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第二章.37

前線にいる連絡班から通信があったらしく、後衛は今やお祭り騒ぎだ。

帰って来た者達の為に酒や食事などを準備している。

私自身も精霊を使った連絡方法により仲間たちの無事を聞いてほっとした。

掃討戦の際に死人が出なかったのは間違いなくこの子が発動させた雨のお蔭だ。

今はもう止んでいるが、元々晴れていたので虹が綺麗に掛っている。

普通の雨とは違って、びしょ濡れにもならなかったのは大満足ね。


「ほらアスマ、どうやら終わったみたいよ。」


微笑みながら隣にいる友人へと声を掛けると、彼女は変身を解く。

ジナイーダさんの読みが的中して服は問題なさそうだ。

そんな事を考えているとアスマが膝から崩れ落ちるので慌てて支える。


「お疲れ様、良く頑張っ・・・・アスマ!?」


腕に抱いた彼女の冷たさに驚き、青白くなった顔色にゾッとした。

この馬鹿、魔力を危険域まで使ったのだ。


「あ、あははは・・・・やっちゃいました。」


荒く息を吐く中で苦笑しながらそう言うアスマに私は呆れる。


「どうせ初めての大規模な魔法で加減が分からなかったんでしょ? ほら、これ飲んで暫く寝てなさい。」


ほぼ透明に近い、こういう時専用の薄めたマナポーションを渡すと、彼女はお礼を言ってそれを呑む。

本来は緑色なのだが、この状態の者に通常濃度を渡すと大変な事になる。

弱った身体が驚き、ゲロゲロいく事もあるのだ。

大規模な戦いだけあって、後衛でも同じ事をした連中が何人かいるが、今この子にそれをやらせるとイメージ的に辛い。


とりあえず薬を飲んでぐったりしているアスマを、プラフィと2人で救護施設代わりの建物まで運ぶ。

プラフィが抜けた後はより一層顔色が悪くなったので彼女に戻ってもらうと、私は施設を後にして姉の手伝いへと向かった。

ちなみに、部屋は個室を借りたので周りは大丈夫だろう。




「この馬鹿、助かったのは事実だけどやり過ぎだっての。」


「意気揚々と帰って来て、その青白い顔を見せられた俺達の身にもなってくれ。本気で焦ったぞ・・・・」


「うん、ここまでするつもりはありませんでした。ごめんなさい。」


重度の魔力切れを起こしてベッドに転がっていた僕は、げんなりした英雄と堅に怒られていた。

今にも死にそうな顔をした女が苦しそうにベッドの上で起き上がり、慌てて駆け付けた男達へ辛そうに笑うなんて、傍から見たらどう考えても悲しいEDが始まる所だ。

まあ僕は休めば問題無いのだが、見た目の印象は大事である。

ちなみにフロウは僕を見ると慌てて中に戻り、体調維持に努めてくれていた。

これが無かったら体も起こせなかっただろう。


「打ち上げは2人で行って来て。僕は流石に無理。」


乾いた笑いで僕が言うと、2人は思いっ切り溜息を吐きやがった。

仕方ないだろう。この体調じゃ行きたくても行けないっての。

フロウも連れて行ってほしかったのだが、残ると言って聞かなかったので甘えさせてもらった。近い内に埋め合わせをせねば。


「アデリーナさんからの又聞きだけど、大物とやり合ってたんだろ? この後に持久戦が残ってるんだから、今のうちに羽を伸ばしてきなよ。」


「・・・・わかった。お前の分まで美味しいもの食べてくるよ。」


僕が畳み掛けると英雄がそう言って頷く。

ちなみに僕は流動食が決定している。無念だ・・・・


「なあ英雄、お腹空いて来たし遊馬もこう言ってるんだから遠慮せずに飯食いに行こうぜ。あ~いい匂いがするな~。」


「・・・・覚えてろよ?」


とてもいい笑顔で言う堅に続いて英雄も自慢げな顔をし、僕が恨めしい(ジト)目を2人へ向けながら言うと、非常に満足そうな顔をして部屋から出て行きやがった。

僕も美味しいご飯食べたい・・・・

結局動きたくてもろくに動けない僕は、打ち上げの騒音をBGMにしながら寂しい食事を終える。

この世界に来て初めての大仕事は、ほろ苦い失敗で幕を閉じるのだった。




討伐隊へ傭兵として参加していた俺は、掃討戦の終わりと共にクルイローへと向かう。

俺の様に打ち上げへ参加せず街に戻る者は少なくないので、門を守備する者達は特に気にする事無く通してくれる。

