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第二章.36

戦闘開始から1時間、魔物の進行は抑えられ、前線ではかなりの乱戦になっている。

私の仕事は姉と一緒にアスマの護衛と、道具切れなどで補給に戻って来た者達への品出しだ。

本音を言えばカリーナやジーナと前線で暴れたかったのだが、これを復帰テストとする事でお留守番を任されてしまった。今日までの我慢だ、頑張れ私。

護衛に付いてはあまり心配していない。

手が離せない時も護衛に精霊を置いているし、ジナイーダさんから別口で依頼を受けていた者達が交代で守っているからだ。


今いるお客さん達を捌き切り、後衛の一角で明らかに桁違いの魔力を発する彼女を見る。

足元に広がる神代の文字で構成された美しい青色の魔法陣と、その上を跳ね回り、線を引いて行く光が幻想的で、ここが戦場である事を忘れさせる程だ。

最初こそ私達エルフが生の大精霊を見れる事で興奮していたが、今では種族問わずに目を引かれている。


「アスマ君もここまで目立たなくても良かったのにね。」


「仕方が無かったとはいえ、本当に可哀想な子よ。」


苦笑する姉の言に溜息を吐きながら答えた。


アスマなのだが、事前に聞かされていた通り魔法の才能が悲しくなるぐらいに無く、精霊魔法に対してもその残念スペックを遺憾無く発揮する。

精霊を見える様にする等の初級は問題無くても、戦闘用に発動させる事が出来なかったのだ。

そこで考えたのが自分自身に憑依させて発動する方法なのだが、体質の事もあるのかこれが恐ろしく嵌り、瞬間的であればかなりの力を引き出すことに成功した。

まあその所為で服が無残な事になったのだが、成功に本気で喜ぶあの子を見ていたらどうでもよくなった。でも凄く不憫である。

ルル達の耳を生やす感じでは無く、完全に姿が精霊となったので私達エルフからしたら眼福なのだが、戦力としても素晴らしい。

近くにいれば自然に回復する魔力の量が増えるのだ。

更に器用さを上げるとでも言えばいいのか、魔力の扱いがし易くなるように全員へ補助を行い、止めとまでに水系の魔法と精霊魔法の威力まで上げた彼女は、物語に出てきたとおりの活躍をしてくれた。

