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第二章.41

 ゆっくりとこちらを見下ろす小球を、僕らは3方から囲む。

本来なら僕の前に壁が1枚欲しいのだが、上空に大球が残っている事と時間制限がある事から、こいつは火力を集中し、時間を掛けないで倒す事にしたのだ。

目標は使い魔君の魔法で、少し肌を焦がしてはいるが、残念ながら大きな傷は無い。

 恐らくはジナイーダさんの指示で、威力を調節していたのだろう。

月の無い真っ暗闇の中で佇むその姿は、遺憾ながら非常に迫力がある。

個人的にはこれだけでも戦意を喪失しそうだ。

早く帰りたい。


 先程英雄達から届けてもらったアイテムボックスの中身だが、チラリと確認した感じでは水筒や毛布などの一部を除いて入院前と同じ状態だった。

お蔭で道具の残数は問題が無く、3人で足元に照明用の魔道具を転がし光源を確保する。


 これは火と煙の出ない発煙筒の様な物で、一度使うと内蔵されている魔力が切れるまで光り続ける物だ。

発光時間も長く、自分の魔力を充填すれば再利用できる優れ物で、防災やアウトドアグッズ等の定番商品として安く出回っている。

こちらでも現代でも、人の求める機能は変わらないという事だろう。


 足元の赤い光に照らされながら、深い呼吸を数回繰り返して集中力を高める。

冷たい風が肌を撫で、まだ温まりきらない身体がブルリと震えた。

逸る気持ちを抑え、視線だけで仲間達を見ると、彼らから『いつでもいいぞ。』とハンドサインが返ってくる。

それに頷き返すと、一番槍は僕が貰った。


『レイ!!』


 左手を相手に向け、掌から腕程の光線を放つ。

真っ直ぐに伸びた白い光は小球の胴体部分へ当たると、煙を上げながら相手を溶かす。

耳に響くジュワジュワとした音が気持ち悪くて吐き気が募る。

 光魔法の中でも浄化専門であるこれが通ったという事は、こいつはアンデットの様だ。

材料が人間の時点で予想していたが、やはりアザルストの趣味は悪いと思う。


「良くやった!」


「うわぁ、知りたくなかったなぁ・・・・」


 それを見た英雄が嬉々としてバスターソードに光を纏わせ、素手で戦う堅は哀愁の漂う顔で手甲と足甲を白色に発光させる。

彼らが真っ直ぐ距離を詰めようとすると、小球の人間部分が迎撃の為に動き出す。


「させないっての!! 」


 動き出そうとする小球に魔力を強く込めて光線を照射し続けるが、相手は止まらずに動き続ける。

抑えきれない事に軽く舌打ちをして、僕は作戦を変える事にした。

深く息を吸うと、左手に流している魔力を操作し、光線を収束状態から拡散状態へと移行させる。

光の雨が相手の全身に降り注ぎ、目標は体中から煙を上げていた。

先程と比べて威力は落ちているが、これから2人を相手にしないといけない時に、この嫌がらせは効くだろう。


 球体から生える人型は4体。

そのうち、こちらを警戒しているのは1体だが、こいつは自分が気をつければいいだけだ。

だからこそ、僕は2人と戦うであろう残りの3体から少しでも集中力を削ぐ為に魔法を撃ち続けた。




――――――――――――――――――――



 病室で戦っている時に、魔法で入り口を凍らせた時の経験から俺と堅が攻めあぐねていると遊馬が攻め方を変えたようで、俺達は一気に動き易くなった。


 光のシャワーが顔へ当たる度、こいつは煩わしそうな顔をして動きが鈍る。

それを見た遊馬が凄く良い笑顔をしているのが気になるのだが、これは不味い。

あいつがサディズムに目覚めると、ベッドの上で困るのは自分なのだ。

俺はガオーっと襲う趣味はあっても、妖艶に笑われて襲われる趣味は無い。

あ、いや、妖艶な方は相手次第だと少しだけ考えるかもしれない。

現代にあったあいつのコレクションはSっ気の強いものが多かったので、今更戻られると困るのだが・・・・そこは俺の頑張り次第だな。

上手く育てよう(・・・・・・・)


