第二章.22
遊馬が水浴びをしている方角で突然大きな気配を感じ、エゴールに気を付ける様言うと、俺は急いであいつの下へ駈け出した。
そこで見たのは水の大精霊の腕が彼女の胸へと伸ばされている所で、俺は慌てて名前を読んだ。
「遊馬!!」
あいつと隣に立つプラフィはこちらを振り返るが、俺だけでなく向こうも状況を把握できてないらしい。
仕方ないので成り行きを見守っていると、大精霊が軽く遊馬と抱擁してから透ける様に消えて行ったのだが、遊馬側に消えて行ったのは気のせいだろうか?
辺りを警戒した感じでは俺達意外に気配は無かったので、遊馬のいる所へと近付いて行く。
「問題は無いのか?」
見た感じは大丈夫そうだが、もしもの事を考えて俺は聞いた。
「今の所全く問題ないよ。むしろ良くなったかな? 両腕の痛みがかなり引いてる。」
そう返されたので、俺は安堵共に溜息を吐いて、一応嘘を吐いていないか目で問いかける。
「こんな状況で嘘を言う訳ないだろ。ただ間違いなく分かるのは、彼女は僕の中にいるって事かな。ルル達とは違う所に入った感じがする。」
その言葉を聞き心の中で『やっぱりか』と思う。
今度はどんなトラブルを持ち込んだのか、マレフィさんやイヴァンさん達に確認せねば・・・・
言った本人も厄介事の自覚が有るのか空を見合上げて何か呟いていた。
辺りの安全が改めて確認された事で余裕の出た俺は、その姿を見て溜息を吐く。
彼女は泉へと水浴びに来ていたので勿論裸だ。
目の前では美しい森の中で水浴びをしている美女がいて、その本人は憂いを帯びた風に空を見上げている。この絵になる一枚は実に眼福だ。
遊馬のスタイルは現代で見た時よりもくびれが出来ており、純粋に感心するレベルだ。こちらでしっかりと運動をしている賜物だろう。
無理なダイエットで肋骨が浮き出たりしていないのは非常に好感が持てる。
部屋で着替える時に覗いたりしているので知ってはいたが、筋肉を付ける事で元々形の良い胸はさらに見栄えが良くなり、水中に有るのでしっかりとは見えないが、腰回りは最後に見た時よりも丸みを帯びていて、より女性らしさを感じさせた。
俺の視線に気が付いたのか、遊馬は自分を見下ろして原因に気が付き、呆れて溜息を吐く。
俺達があと5年ぐらい若かったらここで可愛い悲鳴を上げてくれたりするんだろうが、そこは大人の余裕を見せてくれるので問題ない。むしろこっちの方が良い。
「お前が相手だとさ、裸を見られるよりも下着を見られる方が恥ずかしいから今更気にはしないけど・・・・もう少し下心を持った顔をしたら?」
「いや、すまん。最後にしっかり見たのって向こうで風呂に入った時だろ? あの時と比べて本当に綺麗になったから純粋に見入ってた。」
俺がそう言うと、遊馬は少し頬を染めて恥ずかしそうにそっぽを向く。
その仕草が可愛くて俺の中では下卑た欲望が鎌首をもたげる。
このまま押し倒したいな。
「真顔で言うなよ。女歴3ヵ月じゃ反応に困るだろ。というか早く向こう向け。着替えるから。」
そう言ってジト目でこちらを見ながら手ブラをする。
こいつ本当に男の喜ばし方を良く分かってるな。
「マレフィさんに連絡しておくから、早く来いよ。」
俺はそう言い残して後ろを向き、遠くにいるエゴールに腕を上げて問題ない事を知らせる。この距離では見えないので、通信用魔道具を出し連絡をするのだが、珍しく留守電となり連絡を取ることは出来なかった。
(どうしたんだ? 今更遊馬の着替えを覗くって事も無いだろうし・・・・まさか本当に厄介事か?)
