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第二章.38

あの後、街に戻った僕は、問答無用で親友達から病院へ叩き込まれた。

未だに顔色が悪いので仕方ない事だとは思う。

宛がわれた個室で僕らが話していると珍しくマレフィお姉ちゃんの分体マネキンが現れて最悪の内容を報告されていた。


「で、これがその連れていかれた連中の写真よ。イヴァン達に見せればたぶん大丈夫だと思うわ。」


マレフィお姉ちゃんの話をベッドの上で聞く僕の目は、間違いなく死んでいたと思う。

件の写真は英雄が受け取ってくれた。

僕の楽しい異世界生活が、半分ぐらい終わりを迎えるのだ。

本気で辛い。

結構気に入ってたんだぞ・・・・


「もうこの際だから、マレフィさんの神様パワーでアザルストを浄化できないんですか? 世界を管理って事は、俺達の聞いた事がある神話の中でも上位の人なんでしょ?」


「逆よ逆。確かに管理神の上に、比較的武闘派だから力はあるけど、神話に登場された方々からしたら、私でも分を待たずに蒸発するわよ? あのレベルになると世界を超えても名を変え、姿を変えで存在するんだから。私とあいつは神話の1つも無い八百万の神で、カーストで言うと真ん中より下ぐらいね。」


英雄が聞くとマレフィお姉ちゃんが凄く渋い顔で答える。

本音を言えばやりたいのだろう。だから後は僕が押してやればいい。


「で、結局の所、あの糞野郎はぶっ殺せるんですか? ぶっ殺せないんですか?」


「力のある神々がぶつかると、色んな所に影響が出るのよ・・・・と言う訳でぶっ殺せないわ。それで世界を丸ごと作り直した連中は百や二百じゃ済まないんだから。いくらお気に入りとは言え、人ひとりの為に世界は釣り合わないって。」


