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第二章.24

「おい待て、それじゃあ僕の周りは加速度的に変態が増えるって事?」

「ああ、残念ながらな。さっきも言ったが教えてくれたのはアドリアーナだからまず間違いはない。」

朝食を終えた僕は自室で英雄からある種の死刑宣告を受けていた。

ちなみに1人部屋は引き払い、今は二人部屋でベッドに腰掛けて向かい合っている。

ベッドが二つってこんなに素晴らしい事なのか。

「どうしよう、エルフのイケメンどもに逆ハーレムされたら、何かの気の迷いで陥落するかも。」

冗談めかして言うと、親友が鋭い目つきで僕を見る。

「それは面白くないな。」

「真顔で言うな。と言うかちょっと怖いぞ。」

少し背中に寒気を感じたので軽くあしらいベッドに転がる。

「そりゃあアタックを掛けてる側としては面白くないさ。」

「友達が他の奴と楽しくしてて、軽く嫉妬してるだけじゃないのそれ?」

ごろりと転がって顔を英雄に向けると溜息を吐かれた。

「まあそれでいいさ。で、外に出る時はどうするんだ? ジナイーダさんに何か言われてるんだろ?」

最初こそ投げ遣りだったが、真剣に聞いて来たので起き上がって答える。

「どうしようもないから1日安静にして様子を見ろだって。朝起きた段階で、大精霊の障壁も魔力漏れも無くなったみたいだから注視しない限りは気付かれないみたい。今日一日は何があるか分からないからって意味合いで大人しくしとけと言われたよ。」

僕がそう言うと、英雄はなるほどと頷いた。


それから僕達はこちらの世界でのボードゲームやカードで遊んでいたのだが、お昼前になり通信用魔道具が鳴った事で顔を上げた。

英雄が自分の分を取り出して通話を始めると、浮かぶディスプレイに疲れた表情のマレフィさんが映っている。

「ど、どうかしたんですか?」

「ちょっと予定外の仕事が舞い込んでね、少し忙しかったのよ。」

親友の問いかけに乾いた声で笑う彼女へ言い様の無いものを感じて僕は何も言えなくなる。

「まあそれはこっちの事だからいいか。さて、遊馬君まさか大精霊を掴まえるとは思わなかったわよ。」

マレフィさんがこちらを見て苦笑する。

「狙って出会ったわけじゃないんですけどね。」

僕がそう答えると向こうも『そりゃそうか』と言った感じで笑う。

「こっちも大変だったんですよ? 肝心な時に連絡も取れないし。」

「ごめんごめん。その辺りで瘴気が濃くなり過ぎてね、おかげで電波状態が悪かったのよ。少し改良しておいたから今程度の濃度なら問題無く通信できるようになったわ。」

英雄が聞くとそういってマレフィさんはウィンクする。

「ありがとうございます。それで、今日はどうしたんですか?」

お礼を言ってそう聞くと、彼女は困った様に笑う。

「それがねー・・・・遊馬君、残念な事に貴女が何処にいるかアザルスト側にばれたわ。」

ベッドに座っていてよかった、立ち上がっていたら膝から崩れ落ちていたかもしれない。

「どういう事ですか? 暫くは問題ない筈じゃ。」

英雄がマレフィさんに聞くと、彼女は溜息を吐く。

「2人とも瘴気については聞いてる?」

僕達はエゴールとプラフィに泉からの帰り道で説明を受けていたので頷く。


瘴気とは空気中にある汚染された魔力で、生物が取り込み過ぎればアドリアーナのように死に掛ける非常に危険なものだ。といっても集まり過ぎなければ危険は無く、放っておくとそのうち浄化されて普通の魔力になる。プラフィ曰く二酸化炭素の様な物らしい。

通信障害の原因になるのは彼女も知らなかったようだ。


「あの泉の近くには瘴気が溜まるポイントが有るんだけど、そこをアザルストの部下に解放されたのが事の発端ね。そいつが成り行きを見守っていたら止めに来た大精霊と戦闘になり、返り討ちにあった精霊が瘴気に中てられ暴走した訳。泉までは頑張って逃げたみたいだけど、そこが限界だったのね。運悪く付近に貴方達が居て、その部下の男が最後まで見ていたから遊馬君の事も見つけちゃったの。」

分かり易過ぎて泣きそうになる。単純に自分達がツいてないだけだった。おい英雄、なんで目を逸らすんだよ。友達だろ?

「ただ、向こうにも事情があるみたいで報告しようかどうかかなり悩んでいるそうよ。聞き付けたら速攻で捕まえに来るのにまだ来てないって事は大丈夫かもしれないけど、一応知っておいてね。まあ実力的に気を付けようがないから襲われないように祈ってて。」

凄く悲しそうな顔のマレフィさんを見て僕は涙を流す。そもそも誰に祈ればいいんだよ?

「なあ遊馬、如何してお前はそんなについてないんだ?」

うるさいよ、好きでこんな風になりたくないっての。

「話はこんな所かな? それじゃあこれからも楽しい異世界ライフを満喫してね。」

彼女はそう言って通信を切った。心なしか顔が悪戯を企む子供の様だったが気のせいだろうか?