自分がとっている宿へ戻ると装備を外して一息つく。

少ししてから意識を切り替えると隠してあった緊急時用の通信用魔道具を使い、仲間達へ一斉に連絡を入れた。


「緊急事態だ。大精霊の契約者が現れた。」


潜入中などで意図的に電源を切っていない限り、必ず仲間達へと連絡が付く代物なので、繋がると同時に用件だけを話す。

事態を理解したスピーカー側から数人の息を呑む気配が伝わる。


『わかった。まずは情報の共有化だ。動ける奴は全員隠れ家へ向かえ。偽装を忘れるなよ。』


短い沈黙の後にまとめ役の男が渋い声でそう言うと全員が了承し、俺は通信を切る。

軽くシャワーを浴びて汚れを落とすと、私服に着替え別の区画にあるアパートへ向かった。


「あら、アルチョムさん。いつ帰って来たんですか?」


このアパートに住む中年の亜人女性がこちらへ声を掛けてくるので俺は笑顔を張り付けて答える。


「ええ、つい先ほど帰って来たところですよ。運よく魔物の大発生とは違う方角でしたので助かりました。」


俺がそう言って笑うと相手も笑う。そのまま取り留めのない事を色々と話し、彼女と別れてアパートの一室に入る。

必要最低限しかない殺風景な部屋だ。

もし誰かが来た時は行商であちこち飛んでいるからと言えば大体は納得するので問題は無い。

そこでまた服を着替えると、外に人がいない事を確認して出かける。

後を付いて来る人間がいない事を確認すると、目的の建物へと向かいドアを数回ノックした。

中から50代ほどの男が出て来て嬉しそうに言う。


「ルキーチ、久しぶりだなぁ! 少し痩せたんじゃないか?」


「そう言うお前は少し太ったな。」


周りから見れば歳の離れた友人同士にしか見えない様再会を喜び合い、挨拶代りの抱擁を交わすと建物に入る。

そこは一般家庭ではおかしなほどに中からしっかりと改修がされており、魔術的な盗聴なども防げるほど防音がしてあった。

テーブルに掛ける面々を見て俺が最後である事を悟ると、軽く謝り椅子に座る。


「すまない、遅くなったな。」


そう言って持参した少し高い酒を出すと、先程の男が受け取り全員に注いで回った。

当然だがこの中に亜人は1人もいない。


「気にするな、一仕事終えたばかりなんだろ?」


別の男がそう言うと他の面々も笑いながら許してくれる。

全員に酒を注ぎ終わると、一番年上であり、ここにいる者達をまとめる男がこちらを向いて頷く。

話せという事だろう。


「さて、先程も通信で話した通り大精霊の契約者が現れた。効果は俺自身も受けたが、回復に関しては恐ろしいまでの力を発揮している。

戦う側としては教えられたとおり厄介な相手だ。

今回は後衛にいたので攻撃魔法は見られなかったが、あれだけの力を相手に向けると間違いなく凄まじい被害が出る。早く対応した方が良いだろう。」


その言葉を皮切りに俺が取得した容姿や戦力の情報を面々に話していくと、皆の空気が鋭くなっていく。


「本当に大精霊だったのね? 上位精霊や凄腕が混ざっていたという可能性は?」


「他の連中も騒いでいたし、それに関して熱狂的なエルフ達に確認したから間違いない。俺自身あそこまで大規模な精霊魔法を見たのは初めてだしな・・・・」


この空間にいる唯一の女が確認するように聞くので俺がそう答えると、皆が押し黙る。


「ものがものだ、判断を上に仰いだ方が良いだろう。外の人間であれば、そいつがこの国に付くとも限らんしな。」


まとめ役の男がそう言うと俺達は頷く。


「とにかくもう少し情報を集めよう。動く時はこれまで以上に警戒しろ、既に別の街で仲間が捕まっている事から本来の仕事も足が付いた可能性が高い。慎重に動けよ。」


男の言葉でこの報告会は終わりとなり、俺は肩の力を抜く。

他の面々も並んでいた料理に手を付けだし思い思いに寛いでいた。


そう俺達・・にとってはこれからが本当の仕事なのだ。

この国から亜人を攫い、我が国の労力とする為の拠点やルートを作る事こそが本来の任務である。

今回はタイミングよく起こった魔物の大発生に合わせて、戦力の確認をしようと傭兵に扮して参加したが、結果としては大正解だったと言える。

あの力が我々の敵となる前に情報を入手できたのは大きい。

誘拐にしろ暗殺にしろブロンズである今がチャンスなのだ、手出しできなくなる前に奴の事を知れたのは神の導きだとさえ思える。