全てから救われるために、色々な希望を込めて聞いてみたが駄目だった。

あまりにも納得できる理由で駄目だった。


「でも、ほら、確かに悪い事が起きたけど、良い事もあったのよ?」」


心の底から沈んでいると、姉が元気を出させようと明るい声で言う。

僕らが首を傾げると、マレフィお姉ちゃんは少しだけ躊躇しながら語り出す。


「えーっとね、今回の戦いなんだけど、堅君が来なかったら英雄君が死んでたのよ。」


彼女は努めて明るい声を出すが、それを聞いた僕らは固まる。


「堅君が居なかったら、魔物に囲まれたり、遊馬君の回復魔法が間に合わなかったりと、いろんなパターンで死んでたわね。

だから悪い事ばかりじゃないし、この引きの良さで行ければ、あいつの手出しがあっても何とかなるわ。」


マレフィお姉ちゃんは基本的に人類が自分で解決できる問題はノータッチな上に、未来を見る事はしない主義らしいので、今英雄が生きているのは完全に偶然の産物なのだろう。


彼女の明るさの所為か遅れて現実感が湧き、涙目で英雄を見ると、隣の堅とセットで青い顔をしていた。

どうやら心当たりがあるそうだ。


「聞いたな? ほら遊馬、元気出せって。英雄が生きていただけで良いじゃないか。これからも頑張って俺達が守るからさ。」


堅が本気で落ち込む僕の頭を撫でながらそう言う。

一歩間違えば最悪の結果な上に、ストーカー被害が予想の斜め上で受けそうな今、そんなに優しくされると落ちそうだから止めてくれ。

俯いたまま深呼吸をして考えを切り替えると、拳を握って頼もしい親友たちに言う。


「そうだね、そうだよね・・・・よし、アザルストに付いてはこの際置いといて、僕らは目の前に迫った、あいつの嫌がらせと工作員に対応しよう。」


「同情はするが、そんな悲壮感たっぷりな顔で言わなくても良いだろ。」


「まだ若干顔色悪いんだから、なお辛そうに見えるぞ。」


英雄が溜息を吐き、堅が更に頭を撫でながら言う。

嫌な気はしないけど、そろそろ離せ。


「ごめんね遊馬君、どうしても防衛側である以上後手に回ってしまうの・・・・ごめんね。」


「覗き防止のお蔭で、お風呂とかトイレを盗撮されてないだけましですよ。このまま防衛をお願いします。」


申し訳なさそうな姉に現状の事だけでもお礼を言うが、改めて思う。

ストーカーって本当に怖い。

こちらに向けられる、マレフィお姉ちゃんのとても辛そうな視線がグサグサと刺さる。

彼女は他にも色々と話を聞かせてくれると自分の職場へと戻って行った。


「さて、外出許可を取って来ますか・・・・」


「お前は大人しく寝とけ。英雄、写真は任せても良いか?」


「ああ、それじゃあちょっと行って来る。」


僕が頑張ってベッドから降りようとすると堅に止められ、英雄がそのまま部屋を出て行く。

『体を動かしたいんだよ。』との意味を込めて残った親友を睨みつけるのだが、全く気にせず僕をベッドに転がした。


「酷いことするつもりでしょ?」


「病院で弱ってる所に寝間着だぞ? 本音を言えば今すぐ襲いたい。全力で泣かせたくなる。」


再会した日に僕の事を本気で狙っていると言われたからか、少しだけ挑発してみたのだが、これは大失敗。

横から僕の両肩を掴み、胸の辺りへ覆い被さるような体勢の堅は、真顔で即答する。

全身を走るゾワリとした感触から、慌てて布団を胸まで被って睨みつけた。


「その反応が堪らなくそそるんだが、どうしたら良い?」


「心を落ち着けて一歩下がれ。」


凄く嬉しそうに微笑む堅にそう言うと、彼はゆっくりと頷いて僕の布団に手を置く。

そのまま軽く持ち上げると、自分の体を入れようとするので、僕は慌てて両手で押し返す。


「病人に何考えてんだ!」


「馬鹿を言う――」


「お前が馬鹿を言うな!!」


「俺だって恋という病に――」


「今のお前を見てときめく奴なんていねえよ!! ってコラッ無理矢理入ってくんな!!」


僕の必死の抵抗も空しく、堅は上半身をベッドへ置く。


「ほーら、力が緩んできたぞ?」


「っくっそ・・・・んっ固い・・・って、あ・・・・」


必死で馬鹿の胸元を押し返していたのだが、僕は眩暈を起こし、ベッドに力なく転がった。


「すまんやり過ぎた。でも、なんかこう、グッとくるな。」


「見る分なら良いけど、自分がやられるのは別だっての・・・・」


笑いながら離れて椅子に座る堅に、ふらつく頭で何とか悪態を吐くと、深呼吸して落ち着ける。

どうやら僕が思ってるよりも体に無理をさせているようだ。

堅は楽しそうに笑っているが、一瞬だけ目付きが鋭くなったのは見逃さない。

これは大人しくしておかないと本気で怒られるかも。


「堅、お願いがあるんだけど。」


「ん? 何だ?」


怒られたく無いので自重する事を渋々選び、堅に頼みごとをする事にした。

首を傾げる彼に、2人がお見舞いに持ち込んだ果物を指差して言う。