 そんな馬鹿な事を考えていると左側にいる堅が先に飛び出し、攻撃を仕掛けようとした所で急に止まり、険しい顔をしながらバックステップで距離を取った。

理由は簡単で、地面に土で出来た槍が生えていたからだ。

あのまま進んでいたら危なかっただろう。


「 無事か!? 」


「 生きてる、何とか生きてる! 」


「 お前ら、命を大事に!! 」


 俺が確認に声を掛けると、堅は軽く震えた声で答え、遊馬が慌てて落ち着く様に指示を飛ばす。

簡単に近寄らせてくれない事は、堅が身を持って証明してくれたので、自分は安全策を取ろうと思う。

武器を納めているアイテムボックスから小型の槍を出して魔力を込め、小球を睨みつけながら投擲モーションに入る。

お気に入りは手斧なのだが、前回の戦闘から補充していないので、そろそろ在庫が怪しいのだ。

とりあえず一撃を加えようとする俺に、見ていた2人が合わせて動く。


「 堅、鉄拳をぶちかましてやれ!! 」


「 OK 遊馬!! 」


 真面目に突破口を開こうとしているこちらを他所に、凄く楽しそうな掛け合いをしている馬鹿達に凄く嫉妬心が湧くが、今は我慢しよう。

遊馬め、帰ったらお仕置きに抱き枕の刑に処してやる。


視界の端に、体をブルリと震わせたヒロインが見えた様な気がするが、直視すると嗜虐心がそそられるので気合で耐える。


「 シッ!! 」


 短く息を吐きながら投げ抜いた槍は、目標を違わず胴体を目指す。


『 オァアアアアァアアア―――― 』


 だが、こんな如何にも何かしますと言ったモーションからの攻撃には、当然の如く迎撃が入る。

球体の人型が何かを呻くと、その内の2体が身体を前に軽く倒し、両手を槍へと伸ばす。

行動の意味する所は、どう考えても防御なのだろうが、起こった出来事に俺は頬を引き攣らせる。


獲物を目指して空を進む槍は、進行方向の地面に広がった影の上で止まっていたのだ。

だが俺が引いた最大の理由は、止めた原因である影から生えた複数の黒い手である。

輪郭を縁取る紫の光が嫌悪感をなお引き立て、腕に当たる部分は帯の様に薄く長いので、何となく精神的な嫌悪感が募るのだ。

相手の精神にまで攻撃して来るとは、途轍もない防御方法だと思う。

実際、遊馬は1歩下がったうえに軽く泣きそうだし、俺に合わせて踏み出していた堅も嫌そうな顔をしていた。


 だが、そこは男の意地がある。


歯を食いしばった堅がさらに踏み込み、迎撃の為に地面から伸びる新たな石槍を睨みつけた。

腹部を目指して進む石杭に、体を右へと回転させながら躱す事で残り数歩を縮める。

だが、堅の動きはただの回避だけに終わらない。


「 せぇいっ!! 」


避けた際の勢いを殺さない様に回転しながら、右手の手刀を視線の高さにあった人型の横腹へと叩き込んだのだ。

 攻撃の瞬間に出力を上げた魔力が堅の技術と混ざる事によって凄まじい威力を発揮し、その一撃で球体部から生える人の胴体を断ち切った。

俺の槍を止める為に両腕を上げていた事が、地面へ落ちようとする1体の不幸だろう。

切断面からは血が溢れ、辺りに血の臭いが広がる。

 堅はそんな物に目もくれず、左下へ振り切った右腕を、腰から肩へと右回転の力を加えながらすぐさま引き戻し、返しの動きでもう一度手刀を放つ。

流石に敵も馬鹿では無く、攻撃に対して後ろへと下がる事で手刀を避けるが、堅の攻撃はまだ終わっていなかった。


「 おおっ!! 」


堅は気合と共に声を上げ、右手刀を放ちながら右足で1歩前へと踏み込み、軸足を入れ替えて左前蹴りを放ったのだ。

蹴り足は球体部分に当たり、重く鈍い音が辺りに響き、手刀によってできた傷口から血が噴き出す。

左足を下ろした堅はすかさず後方へと飛び退く事で、空から降ってきた紫色の杭を回避して息を整えた。


