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第二章.33

「で、出来たぁ・・・・」


僕の口から空気以外にも集中力や生命力の様な物が抜けて行くのを感じる。ドクドクと波打つ心臓がうるさくて心地良い。

震える足に力を込めるのが億劫になり、その場で崩れ落ちそうになる。

そこを隣にいたアドリアーナが慌てて支え、汚れる事など全く気にせず椅子まで肩を貸してくれた。


「まさかそんな方法で解決するとは思わなかったわ。おめでとうアスマ。」


ジナイーダさんはそう言って微笑みながらタオルと冷えた飲み物を渡してくれる。

まるで『大変良く出来ました。』と、子どもを褒めんばかりの嬉しそうな表情をしているので、今回の頑張りは文句無しなのだと分かる。

認めてもらえたのが嬉しくて、こちらも頬が緩んだ。


2人にお礼を言うと、受け取ったタオルで滝の様な汗を拭い、少しだけ酸味のあるドリンクを一気に流し込む事で漸く一息つく。


「今ので、何とかなりそうですか?」


荒い息を少しずつ整えながら彼女達に聞くと、2人は少しだけ悩んでから頷いてくれた。


「これだけやれれば全員のサポートは問題無いと思うわ。」


「ええ、それに相手の目を引き付けるのも大丈夫よ。ただ・・・・」


アドリアーナは苦笑いで答え、ジナイーダさんは言いよどむ。

彼女たちの視線が僕の顔では無く、体へ向いているので何を言いたいかは良く分かった。


「まあ、戦力はともかく、これはこれで問題ですよね。」


僕はそう言って深く溜息を吐くと同時に、改めて体を見下ろす。

そこには服と呼ぶには烏滸がましいほどボロボロになったシャツとズボンがあった。

精霊魔法だが、僕の場合少しだけ特殊な発動をさせているので、弊害として服にダメージが行ってしまったのだ。

そですそが裂け、腹部や太腿の辺りは破れて肌が露出している。

エロを狙った際どい破れ方ではなく、本当にズタズタなのでネタにもならない。

ベルトは完全に千切れ、ウェストバッグは地面に転がっていた。


「アスマ、今の姿で男に会ったら高確率で捕食されるから気を付けるのよ。ヒデオとケンでも駄目だからね?」


「とりあえずプラフィ、貴女はアスマの着替えを取ってきて頂戴。」


アドリアーナが楽しそうに言うが僕からしたら笑い事では無い。

苦笑するジナイーダさんが僕の中にいるプラフィにそう言うと、彼女はすぐに現れて部屋から出て行った。


時間は既にお昼を回っており、予定時間をオーバーしている。

本来なら堅の装備品を揃える予定だったのだが、イヴァンさんとフロウを含む4人がまだ帰って来ていないのだ。

そのお蔭でなんとか精霊魔法擬きを習得したのだが、彼女たちは僕らの様に身軽な立場ではないので少し心配になる。


「大丈夫ですか? 大分時間が押してるのに・・・・」


2人が椅子に座った事を確認して僕が口を開く。

事実として、アデリーナさんは予定の時間が来ると名残惜しそうに仕事へ向かったので既にいない。


「心配しないでも大丈夫よ。こっちもイヴァンが帰って来ない事には動けないから問題ないわ。やる事も最終確認を数点するぐらいだし。」


「お姉ちゃんは薬師として調合作業があるから仕方ないけど、それ以外はシルバーでも皆ゆっくり構えてるわよ?」


2人はさも何でもない様に答え、僕の服をどうするか話し合っている。

改めてこちらの人間のタフネスさを感じるが、いずれ僕も馴染むのだろうか?



その後プラフィ宿から持って来てくれた着替えに袖を通し、さらに20分ほどで男性陣が帰還した。

少々汚れが目立つだけで傷らしい傷も無いのでほっとする。


「心配してなかったけど、その様子を見る限り大丈夫そうね。」


「ああ、この実力なら問題無く3人セットで前線に送れるな。」


ジナイーダさんとイヴァンさんがホクホク顔で話し合うのを見て僕らは非常に複雑な思いに駆られる。


「フロウ、2人をお願いね。」


「姉さん、前線じゃないから大丈夫だよ。」


「アスマ、諦めなさい。あの顔は間違いなく使える戦力(・・・・・)が増えて喜んでるから、気が付いたら激戦地のサポートへ送られていてもおかしくないわ。」


可愛い弟分に全員で帰って来てほしいと頼んだのだが、遠い目をしたアドリアーナのまるで経験者・・・の様な言葉に二の句が継げなくなる。

フロウ、そんな辛そうな顔しなくても良いんだぞ?


