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第二章.20

エゴールが僕にだけ聞こえる様助言をくれると、急いで邪魔にならない様に森の中へ下がった。

『マイティフォース!!』

『リジェネレイト!!』

『アクアコート!!』

『サンダーエンチャント!!』

戦闘に意識を切り替えると一呼吸し、向かってくる大精霊の射程へ捕らえられる前に全員へ補助魔法を使う。

『リジェネレイト』は自然治癒力を高めて徐々に傷を癒し『アクアコート』は水魔法に対する耐性を上げるもので『サンダーエンチャント』は武器に雷を纏わせる。

英雄は各属性の魔法剣が使え、フロウは自身が雷に適性が有るので必要ないのだが、任意に消せるし上書きできるので問題は無い。どちらかと言えば、ルルとチチリ用に使ったものだ。水を司る相手なので純水にされると困るが、無いよりマシ程度に考えよう。

泥水が電気を通すかは知らないが学の無い人間なので気にしない。

英雄とフロウが礼を言い、全身が泥色になった水の大精霊が陸地に上がったと同時に走り出す。

「死ぬなよ!!」

「刺し違えるさ!!」

「姉さんは前に出過ぎるなよ!!」

僕の言葉に2人が返事を返し、その横をルルとチチリが駆け抜けた。

こちらの人型は牽制を動物に任せる事で一撃の威力を重視している。

人や魔物が相手なら、最初に手か足を斬る事で勝機を一気に上げるが、相手は精霊なので油断はできない。


マネキンの様に表情が無い彼女へ右側から紫電を身体に纏わせたルルが襲い掛る。

真っ直ぐに突き出された槍が背中を掠め、穂先に体を少し斬られるが、勢いを殺さず間合いの内へ入ると、そのまま左足に噛み付く事で少しでも機動力を奪う。


人相手なら本来武器では無い爪でも皮膚を裂けるのだが水が相手ではそうも行かず、牙を使おうにも口が塞がれるので非常に相性が悪い。その為に雷を付与したのだが大成功の様だ。

大精霊は一瞬だが動きを止め、パチパチと体に良くなさそうな高い音が辺りに響き渡る。

硬直が解け、持ち直すと同時に足元のルルへと拳大の水球を何発も打ち込み、慌てて離れるルルに1発が刺さった。苦悶の声を上げながら吹き飛ばされるルルに追撃を掛けようとした所でチチリが右肩に爪を立てて気を散らす。

だが初撃こそ受けたがそれ以降は水弾と槍捌きで接近を許さない。

「おおっ!!」

側面から近付いたフロウが声を上げて戦斧を突き込み、柄で往なされ、引き戻す際に斧部分で腕を引っ掛けようとする。

『――――!!』

「ぐぁっ!?」

大精霊が僕らの耳では聞き取れない声を上げ、丸太の様な水の棒をフロウの腹部へと捻じ込み吹き飛ばす。

「フロウ!!」

「大丈夫だ!!」

地面へと転がる彼へ声を掛けると、左手で腹部を擦りながら立ち上がり、息を整えて武器を握り直してまた駆け出す。

「チッ早い・・・・」

英雄が発した焦りを含んだ声に反応して顔を向けると、振り下ろしたバスターソードを後ろへと滑る事で楽々と躱し、リーチの外から穂先で的確に迎撃されている姿を捉えた。

一撃逸らす度に少しずつ切傷が増えていく。

そこへ背後から傷の癒えたルルが右足へと噛み付く事で隙を作り、一度距離を取る。

ようやく息を整えて、追い付いたフロウと足並みを揃える。

「剣術三倍段か・・・・いざ実戦で経験すると洒落にならねえな。」

「ギルドの皆さんは元々格上ですし、飽く迄訓練でしたからね。」

英雄が冷や汗を拭って相手を睨みつけ、僕が近付いて来たと同時に言う。

「遊馬、やっぱりあいつおかしいぜ。俺がまだ生きてる(・・・・・・・・)。」

「うん、始める前にエゴールの言った通り変だね。明らかに圧力が熊より弱い。プラフィの話だと暴走の原因は『瘴気』って言うらしいけど弱体化したのも同じかな? 解決方法は知らないみたい。」