 悔しいが素人目にもわかる見事な動きである。

同じ事をしようと思っても、俺は最初の石槍で仕切り直す為に一度引いていただろう。

反射の領域まで昇華させた技術の数々に、心の中で惜しみない賞賛を送る。

それは遊馬も同じの様で、俺達は羨望と軽い嫉妬の混じった目で堅を見ていた。

だが一番の問題は、その瞳が少し熱を帯びていた事だろう。

別の嫉妬心がむくりと顔を出すが、今は半年のアドバンテージを信じるしかない。


「グッジョブ!! 」


「悪い、仕留め損ねた! 」


 今回の成果を俺が労うと、堅は悔しそうに返してくる。

それを聞いた遊馬が苦笑しながら言った。


「欲張り過ぎだよ。あと3回繰り返そう。」


 その言葉に俺達が頷き合うと、いきなり空から使い魔君の慌てた鳴き声が響く。

全員が間髪入れずに後方へと飛び跳ね、一瞬だけ目標から視線を切って空を見ると、そこにはこちらへと急降下する大球の姿があった。


使い魔君は上空にいるので下手に魔法を使うと俺達を捲き込むのだろう。

急いで大球を追掛けようとするが、そこは相手の方が早かった。

と言うか、予想外の動きでこの場にいる誰1人反応できなかったのだ。


 大球は、そのまま速度を殺さずに小球へと圧し掛かり、完全に潰しきる。

俺達は慌てて魔力の障壁を前方に張る事で血飛沫を防ぎ、その姿を凝視した。


「うっ・・・・」


戦闘中であることを考えれば視線を逸らさない事は当然の選択なのだが、今回は完全に失敗だっただろう。

球体を挟んだ向かいに居る遊馬が手を口に当てて、吐きかけている事がその証拠だ。

グチャグチャやバキバキと言う音と共に、足元の分体が少しずつ潰されて行く。


「何、考えてんだよこいつら!? 」


 堅の叫びには俺も激しく同意するが、その答えはすぐに出た。

大球が更に大きくなり、生える人型が3体増えたのだ。

増えた顔は俺達が戦っていた小球に付いていた奴らなので、これでこいつらのやっていた事は決定した。


「堅、何で仕留め損なった!!」


「無茶言うな!! こんなの予想できるか!! 」


八つ当たり気味に俺が叫ぶと、左から批判の声が上がる。

お互い本気で言い合っているのではなく、無理矢理に声を出して気力を振り絞っているだけなのだが、これは不味いかもしれない。


こいつら、また合体しやがったのだ。




―――――――――――――――――――――――――――――



 約1ヶ月、文化や人種どころか、違う世界を、また親友達と会う事だけを夢見ながら頑張って旅をしたのに、ようやく再開してみれば『大発生』だの今回の『誘拐』だのと、どうして俺はこんなに間が悪いのだろう?

まだ、3人で冒険らしい冒険なんて1つもしてないんだぞ?


 学生の頃、後輩(男)が遊馬(当時:男)に告白している場面に偶然遭遇した所為で、凄く気まずい空気にぶち込まれたり、英雄の家に遊びに行くとゲームのED中で酷いネタバレを見たりと交友関係では勿論、現代で最後に付き合っていた彼女と映画を見に行ったときだって、1週間前に上映していた作品の方が面白かったらしく、それをきっかけに別れ話へと進んだのだ。


俺は早くこっちを見に行こうと言っていたのに、彼女がどうしても新作を見たいと言い、笑顔を絶やさず無理に付き合った結果が喧嘩別れなんてあんまりだろう。


10代なら兎も角、20代になって原作が漫画の実写映画なんて、演技力とか撮り方以前の問題で萎えるっての。

と言うか、俺達みたいな2次元と離れられない上に、80~90年代の洋画で育った人間からしたら、10代でも無理だったのに、苦行の末が『何で最初に言ってくれなかったの!? 』とか甘える口実なのか貢がせる口実なのかは分からんが、さすがに冷めるわ・・・・