「英雄、最後にまたお前と戦えて嬉しかったよ。」


「ああ、俺もだ。堅、もしもの時は遊馬を頼む。」


少し悲しそうに笑い合う2人の親友が印象的で胸を打つのだが、こいつらにはまだまだ生きていて欲しい。

身内なんだから、送り出す時は少しぐらいサービスしてやろうと思う。

何だかんだ言うが、僕はこいつらが好きなのだ。友達として。


若手で軽く談笑をしていると、ジナイーダさんから声が掛る。


「アスマ、貴女の服についてだけど、パッと思い浮かぶ案が1つだけあるの。後で少しだけ時間を貰っても良い?」


とても楽しそうな顔と、やんわり醸し出す捕食者的オーラに嫌とは言えず、僕はコクコクと首を振る。

男性陣は『服って何の事?』って顔をしているが、止めることはなかった。

イヴァンさん、優しい視線を向けてないで助けてください。


純粋に1人で行くのが怖いので、僕は苦肉の策を実行する。


「アドリアーナにも付いて来てもらっていいですか?」


「え! ちょっと、私も!? 他に優秀なナイトが3人もいるじゃない!!」


アドリアーナから少し恨めしい視線を向けられたが、とりあえず巻き込んでおこうと思う。保身は大事。


「女だけで行った方が早いから問題ないわ。ヒデオとケンは明日を楽しみにしてなさい。」


意外な事にジナイーダさんには2つ返事で頷かれた。

身構え過ぎたのだろうかとも思ったが、何か嫌な予感がするので撤回はしない。


「とりあえずさ、堅の装備を買いに行こうか。」


僕に出来たのは苦し紛れにそう言い、とりあえずこの場から脱出する事だけだった。



「なるほど、発動したら服が駄目になるか・・・・そりゃあ深刻だな。」


「全くだ、服は最初からボロボロよりも自分でビリビリする方が燃えるからな。」


「凄く分かる事がこれほど悲しいとは思わなかったよ。」


とりあえず現状の説明をすると、凄く嬉しそうに2人からそう言われたのだが、される側って辛い。

買い物を終えた僕らはジナイーダさんからお呼びが掛るまで宿屋で休んでいる。

堅の装備は魔力を通し易い材質な事を除けば、無難に指まで覆う軽量の手甲となった。

浪漫は大事である。


「英雄、お前はドレスをビリビリしたんだろ? 次は俺に譲ってくれ。あ、遊馬は獣パーツ忘れないでくれよ。」


「おい、何の話だ。」


真顔で言う堅に本気で突っ込みを入れるが、何でお前は困った顔をするんだよ。


「いやー、アレは今でも思い出せるぞ。なんて言うかな、背徳感が凄い。正直に言うともう一度やりたい。」


「そうだろうな、女になって30分以内の出来事なのにしっかり反応・・してたからな。」


忌まわしい過去を思い出してギリッと歯軋りをするが件の実行犯はどこ吹く風だ。

プラフィがこっそり仕込んでいた、鞄の中のセクシーランジェリーが見つかるのと、着ている服を破かれるのはどっちが危険だろうかと一瞬だけ考えたが、行き着く先は何度考えても同じなので諦めた。

僕らはどっちも大好きなのだ。


「新婚生活を考えるのは仕事が全部終わってからにしようぜ。しっかし、解決案って何だろうな?」


堅が言いながらベッドに転がる。


「無難に考えるとコスチューム変更?」


僕が無い知恵を振り絞ってそう言うと、堅と英雄は凄まじい勢いでこちらを見た。


「まさか魔法少女か? やめとけ遊馬、今のお前じゃ百式レアリ○ンは絶対似合わねえよ。」


「誰が着るかそんな物!! それなら服が破けた方がマシだよ!! 近くにコートを1枚置いておけばいいじゃないか!!」


悲痛そうに言う英雄に思いっきり文句を言うが、未だに視線が痛ましい。だから着ないっての。


「遊馬、その年でM.○.M.O.はかなり辛いぞ? 悪い事は言わないからKOS-M○Sにしとけ、な?」


「だから着ないっての・・・・それでも着せるならジギ○かジ○さんにしてくれ・・・・」


悪乗りしてきた堅に思いっきり溜息を吐いてやるが、2人に笑われるだけだった。


これ以上言っても無駄なので僕もベッドに倒れ込み枕に顔を埋めながら考える。


(まあK○S-MOSのVer.4ならエロ可愛いし、僕も好きだから似合うのなら着ても良いかな? こいつらが喜んでくれるなら僕もうれし・・・・って違うだろ!! 落ちつけ僕!!)


乙女なのか、男を喜ばせたい女なのか、悪乗りした時の斜め上なのか分からない思考で軽くパニックを起こして震える。


「なあ遊馬、最近そうやって悶える回数が増えたけど本当に大丈夫か?」


英雄の労わる声が胸に刺さる。止めて、大丈夫だから本当に止めて。


「相談事があるなら聞くぞ? 男に話せない事ならプラフィとかも頼るんだぞ?」


堅も心配して声を掛けてくるが、話せるかこんなの。


「うん、大丈夫。自分のあり方について改めて考えてただけだから。自分が変わるって怖いね・・・・こら、頭撫でるな。早く放せ。」


どさくさに紛れて僕のベッドに腰掛け、頭を撫でてきた英雄を止める。この野郎、油断も隙もない。

枕から顔を上げて堅の方を見ると、面白くなさそうに目の据わった彼と視線が交差し、慌てて枕に戻す。なんだあれ、怖いぞ。

ベッドに座り直す為体を起こすと、一瞬の隙を突かれ英雄に抱きしめられた。


「いい加減に抱き付くの止めろって! 僕らは恋仲でも何でもないだろうが!!」


「愛してるぜぇ、遊馬ァ。」


腕の中で暴れると、英雄の囁きと共に抱き締めがどんどん強くなる。


「痛い! 痛いってば!! ギブ、堅助けて!!」


英雄から背筋を上る悪寒を感じ半分涙目で正面の堅を見ると、彼は両腕を開き優しい声音で言った。


「カムオン。」


「そうじゃない!! っておい、締めるな、今のは僕悪くないだろ!?」


嫌そうな空気を纏った英雄がさらに力を入れて締め上げ、堅を視線だけで威嚇する。

流石に痛くて本気で暴れたので、少しだけ拘束は緩めてくれたが放してはくれなかった。

で、結局この馬鹿騒ぎはジナイーダさんとアドリアーナが迎えに来るまで続き、2人から凄く温かな視線を向けられて死にそうになったが、形はどうあれ助けてもらったので文句は無い。

文句は無いのだが、嬉しくないのに溢れそうになる涙を我慢するのは、とても大変だった。


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