お蔭で名前を売るのはバッチリだが、予想以上に売ってしまった感がある。


「まあ今更か。頑張りなさいよ、アスマ。」


私はそう呟くと、新しく補充に来たお客さん達の相手をする事にした。




開戦から2時間ほどだろか? 俺と堅とフロウは付かず離れずの距離を保ちながら何とか囲まれる事を避けて2対1の状況で戦っていた。


「らあッ!!」


突っ込んで来たタスクベアを右へ躱すと同時に、その背中へ思いっ切り手斧を振り下ろしてやる。

背骨を砕く感触が伝わり、それに満足して斧から手を放すと、走り抜けた先へ待ち受けていたフロウが横から頭を斬り落としてくれた。


「大丈夫か!!」


元々こいつに襲われていた血塗れのブロンズたちに声を掛けると、回復薬ポーションを呑んでこちらにお礼を言う。


「助かりました!」


「くそっ! ポーションが足りねえ!!」


「ぁっ・・・・いやだ、しにたくねぇよぉ・・・」


「安心しろ! 今後ろに連れて行ってやる!!」


彼らの中に1人だけ傷の深い者がおり、仲間たちが傷口を押さえて必死に励ましているが、今から後衛に撤退したのでは間違いなく間に合わない。

皆分かっているのだろう、押さえている側も顔が歪んでいる。


「ほら、俺達の分を使え、こっちはさっき補給に行ったからまだ問題無い。」


俺がそう言ってポーションを渡すと彼らは驚いた顔をし、申し訳なさそうに仲間へ使うと、後衛に引き摺って行った。

何度も何度もお礼を言いながらだ。


「英雄さん、俺達の手持ちも怪しいです。そろそろ補充に戻りましょう。」


辺りの牽制をしてくれていたフロウがそう声を掛けて来たので俺も頷く。

さっきとは言ったが、実際に補給に戻ったのは1時間ほど前で、既に手持ちは危なくなっている。

そうでなくても生命線である回復薬を他人に渡すのは自分の首を絞めるのだ。

だからこそ彼らも驚いたのだが、手を出した以上は助かって欲しい。


「戻りたい所だがもうひと頑張りだな。今俺達まで戻ると、あいつらが追撃される。」


こちらを狙っている魔物がいない事を確認した上で辺りを見回すと、他の者達も全員戦闘中で援護に回れるやつはいなかった。

少し離れた所で戦っていた堅が手強いコボルトに止めを刺したのを見て声を掛ける。


「堅、ポーションの残りは!?」


「これを抜いて残り2本!! そろそろヤバいぞ!!」


相当に手強かったのだろう、致命傷こそ無いものの血だらけの親友は油断なく辺りを見回しながら自らに振り掛けて傷を癒す。

本来はあいつが囲まれない様、周りにいるべきだったのだが、先程のカバーで1対1にしてしまったのだ。横槍があったら危なかったかもしれない。


「今の連中の援護ついでに、俺達も補給に戻ってくる!!」


PTの1つが手の空いた事を確認し、この辺りを戦っている仲間達に大声で言うと、彼らはこちらを振り向かずに了承の声を上げてくれた。

俺達は頷いて少しずつ後退したが、そこに誰かの怒号が響く。


「避けろおおおおおおおおおっ!!」


俺が声のした方へ顔を上げると、そこから高さ4mはありそうな茶褐色の牛が突っ込んできている所だった。

頭に付いた鋭い角がこちらを向き、まだ距離はあっても恐怖で身が竦む。


「うおおっ!!」


「っんの馬鹿が!!」


牛の横からフロウが戦斧を突き込んで気を逸らし、走って勢いを付けた堅が叫びながら俺に飛び掛かる。

地面に倒れる事で角を躱し、俺も堅も何とか死なずに済んだが、早速次の問題が発生した。

糞牛が倒れた俺達に熱い視線を送っていたのだ。

こちらはまだ転がっているので動こうにも動けない。

顔を引き攣らせながら、慌てて立ち上がろうとするこちらを嘲るように、牛は前足で地面を掻く。

突進の後なのでフロウは位置が悪くカバーに入れない。


「早く立て!!」


「駄目だ間に合わねぇ!!」


先に中腰になった堅が怒鳴り、装備の重量で俺も遅れて身体を上げるが、向こうは丁度走り出した所だ。

あのサイズで勢いが付いたら迎撃も出来ない。

離脱の間に合った堅をチラリとみると、泣きそうな顔でこちらを見ている。

そんな顔をさせた事に申し訳ない気持ちが広がり、遊馬の事を頼もうと口を開こうとした時、辺りに突風が吹き荒れた。

ズシンと言うよりはドンと、大きな物が倒れる音が響いて地面を揺らす。

何が起こったのか分からず、慌てて牛の方を見ると、そこには見覚えのある狼とリスの女剣士が立っていた。


「ほら、あんた達、ここで死んだらアスマがボロボロ泣くわよ?」


「お礼はあの子の珈琲で良いから、ここはお姉さんたちに任せて一度引きなさい。」


颯爽と登場したカリーナさんとレイラ(リス姉)さんは何事も無かったかのようにそう言うと、恐ろしい速度で辺りを駆け回る。


「2人とも、今のうちに下がりましょう!!」


惚けていた俺達はフロウの声にハッとなり、慌てて牛を見ると、首を地面に落として巨体を地面へ沈めていた。

間違いなく彼女たちがやったのだろう。


「助かった・・・・」


「ああ、死んだかと思ったぞ。」


俺がそう呟いて息を吐くと、安堵した堅が声を掛けてくる。

そこへフロウが近付いてきた事を機に、俺達は後退した。

お礼を言えなかったが少しだけ心残りだが、それは遊馬を連れて行った時に言おう。




「アスマ、あと少しだから頑張りなさい!」


戦いが始まってから3時間ほどだろうか?

開始と同時にヴァーフを憑依させた僕は、魔法発動に集中する為その場を動かず、戦況は近くにいる人達から聞いていた。

そろそろ発動が苦しくなって来ていた中でアドリアーナが応援しながらもう何本目になるか分からない魔力回復薬マナポーションを掛けてくれる。

今の姿は大精霊なので、水で出来た体に文字通り染み込んで行く。

うちの3人は約1時間ごとに補給に帰って来ており、先ほども僕の様子を見て軽口を叩いていたのを聞いた。

彼らがまた戦いへと赴いて既に30分ほど経っている。

周りの話ではあと1時間もしないうちに終わるとの話だが、虫の知らせとでもいうのだろうか?