そんな経験のお蔭か、今なら分かる。

俺は遊馬の馬鹿騒ぎに付き合い、適度に盛り上がった所で英雄がブレーキを掛けてくれるだけで十分だったのだ。

親友達からの『糞リア充』コールに対して、ニヒルに笑って手を振っていた自分を殴り飛ばしてしまいたい。


 まあ、そんな俺の失敗談は置いておいてだ、実際問題どうするよこれ。

俺の左向かいにいる遊馬は、余りのグロさに顔色がかなり危なく、右向かいにいる英雄は面倒臭そうに溜息を吐いていた。


「遊馬ー、きつかったら下がっても良いぞー」


 攫われて冷やされてと散々な目に遭った上に、嫌いなホラーとかグロを見せられているあいつが不憫すぎて声を掛けると『大丈夫』と言った風に片腕を上げる。

そんな真っ青な顔で返されても説得力ねえよ・・・・


「英雄、ありゃもう駄目だ。 ちょっと急ごうぜ。 」


「だな。 戦ってればその内調子を取り戻すだろ。 行くか。 」


 相棒にそう言うと、向こうも理解してくれたのかお互いに踏み出す。

だが、俺はさっきからずっと心配していた事を思い出して、足を止めた。

そのまま辺りを見回して舌打ちをし、仲間達に叫んだ。


「お前ら、落とした1体が何処にもいない!! 気を付けろ!! 」


そう、俺が手刀で切り落とした1体が、地面に転がっていないのだ。

合体して、新たに生えてきた上半身は3つなので数が合わない。

俺の声に反応した2人がハッとなり、それぞれの角度で見渡すが見つけられないのだろう。

それぞれが険しい顔をして首を振る。


 やられた。


派手に血飛沫を撒き散らし、生々しい音を響かせたのは気を引かせる為の囮で、本命はこの状況でさらに伏兵を潜ませる事だったのだ。

今更になって頭を踏み潰さなかった事を後悔するがもう遅い。

あの時本体を狙った事が悪手だとは思わないが、今の様な状況になると尾を引く物があった。


 流石に手段を選んでいられる状況では無くなったので、ウェストポーチの中から小瓶を出し、中に入っている液体を両方の手甲に振り掛けると、瓶を仕舞って呼吸を整える。

どこから攻撃が来るか分からない状況に冷や汗を流して球体を睨みつけていると、英雄が声を上げた。


「遊馬、後ろだ!! 」


 その声を契機に、親友がお姫様の救援へ向かった事を視界の端で確認すると、俺は邪魔をさせない様に本体へと突っ込む。


「やらせるかよっ!! 」


 案の定邪魔をしようとした目標に向かって攻撃をしようとするが、進行方向の地面から生えて来る数本の鋭い土と、空中から伸びてきた黒色の槍がこちらを迎える。

合体した事で手数が増えたようで、熱烈な歓迎に涙が溢れそうだ。


だがこちらも引く訳には行かない。


 息を短く吐き、目の前に構えていた左腕へ魔力を流し、内回しに下ろして前腕を土槍に叩き付けた。

当てた腕は束になった土を砕き、1つ目の脅威を無力化する。

次に飛来した黒色の塊には体を入れ替えて魔力を込めた右の前腕を当て、頭より少し高い所で霧散させた。


 ここまで来れば後はがら空きである。


数少ない近接攻撃手段として採れるであろう体当たりも、今は英雄達の方へと向かっている途中なので心配する事は無い。

 俺は右手に光属性の魔力を込め、手甲に付着する遊馬の血液を反応させると、迷わずに右手で追い突きを放ち、中心である球体を殴り抜く。

突いた瞬間に魔力をさらに込めたのだが、それと同時に右拳が強い光に包まれ、相手の中へと注がれていくのが体感的にわかる。


 攻撃が終わるとバックステップで軽く距離を開け相手を見据えるが、とんでもない威力だった。

球体は全身から煙を吹き出し、人型が激痛に耐える様、身を捩りながら悶えているのだ。

元のグロさにと今の姿が合わさり、気持ち悪さが一気に跳ね上がる。

人型の口や鼻だけでなく、耳や目からも煙が出ており、軽く夢に見そうな映像に早変わりした事は大失敗だったかもしれない。


 大発生の時は魔力で作った障壁を強化する為に使っていたので、攻撃には初使用だったのだが、予想以上の戦果に自然と笑みが浮かぶ。

俺の一撃程度なら止められるだろうと油断していた事が、こいつらの失敗なのだ。

 後1つほど魔法を追加されていた場合、間違いなく引くしかなかった状況で掴んだこの戦果は、間違いなく流れを掴んだ感触がある。


 とりあえず追撃がない事を確認すると、立ち位置を変える事で視界の中に仲間達を捉えた。

2人の足元には、縦に両断された人型が転がっている。

焼けているのは遊馬の仕業だろうか?

兎に角、あちらも問題がなさそうな事を見ると、俺は声を出す。


「行けるぞ!! 」


それに対して彼らが頷き、武器を握り直して対象を睨む。


「悪いな、デートの先約は俺が入れてるんだ。大人しく引き下がってくれ。 」


口の端を吊り上げながらそう呟くと、俺達は最後の仕上げへと向かった。


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