仲間達もそう思っているのか俺に労いの言葉を掛けながら一緒に酒を飲んでいると後ろから声が掛る。


「ふふ、あの子がもっと強く美しくなるのは大歓迎なんだがね、国を相手にするのは少しばかり早いと思うんだ。」


俺の対面に座っている者達が慌てて席を立ち、アイテムボックスから武器を抜き放つ。

後ろを取られた俺達は正面の連中の邪魔にならない様に横へずれながら声の主へと向き直った。

そこには金髪で細身の男が笑いながら立っている。

服装はシャツにズボンと普通だが、見ただけで分かる程の高級感が漂う格好をしていた。

身に付けるアクセサリー1つで俺の年収を軽く超えている事は予想に難くないが、荒事をする人間の格好じゃない。どっちかと言えば一握りの高級官僚たちが身に纏う物だ。

だからこそ男の異常さが際立つ。


「何者だ!!」


まとめ役の男が殺気を放ちながら誰何すると金髪の男は全く動じた様子など見せずに答える。


「これは失礼した。私の名前はアザルスト。君達と同じから来た招かれざる客だよ。まあ規模が大分違うがね。」


アザルストと名乗った男はこちらへとウィンクをすると、優雅に横へ一歩踏み出す事で仲間の1人が投げたナイフを躱す。


「実は君達にお願いがあってね、それでここを訪ねたんだが――」


「殺せ!!」


まとめ役の男がアザルストの言葉を遮りながら怒鳴る。

それに合わせて俺達も駆け出し、一撃を入れるために武器を抜く。

この中で最も近接戦に長けた俺が男へ剣を突き込むと、刃は空気に優しく絡め捕られ、シャツにすら届かず止まった。

慌てて身体を引こうとするが、今度はその身体自体が全く動かない。

他の連中も同じなのか後ろからうめき声が聞こえる。


「何をした!!」


俺がそう叫ぶとアザルストは楽しそうに笑う。


「そんなに怯えなくても良い。俺の願いは結果的に君達の利益にもなるんだから。とりあえずは話を聞いてもらうよ?」


俺達の事など全く意に介していないと言った風に彼が答えると、そのまま自分の目的を語り出す。


「君達が今回目を付けた大精霊との契約者だがね、彼女を俺に譲ってほしいんだよ。生きていても死んでいても、君達が普段からやっている女として楽しんだ後(・・・・・・・・・)でもかまわない。俺は兎に角彼女を手に入れたいんだ。」


一瞬こいつが何を言っているのか理解できなかった。

内容自体は裏稼業を営む俺達からしたら至って普通の内容なのだが、アザルストの目には狂気が宿っており、何かは分からないが生命的な恐怖を感じている事が原因だろう。

必死に口を動かそうとするが、体の芯から震え始めた俺は声1つ出せない。


「いきなりこんな事言われても困るだろ? なに、深い意味は無くてな、俺は彼女に惚れていて、純粋に欲しいだけ。君達にはその手伝いをお願いしたいんだ。僕は彼女を手に入れて、君達は障害を排除する。お互いに悪い条件では無い筈だ。」


アザルストは笑いながら話を続けるが、言葉を区切った所で俺達の体に変化が起こる。体が全力で運動した後の様に熱いのだ。

だが体温はそれを無視してどんどん上がって行く。


「本当の事を言うと、以前あの子を攫った事があるんだけど、ものの見事に失敗しちゃってね。悔しかったなーあれは。まあ、お蔭でもっと燃え上がったんだが・・・・

で、その時に邪魔をした怖いお姉さんが今も俺を監視しているんだ。この姿だと気を抜けば一瞬で殺されるだろうね。」


何でも無いかのように話を続けられるが、先程から感じる身体の熱が原因で俺はそれどころでは無い。

事実としてアザルストは既に俺達など見ておらず、ただ失敗や愚痴を聞いて貰うかの様である。


「全く、確かに俺から彼女を守るのにこれ以上の方法は無い。悔しいが見事だ。」


変化が次の段階へと入ったのか、自分の意志を無視して体が動き、俺は仲間達と体を押し付け合う。


「あの時よりも美しく輝く魂はこの世界に来なければ生まれることは無かっただろう。今の彼女たちはまるで水を得た魚だ。」


『がああああああああああッ!?』


男の独白の様で、ここに居ない誰か(・・・・・・・・)へ語りかける言葉になど、とっくに耳を貸さず、声にならない声で俺達は叫び、体の中から自分を焼いて行く熱に耐える。