先程から胸中を不安が渦巻いているのだ。

前線で何か良くない事が起こったのではないかと、あいつらに何かあったのではと嫌な想像が止まらない。

それと同時に僕は冒険者の鉄則である『迷ったら勘に従え。』という言葉を思い出していた。


心配し過ぎなだけだろう。だが、もし何かあったのなら、今やらなければあいつらを失うかもしれない。

グルグルと思考を何度もループさせていたが、3人が死んでしまう所を鮮明に想像してしまった瞬間に僕は考えを決めた。

今回で言えば僕が倒れても他に人間がいくらでも居るのだ。

少しだけ我が儘をする為に新しい魔法を発動させようと準備を始める。


「・・・アスマ?」


アドリアーナが僕の魔力量が変わった事に気が付き、困惑した顔でこちらを見るが、次の瞬間その表情は驚愕に変わった。

僕の足元に出ていた青色の魔法陣をもっと大きく広げ、今まで以上の魔法を使う準備を始める。

周りの皆も異常に気が付き、慌てだす。


「アスマ、いきなりどうしたのよ!? 既にギリギリでしょうが、こんなに込めたら最後まで持たないわよ!!」


アドリアーナが声を荒げるが、今は許してほしい。

何も無ければ笑い話にして、終わった後に怒られればいいのだ。

そんな彼女を他所にヴァーフから引き出した魔法が完成する。

『笑い話であってくれ。』そう願うと、僕は最後の魔法を発動させたのだった。




「せぃやっ!!」

補給から戻ってまだ10分ぐらいだろうか?

俺に突っ込んで来たゴブリンに前蹴りを叩き込んで肋軟骨(あるのか?)の辺りを砕く。

同時に魔力を送り込んで内臓をミキシングしたので止めもバッチリだ。

しかし何度試しても魔力の恩恵と言うのはでかい。

人間がサルの様な化け物や自分より明らかに重い相手に素手で戦えるのだ、はっきり言って異常である。


「ふぅ・・・・だいぶ減って来たな。英雄、フロウ、もう一息だ! 抜かるなよ!」


遠くで一緒に戦っている2人に軽く声掛けをすると、止めを刺した英雄が肩で息をしながら頷いて、フロウはこちらを向いて手を上げた。

最盛期に比べて魔物の数も減っており、今ではそれなりに余裕も出て来ている。


『ギィィッ!!』


「くそっ、今忙しいんだよ! こっち来んなっての!!」


「お前らにモテたって嬉しくねえよ!!」


お隣で戦っているPTに別のゴブリンが3匹ほど近付いている事を確認すると、休憩を終えて気合を入れ直す。

相手はなぶり殺しに出来る獲物へ近づくことに夢中で俺に気が付いていなかった。妬けるじゃねえか。

横合いから勢いを付けて一番後ろのゴブリンへ飛び蹴りを放ち、頭に当たった一撃は、狙い通りに標的を爆散させる。

着地後すかさず体勢を立て直し、こちらへと振り向く一匹の首へ右手刀を叩き込む。

胴と泣き別れした部品は放っておき、最後の一体へ流れる様に左手で追突くと、突いた左胸が破裂した。

効果が俺の知ってる空手と大分違うが、嫌いになれない自分もいる。

残心を残してもう一度辺りを確認するが、この3匹は間違いなく片付いたようだ。


「ケンさん、助かりました。」


「チクショウ、強くてあんな美人の彼女持ちなんて理不尽過ぎるぜ!! あ、助けてくれてありがとうございます。」


「気にすんな、とにかくこの調子で生き残るぞ。それと、彼女が欲しいならこういう時に助けてあげてポイントを稼ぐんだな。俺と英雄はそうしてた。」


自分達の相手を片付けた若手たちからお礼と妬みの言葉を貰い、俺はニヒルに笑って助言してやる。

ちなみに現代にいた頃は遊馬を守るのに打撃禁止だったので地味に大変だった。

何度柔道と一緒に関節技を練習した事か・・・・


「お前と柔道が俺達に関節技を教えてくれて、誰が遊馬に寝技を掛けるかで揉めたよな。」


彼らが吊り橋効果を実践する為に、慌てて走って行った所で英雄達が合流し、先程の話を聞いていたのか笑いながら言う。


「結局俺が教える事になったけど、あいつ、あの頃から良い匂いがしたから自制心を保つのが大変だったよなー。」


その時の事や、似た様な時の事を思い出して俺達は思いっきり溜息を吐く。

お互い本当に苦労したのだ。

まあ、あの苦労があったからこそ今の女体化が最高の御馳走に思えるのだが。


「心を鍛えに武術を学んだはずだが、どうしてこうなったんだ?」


「原点に行き着くと姉さんの為だから、対象が姉さんだけ(・・・・・)なら、ある意味許容範囲なんじゃないですか?」


自分の捻じ曲がった心に少しだけ凹むと、フロウが何とも言えない表情でフォローしてくれる。

良い弟分だ。

誰かを守る綺麗な心が親友を汚す黒い泥に変わるのだ、時間とは実に惨い。

英雄、目を逸らすなよ。お前も仲間だろ?


