銃使いとモーグリナイト
しばらく1日1話のペースになると思います。
4人組の冒険者。
レベル16の種族人間の男、クラスサイキッカー。
レベル7の種族人間の女、クラスアーチャー。
レベル5の種族人間の女、クラス重騎士。
そしてレベル9の種族「月」の……男? グラップラー。
名前はモンデンキント。
4人ともプレイヤーキャラクターだ。俺は自分以外にプレイヤーキャラクターを初めて見た!
そして気づいたのが、エルフやゴブリンだと性別は♂、♀と出るのだが、人間だと男、女と表示されるということ。
盗賊の時も出ていた筈だが特に意識しなかったな。
まあ、どうでもいいが。
それで月も男と表示されている。エルフが♂なのに月が男っておかしくないか。
あとはエルフの体格は思っていたよりずいぶん小さい。
目の前にいる人間たちより、俺は一回りか二回りほど、背が低い。ホビットみたいだ。
全長で2メートル半くらい有りそうな月はともかくとしてだ。
適切な比較対象が無いので今までわからなかったのだ。
4人は俺の姿を認めると、道に散開してそれぞれの武器をとった。
月の男はポケットに両手を入れて仁王立ちだ。あれが構えなのだろうか。
「ダークエルフね、珍しい!」
「街道でも魔物が出てくること有るんですね」
「油断せずに行こう」
ま、まずい! まさか襲ってくるとは。そりゃ襲ってくるか。自分も容赦なく道にいる魔物とか倒していたもんな。
俺は必死で弁解した。
「おいおいおい、ちょっと待ってくれ、プレイヤーだよ!」
こいつらがPK行為上等ってプレイヤーなら俺は終わってたと言えるが。しかして彼らは。
「へえ、魔物でもプレイヤーキャラって居るんですね」
彼らは戦闘体勢を解き、思いの外フレンドリーになった。
渡りに船だ。
街道の脇の岩場に座り、しばし歓談する。
「しかしエルフは完全に魔物の扱いだから、街に入るのは難しいだろうな。門番が敵対的になるはずだ」
と、月の顔の男。
「それ本気で言ってる?」
いやいやお前はどうなんだよと。
月ほどの異形じゃねーよ。
月は街には入れるのか。訊いてみる。
「入れる。月は、種族としては「神」に属するからな」
それ本気で言ってる?
何でもモンデンキントのこの世界に来て最初の記憶は、隕石として街に降ってきた事らしい。
薄々気づいていたが、ひとりひとりゲーム開始時の状況は全然違う。
全員に13歳のエルフの許嫁が居る訳ではなかったのか。
それとも何パターンか用意してあるのか。同行している冒険者たちもそれぞれ違うエピソードを話す。
それにしても俺は街に入れないのか。困ったな。クラスの変更が何処でも出来るから直ちに不自由はしないとはいえ。
金の稼ぎかたとか、装備品とか薬とか地図とか便利アイテムとか。
いや不自由するわ。
「それと、現実世界でも力が使えること、これは皆が経験してるぜ。
俺はレベルアップすると体重が重くなっていくという変な種族でな。最初は体重計が壊れたのかと思ってたよ」
最奥の秘密と思ったことも、あっさりと白状してくれた。
しかし、レベルアップすると重くなるとは。
不便そうだ。更に、教えてくれた。
「もし最初の指針に迷っているなら、おそらくスタープレイヤーの仲間になるのが良いって言われてる」
どこでだよ。どこで言われてるんだよ。
「スタープレイヤーはおそらく全員、確立された戦闘スタイルを持っている。
おそらく、かなり強い。レベルは全員100以上有る。
おそらくスタープレイヤーは、人間ではない。特定の目的を持ったAI。
おそらく、スタープレイヤーの傘下に入るのがクラスやスキルのバランスを整えて、生き残る為の近道」
「おそらく、ばっかりじゃないか」
「更についでにおそらく、最初にプレイヤーを幾つかの、グループに分けて戦わせるために、ゲームの開発者が作ってくれた存在だ」
誰から聞いたんだよ。
「俺たちは既に勇者オーグメンティンの傘下に入った」
ほう。
「今はクラン全員の力で人間領域のマッピングをしている所だよ」
「例えば、俺もそのオーグメンティンさんの配下に入るって訳には行かないのか」
あるいは仲間に引き込もうとしてこういう話をしていることも考えられる。
やはり勝つには先手を打って提案してみることだ。
「それは、たぶん無理だな」
意外にもあっさり拒否された。
「いや、絶対無理だ。
勇者オーグメンティンのAIがちょっとおかしくて、魔物を見るや滅ぼさないといけないって思考なんだよ。
他の何よりも、魔物やそれに与するものを滅ぼすことを優先してる。
魔物に自分の故郷の村が滅ぼされたって設定らしい。
だから本当はお前とこうしていることだってヤバい。
クランメンバーをほうっておいて魔物を倒すために街の外に出掛けていったりするんだよ」
そんなヤバい奴がこの先の街に居るらしい。
それでレベル100越えくらいの力が有るというのかよ。
知らずに潜入していかなくて良かったと言えよう。
「魔物のスタープレイヤーも居るはずだ。魔王吸血鬼レイチェルが有名だが、おそらく他にも居る」
「そいつはどういう奴なんだ」
「とにかく世界を支配しようって思想らしい」
「そいつもそいつでヤバいな」
ヤバい。
「そう言えば、死んだときのペナルティって何か聞いてるか?」
「いや……wikiは見てないのか?」
俺は首を振った。
思ったのだがこの月、表情が無いので、どういうテンションで言ってるのかよくわからん。
「そうか。人間の街に入っていないのなら知らなくてもおかしくないかもな。
街だと既に至る所にアドレスが掲示してあるんだが」
そう言ってアドレスを教えてくれた。
検索エンジンにはひっかからないようになっているらしい。
まあ、何かの拍子にゲームの中で得た力が残るなんてバレたら、パニックになるかもしれないからな。
しかしこいつ、なんて良い月なんだ。一緒のクランで遊べないのが惜しいくらいだ。
「さっき言った、クラスやスキルのバランスというのは?」
「クラスにはレベルが有るだろ? ひとつあたり最大でレベル9になる。
重複して取ったり別々に取ったり、上級のクラスに転職したりということはできるんだが、クラスのレベルが合計100になるまでしか持てない」
マジか。無駄に剣士とか盗賊とか取ってしまった。
「経験をリセットするのは簡単にできるから安心して良い。
ステータスにも関係するから、考えて組み合わせれば、おそらく、スタープレイヤーにも劣らない強力な組み合わせを作れるはずだ」
なるほど。銃使いとモーグリナイトを習得してアルテマチャージを遠距離から撃ったりするあのあれか。
ややあってモンデンキント達と別れて、取り敢えず今後の方針を考えた。
クラスをある程度集めて、極めて、バランスをとっていかなければならないということがわかった。
人間の街に入れなさそうなのは残念だ。
魔族にも首都や都市みたいなのは有るんだろうか。
入れてくれるだろうか。既に100匹くらい魔物を殺してるし、エルフの里からは追放されているけどな。
期待はしないほうがいいだろうな。