「果物切って。」


「任せとけ。」


『手に力が入らない』と目の前で苦笑しながら握って見せると、堅は笑いながら立ち上がり、果物を一口サイズに切ってくれる。

いつもとは逆のパターンなので新鮮に感じるが、偶にはこういうのも良い。

何をしても絵になるイケメンは本当にずるいと思います。

切り終わった赤色の果物にフォークを指すと、堅がそれを僕の口元に近づけて言う。


「遊馬、あーん。」


流石に予想してなかったので一瞬だけ固まるが、顔を引き攣らせながら馬鹿に文句を言う。


「病人なんだけど?」


「ああ、だからだよ。ほら、あーん。」


勝者の顔を見せる堅を、視線だけで射殺すほど睨もうとしたのだが、眩暈が起きたので諦めた。

軽く口を開けると、満面の笑みを浮かべながら堅は僕へ果物を食べさせる。

悔しいが美味い。


「何かさ、新婚さんみたいで幸せだな。」


「僕には鬼畜が調教しようとしている様にしか見えないけどね・・・・」


とてもいい笑顔で言う堅にそう返すと、彼はキョトンとした顔の後に微笑んで、もう一つ果物を食べさせてくれる。


「何かさ、新婚さんみたいで幸せだな。」


「・・・・私も幸せですよ、あなた。」


こちらへ向けられる柔らかな笑顔から、納得のいく回答を得られない限りは諦めない執念を感じた僕は、抵抗する事を早々に諦めて白旗を上げた。

そこへ病室のドアがノックされ、入室を促すと英雄だけでなくイヴァンさんにジナイーダさんが顔を出す。

良かった、見られないで本当に良かった・・・・・


「お、美味そうだな。」


「どうだ、俺が切ったんだぜ? ほら英雄、あーん。」


堅が英雄にリンゴを向け、悪乗りした英雄が口を開くが、堅は伸ばした腕を引き返し、自分で食べる。


「もう僕なんて構わないで、お前らで結婚しちゃえよ。」


割と本気で言ってやるのだが、馬鹿共はこちらを見て馬鹿・・にしたように笑う。

こいつら、本調子だったら殴ってたのに・・・・


「ほら、遊ぶのは後にしなさい。」


「アスマ、辛い所悪いんだが、少し話を聞かせてくれ。」


ジナイーダさんが苦笑しながら止めると、イヴァンさんが真面目な雰囲気で聞いて来たので、僕達も切り替える。


「何処から話すかな・・・・あー、とりあえず結果から言うか。今回ヒデオが持って来た写真の連中だが、半分はこちらで見つけていた王国の工作員だった。残りの連中は知らない奴等だったが、同じ場所にいた以上は裏の人間だと思われる。」


イヴァンさんが困った様に頭を掻きながらそう言い、少し気まずそうに僕を見てきた。


「証言したのがマレフィ様なら信頼性は高いし、そもそも貴方達の言う事を疑っている訳では無いのだけど・・・・3人とも、そろそろ事情を全部話してくれない? また厄介事に巻き込まれたんでしょ?」


苦笑するジナイーダさんに僕らは微妙に首をひねる。

巻込まれたというか、巻き込まれていたと言うべきか・・・・

まあ、実際問題としてアザルストが関わっている以上話さない訳にはいかないし、元男だという事を除けば話す事に躊躇いは無いので問題は無いのだが、そこだけが非常に気まずい。


「遊馬、もうこの際だから正直に言っちまおうぜ。」


「ややこしい事情と言っても8割方お前の体だけだしな。俺と英雄は大して理由が無いし。」


「他人事だと思ってサラッと言いやがって・・・・良いよ、僕から話すよ。」


『特に問題無くね?』と言った感じで2人が言うので、僕も観念した様に溜息を吐くと、通信魔道具の動画機能を使いながら最初からすべてを話していく。

実際に話してみると『異世界』『性別』『変態アザルスト』だけなのだが、悪気が無いとは言え騙していた事に変わりは無いので胃が痛い。

全てを聞き終わると、保護者の2人組は困った様に唸っている。


「お前たちの場合はその年齢で異常に戦闘力が低かったりするから何かあるのは分かっていたが、異世界ねぇ・・・過去に異世界人がいたという話を聞いたとがあるから、無い話じゃないんだが、見た目に違いが無さ過ぎて良い意味で信じられんな。」


「それもそうだけど、アスマが元は男の子だって言うのは純粋に驚いたわね。この世界の性転換薬を使っても、効果は長くて1日が限度なのに。神の業そのものには劣るでしょうけど、やはり神代の技術を内包している古代遺跡関係はもっと力を入れた方が良さそうね。」


イヴァンさんとジナイーダさんは特にこれと言った事も無くそう言うが、僕としては非常に心苦しい。


「あの、2人とも僕が騙していた事にはノータッチですか?」


僕がおずおずと聞くと、2人は『ああ、そう言えば』と言った感じで僕を見る。


「そこについては気にしちゃいねえよ。事情を持つって事はそれが普通だ。あれだけ世話になったお前たちだが、危険かどうか判断するまでは監視を付けていたし、俺達も人に話せない情報はある。男だった事については逆にしっくりきたぐらいだ。」