「うわああああああああああっ!?」


馬鹿話をしていると近くで悲鳴が上がり、俺達は慌ててそちらへ向かうのだが、大失敗だったかもしれない。

そこにはオークの群れがいた。

ただのオークなら他のPTと協力すれば何とかなるのだが、目の前の奴らは見た目が少し違う。

大きさは3m程で変わらないのだが、明らかに統率された上に、皆身体が引き締まり精悍な顔つきをしているのだ。

絶対に強化型だよアレ。

様子を見る限りじゃ、さっきの悲鳴は俺達みたいなのを誘う餌だな。あんなのに囲まれてまだ生きてるのだから間違いない。


「2人とも、逃げますよ!!」


「異議なし!!」


「堅、トラブル持ってくるのは遊馬だけで良いんだよ!!」


フロウの指示に俺は文句なしと頷き、英雄からは心無い言葉を頂く。

俺がクルイローに着いた途端コレ(・・)だから地味に気にしてんだぞ?

ちなみに餌にされた若手君は俺達より先に突っ込んだシルバーが助けに入ったから問題無い。

遠距離武器に気を付けながら全力で逃げ様とするが、やられた。

逃げた相手を狙う奴らが居たのだ。こいつらの速度なら追い付かれる。


「だぁ、もう! どきやがれ!!」


結局見逃してくれなかったオークに英雄が怒鳴り、俺もかなりイラつく。

幸いシルバーのお蔭で本体からの追撃はなさそうだが、こいつらは自分で相手をしないといけない。

数は4匹で1匹は隊長だろうか?

