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第三章.2

 改めて空中に投影された動画へと視線を戻すのだが、良く見ると燃え盛る炎の向こうに壁があり、そこが建造物の中である事が窺えた。


「あれ、3人って森に行ったんだよね? ここって本当にどこだよ? 」


 僕がそう聞くと、彼らは気まずそうに視線を逸らす。

その姿に僕が訝しげな視線を向け、英雄をジーっと見つめる。


「ほら英雄、僕は怒ってないし怒らないから、正直に話して、ね? 」


 そう言い微笑んだ僕をチラチラと伺い、どうしよっかなーっと本気で悩んでいる親友に向けて、僕は右手で自分の左肩上を引っ張り、次に右足と腰の付け根を軽く撫でる仕草をした。

何のジェスチャーか分かっていない悪友に向かってニコリと微笑み、左人差し指を口に当ててしーっとすると、奴はどんどん顔が青くなって行く。


どうやら意味・・に気が付いたようだ。


堅とフロウが首を傾げているが、これは英雄にしかわからない事なのでとりあえず放置し、僕はもう1度口を開いた。


「で、ここは何処なのかなー? 正直に言ってくれないと、お姉ちゃん怒っちゃうぞ? 」


茶目っ気たっぷりに僕がそう言うと、視線を合わせない様にこちらを向いた英雄が重々しく口を開く。


「森の中層にある、古代遺跡の中です・・・・」


「あ、馬鹿!! 」


まさかこんなに早くゲロをするとは思わなかったのだろう。

共犯者の堅が慌ててそう言うが、もう遅い。


「ふーん? 2人はそんな面白そうな所に僕を抜きにして(・・・・・・・)行ったんだ? ふ~ん? 」


ベテランの引率があり、戦闘には基本的に参加しない雑用だったらしいのだが、それでも羨ましいものは羨ましい。


(だから止めとこうって言ったのに、何であんな簡単に吐いたんだよ英雄? )


(すまん、本当にすまんけどそれは話せん。悪いな)


 彼らに全く持って遺憾である事を少しだけ下げた声音で伝えると、彼らは何やらこそこそと内緒話を始めた。


その姿に僕は答える気があるのかな? と視線を少し強める。


(目が笑ってないんだよなぁ・・・・レギュレーション違反とか言われたらどうする? )


(今更引けるかよ。仕方ねえ、堅、俺が言うからグーじゃなく平手になるように祈っててくれ)


