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第二章.34

「ま、まだやるんですか?」


「当然よ。折角アスマが誘ってくれたんだもの。楽しまなきゃね~。」


「やっぱり本場の人間は似合うわね、さあ次はこっちを着て頂戴。」


『お客様、大変お似合いですよ。』


僕とアドリアーナがジナイーダさんに連れられた先は、和服を扱うお店だった。

それ自体はフリフリしていないからか特に拒絶する事無く袖を通したのだが、唯でさえ着るのがめんどくさい着物を何度も試着させられてさすがに疲れが出る。

試着なので1からすべて着る訳では無いが、辛いものは辛い。

その後何点か変えた所で漸くストップとなった。


いくら現代で色白と呼ばれようが顔付き等は日本人なので、お店に入った瞬間目付きの変わった店員さんにロックオンされ、着せ替えで遊べることを理解したアドリアーナが喜んで活動を開始した事が悲劇の始まりだろう。

あの時彼女を捕まえた事が、まさかこんな事態になるとは・・・・



「うーん・・・・私のお勧めはこの薄紫のやつですかね。」


「確かに花色は落ち着いて見えて良いわね。」


「中身はじゃじゃ馬ですけどねー。」


楽しそうな2人へ投げ遣りに相槌を打ち、視線を改めて彼女が勧める服へ向ける。

まあ、確かに好みではあるのだ。自己主張し過ぎず張り切り過ぎない見た目で、用途もカジュアルと来ている。悪くない。僕が男なら是非彼女に着て欲しいと思う。


「でも仕事を考えると、こっちのデニム生地が良いのよね。」


「あー、確かに。青だからこの子にも似合いますし、こっちも良いな~。」


「へぇ、色移りとかに気を付ければ洗濯機で洗えるんだ・・・・」


ジナイーダさんがアドリアーナと話している間に、僕は店員さんがサッと持って来た、デニム生地の簡単な説明文に心惹かれる。

僕らの場合仕事で絶対に汚すから、こういう所は本当に大事だ。


この世界の和服だが、予想よりも軽かった。魔法の世界だけあって製法も違うのだろうか?

現実の着物なんて着た事が無いから比較はできないが、丈夫で軽いのは素晴らしい。

そして何より深いスリットが入っていて意外に機動力が高いのだ。

ズボンに比べればさすがに落ちるが、後衛に専念するのであれば悪くないかもしれない。

しかも特殊な作りの所為か材質に関わらず魔法攻撃に強く、冬用は厚みがあるから地味に物理防御も優れる。戦闘用に使えながら普段着にも使えると言う製作者のこだわりを見せ付けられた。

外国人が日本の製品を見て驚く時の気持ちはこんな感じなのだろうか?


ちなみに、スリットの無い普通のタイプもあるが、こちらを着る予定は今の所ない。

この業界でTPOを弁えなければ社会的にでは無く、物理的に死ぬからだ。


今回ジナイーダさんが和服を選んだのは、この魔法耐性の強さが原因で、僕の服が魔力に耐えられなくて破れた事から思いついたらしい。

少々ゴリ押し気味だが時間も無いし、触って分かるほど耐性の高さを感じたのでこれで良しとする。

仕方ないとは言え着せ替え人形は勘弁してほしかったが、僕の反応を楽しみながら選んでいる彼女たちに言い返せる言葉は何1つなかった。



「いいなぁ~アスマ達は和服が似合って。着物って確かに着るのが面倒だけど、この国でも人気高いんだよ?」


結局デニム生地の既製品を購入した僕とアドリアーナはゆっくりと帰路についている。

ジナイーダさんは進行方向の関係ですでに別れた。


「そりゃあヤナギの民族衣装だもの、先入観が強いから似合って見えるさ。というか美形揃いのエルフなら何来ても似合うじゃん。故郷にいる知り合いの女の子たちが聞いたら血の涙を流すよ。」


僕が苦笑してそう言うと、彼女は面白くなさそうな顔をして言う。


「その先入観が大事なのよ。着物は綺麗過ぎて敷居が高いの。『着たいけど似合わなかったら・・・』って一歩を踏み出せない子は多いんだから。私だってジーナが無理矢理着せなければ、怖くてお店にすら入れなかったかも。やっぱり綺麗で素敵だったなぁ」