やたらと装備が派手だ。


「来るぞ、構えろ!!」


「1対1か、面白ぇ! 相手になってやる!!」


「あと少しだってのに・・・・くそっ来い!!」


俺が叫び、英雄が活を入れ、フロウが覚悟を決める。

それぞれが1体ずつを受け持つと、相手のリーダー格は腕を組みながらそれを見守った。

ムカつきはしたが、実力のほどが分からないので内心ではホッとする。

部下オークの武器は先端が放射状の鉄板で作られたメイスで、こいつらのパワーで振るわれたら一溜りもないだろう。

睨み合う俺達だが、相手は俺が素手である事を見て余裕だと言う風に笑った。

絶対にぶち殺す事を心に決めると俺は試しに軽く踏み込む。

すかさずオークはメイスを横に振ってこちらの動きを止める。

相手の間合いに入らず、自分の間合いに入れるのは戦いの基本だ、やはり力任せに振るだけの通常型より強い。

今と同じ、突っ込んでは止められてと言う動きを何度か試していて気が付いた事がある。

こいつらが振るう武器だが、持ち主のパワーに耐えきれていないのだ。

鋭角で振られ地面に刺さるたびに先端の鉄板が曲がり斧っぽくなっていく。

まあニヤニヤと笑いながらこちらを見ているので、わざとやっている所もあるのだろう。

舐めやがって・・・・

深呼吸をすると、俺はこいつの鼻っ柱を叩き折ってやることにした。


これまでより早く踏み込む事で、オークに慌てて横薙ぎをさせる。

狙い通り横へ振って来たメイスに合わせて、胴回し回転蹴りや前回り受身の要領で身体を捻りながら前に飛ぶ。

もしも先端が平らになってなかったら危なかったかもしれないが、こいつが馬鹿で助かった。

そのままメイスの上を飛び越え、着地から一気に体勢を整えると、振り抜いたまま驚愕するオークの右膝へ左下段回し蹴りを叩き込んで砕く。

支えを失い、倒れてくるオークの顎に右前蹴りを叩き込んで頭ごと粉砕すると、俺の相手は完全に沈んだ。

辺りを見ると、フロウが傷だらけのオークへ戦斧を振り下ろして止めを刺し、英雄達はお互いになかなか踏み込めず、膠着している状態だった。

助けに行きたいがリーダー格を見ると、奴は腕を組みながらこちらへ闘気を飛ばして牽制して来る。

何となく『あいつらの邪魔をするな。』と言われた気がするので仕方なしに下がった。

実際問題、今の英雄の実力なら心配はしていない。

早く安全に倒すために協力して戦うべきだが、1人で倒せるのであれば経験を積ませる為にやらせた方が良いのも事実だ。

フロウもやられたのか、助勢出来ない事を口惜しそうにしている。


そして件の2人は俺達が観戦状態へ入った事に気が付いたのか、決着をつける為に魔力の密度を上げて行く。

放たれる殺気でピリつく肌が気持ちいい。

まだ、こっちに大物が残ってんだ、さっさと終わらしやがれ。

そう思う俺を他所に、英雄が動く。

あいつは深い呼吸と共に刀身へと魔力を込めて、手に持つ両手剣バスターソードが真っ赤に発光する。

見るからに何かしてくる英雄を警戒したオークがメイスを横に振るい、俺のと違いトゲ付きの丸い先端が英雄に迫った。

英雄はタイミングを合わせて、大上段に構えた剣を鉄球に叩きつける。

直後に起こる刀身からの爆発でオークのメイスは柄だけになるが、相手もまだ諦めていない。

その柄を刺突武器に変え、英雄の胴体を狙い突き込む。

爆発の反動を上手く使い、また頭上へ構え直した英雄は、自分の胴体を狙う柄へもう一度剣を振り下ろして爆発させる。

貯め込んだ魔法剣は1発だけでは無かったのだ。

事実として、まだ刀身はほんのりと赤色に染まっている。

先程より近い位置で爆発した衝撃に耐えられずオークは武器を落とし、反動が腕を襲ったのだろうか、致命的な隙を見せた。


「らああああっ!!」


英雄は雄叫びと共に踏み込んで、三度剣を振り下ろし、オークの鎖骨辺りを狙う。

刃は胸まで達し、おそらく心臓を断ち切ったが、相手が強者だからか英雄は手加減せずにもう一度爆発を起こし完全に止めを刺した。

抜き放たれた刀身は元の色に戻り、今の分で使い切った事を知らせている。

これで3対1とりあえずはどうにかなるか?