確かに圧力は強い。だが怒ったレッドベアや指導中のイヴァンさん達程では無いのだ。

僕らは最初、力をセーブしているのかと思っていたが、この様子では違うのかもしれないと思い始める。


大精霊とは各属性事に1体だけ存在する、精霊達のまとめ役である。つまりその戦闘力は現在の僕らでは到底及ばない。

それでも斬り合った彼らが生きているのだから、かなりの勢いで弱っている。

エゴールは最初に魔力を感じた段階で明らかな異変を感じ、それを僕に伝えてから避難していた。

もし本調子であればルルとフロウは受けた水魔法で、チチリと英雄は槍で殺されていたはずだ。

だが、弱っていながら最も実力の高いフロウでさえ引かせる相手に、実戦経験があるとはいえ基礎段階の白帯2人では話にならない。

数で勝っているからこそ勝機が有るのだが、気を抜けば死ぬ。危機に変わりは無いのだ。


「瘴気だの何だのそっちについては終わってからマレフィさんに聞くとしよう。まずは生き残るぞ。奇跡的に可能性は0じゃない。」

「そうですね。俺が最初に仕掛けますから、2人は追撃をお願いします。」

「わかった、気を付けてね。」

3人で頷き、必死に押さえてくれているルルとチチリを見る。

「本当に優秀な奴等だな、流石フロウの先輩達だ。」

「頭が上がりませんね・・・・」

軽口をたたいて苦笑しながらタイミングを計り体に力を入れる。

「あ、ねえねえ英雄。これってもしかしてこの前話した奇跡との遭遇なのかな?」

「そうかもな。お前と一緒だと本当に退屈しなくて済むよ・・・・行くぞ!!」

彼の言葉を皮切りに3人で駈け出す。

大精霊に押されだしたルルとチチリを救う為、フロウが戦斧を足元に付き込み、バランスを崩した所へ英雄が大剣を振り下ろす。

英雄達の邪魔にならない様距離を開けて進み、射線上から仲間が退避した事を確認すると僕も攻撃魔法を叩き込む。

『サンダーウェーブ!!』

突き出した右手から3本の光が三角形の頂点を描く様に伸び、その中に大精霊を捉える。

「いっけえええええええええっ!!」

雄叫びと共に魔力を一気に供給し、伸ばした光線内に幾重もの雷が走り周り、辺りを轟音と閃光が包み込む。

視界が開け相手を見ると、片膝を着いた姿が確認できた。

それと同時に下がりながら、魔力に耐え切れずズタズタになった右腕に回復魔法を使う。


安全性を捨て、プラフィの補助が無ければふらつく程の量を込めたのだ。これでノーダメージなら凹むが賭けには勝った。


先に回復していたフロウが大精霊へと戦斧を振り下ろし思いっ切り背中を抉る。

「クソッまだ倒れないのか!?」

背中を大きく斬られながらも立ち上がり体勢を立て直そうとした姿を見てフロウが悪態を吐く。

『サンダーアロー!!』

完全に復帰する前に、雷で作られた矢が胸を穿つ。

「しぶといっての!!」

苦悶の表情を浮かべるがまだ足りない。自分の火力が足りない事を見せ付けられ心底嫌になる。

「これで!!」

英雄がバスターソードに雷魔法を重ね掛けして踏み込み、泣き別れさせる勢いで袈裟に斬る。

それに合わせてフロウも背中へと突き込む。

刃が体内で止まり、完全に切り裂くことは出来なかったが、傍から見ると致命的な2撃だ。それを受けて精霊は顔を上げ、纏う空気を変えた。

『――!! ――!!』

大精霊が何かを叫び、それと同時に全員へと恐怖が走る。

「2人共離れて!!」

僕の警告に従い、それぞれが武器を手放し距離を取ろうとするが、それよりも早く大精霊が槍を地面へと突き刺し、それに向かって魔力が注ぎ込まれ、彼女を中心として水のドームが外へ向かって水球の様に勢い良く押し出される。