僕は先ほどまでディスプレイが浮かんでいた所をじっと見て口を開く。

「どっちにしろ警戒は続けないといけないんだよね? 精神的に参るかも。早くいい人見つけて結婚した方が良いのかな?」

「ここに最優良物件がいる事を忘れるなよ。」

心の底からの嘆きに英雄が合わせてくれる。

「ブロンズ冒険者だから優良かどうかは分からないけど、男前なのは間違いないんだよね。」

「だろ? じゃあ――」

「今は遠慮しておくよ。」

「・・・・そうか。」

そんな馬鹿話をしつつ、またゲームを再開したのだが、運が絡むカードはともかく頭を使うボードゲームでは1勝もさせてくれなくなった。何故だ・・・・


翌日ギルドに向かった僕達は面白そうな依頼を探そうとした所で隣にある目立つ張り紙に気が付いた。


『クルイロー近辺で瘴気の上昇を確認。魔物の狂暴化や、普段とは違う縄張りにいる可能性が有るので十分に注意する事。

既にこの街へと来た商業・傭兵ギルドより怪我人や死傷者が出ているので慢心は止めましょう。』


そう書かれた張り紙を見て僕達は森の依頼をそっとボードに戻す。

「無理はいけないな。」

「とりあえず1週間は基礎訓練だね。この襲われた人ってゾーヤさん達の事かな?」

「たぶんそうだろ。下手したらまだ被害が広がりそうだな。」

僕達が苦虫を噛潰した顔で張り紙を見ていると、後ろからイヴァンさんに声を掛けられた。

「おう2人とも、少しだけ時間を貰っても良いか?」

振り返った僕達は顔を見合わせて頷くと、彼に付いて行き普段とは少し違う個室に入る。中にはアズレトさんとジナイーダさんがいた。

「悪いわね2人とも。実は瘴気の件で何か知らないかと思って呼んだの。もう張り紙は見た?」

そう聞かれたので頷くと、やはり書かれていた被害者はゾーヤさん達だと話してくれた。

「彼女達からも話を聞いたんだが、その時にお前たちの名前が出たんだ。で、現場に近いお前らなら何か変な事に気が付かなかったと思い呼んだわけだが、大精霊と神様の件は聞いているから隠し事は無しで良いぞ。」

アズレトさんがそう言うと、残りの二人も頷く。

英雄から相談したと聞いていたので今更隠す事でもないと思い正直に話す事にした。

「神様の話だと、水精霊の泉付近にある瘴気溜りが事故で開いた事が原因と聞きました。」

僕がそう言うと3人は苦い顔をする。

「やはりあそこが原因か・・・・」

「まあ、近い将来こうなったんだ。戦力が揃っている時で良かったと思おうぜ。」

「調査隊は一度見送った方が良さそうね。解放されたばかりなら少し危険だわ。」

そのまま三者三様に色々と話し合うのだが、戦力だの防衛だの流通だの難しくなってきた事を機に僕達はお暇した。


その時に通信障害の原因はもうわかった事と、マレフィお姉ちゃんの事を報告したのだが、反応は思ったよりもドライだった。

先日ジナイーダさんが原因を瘴気だと断定しなかったのはまだ確認作業中だっただけらしく、マレフィお姉ちゃんに至っては結構この世界に遊びに来ているそうで、この3人も仕事で何度かお世話になったそうだ。


あの女神フットワーク軽すぎだろ。


部屋を後にし、どちらからともなく呟く。

「チートなんて要らないけどさ、僕達のアドバンテージって実質なにも無いんじゃない?」

「・・・・ほら、裸一貫で放り出されてないだけましだと思おうぜ? 前向きに行こう。」

英雄の言に頷いてとりあえずアドリアーナの所へと向かったのだが、先程からすれ違うエルフさんの視線が強い気がする。

『た、助けて。』

英雄にだけ聞こえるように助けを求めると

『ジナイーダさんからも諦める様に言われたんだろ? 耐えろ。』

と素気無く返されてしまった。

そう、彼女からは朝に『ギルドに来た時点で大精霊の事はバレるだろうから、隠すだけ無駄よ。あの種族は大精霊が本当に好きだから。』と言われていた。その時は『少し面倒かな?』ぐらいにしか感じていなかったのだが、英雄からの報告を聞いて焦りを感じ、今は恐怖を感じている。美形共が僕の体を凄く良い笑顔で見ているのだ。一部は舌なめずりしている。


泣きそうになるのを必死で堪え、酒場でコーヒーを飲むがやり辛い。

「ヒデオから聞いてなかったの?」

「聞いてたけどジナイーダさんから『どうしようもない。』って言われていたし、これ見て分かったよ。僕じゃ隠し様が無いって。」

アドリアーナにそう言って溜息を吐くと苦笑される。

「そりゃあそうでしょ。今のアスマがいくら気配を消そうが大精霊の方が強すぎて全く意味が無いもの。今日は知り合いから離れちゃ駄目よ。間違いなく誘拐されるから。」

そう言って彼女は業務に戻って行った。


「英雄、ずっと僕と一緒にいて。」

「うん、凄く嬉しい言葉だし、それは良いんだがな、もう少し場所を変えてくれないと俺は生きて帰れないかもしれない。」

怯える僕が涙目でそっと英雄を見ると、彼は困った風に回りへと視線を巡らせ安堵の溜息を吐く。

今日は優しい先輩方はいない様だ。いないのだがこちらを血眼で凝視している女の子達が居るので明日以降へ持ち越しだと思われる。


「・・・・ごめん。」

「まあ、仕方ないさ。俺もお前みたい狙われたら間違いなく泣くからな。」

そう言って温かな笑顔を向けてくれると同時に、辺りからギリッっと音がしたが、もう僕達は生き残る事に精一杯でそんな事に気を向ける余裕などなくなっていた。


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