漸く覚悟を決めたのか、罰が悪そうに英雄はわざとらしい咳払いをしてキリっとこちらを向く。

ちょっと男らしくてドキドキするじゃないか。


「いや、いくら仕事とは言えお前を連れて行かなかったのは悪いと思ってるよ。それについては今度埋め合わせをするから勘弁してくれ。な? 」


「・・・・まあ、判決は動画の後にしてやる。フロウ続きをお願い」


 とりあえずの延命に成功した事で胸を撫でおろす親友に溜息を吐き、空気を呼んで一時停止されていた動画が動きだし、僕はまた言葉を失っていく。


動画内でドシンドシンと何か巨大な足音が響き、次の瞬間にカメラの前を真っ赤な光線が貫いた。


『ちょっと待ってください!! 俺達だけでこいつとやるんですか!? 』


その後画面の外から堅の泣き言が聞こえ、相当に焦っている様子が音声だけでも伝わる。


『アスマちゃんに格好良い所見せるんだろ? ならこれぐらいインパクトが無くちゃな』


『死なない様にちゃんとサポートするから、やるだけやってみなさいって』


次に引率していたベテランさん達が次々と補助魔法をかけて行く。

全く淀みの無い操作から事前にさっきの光線の主と当てる事を予定していた事が窺えた。


『堅、絶対にしくじるなよ!! 俺まだ死にたくねえからな!!』


『お前こそ絶対にミスすんじゃねえぞ!! 』


 今にも泣きそうな声で叫ぶ2人とは対照的なベテランの談笑をマイクが広い、何とも言えない温度差が広がるのだが、遂にカメラが目標を捉えその姿を映し出す。


「な、なにあれ? 」


振るえる指で動画を指差しながらフロウにそう聞くと、彼は困った様に口を開く。


「あの遺跡に沸くファイアゴーレムって名前の魔物だよ」


 分かりやすい名前だなぁと半ば現実逃避しながら2人が相対する魔物を見るが、映像越しでも圧力が凄い。

身長3メートル超えの赤道色をした人型魔物で、全身を炎で纏っている。

対策しなければ非常に嫌な相手だろう。

先程のビームは無策で食らえば骨も残らないことは想像に難くない。

現時点の僕では補助魔法をかけても大火傷は確実だろう。


「あの光線に直撃しても軽傷まで抑え込んでくれた先輩達の魔法こそ異常だと思う。」


その時の事を思い出したのか、一気に老けた顔をした英雄がそう呟く。

というかアレを食らったのか。


「目の前で馬鹿が光線の中に消えた時は本当に肝が冷えたっての。」


よっぽど衝撃的な光景だったのだろう。

堅が大きく息を吐いて答える。

その時の事を聞きたくもあるのだが、とりあえず今は動画が気になるので視線を戻した。


 そこでは大盾を構えた英雄がキリリとした顔で立ち、その隣に距離を置いて堅が立つ。

ファイアゴーレムとの距離は大きく、踏み込むまでに間違いなくビームが飛んでくるだろう。

これから何が起こるのかと言うワクワク感に、僕は自然と拳を握りしめ食い入るように画面を見つめ、頬が上がる。


その時、彼らを引率してくれ、周りで一緒に映像を見ていた先輩方が、


『ああいう包容力のあるタイプが趣味とかに熱中してるのって良いよなー』


『なー』


と談笑していたが、今にも戦端が開きそうな場面に集中していた僕には聞こえていなかった。

緊張から手の中にジワリと広がる汗に意識が向きそうになるその瞬間、映像の中の彼らが動き出す。

だが本当に大丈夫なのだろうか?