影で着替えている遊馬の方を一度だけ振り返り、頭を振って暗い考えを追い払う。
「まあ、なる様になるか。」
俺は自分に言い聞かせるように呟くと歩き出した。
それから3日、あの後テントを片付けた俺達は問題無く泉を出発し、たまに現れる魔物を相手にしながらゆっくりと帰路についている。
エゴールが離れた時に何度かマレフィさんへ連絡を取ろうとしたのだが、遊馬が電話を掛けても繋がらず、いよいよ不味くなってきたのだが、俺達にはどうしようもないので放置している。無力は辛いぜ。
天気も荒れる事無く、平和な道のりを進んでいるのだが、この旅もようやく終わりを迎えようとしていた。
「おーい、街の防壁が見えたぞー。」
俺が荷台で休む2人に間延びした声を掛けると、エゴールは読んでいた本から顔を上げて軽く伸びをし、寝ていた遊馬は起きなかった。ルルとチチリは馬車に並走しているので戻ってもらう。
街へ入る順番待ちの列へと並び、眠っている遊馬を揺らして起こす。
その後借りていた馬車を返した俺達は冒険者ギルドへ報告に行こうとしたのだが、そこで遊馬が額に手を当てて少しボーっとしながら言う。
「2人ともごめん、僕だけ宿に行っても良いかな? ちょっと熱っぽいかも。」
実際そう言うこいつの目には力が無く、顔もほのかに赤かったで俺も軽く手を置いたのだが、確かに熱い。
「わかった。フロウ出て来てくれ。」
俺の声に反応して可愛い弟分が出てくる。こういう時安心して任せられる相手がいるのは本当に助かる。
「遊馬を連れて先にマルコヴナさんの所で部屋を取っておいてくれ。俺も報告を済ませたらすぐに戻る。」
「分かりました。もし何かあったらルルを向かわせます。」
そう言ってフロウは遊馬を背負って襲撃され難い人通りの多い道を歩いて行った。
「大丈夫でしょうか?」
「長旅の疲れが出たんじゃないか? 大精霊と戦った時に、仕方がないとは言え後の事を考えずに動いたからその反動だろう。さあ、とにかく報告に行こうぜ。」
俺がそう言うと彼も頷き、俺達はギルドへと向かうのだった。
「なるほどな、そりゃあ調査隊を送った方が良いかもしれねえな。」
「それについてはこちらで対応するから、そっちはしっかりと休みなさい。お疲れさま。」
俺達は報告する際にイヴァンさんとジナイーダさんを呼んでもらい、大精霊の件を相談しておいた。
2人からそう言われると、俺はまだ報告する事が有ると言いエゴールを先に返した。
「場所を変えるか?」
少し目つきの鋭くなったイヴァンさんに頷き、個室へと移動する。
「それで、一体どうしたの?」
ジナイーダさんが促してくれたので、俺は迷わずに答える。
「さっきも言った通り遊馬が体調を崩したんですが、もしかしたら大精霊が関係しているかもしれないんです。」
その言葉に2人の目つきが鋭くなる。
「どういう事だ? 毒か呪いの類を受けたのか?」
イヴァンさんの問いに俺は上手く答えられずに唸る。
「精霊を撃退した次の日なんですけど、その大精霊が遊馬に接触したんです。あいつは『大精霊が自分の中にいる。』と言っていました。それが原因で調子を崩したのではないかと思いまして・・・・というか連れて帰って来た時点で厄介事の匂いがしたので報告しました。」
俺が後半げんなりして言うと、イヴァンさんに苦笑され、ジナイーダさんは額に手を当てて、あからさまな溜息を吐いた。やはり良くなかった・・・・
「アスマは宿にいるのよね? 後で私が確認に行くわ。それまでは大人しくさせておいて頂戴。他に何か報告はある?」
2人共もうないと思ったのだろう、言いながら席を立とうとするが、俺はもう一個爆弾を投下した。
「あー・・・実はもう1つありまして、俺と遊馬なんですが、神様と通信ができる魔道具を持っているんですよ。それで、この事を聞こうと思ってもここ3日ほど連絡が取れないんですが、通信を妨害する理由を何かご存じありませんか?」
俺がそう言うと2人は顔を見合わせて険しい顔をした。やはり神様関連は拙かったか。
「その神様が前から言っていた知り合いか?」
イヴァンさんの確認に俺は首を縦に振る。
「安心しなさい、それなら心当たりがあるわ。」
ジナイーダさんの解答に俺は驚く。
「それも含めて後で話すから、とりあえず今日は貴方も休みなさい。」
すぐに話してくれないので大事なのかと俺は戸惑う。
「もう少ししたらギルドメンバー全員に通達が行く話で、今の状況だとどうなるか何とも言えないだけだから、そんなに身構えるな。」
苦笑しながら言うイヴァンさんの言葉を聞いて俺は溜息を吐く。
「わかりました。とりあえず俺は宿に戻ります。たぶん寝てると思うんで、鍵はマルコヴナさん言ってください。」
俺はそう言って立ち上がり2人へ挨拶をして部屋を後にした。
「おう、お帰り。アスマが先に帰って来て部屋を取ってるぞ。場所は前と同じだ。」
マルコヴナさんはそう言って鍵を渡してくれる。
「スペアの鍵だから早めに返しに来いよ。」
マスターキーが有るとはいえ、いつまでもスペアキーを預かるのは怖いので早めに返そう。
俺はこの後にジナイーダさんが来ることを告げると、部屋に入って荷物をおろし、ベッドで熟睡する遊馬の下へと歩く。
隣で椅子に座るプラフィがタオルを氷水に漬けて絞ると、遊馬の額に置いた。
「お帰りなさいませ、英雄様。」
「ああ、ただいま。とりあえずジナイーダさんに大精霊の話をしてきた。後で確認に来てくれるらしい。」
俺がそう言うとプラフィは頷いた。
「それでは、主様は我々が見ておりますので、英雄様もお休みください。お湯の準備も出来ていますよ。」
「そうだな、さすがに疲れた。風呂入って寝るか。」
俺は深呼吸をして肩の力を抜くと着替えを取り出して風呂場へと向かう。
とりあえず俺も休もう。このまま気を張り詰めてたら、今度は俺がダウンしちまう。それはそれで看病イベントが楽しみだが、ここだと出るのは手料理じゃなさそうだ。楽しみは先に取っておこう。
そう馬鹿な事を考えて、俺は思考を休日に切り替えた。