直撃を受けて吹き飛ばされた2人を見て呆然となった所に、中からサポートしてくれていたプラフィが叫ぶ。

『主様、お下がりください!!』

水壁は離れていた僕の所まで届こうとしていたのだ。

バックステップするとプラフィが魔力による障壁を張り、自分でも作る事で2枚重ねにし、そこへ水が叩きつけられ防壁を破られ吹き飛ばされる。

だが衝撃を感じただけでダメージは無い。彼女が魔力を全て障壁に回してくれたのだ。

『助かったよ!!』

『っく、私はここまでです。お気を付け下さい・・・・』

その言葉を最後に僕の体が少し重くなる。

プラフィが気を失った事でリンクによる僕に対する支援が切れたのだ。

辺りを見回して倒れた2人を確認する。

チチリが近くを飛んでいるが、僕の中に帰ってくるまで複雑な意思疎通は難しいので安否は分からない。

ルルは大精霊を挟んだ反対側で無事だ。いつでも飛び掛かる準備をしている。

絶望的な状況だが1つだけ救いが有った。

スタイルの良い女性型だったが、今では体を保てないのか所々が崩れている。

(あと一息か? 男連中がいないのはキツイが、何とかしな――クソッ!!)

大精霊は僕と目が合うと槍を構えて一直線に進んできたのだ。

こちらが近接戦を苦手にしていると思ったのか、残りの中で一番倒し易い判断されたのかは分からないが、これは非常に拙い。

「水か、イメージは乙女とか清純派だけどさ・・・・」

すぅっと息を吸い、自分自身に活を入れる。

「来やがれビッチが!! 相手になってやる!!」

一気に叫びきると左半身になり両の手は拳を握り、左手は顎の高さに挙げ右手はへその当たりで構え、深呼吸をする。

ショートソードでは無理だ。今までの攻防を見るに、自分では絶対に捌き切れない。

思い出すのはフロウと友人からてから教えてもらった打撃技に英雄との訓練で培った度胸。

間合いを考えれば圧倒的に不利で狂気の所業だが、僕は一人で戦っているのではない。

向かって来る彼女の後ろからルルが走り、チチリはいつでも飛び掛かれる様に準備をしている。

こちらが如何にも何かを狙っている体勢をしているのだ、理性は無くても知性が有るのか、大精霊は走りながら数発の水球と、フロウを吹き飛ばした丸太の様な水弾を飛ばしてくる。

