なんだ。
「いや、今、クランは入るのではなく、作るべきだと思うんだ」
「えっ?」
訝しげな顔をされる。さっきのを流すつもりなのか、と思っているのだろう。
構わず俺は続けた。
「君や俺と同じように、追放されて行き場がなくなっている人が沢山居ると思うんだよ」
「それはそうかもしれないけども」
「それを集めたら、一大勢力になる。ちゃんと合議制にしよう。スタープレイヤーとかいう人の心がないやつの言いなりになるよりか、長期的には良いだろう」
「Better be first in a village than second at Rome.ってやつ?」
「そうそれ」
いきなり何だ。
せめて、鶏口となるも牛後となるなかれ、って言え。
でも今の状況だとむしろ合ってるのか。
しかしそれ、変な諺だよな。どう考えたって村長より、ローマの二番手の方が良いに決まっている。
「目的や目標は定まらないけど、こんなスタープレイヤーみたいな、破滅的な目的を持っているやつらに従うよりは良いだろう」
「確かに、最後に勝つのはプレイヤーだけで作ってるクランかもしれないわね」
そうだろう、そうだろう。
ともかく説得の結果、ぽよぽよさんは俺と二人でクランを立ち上げるということに同意してくれた。
人がやってるクランを探すという手も有るように思われたのだが、今の所、wikiに情報はなく、街に入れずゲーム内で全然情報を得られないので探しようが無いという結論に至った。
といっても説得がうまく行ったのが、驚きだ。
実は、俺の作戦には明確な欠点が有って、成り上がるためのまともなプランが無い。
俺が下について大丈夫そうなスタープレイヤーが居ないから言ってるだけで、人の集まりも強さも多分拡張戦略もスタープレイヤーには勝てないので、彼女にとって俺との互助関係というのはスタープレイヤーの下につくのと比べて、いくら目的や行動がでたらめで共有できないスタープレイヤーに行動を制限されないというメリットが有ると言っても明確に損なのだが、そこを指摘されたらどうしようかと思っていたのだが。
大丈夫そうだった。良かった。
だが、なかなか物わかりが良くて、かつ優しい子だ。さすがU女学院に通ってるだけはある。
なんでわかるのかって、そんなもの制服を見れば一目でわかる。
一目でな。U女学院がそれなりに有名というのも有るが、俺は有名でも無名でも日本国内の中高生女子の採用している制服はわかるのだ。
こんなものはインターネットでもわかるのだから、しつこいようだが俺はロリコンではない。
それでまずは、やる事のあてもないので、草の迷宮の攻略をする事にした。
既にwikiの地図には草の迷宮の位置が載っていた。サイキッカーのシュウが載せたのだろう。だが、それは特に問題にならない。集合しやすいので、かえって好都合だ。
こういう迷宮はどうやら各地で発見されており、wikiによると、この中では人間を殺しても魔物を殺しても勢力からのヘイトは食らわないとの事だった。
下層に行けば比較的レベルの高い魔物も湧いてきて、宝箱も有るので、レベル上げや装備品集めにも良いそうだ。
というかもしそういう事の役に立たないのならば、この世に何の為に迷宮が有るのかわからない。
ボスが居るが、それを倒して迷宮をクリアしたらどういう特典が有るのかは、まだわかっていないようだった。
俺は最後に言った。実を言うと話の途中から、別れる時の挨拶はこう言おうと、余計な事を考えていた。
「じゃあ今夜、夢で会いましょう」
「会ったばっかりだけど、お前のそういう所ホント嫌いだわ」
が、がーんだな。
それを聞いて俺は。
「……良い」
別れてからひとりで言った。
思春期の少女らしい、他人との接し方をはかりかねて、乱暴な言葉を使ってしまう態度の発露だと、いとおしく思った。
俺はロリコンではない。
マゾでもない。
ましてやロリコンでもないのだ。
彼女と別れ自転車をこいで帰路についた。
後をつける事もちょっと考えたが、やめておいた。折角友好的になれたのに関係を壊してしまうおそれも有るし、するメリットも少ないだろう。
まあ後々名簿を、買って、住所を調べるという手も有るしな。
U女学院の在校生の名簿を。