見るからに2人共ガチガチである。


だがそんな事など全く関係ないファイアゴーレムは自らの口元に魔力を収束させ、その姿が灼熱に歪む。

そして一瞬だけ強い光を産むと、敵へ向かって橙色の光線が飛び出した。

太陽や向日葵の様な温かさでは無く、相対するものを容赦なく溶かし尽す悪魔の光。


それは容赦なく英雄へと向かう。


息を止めて画面越しの親友を見つめる。

こいつならやってくれるだろうと言う願いを込めてその時を待つ。


『南無三!! 』


英雄が叫びともとれる大声を上げ、大盾を掲げて光線を正面から迎える。

カメラの位置的に彼の後ろ姿しか見えないが、魔法攻撃を正面から受け止めようとするその姿は純粋に格好良い。

だが相手の能力は英雄よりも高く、その受け方は愚策なのではないかと握る手に力が籠る。

周りの若手からも息を呑む声が上がり、不安が胸を締め付けた。


遂に映像の中の英雄へ光線が届き、その姿が逆光で黒く消える。

あまりの眩しさで僕は軽く目を閉じるが、決して逸らす事はしない。

だからだろう。あいつが光に呑まれずそこに立ち続けている事に気が付く。


『堅1発で決めろよ!! 』


英雄はそう言うと盾の傾きを少しずつ増やしていく。

そこで何が起こっているかを理解した。

真正面から光線を受けているのではなく、斜めに受けて反射させているのだ。

元から予定があったのか、最初に掛けてもらっていた補助魔法の中にそう言った部類の術が含まれていた事が窺える。

それにより強力な攻撃に対して蒸発せずに済んでいるのだろう。


学生時代に太陽光を定規に当てて、反射した光を友達に向けて遊んだ過ぎ去りし日の事が脳裏をちらつき、そんな状況では無いのにくすりと笑ってしまった。


持続的に照射されるファイアゴーレムの光線は英雄の活躍で少しずつ角度を変えて堅へと迫る。

とりあえずは直撃しているからか、相手は止めるつもりが無いようで豪快に撃ちっ放しだ。


『やってはみるけど・・・よっと! 』


堅の横から伸びる光線は英雄の微調整により少しずつ彼の正面へと迫る。

全員で息を呑みながらその姿を見つめると、堅は両肘から先を青い魔力で覆い、深く息を吐きながら左手を炎の壁へとゆっくり差し込んだ。


『オーケー! 湯加減はバッチリだ!! 』


彼はそう言うと右手も入れる。


『明日は筋肉痛確定だぞこれ!! まだか!? 』


受け手の英雄が悲鳴を上げ、相方を促す。

そもそもが格上の相手なのだ。

僕の比では無い補助魔法があるとはいえ、その負担は想像以上だろう。

事実としてその声に余裕は無い。


『もうちょい、もうちょい、よっしゃ!! 』


堅が嬉々として叫んだ事を合図に英雄が盾の向きを反対に変え、光線は堅の正面から一気に遠のいてファイアゴーレムへと向かう。

そこまで動かれると流石に思う所があったのか、ファイアゴーレムは光線の照射をピタリと止めて、2人の様子を見る。

ガシャリと音を立てて英雄が膝を着き、肩で息をしている。

あのまま2発目が来たら死ぬだろう。

事実として映像の枠外でかすかに拾われるベテランさん達の声が救出に動こうとしていた。

ここで終ってしまえば賭けに勝てるので嬉しいのだが、僕にそんな予感は欠片もない。

他の視聴者たちも物音1つ立てず、食い入るように続きを待つ。


次の動きはすぐであった。


『良くやった、後は任せろ!! 』


両肘から先を橙色に輝かせる堅はそう叫びながら腰を落として右手を軽く開いて腰だめにし、左手をその上に軽く被せる。

そして腰の捻りと共に両腕を真っ直ぐに正面へと突出した。

少し変則的な動きではあるが、何度も見たあいつの基本的な動き。

だが、その結果は思いもよらぬ形で現れた。


肘より先の魔力が、その動きに合わせて放たれたのである。


飛び出した力は強い意志を持つかの様にファイアゴーレムへと迷いなく真っ直ぐに飛び、その胸へと直撃した。

同時にレンガが砕ける様な音が響き渡る。

 もう何度目かになる手の汗をズボンで拭うと、炎を纏う化け物を穴が開くほどに見つめ続けた。

どれくらい眺めていただろう?

ファイアゴーレムの身に纏う炎が小さくなると、小刻みに揺れ出す。


倒れてくれ。


そう願い続ける僕の思いが通じたのか、炎の石像は音を立てて崩れ落ち、地面へとバラバラになった。


『やったのか? 』


肩で息をする英雄がそう聞く。


『ふざけんな、感触は最高だったぞ? 』


 堅はそう言いながら英雄の隣に立つ。

2人が警戒を解かずに相手を凝視し続ける。

満身創痍の彼らに代り、ベテランの先輩が横からファイアゴーレムへと近付く。

その人は残骸を軽く足で小突いて何かを確認すると、英雄と堅に向かって頭の上に腕を使って大きく丸を描く。


『よっしゃああああああああ!! 』


それを見た動画内の堅と英雄が大声で叫び、枠外と視聴していた他の面々から喝采が上がった。

チラリと横を見て確認した当事者の2人は、恥ずかしそうに、だが嬉しそうに笑っている。

そこに自分がいなかった事に軽い嫉妬心が浮かぶが、それも自分の家族が成し遂げた冒険に全部上書きされていく。


 ギルド休憩スペースを使って一緒に動画を見ていた面々は軽いお祭り騒ぎであり、皆気前よく料理やお酒を頼んでいる。

あの遺跡に沸く魔物の1種で、中堅なら狩れる者の方が多い魔物ではあるが、英雄と堅がそこまで成長したと言う事でみんな盛り上がっている。

ベテラン達は俺が育てただの何処何処が甘いだのと言って喜び、若手は1つの目標として彼らを見ていた。


少しだけ遠くに行ったみたいで寂しい。


そんな微妙な気持ちを抱えていた僕に彼らは少し恥ずかしそうに僕へと言う。


「どうだった? 」


囃し立てられて顔の赤い英雄はそう言って頬を掻く。


「6割方は偉大な先輩達のお蔭だけど、結構自信あるんだぞ? 」


腕を組みながら肩を竦める堅はそう言うが、間違いなく僕の採点を待っているのだろう。

何だかそわそわしていて可愛い。


ふぅっと一息ついた僕は、もう賭けとかそんな事はどうでも良くて、正直に採点結果を伝えようと思っている。

その空気に気が付いた彼らがお互いを軽く肘で小突き合い、楽しそうにこちらの答えを待っていた。


「100点満点。2人ともすっごく格好良かったよ。」


 自分でも吃驚するぐらいに軟らかく伝えられたと思う。

そう言って微笑むと彼らは何故か動きが固まり、気恥ずかしそうに視線を逸らした。

さっきまでとは別の感じで頬が赤い気もする。

てっきり自慢話をしてくると思っていただけに拍子抜けしてしまうが、それから直ぐに英雄と堅が軟らかく、本気で嬉しそうに表情を崩した事でそんな気持ちもどこかへ行ってしまった。

むしろ2人のあんなに嬉しそうな顔を見られた事で僕の胸も温かくなって行く。


「それじゃあ僕らもお昼ご飯にしよう? 良いもの見せてもらったから今日は僕が奢るよ。」


その言葉に全員で頷くと、空いている席を取りに行く。

フロウは邪魔しちゃ悪いからと言うと僕の中へと帰り、3人で卓を囲んだ。


「次は僕も連れて行ってよね? 」


 注文を終えた僕がそう言った事を皮切りに、彼らと普段の何気ない会話を始めた。

無事に全員で帰って来て、こうやって食卓を囲む時間が僕の1番好きな時間だったりする。


映像の2人を思い出し自然と笑みが漏れる今日は、いつもよりずっと温かい気がした。



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