彼女はその時の事を懐かしむ様に微笑む。

夕日に染まるアドリアーナのその表情は文句なしに美しく、ほぅっと感嘆の息が出る。


「君の方が綺麗だよ。」


「ふふん、良く言われます。」


僕が完全に本音の入った言葉を冗談気に言うと、彼女は笑いながら返してきた。

これは手強い。

そのまま談笑しながら歩いていたが、宿への道が違うのでアドリアーナとも別れ、1人でオレンジ色に染まる街並みを歩く。

日本にいた頃では絶対に見る事の出来ない斜陽に染まる石造りの街は何度見ても美しく、自然と僕の心を和ませた。


『皆、明日は絶対に帰って来ようね。』


大切な僕の家族たちにそう告げると、皆が『勿論だ。』と答えてくれる。

その返事に満足すると、僕は真っ直ぐに宿へと向かった。

部屋に戻り、対抗策が和服であった事を告げると、英雄と堅は本気で喜ぶ。


「喜び過ぎだろ!」


「馬鹿言うな、どれだけ夢が広がると思ってんだ! 堅、お前からも言ってやれ!」


「遊馬、好きな相手が普段着てくれない服を着てくれたら嬉しいだろ? お前も現代人なら、特別な時に着ている着物より、普段使いのカジュアルな着物に燃えるだろ?」


「それは分かるけど、お前らさっきから目が怖いんだよ!!」


そう、先程からこいつらの目はなんか危ない。

『着て見せてくれ』ぐらいならまだ良い、今のこいつらなら半脱ぎとか要求してきそうだ。

その後何か言いたそうな2人を無視して明日に備えて寝る事にするが、その前に景気付けとお昼のうちに買っておいた強めのお酒を飲む。


『なあ英雄、最後になるかもしれないから、遊馬を酔わせたい。』


『気持ちは分かるけど諦めろ、明日の二日酔いは洒落にならん。』


僕がほろ酔いになってきた辺りで英雄と堅がこそこそと話を始めた。

聞き耳を立てる程野暮ではないが、仲間外れは少しだけ寂しい。


「良いですね~男の友情ですか? 羨ましいですねー。」


不満が有りますよと彼らに抗議しジト目を向けると2人は苦笑して離れる。その顔が少し幸せそうだったのが気になるが、きっと内緒話の内容だろう。


「今日はどっちが遊馬と寝るか相談してたんだよ。」


英雄がそう言って僕のベッドに腰掛けてくる。


「そんなこと相談するぐらいなら3人で一緒に寝れば良いじゃん。こんな日ぐらいは別に構わないっての。」


僕がそう言うと、2人は凄まじい勢いでこちらを凝視する。


「一応言っておくけどさ、誰でもいいって訳じゃないぞ? お前達だから許すんだからな。」


その言葉を聞いて、英雄と堅は凄まじい動きでベッドを1つ動かして繋げる。

これだけの動きが出来るのなら明日は問題無いんじゃないかこいつら?


「男に二言はありませんよね?」


「ここまで来て冗談なんて言わないよな?」


馬鹿共が確認をしてくるが、それをするならベッドを動かす前にしろよ。

あと堅、こんな時だけ男扱いするな。敬語も止めろ。


「2人がどうしても僕と寝たいって言うなら考えなくも――ああ、うん。別に添い寝ぐらい構わないから言わなくていいよ。」


流し目で2人を見ると、鬼気迫る勢いで口を開く準備をしていたので逆に怖くなる。

そのまま馬鹿なやり取りをしながらもう少しだけ飲んでベッドランプを消し、僕らは布団に潜った。

僕の位置はベッドの繋ぎ目部分なので少々寝辛いが、両サイドの温もりと安心感が心地良い。偶には良いかも。


「こうして3人で寝るとさ、子供の頃を思い出すね。」


「あー、肝試しの後に遊馬が泣き付いて来た奴か。」


「あったあった。寝てる途中に1人でトイレに行くのが怖いって俺だけじゃなくて堅もセットで起こされたんだよなぁ・・・・懐かしいぜ。」


こいつらが言っているのは小学校の行事で行ったキャンプの事だろう。ただ言わせてくれ。


「何で今思い出すのがそれなのさ! 皆で寝たのなんて他にも一杯あるじゃん!!」


僕が抗議すると、2人はくすくすと笑う。

アレは仕方なかったのだ。

僕らのテントはトイレが少し遠い上に灯りの類が一切無い為真っ暗で、そんな森の中をホラー大嫌いな僕が1人で行動できる訳ないだろう。


「はぁ・・・・もういいだろ? 寝るよ。」


恥しさを誤魔化す様に溜息を吐いて催促をすると、2人はそれ以上何も言わないでくれたので、少し悔しさを感じながら僕は意識を手放した。

この暖かさが無くなるかもしれない恐怖も確かにあったが、こいつらな帰って来てくれるだろう。


翌朝、2人より先に起きて顔を洗い着物に着替える。

靴は仕事なのでいつものブーツだ。

着付けに関しては一応習ってきたが、プラフィが問題無く出来るので特に困ることはない。

彼女に何故知っているのかと聞いたら『需要が有りましたから。』と熱っぽく笑ったので、詳しく聞く事は止めておいた。男とは単純なのだ。僕も和服の着衣プレイは大好きです。


いつもより早い時間だが、集合時間自体が早いので2人を起こすのだが、プラフィから止められる。


『主様、これから戦いに向かう男を普通に起こしては可哀想です。ここは主様の魅力を十分に発揮して――』


『本音は?』


『見ていてもどかしいので、主様が早く陥落してしまうよう後押しをしたいのです。』


彼女の言葉を途中で切って僕が聞くと、あっさりと答えてくれた。

もう少し歯に布着せようよ・・・・

だが可愛い姉(?)からの頼みだし、それに何よりこいつらは僕と違って前線に向かうので少しぐらい良いだろう。

とりあえず英雄の肩を揺すり、声を掛ける。


「あなた、早く起きて。仕事に遅れちゃうわよ。」


そう優しく声を掛けながら薄く目を開いた彼に微笑んでやる。


「ふふ、おはよう。」


止めにそう言うと、英雄は完全に目を覚まして嬉しそうに笑う。


「遊馬、俺、幸せすぎて怖い。」


「何馬鹿な事言ってるのさ、ほら早く起きて準備しなよ。」


もう少しだけこの空気を堪能させてほしそうな顔をしているが、『それは本物の奥さんとやれ。』と言って僕は離れる。


「ああ、わかった。そうするよ。」


薄く笑いながら、静かにそう言って立ち上がる英雄から少しだけ寒いものを感じたが深く考えない様にした。

次の堅を同じ方法で起こすと、満更でもなさそうに笑って体を起こす。


「おはようのキスは?」


「おかえりで良ければ頬にしてやる。」


言外に生きて帰ってこいと言うと、彼は頷いて洗面所へと向かう。

2人から特に気負った物を感じず、軽く安堵すると同時に自分の仕事内容を改めて思い出して深呼吸をする。

たぶんこの中で一番緊張しているのは僕だからだろう。


「上手くやれよ。」


そう呟き自分に活を入れると、彼らが出てくるのをゆっくりと待つのだった。


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