「ただ守るだけでは埒が明かない事を見越して、彼女たち自身を強くする道を選んだの作戦は見事にはまり、俺はあの子がまだまだ強くなり、もっとずっと成長する所を見たいからこそ手が出せなくなった。『買い物は選んでいる時が一番楽しい』を守るべき相手で実践するなんて、俺よりも性格が悪いんじゃないか?」


嘲るように男が笑うと、その姿が両膝より下を残して消滅する。

残った足はバランスを崩すように倒れるとその場で砂の様に崩れ落ちた。

それと同時に俺達の視界が赤く染まり、体が溶けて行くのを感じ、死を覚悟した事で心の底から恐怖が襲う。全身に走る激痛に耐えきれず、何度も助けてくれと泣きながら悲鳴を上げるが、俺達の声が出ることは無い。

そもそもこの部屋には俺達しかいないので助け様が無いのだが、それでも叫び続ける。

他の連中と体が混ざりだし、俺の意識が混濁し始めた所で足元に光が現れ、俺は完全に意識を失った。




「っんの野郎! 誰があんたより性格悪いですって!? 好き放題言いやがってぇ・・・・」


漸く厳重な結界を解除した私は、到着した現場で怒気をまき散らす。

下半身が肉団子になった元々の住人達が消えて行くのと同時に、やっと部屋へ侵入を果たせたのだが、よりにもよってあの糞野郎に『性格悪い』と言われたのだ。ここに居た分体だけじゃなく、本体をぶち殺したくなる。


「何が『一瞬で殺される。』よ! 探知される代わりにかなり強固な防壁張りやがって、準備万全じゃないの!!」


思いっ切り叫んでストレスを発散すると、あいつが分かり易く置いて言った手紙に目を向けた。

本音を言えばこのまま燃やしてしまいたいが、そうもいかないのでトラップを確認すると渋々手紙を拾う。

紙は上質な物を使っており封は蝋でしてある。

余計な所に気を使っている辺りが本当に忌々しい。

こんな気配りができるなら大人しくしていて欲しいものだ。

問題ない事が分かると手紙を開く。

するとこの手紙に掛けられていた魔法が発動し、文面があいつの声で再生される。


『マレフィへ、君の考えた、遊馬ちゃんを寝かせれば寝かせただけ美味しくなるという、人間の特性を最大限に利用した嫌らしい(・・・・)妨害のお蔭で、すぐに手を出さずもう少しだけ見守る事にしました。

でも、あの子をただ思うだけは辛いので、及ばずながら私もあの子の成長を手伝おうと思うんだ。

方法は単純で、前回の様に神の1柱として直接捕まえに行くのではなく、今回の様に使えるモノを現地調達・・・・して俺の愛する遊馬ちゃんにぶつける予定です。

難易度設定はだいぶ大味になってしまうが、もしも彼女が負けた場合はそのまま回収するので、そちらに迷惑は一切掛けないから安心してくれ。

遊馬ちゃんに対する俺の熱い思いなど、まだまだ書きたい事は多々あるのだがとりあえず今回はこれだけにしておくよ。

追伸

出来ればこの世界に掛けてある覗き見防止魔法を止めてくれるとありがたい。

そうでなければ戦う遊馬ちゃんや、我々の襲撃に耐え切れず良い声で泣く彼女を楽しめ――』


語りを無視してサッと目を通すと、手紙を閉じて再生を止めた。

本当に性質の悪い男だ、同じ女として遊馬君には心の底から同情する。

もう一度だけあまりに自分勝手な紙切れへと視線を落とすと、私は思いっきり溜息を吐く。


「これ、遊馬君たちにも知らせなきゃなぁ・・・・あの馬鹿がせめて直接攻めてくれればいくらでもやりようはあるのに。」


私は心の底から疲れた様に呟くと、やれることをやる為に仲間達へと連絡を取るのだった。


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