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第二章.29

「さて、何処から話したものか・・・・」

「いざ話そうと思うと、出てこないもんだよな。」

自分のベッドに腰掛けた英雄と堅が苦笑している所に、淹れたての珈琲を渡す。

「時間は一杯あるんだから、最初からゆっくり話して行こうよ。」

僕がそう言って笑うと、お礼を言った2人も微笑みながら頷いてくれた。

「じゃあ、まずは俺と遊馬からだな。」

英雄がこちらを見るので頷き返し、僕らはあの日アザルストに誘拐されてから今日までの事を順番に話して言った。

所々で通信用魔道具の映像機能を使い、動画入りで披露したのだが『ほんと、相変わらずだなお前ら。』と呆れられた。

お勧めのレッドベア戦と直近の大物である大精霊戦は彼も手に汗握って視聴してくれたので命を張った甲斐がある。

「ここへ来る前に、傭兵の人から何度か聞いてたけど、熊って本当に怖えな。エイ○アンですら火を怖がるのに火魔法が全然効いてないのは軽く絶望を覚える。」

頬を引き攣らせながら珈琲を呑む堅に、僕と英雄が冗談気味に言う。

「でも他に収穫があったんだよ?」

「ああ、血が出るなら殺せるってのを実践してきた。」

それを聞くと、堅は予想通り軽く咽てくれた。大満足である。

「次は何と戦うんだよ・・・・」

「洋物の定番でどうにかして引っ張るさ。さて、こっちはこれで全部だ。次はお前の話しを聞かせてくれ。」

片手で顔を覆う堅に、英雄が苦笑しながら言うので、僕も頷いて彼を見る。

「いろいろ考えたんだけどさ、今更現代の話しをしたって意味ないから、こっちに来る事になった事件だけ簡単に話すよ。それで良いよな?」

堅の確認に僕らは頷く。

「隠してもしょうがないから言うけど、俺向こうで死にかけたんだ。」

全く気にしてない様に言い切った堅に僕達は愕然とする。

「どういう事だよ!!」

理解の追いついた僕が、堪らず怒鳴ると、彼は落ち着けと言った風に手で遮る。問題なさそうに微笑むこいつを見ていると、怒るに怒れない。堅は、僕の心配や不安などが綯交ぜになった表情をしっかりと見てから、申し訳なさそうな顔をする。

「落ち着け遊馬。結論を出すのは、こいつの話を全部聞いてからだ。」

英雄の言葉に僕は俯き、深呼吸をすると堅に視線を向けた。彼は頷いて続きを語り出す。

「俺っていつも休日の朝にロードワークをやってただろ? 死にかける1ヶ月ほど前の事なんだが、シフトの関係で平日が休みになったんだ。で、いつも通り起きたと思ったらその日に限って寝坊しちまって、普段より遅くに家を出たんだが、それが丁度小学生の通学時間と重なったのが始まりになる。」

僕と英雄が視線だけで先を促すと堅は口を開く。

「ああいうのを運命って言うんだろうな。コースも終盤に差し掛かり、気合を入れ直した瞬間に後ろで防犯ブザーが鳴ったんだ。どうせ悪戯だろうと思いながらも一応振り返ると、昔の俺達そのままに、数人のちびっ子たちが怯えながら正面に立っていた40代ほどの男を見ていた。俺はUターンしてそいつらの所へ向かい、どうしたのかとやんわり聞いたら男の方がいきなり包丁で斬り付けて来たんだよ。」

堅は珈琲を一口飲むと話を続ける。

「一応言っておくが、最初から危ない奴だと決めつけるのはマズイから『どうかしたんですか?』って笑いながら本当に優しく聞いたんだぞ。そしたら問答無用で襲い掛ってきたんだからな? 話を戻すぞ。子供を守る関係上逃げられない俺は、斬り付けを躱した後に、格好良く下段蹴りで変質者を返り討ちにしてやったんだ。その後は警察呼んで捕まえてって感じで簡単に終わり、子供の心に傷を残した事を除けば、事件は無難に終わった。」

彼は飲み終わったカップを枕元の机に置いて一息つくと、思い出すように上を向いて目を閉じた。

「あんまりにも簡単に終わったものだから、俺自身その事を殆ど忘れかけていたんだが、それから1か月後に予想外の事が起こった。日課のランニングをしてたらさ、俺が捕まえた犯人の母親を名乗る女性が話しかけて来たんだよ。正直に言うと、その時点で嫌な予感がしたんで追い返そうとしたんだが、ババアはこちらを無視するといきなり踏み込んで来て、バッグに隠し持っていた包丁で俺の腹を一突き。言い訳をさせてもらえば、相手が準備をしていた上に近すぎた事と、見るからに頭のおかしくなった奴が刃物を出した事で、一瞬だが完全に思考がストップした隙を突かれた。後は倒れた俺の腹を滅多刺しにして、俺の上で狂った笑い声をあげていたのが、向こうで最後に見た風景だな。せめて横の水田でも見とけば良かったぜ。」

僕の中で真っ黒のドロドロとしたものが湧きあがる。英雄も明らかに纏う空気が変わった。

「2人とも落ち着けっての。もう終わった話だし、俺は気にしてねえよ。というかお前らに再会できたんだからある意味では感謝してるんだぞ? ついでに言うとまだ続きがあるからもう少し聞け。」

こちらの様子に気が付いた堅が溜息を吐きながら僕らに声を掛ける。

「あーもう、言っても駄目そうだから続けるぞ。死に掛けた俺は丁度良かったと言われてマレフィさんに回収され、予想の斜め上を行くお前らの戦力が足りない事を聞いてこっちに来たんだよ。ババアと変質者の息子はお礼って事でマレフィさんが後始末・・・したらしいから安心しろ。」

