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第二章.30

この街に来るまでを思い出す。

道中で1度だけ盗賊に襲撃され、手加減が出来ずに3人程殺めたのだが思ったより何も感じなかったのは意外だ。

むしろ自分の技量が実戦でも使える事に興奮さえ感じていた。

命の大切さと脆さについては昔から少し強くなるたびに感じていたので無意識下で覚悟が出来ていたのだろうか?

あの時は自分の感性に付いて少しだけ悩んだが、奪った命の分まで生きて行くことが重要だと思う事が出来たので30分もしないうちに何も感じなくなった。

そもそも狂人に殺されかけたので、悪党に対する情けなど無いと考えを固めた事が原因かもしれない。

その時の戦いを見たエフィムさんから『戦い方は悪くない。だが魔力の操作が全く出来ていないので戦力としてはかなり低い。』と指摘もされた。正直かなり凹んだが、こればかりは仕方ないだろう。早い所訓練をしたいぜ。


街に付いて2人と合流する為にギルドへ向かおうとすると、傭兵の人が何人か案内を買って出てくれた。非常に助かったのだが、彼らが財布や胸ポケットから出した美女の写真を見て納得がいく。

そこに写っていたのはどう見ても遊馬だった。願ってやまない女体化済み遊馬だった。

話には聞いていたが俺は心の中で大歓喜しながら『実物を楽しみにしてなさい。』と言った女神様に感謝する。

『ギルドに付いたら俺達は、お前とヒデオを殺したいほどに憎むだろう。』

皆は少し悲しそうな顔でそう零すが、今まで何度も向けられた感情だけにあっさりと適応してしまったのは言うまでもない。

つうかあいつら冒険者だろ? なんで傭兵にまで名前が知れてるんだよ。


考えても仕方がないので、とりあえず一緒にギルドへ向かうと以外にもあっさりと合流を果たす。

驚いた後に泣きながら抱き付こうとしてきたあいつを見た時、俺の中で言い様の無い感情が溢れ、何も迷わずに腕を広げたのだが、後ろに悪友が居たのは失敗だった。抱き付かれても胸当てを付けていたから軟らかくは無いだろうけど惜しい。

その後何故か冒険者の皆さんに殺気を向けられて英雄とセットで料理されたが、一部の連中が本気だった様な気がする。あいつらには遊馬を近付けない方が良いだろう。

特に目のハイライトが消えた女の子は危ない気がする。英雄もあの子にはかなり注意を向けていたから間違いないだろう。その内事故を装って何かしてきそうで怖い。遊馬、上手くやれよ。


何とか命を繋いだ後に反省会をし、久しぶりに英雄と素手でやり合ったのだが、あんな騒ぎになるとは思わなかった。まあ結果として遊馬との添い寝権を手に入れたので文句は無い。文句は無いが、明日ギルドに行くのが少し怖い。

見るからに実力者が見守る中で、遊馬と一緒にいた青い髪の女性とレフリーをしてくれた男性は明らかに別格だった。英雄達の知り合いみたいだから、可能ならこの人たちに師事してみたいが、後で2人と相談だな。

刺されて拾われて迷子になって拾われてと、何度思い返しても格好の良い事なんて1つもないのが悲しすぎるが、笑い話のネタになったので上等だと思う。


それはさておき、この荒ぶる男の本能を俺はどうやって我慢したらいいのだろう?


「けーん。」

ピンと尖った狼耳とサラサラの尻尾を装備した遊馬がデレッデレで背中側から抱き付いてくる。

俺と英雄がシャワーを浴びた後に部屋で酒盛りをし、英雄の勧め通りに遊馬を酔わせたらこうなったのだ。

獣パーツに付いては酔った後に俺がお願いしたら二つ返事で装備してくれた。

これから毎日酔わせて遊びたい。

抱き付いたまま顔を埋めて深呼吸しているのだが、これは間違いなく香りを楽しんでいるだろう。

「えへへ~、けんのにおいだ~。」

尻尾をフリフリと振って、嬉しそうにポワポワと笑う。

うん、先にシャワー浴びて良かった。

遊馬がお湯を浴びる前に飲ませたのはこれが狙いだろう。スキルによる香りと、ほんのりと混ざる汗の匂いが興奮を引き立てる。

「遊馬の方が良い匂いだぞ。ずっとこうしていて欲しいぐらいだ。」

俺が優しく言うと、彼女は驚いたように一度動きを止め、膝立ちになって俺を後ろから抱きしめてくれる。後頭部に柔らかな胸が当たって幸せです。

「ふふふ。」

ああもう、見なくても分かる。この子、今絶対満面の笑みだ。

「なあ遊馬、愛してるぞ。」

我慢できなくなった俺が見上げて言うと、目の合った彼女は真っ赤に染まる。どう返したらいいのか思い浮かばないのだろう。あたふたと視線だけを動かしている所に俺は微笑みで追い打ちをかける。