そう思いながらリーダーを見ると、奴は俺が倒したオークに近づき方膝を着きながら『良くやった。』とでも言う様に肩を叩いてやり、俺を見向きもせずフロウの方へ向かった。

恐らくは他の部下たちも労ってやるのだろう。


向こうがそれを終わらせる間にこちらも一度合流し、とりあえずポーションを飲んで体を休める。


「英雄、さっきのは見事だったぞ。」


「あれって何度も練習してたやつですよね? 習得おめでとうございます。」


「はぁ、はぁ・・・・ありがとよ。でも格好つけ過ぎた。」


俺とフロウもこいつを労い、当の本人はまだ肩で息をしているが、その顔は嬉しそうだ。

英雄の呼吸が落ち着いてきた所でオークはこちらへと殺気を飛ばしてくる。

この野郎、待っていてくれたらしい。

叩き付けられる圧の中に混ざるのは部下を失った怒りだろうか、その顔には哀愁が見て取れる。


「さて、ご指名だ。2人ともいけるな?」


「ええ、勿論です。」


「おう、いつでも良いぞ。」


俺達も声を出して確認し、それぞれが武器を構える。

ボスオークの持つ武器は腰に下げた剣と手に持つ槍でフロウ以外とは相性が悪そうだ。

しかもこいつ、かなり強い。

俺達に対して『まとめてかかってこい』と視線で言えるのだ。

正直に言うとやり合いたくはない。

だが逃がしてはくれない事も分かっている。

俺と英雄が左右に広がり、フロウが正面を受け持ち、戦斧で突いて牽制する。


「なっ!?」


そう、フロウは軽く牽制するだけのつもりだった。

ボスは凄まじい速度で戦斧を往なすと、そのまま流れる様に狙いを俺へと変えて、槍を突いて来たのだ。

驚いて声を出したが、穂先に前腕を当てる事で何とか直撃を避ける。

手甲と距離に助けられた事に冷や汗が止まらない。

そのまま踏み込もうとするが、圧倒的なパワーから繰り出される薙ぎ払いで断念させられ、正面と反対側から攻めようとしたフロウと英雄が動きを止めた。


「気を付けろ、こいつ滅茶苦茶早いぞ!!」


「技量もあります、注意してください!!」


「そんなもん俺にどうしろってんだ!!」


一連の攻防の後にニヤリと笑ったボスに対して俺が注意を促すと其々から返事が返ってくる。


「英雄、間違っても一人で攻めるなよ!! フェイントの後に貫かれるぞ!!」


「堅、武器の王は素手じゃなかったのか!!」


「そんな浪漫思考は遊馬だけで十分だわ!!」


「2人とも来ますよ!!」


俺達が敵を隔てて馬鹿な口論をしていると、フロウの言葉と共に英雄へ槍が突かれ、本人は引き攣った顔で下がりながら攻撃を躱し、何とか間合いの外に出る。

その攻撃に合わせて長物を持つフロウが突き込むが、柄を使い華麗に弾かれた。

肝心の俺は、しっかりと石突で牽制されて何も出来ないで終る。

見かねた英雄が投擲用の斧を取り出して大きく湾曲した刃に先程の赤い魔力を込めた。

間髪入れずにオークの足元に投擲し、起爆する。

魔力で障壁を張ったのか、大きなダメージこそ受けていなかった。

だが相手は片膝を着いており、その隙を逃す俺とフロウでは無い。

フロウが戦斧を腕に振り下ろし、俺は後ろ回し蹴りで肩を砕く。


『――――!!』


今度こそ痛手を負ったボスが悲鳴を上げて後ずさり、得物の槍を落とした。


「グッジョブ!!」


「ナイスフォロー!!」


「助かりました!!」


俺と英雄がお互いを褒め合い、あのままだと次に攻撃されたであろうフロウがお礼を言う。

このまま油断せずに仕留めようと思い其々が気合を入れ直した所でそれは起こった。

ボスオークの纏う気が爆発的に上がったのだ。

斬られた腕と砕かれた肩がシューっと音を立てて治って行く。

オークは俺達で無く倒れた仲間を見て瞳を閉じると、更に力が爆発した。

先程の時点で俺達は倒す事を諦めていたが、これでは逃げられるかどうかも怪しいだろう。


「なあ英雄、どういう事だと思う?」


「馬鹿かお前は、どう見たって仲間を失った怒りと、危機に瀕する事によって起こるパワーアップだろ。」


現代人の男の子にとっては馴染み深すぎる少年漫画の王道を見せ付けられて、俺達は泣きたくなる。


「オークヒーローなんて誰得だよ!?」


「知らねえよ!! つうか、どうすんだこれ!?」


「何やってんですか2人とも!! 援軍が来るまで持ち堪えるんですよ!!」


半ば自棄になって口論していた俺達をフロウが諭すと同時に、完全復活を遂げたボスオークが腰の剣を抜いた。

プレッシャーが途轍もない。


「どうすんの!?」


「やるんだよ!!」


内心では覚悟を決めているであろう英雄の確認に俺もしっかりと答えてやり、地獄の耐久戦が始まった。




「づあああっ!?」


ボスオークの文字通り嬲る剣戟で死なない様に傷が増やされる。

悔しいがメインで狙われているのは一番実力の無い俺だった。

堅とフロウもボロボロだが、俺程じゃない。

モテる男は辛いぜ。


「英雄さん!!」


カバーに入ったフロウがすかさずポーションを掛けてくれるが、傷が多すぎて治りきらない。

致命傷が無いのは時間を稼ぐ俺達からしたらありがたいが、さすがに心が折れそうだ。


「助かった・・・・残りは後何本だ?」


「俺の手持ち()今ので最後です。堅さんがあと3本と言ってましたが、あれで2本ですね。」


オークの攻撃を受けていた堅だったが、相手が笑いながら攻撃を止めた所で1本自分に使っている。