救い様の無い狂人共が地獄に落ちた事を聞いて、僕らは一応溜飲を下げる。

こちらの雰囲気が落ち着いたものへと変わり、彼は苦笑しているが仕方ないだろう。久しぶりに会った親友が殺されかけたなんて、聞く方からしたら笑い事じゃないっての。

「マレフィさん曰く、本当はこの街の近くに送るつもりだったら、事故が起きて隣町に召喚されて、そこで俺は傭兵のエフィムって人に助けられた。向こうが髪の色や見た目からお前たちの知り合いだと判断してくれて、ギルドの魔道具とかで一通り確認をされた後にこの街へ連れて来てくれたんだが、あの時は本当に助かった。昔迷子になった時と同じで途方に暮れかけたぜ。まあ、知り合いかどうか確認する時に折り紙を折らされた時は焦ったがな。紙飛行機を折ると何とか認めてもらったよ。完成はしなかったが、頑張って鶴を折ろうとしたのが正解だったのかもしれない。」

堅は力強く語ってくれたが、遠い目をしていたから結構苦労したのだろう。

「ちびっ子たちが追掛けて行くのは微笑ましんだけど、おっさん達が笑顔で紙飛行機を追掛けて行くのを見てさ、年を取った事を見せ付けられた。あそこにはあの頃の、綺麗な心の俺達が居たんだ・・・・」

悲しそうに俯く彼を見て、苦労して落ち込んでいた訳では無い事を僕達はようやく理解した。

「そっちかよ。」

堪らずに突っ込んだ英雄だが、僕も正直にそう思ったので、深く溜息を吐く。


その後3人で色々と話していると3人の通信用魔道具が鳴ったので堅が代表して電話を取る。ちなみに色は緑色だった。

『今晩は3人とも。無事に合流できたみたいで安心したわ。』

ディスプレイに映るマレフィさんが笑って言うが、僕からしたらもっと早く知らせてくれても良かったのではと、少しだけ不機嫌になる。

『本当はもっと早く知らせたかったんだけどね、彼を送った日は丁度、貴女達が大精霊と戦った日なの。あの子の暴走が原因で転送事故が起きたんだけど、その後は通信回線と遊馬君がダウンしていたでしょ? だから迎えに行くよりはその街に直接来てもらった方が早いし、サプライズになると思って黙っていたのよ。ごめんね。』

申し訳なさそうに語られた驚きの真実から、半分ぐらいは自分の所為だと知って目を逸らす。

その先で優しく笑う堅と視線がぶつかった。バレたかな?

「マレフィさん、俺の幸せな生活を崩すなんて酷いじゃないですか。後2ヵ月もしないうちにゴールインだったんですよ? 乱れる遊馬を力強く抱き締めながら、耳元に甘く愛を囁いてお互いに熱く求め合い、行く行くは子供を授かって素敵な家庭を築くという俺の壮大な計画が・・・・」

「ちょっと待て! 何の話だ!? 僕が意識するまで待つって話は何処に行った!!」

本気でガッカリした英雄の言葉に僕は全力で突っ込む。こいつなら迷わずやる。

驚愕の視線を親友ひでおAに向け、助けを求める様に親友けんBを見ると、任せろと言わんばかりに力強く頷いてくれた。さあやってしまえ。

「俺が来たからにはお前の好きな様にはさせん。既に乙女では無くなったかもしれないが、後は俺が貰っていく。お前の行いに愛は無いんだよ。」

堅は英雄に対して断罪するように言い切るが、突っ込みどころが満載過ぎる。

「ふざけんな! まだ誰にも抱かれてねえよ! しかもそれじゃあ僕の行先は変わらないじゃないか!!」

『安心して遊馬君。機が熟したら私が回収するから――ってあ、ちょっと待っ――』

邪神が言うと洒落にならないので、僕は堅の腕から通信用魔道具を奪って通話を切る。

次は先ほどから睨み合いを続けている馬鹿共だ。

「半年間、夫婦同然の生活をしていたんだぞ? 大事な時にいなかったお前にもう出番は無い。こっちには美人も美少女も多いから早く新しい恋に目覚めるんだな。それにお前のギルドでの行いにも愛はないだろ。」

英雄はギルドで僕をあすなろ抱きした堅を咎める様に言うが、お前の方が回数は多いんだぞ? 何自分は違うみたいな言い方してるんだよ。

「夫婦? 笑わせるな。お前は親友ポジであって、どれだけ頑張ってもお友達止まりなんだよ。今までも、これからも幼馴染でいるんだな。」

飽く迄もじゃれ合う範囲なのだが、ヒートアップしてきたところで僕がストップをかける。

「2人とも折角再会できたんだからそこまでにしようよ。あんまり五月蠅くするならプラフィを呼んで、セットで吸精してもらうよ?」

「争いは何も生まない。これからもよろしく頼むぜ、相棒。」

「そうだな、俺達なら分かり合える。また馬鹿騒ぎが出来て嬉しいよ。」

僕がにっこり笑って言うと、彼らはサッと態度を変えて力強く頷き合った。


ちなみに僕の召喚できる子達はみんな紹介済みである。

プラフィ先生が本気になれば、人間族の男なぞ手だけで10秒以内にイかせる事が出来る事も説明済みなので彼らは小さなプライドの為に一瞬で和解を成立させた。気持ちは痛いくらいわかる。

親友達が手のひらを返した時に、僕の中で凄く残念がる淫魔がいた事は黙っておこう。


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