「そもそも、2人が私達に師事を頼んだ時なんて、監視の手間が省けるって内心喜んでいたぐらいなんだから。暗示を刷り込まれていないか確認するだけじゃなく、他国の諜報員か確認する為に、魔法で意識を覗いたり、飲み物に薬品を入れたり、結構あくどい事もやってたのよ? それぐらいなら可愛いものだわ。」


監視ぐらいなら付けられているかと思っていたが、そこまでされているとは思っていなかったので、軽く震える。

英雄も少し青い顔をしているし、堅は僕らに憐れむ様な視線を向けていた。


ちなみにゴールドクラスの人間なら理由を付ければ問題無いのだが、挙げられた手法は完全に犯罪である。

たぶん他にもやっているだろうが怖くて聞けなかった。


「アスマ、貴女が元々は男だとしても、私達は女の貴女しか知らないから気にしないで良いのよ。」


「人に化ける魔物とか、機械で出来た人間とか、もっと凄いのを俺達は見ているから気にするな。」


気味悪がる事無く、純粋な好意を持って微笑みながら言う2人に目頭が熱くなる。


「あ、ありがとうございます・・・」


感極まった僕が涙ながらにそう零すと、イヴァンさんに頭をわしゃわしゃと撫でられた。

この人たちが僕らの師で良かったと心の底から思い、顔をボロボロにしながら英雄と堅を見ると『良かったな。』と苦笑していた。


その後僕達は改めて情報の交換と精査をしたのだが、工作員がアザルストに連れて行かれた事から、元々の予定通り身辺に十分気を付ける様に厳命される。

イヴァンさん達は写真の中にいた身元不明の者達を調べるとの事だ。

大精霊の件で護衛が付くとは言え、気を抜くとあの糞野郎に誘拐されて何をされるか分からないので十分に注意しようと思う。

これについてはジナイーダさんからも本気で心配されたが、とりあえずは出来る事からやっていく事を伝えると、とりあえず話は全て終わった。


「しかし、そこまで惚れられるのなら、逆にアスマが男だった時が見てみたいわね。」


ジナイーダさんが帰る前に立ち上がり、笑いながらそう言うと、イヴァンさんも頷く。


「あ、ちなみにこれが男の時の遊馬です。」


堅がそう言って喫茶店で働く僕の画像をSFチックなボードに表示するが、それを見た2人は凄く悲しそうな顔をしてこちらを向く。

止めて、何となく何言われるか分かってるから。


「なあアスマ、この頃は男だったんだよな?」


「胸と腰ぐらいしか違いが無いじゃない。髪は短いけど、ショートだから女の子にしか見えないわよ?」


思案顔の二人に英雄が苦笑して答える。


「残念ながら、間違いなくこの頃は男ですよ。10代の頃から色んな連中にモテる所為で、俺達は御守りが大変でした・・・・」


その後軽く冗談を飛ばし合い、笑いながら帰る2人を見送り、僕はずっと気になっていた事を尋ねる。


「ねえ英雄、さっきの『残念ながら』ってどういう事?」


「深い意味は無いぞ? 文字通りの意味だ。お前が最初から女なら、あそこまで苦労はしなかっただろうに。」


「それについては英雄に賛成だな。」


頷き合う親友達に僕は溜息を吐く。


「もしそうなら、僕は本気でお兄ちゃんみたいな人に惚れてただ・・・おい、お前ら目が据わってるぞ。」


「別の男の話を出されて、面白いとでも?」


「それも相手が俺達の憧れの人となれば嫉妬心も燃え上が・・・・英雄、こいつは俺達の事を煽って燃え上がらせたいんじゃないか?」


英雄と堅が『それだ!』と言った感じでお互いを指差して僕を見る。

正直に言おう、ふざけんな。

にじり寄る2人から逃げようと慌てて身体を起こすが、眩暈を起こして倒れる。

咄嗟に英雄が受け止め、堅が支えてくれたので、転落防止用の柵で打ちはしなかったが、危なかった。

身体が冷えているのか、触れ合う2人の体温がいつも以上に心地良い。


「あー、その・・・・英雄も堅も温かいからさ、今日だけはシングルベッドが恨めしいかも。」


僕がはにかみながら2人を見て言うと、彼らは揃って溜息を吐き『早く寝ろ。』と言って、頭まで布団を被せて来たのだった。


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