本気を出したら俺達なぞ相手にならないからか、ボスはある程度痛めつけるとこうやって手を止めていた。

完全に遊ばれているが、今はこれが俺達の生命線なのだ。このままもう少しお付き合い願いたい。


「さて、もう1回魅力的にケツを振って来るか。」


「くれぐれも一撃・・貰わないようにしてくださいね。」


俺の悪態にフロウがおどけて答える。

この余裕がある内はまだ良いが、内心はいつまで持つか不安で一杯だ。

頼むから早く誰か来てくれ。

そう願いながら堅の方に近づき、もう何度目になるのか分からない仕切り直しが行われる。


「おい、傷が全部塞がってないぞ。」


「相手が逞しすぎてな、全部使っちまった。」


「俺の分を渡したいが、そこまで時間はくれないらしい。耐えろよ? フロウ、またこいつのカバーを頼む。」


「ええ、そっちも無理しないで下さい。」


俺達が言葉を交わし終えると、ボスオークが動き出す。

本来であればもっと早く動けるのだろうが、嫌らしい事にこちらがギリギリ反応できるかどうかの速度で攻撃を仕掛けてくるのだ。

弛まぬ修練で体が反射的に動く2人はまだマシだが、俺は完全に目と勘で防ぐしかない。

こういう所で実力不足を痛感させられるが、落ち込むのは後だ、今は全力で捌かねば死ぬ。

振るわれた剣に自分武器を当てながら距離を取るが、その時に反応できない速度でいたる所を少しずつ斬られていく。

援護に入るフロウと堅も似た様な形で動きを止められ傷を負い、俺達の疲れはどんどんと蓄積されていった。

だからだろう、俺も相手も防げると思った一撃に反応する事が出来なかった。


「うあああああっ!!」


太腿を深く斬られた俺は痛みで悲鳴を上げてその場に倒れる。

それを聞いて興が醒めたのか、ボスオークはつまらなそうな顔で止めを刺そうとするが、間に入ったフロウが受け流し、一瞬の隙をついて堅がオークの横腹に逆突きを放つ。

さすがに効いたのだろう、苦悶の表情を浮かべると、俺への追撃を中断して堅の迎撃に入った。

と言っても早さが違うのだ。踏み込んでいた堅は刀身の腹を当てられて吹き飛んだ。


「がぁっ!!」


「堅!!」


「堅さん!!」


俺達が転がったあいつの名前を呼ぶと、ふらつきながらも立ち上がる。

痛みを堪えているのか呼吸が荒く、防御に使った右腕が拉げているが、生きてはいた。

俺の方も今まで以上に傷口が熱くて、血が止まらない。

そろそろヤバいかなと内心で笑っていると、空から水が落ちてきた。

圧倒的な余裕のあるオークは、煩わしそうに空を見上げるが、空は雲1つない快晴である。

『何故雨が?』と俺たち全員が困惑していたが、本格的に降り出した雨を受けた俺達は、これが魔法で、使ったのは遊馬であると悟った。

魔力の質とかでは無く唯の勘なのだが、何となくそんな気がしたのだ。

雨に打たれていると、傷だらけの体に明確な変化が訪れる。

傷口が塞がり体力が回復していくのだ。

絶望的な状況にもかかわらず、あいつに『諦めないで、必ず帰ってこい。』と言われてる様な気がして自然と笑みが漏れ、気力が溢れた。


「英雄、フロウ、もう少し行けるか!?」


「ええ、バッチリです!!」


「っしゃあ、やるぞ!!」


腕の調子を確認している堅がこちらに叫び、引き上げてくれたフロウと共に声を出す。

それを聞いてニヤリと笑ったボスが剣を振り回すが、かすり傷程度ならすぐに治り、深い傷も徐々に治る。

兎に角致命傷だけをしっかり避けるようにしながら、暫くの間3人で遊ばれていると、ボスの横合いから凄まじい勢いで男が現れて、オークに一撃を入れる。

隙を突かれただろうに反応したオークは、振るわれた大斧の間に剣を入れる事でしっかりと往なし、地面に刺さった斧は大地を揺らした。

絶好のチャンスである筈なのにオークは追撃をせずに距離を取り、新たに現れた男に対して最大限の注意を払っている。

最早俺達など全く気にしていなかった。

男は大地から斧を抜くと、溜息を吐きながらこちらへ言う。


「まったく、大物には近づくなって言っただろうが・・・・」


「イヴァンさん!!」


最高の助けが来たことに軽く涙腺が緩んで俺が叫ぶと、彼は『任せておけ。』と言った風に堂々と構える。

本気で警戒しているボスオークと違ってかなり余裕そうだ。

少し離れながらそれを見ていると、いきなり俺の体が浮いて自分の意志とは関係なしに引っ張られた。


「うおっ!?」


「何だこれ!!」


「あ、ジナイーダさん。」


どうやら他の2人も同じ状態らしく、フロウが見つけた犯人の下に回収された。


「3人ともよく頑張ったわね。遊ばれていたとは言え、オークロード(・・・・・・)を10分以上も足止めしたのは文句なしの出来よ。説教は弱めにしてあげるわ。」


転がった俺達に掛けられる、ジナイーダさんの苦笑が混じった言葉に全員が固まる。


「え? オークロードだったんですかアレ。 最初はもっと弱かったし、連れているのも少し強化されたオークでしたよ?」


事実を知った事で頬の引き攣るフロウがそう聞くと、ジナイーダさんは溜息を吐いて説明してくれた。


「ロードがキングの子供って言うのは知ってるわよね? 奴らの習性なのか、キングはロードに部隊を率いらせ、少しずつ経験を積ませるのよ。貴方達は運悪く標的になって、今の今まであいつを楽しませていたの。まあ、そのおかげで他のブロンズたちが避難できたから感謝してわ。」