遊馬は足を崩して座り、背中に強く抱き付き直して固まってしまう。

胸が後頭部から離れたのは凄く寂しいですが、背中が幸せなので構いません。

奥側のベッドで笑うのを堪えながら悶えている英雄が目に入るが、すまん、幸せすぎてそれどころじゃない。

手に持っていたグラスを一気に煽り喉を焼くと、タイミングを計った様に遊馬が耳元に口を近付けて囁く。

「えっとね、ぼくもけんのこと・・・だいすきだよ。」

蚊の鳴くような声だが、確かに遊馬はそう言い、俺の理性を容赦なく破壊した。


いただきます。


「残念だったな。体験版はここまでだ。2ヶ月後のマスターアップを待て。」

英雄の声で俺はマレフィさんから言われていた、遊馬を抱けない事を思い出す。

ちくしょう、それはねえよ・・・・・

「もう寝ろ。電気は消してやるからそのままベッドに押し倒して、遊馬を寝かしつけるんだ。その後にさっき言った様に遊馬の香りを使って自分の意識を落とせ。」

親友のアドバイスに俺は頷く。声に籠った哀愁から、こいつがどれだけ我慢して来たのかが良く分かる。

俺はグラスを枕元の机に置き、体を入れ替えて遊馬と向き合う。

「ふぇ?」

俺はそのまま遊馬の頬にキスをすると。驚いている彼女を抱きしめてベッドに転がり、事前に掛け布団の位置を調整していたので、倒れ込んだ後に上手く二人で被る。

「ねえけんー、すこしぐらいさーびすしてほしい?」

頭の位置が丁度胸の所にある遊馬が、見上げながら挑発的な笑みを向けてそう言うと、俺は迷わず頷く。

それを見た彼女は一度ベッドから降りて服を脱ぎ、オレンジ色の下着姿となって戻ってきた。

「ごめんね、すぽーつようで。」

しゅん、と項垂れながら遊馬が言うが、個人的には全然構わない。

あと今下を見られると期待に漲るが見えるので頬に手を添えて無理矢理上を向かせる。

「十分だよ、ありがとう。」

遊馬の頭を撫でてやると、布団の中で尻尾が嬉しそうに暴れ回る。

何だよこの可愛い生き物。

我慢できない俺は額にもう一度キスをしてやると、嬉しそうに目を細めた。

「おやすみ、遊馬。」

「うん、おやすみ。」

軽く抱き締めてやると、遊馬は5分もしないうちに気持ちよさそうな寝息を立てる。新婚の夫婦みたいで幸せだ。

「想像よりキツイだろ?」

英雄が後ろから声を掛けて来たので俺も答える。

「よく我慢できたな。約4ヶ月だろ?」

俺が少し心配しながら聞くと、こいつは懐かしむ様に言う。

「安心しろ、使えなくなった訳でも、元気が無くなった訳でも無い。それにほんとの事を話すとさ、何度か振り切った時もあったんだ。」

親友の言葉を聞き、俺は驚くと同時に納得する。こんな攻撃を何度も防げるはずはない。

「遊馬が覚えてないだけで、もう?」

「いや、その時はプラフィが止めてくれた。」

初めてに拘るつもりはなくても、チクリと胸を指す嫉妬心から聞いたのだが、帰って来たのは無難な言葉で拍子抜けする。

妙な安堵を感じると共に、俺は最も気になっている事を英雄に聞く。

「なあ、遊馬はこの国の結婚制度を知ってるのか?」

「いや、一般常識過ぎて誰も言わないから、たぶん気が付いてない。さっき試合をしていた時に遊馬と一緒に青い髪の女の人がいただろ? あの人からの情報だからほぼ間違いない。」

親友から語られた予想通りの解答に、俺は溜息を吐く。

「どうする?」

「お前こそどうなんだ?」

親友からの問いにそう答えると、お互いに苦笑する。

「決まりだな?」

「本人は再三にわたって『良い相手を見つけろ』と言っているから、今完全に決めなくても良いと思うが、概ねそれで良いだろう。」

俺は寝ている遊馬の頭を優しく撫でながら、彼女の幸せそうな寝顔を見つめて英雄に言う。

「改めてよろしくな。」

「ああ。」

俺達は短くそれだけを交わすと、眠る事にした。


間違いなく前途多難な日々になるのがこれほど楽しみに感じるとはな・・・・

覚悟しろよ遊馬、ぐちゃぐちゃにしてやるからな。

俺は真っ黒な感情を抱きながら、ニコリと笑って意識を手放すのだった。


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