俺達が慌てて周りを見ると、そこには魔物の死骸はあれど、冒険者や傭兵などは1人も残っていなかった。


「全然気が付かなかった・・・・」


「生き残る事に精一杯だったもんな俺達・・・・」


愕然とする俺に疲れ切った堅がそう零す。

要は俺達の大好きなレッドベアを相手にしていた様なものなのだ。身体が震えるのも仕方ないと思う。


「他の皆さんは何処に?」


「今頃最後の掃討戦ね。3人が襲われているのは知ってたから、私達は群れの中にいた厄介な奴を片付けてこっちに来たのよ。間に合ってよかったわ。」


フロウが聞くとジナイーダさんがサラッと答える。

そうか、それをわずか20分以内で成し遂げたのか。流石ゴールド。

というか皆俺達が襲われてたの知ってたんだ・・・・


「シルバーの子達を恨んじゃ駄目よ? あっちも数が多くて大変なんだから。貴方達と交流のある子なんて、救助に行きたくても魔物に邪魔されるから、その度に漏れる殺気で若手が泣きそうだったわ。」


ジナイーダさんはくすくす笑いながら言うが、シルバーの殺気なんて受けたら、それだけで死ねる。

向こうで精神的に死にかけるかこっちで肉体的に死にかけるかの二択なんて運命の神様は相当に底意地が悪いのだろう。

まあ皆向こうへ行ったわけなのだが。


「始まるぞ!」


堅がそう言うと、俺は話を止めて視線をイヴァンさん達へと向けるが、予想通り動きが激し過ぎて目で追えなかった。

一瞬だけ動きが遅くなるのは武器を振るった時だろうか?

シルバーは残像のある動きをするが何とか捉える事は出来る。だがゴールドは文字通り世界が違った。

見えない上に武器を合わせる度、大気が震えるのだ。

腹の底にどしどしと響いてくる。

ジナイーダさんが結界を張ってなかったらと思うとぞっとした。

練習の時に手加減してくれる理由と、周りが全力で押さえていた事に感謝の念が堪えない。


オークロードの振るった剣を、イヴァンさんが柄の部分で上手く使い受け流すと、地の魔力を込めた大斧を大地へと打ち付ける事で地面を揺らし、相手のバランスを一気に崩した。

爆心地は軽く地割れが起こり地面を伝うヒビは俺達の近くまで達している。


あまりの理不尽っぷりに半分ぐらい現実逃避気味になり、魔法の雨が割れた地面に吸い込まれていく所を『綺麗だなー』と眺めていたのは許してほしい。


決定的な隙を見せたロード君にイヴァンさんは横合いから斧を叩き込んで両断する。

俺達では何度斬っても大したダメージにならなかったのに、あの人は両腕込みで腰を断ち切ったのだ。

やっぱりかっこいいぜこの人達。

遊馬が見たら絶対目を輝かせていただろうな。


「よーし、終わったぞー。」


イヴァンさんは油断なくロードの首へ大斧を落とすと、辺りを見回してから何事も無かったかのように言う。


「なあ英雄、俺達ってさ、美味しい所全部持って行かれたんだな。」


「言うなっての。」


「コラ、生きて帰れただけマシだと思いなさい。」


堅と2人で地味に落ち込んでいるとジナイーダさんに怒られた。

確かにその通りだ。

その通りなのだが、男の子がボス戦になって逃げだしたなんて格好悪いじゃないか、というのが俺達の内心だった。


「もっと経験を積んで強くなるんだな。」


凹んでいた俺達の下へイヴァンさんが合流し、軽く耳の魔道具に手を当てる。


「どうやら全部終わった様だ。あいつ相手に生き延びたんだ、胸を張って帰るぞ。」


彼の言葉に俺達は力強く頷くと、皆で拠点へと向かった。

こんな仕事をやっていると、この瞬間が最高に楽しくて笑みが漏れる。

堅も思う所があるのか、顔がニヤついていた。


「なあ英雄。」


「どうした?」


「俺さ、こっち来て大正解だった。」


「そうか。喜べ、これにあのトラブルメーカーがセットになるぞ。」


堅の言葉に俺がそう答えると、こいつは心底嬉しそうに笑う。

あいつに振り回された事なんて数知れないが、どれも楽しかった事だけは事実なのだ。

保護者組は呆れて溜息を吐いているが、こればかりは譲れない。


俺達は自然と軽くなる足取りで拠点への道のりを急ぐのだった。


武器の王

 ・槍の事

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