「なめるな!!」

そう叫ぶと、飛来する攻撃に雷魔法をぶつけて相殺する。丸太はやはり威力が高く、数発を当てて漸く消滅した。

追撃がない事を確認すると四肢に強く雷を纏う。

これは英雄の魔法剣を参考にしたものだ。

僕は元々攻撃魔法に対して適性が無いので、距離が開くと弱い攻撃はさらに威力が減衰する。

それを補う為に距離を詰めて使っていたのだが、これはそれをゼロ距離で使うロマン技だ。

もしも実戦で使う時は、良くて組み付かれた時、悪くて進退窮まり死ぬ直前だと皆で話している。


間違いなく今がその時だろう。


もっと魔力に余裕が有れば中距離で戦えるのに、近接戦に適性が有れば活路が開けるのにと『もし』の事が色々と頭を駆け抜けるが、現実はそうじゃない。

だからこそ覚悟が出来る。

僕は凡人だ。お話に出てくるような勇者でもなければ賢者でもない。だから、今から5分間だけ勇敢であろう。

そう考えると覚悟を決めた。


あと数歩で自分は槍の間合いに入るだろう。それで良い。

そこに全てを賭ける。その為に勇敢になる。

これで全てを終わらせて、倒れた二人を治して、隠れたエゴールと合流して、美味しい物を作って、出鱈目だったと笑いながら酒を飲もう。


流れるように槍が真っ直ぐに繰り出される。

剣で対応しようと思わなくて本当に良かった。

早過ぎて、使っていたら何も出来ない内に腕を突かれただろう。

迫る穂先に陽の光が反射し美しく光る。

僕を守る為に飛んで来たチチリを目掛け、大精霊から迎撃の為に水球が撃ち出されるが、それは僕の放った雷撃で止める。

「チチリ柄だ!! ルル来い!!」

僕がそう叫ぶと、進行方向を変えて全力で柄に体当たりを仕掛け、狙いをずらす。

だが完全には逸れない。

背後に迫ったルルが大精霊の脇を抜けて僕へと飛び掛かり1つになる。

身体が軽くなり、ギリギリまで減った魔力が満ちていく。それを全て両腕に纏う電撃に込める事で威力を上げる。

「オオオオオオオオォ!!」

雄叫びを上げながら踏み込み、同時に左腕を下へと回し柄を打って完全に逸らせる。少し横腹を斬ったがまだ動ける。

痛みはあるが我慢できた。

意識がハイになっていなかったら泣いていただろう。

チチリがいなかったら傷がもっと深くなり駄目だったかもしれない。


全てが重なり何とか届いた。


腕から走った電気が槍を伝い、大精霊が一瞬動きを止める

それを見逃さず添えられていた左手首を右手で掴み、一気に雷撃を送り込みながら腕を持ち上げてさらに踏み込む。

表情を苦悶に染めながら、逃げる為に下がろうとした背中へチチリが飛び込み、離脱を許さない。

『良くやった。』そう考えて、左手で貫手の形を作り右胸に向かって突き込む。

その手には人肌程度であれば簡単に切り裂くであろう鋭い爪が生えていた。


何てことは無い、これはルルの爪だ。


切っ掛けは本当にふとした事で、耳や尻尾以外にも同化できる場所が無いかと考えたのが始まりである。

最初こそ少し手間が必要だったのだが、ここに来るまでには問題ないレベルまで慣れていた。

(最初から出来た部分は、あの時マレフィお姉ちゃんに弄ばれたのが原因だろうな・・・・でも、今は感謝してる。こいつを倒す武器になった。)


紫電を纏いながら鋭利に尖った貫手で右胸を貫きながら心の中で苦笑する。

激痛に暴れる大精霊を必死に押さえ、二の腕まで胸に埋めると抜けない様に肘を曲げて首の後ろ側を掴み、爪を突き立て左腕全体に電気を流す。

腕を押さえていた右手を放し爪へと変質させ、彼女の左腋腹に指を突き立て自分の体を寄せる。

暴れ出す精霊を密着させた身体全体で押さえ、鋭い牙を生やすと、両足に纏う雷を両腕と牙へ送った。

「ウァァァァァァァァ!!」

叫び声を上げ、最後の力を振り絞って、彼女の喉へと噛み付く。

開いた右手は槍を捨て、何度も無防備な僕の横腹を殴りつける。

背中には水魔法が叩きつけられ、意識が飛びそうになった。

だが決して放しはしない。

「ふぃふぃり!! (チチリ!!)」

呼び掛けに答えたチチリを身体の中へと回収し、その魔力を全て牙へと乗せる。


(死ねえええええええええええええええッ!!)

『――――――――――――――――――!!』


勢いよく顔を離す事で喉を食い千切り、辺り一面に声にならない悲鳴が響き渡った。


泥色の大精霊から色が抜けて行き、徐々にその身体を泉と同じ美しい水の色へと変えていく。

それと同時に、彼女から感じる力が今までとは桁はずれに上がって行き、腕に纏った紫電を完全に無効化され全身を冷や汗が流れる。

唯一の救いは、敵意を感じない事だろう。今の彼女からそれをぶつけられていたら、恐怖だけで死ぬ事が確信できる程に格が違う。


大精霊は僕からゆっくりと体を離して腕を引き抜き、こちらへ申し訳なさそうに頭を下げ、顔を上げると微笑みを向けながら消えて行った。


「や、やったの?」

僕が恐怖で震えながら呟くと、チチリが現れて辺りを軽く飛び回り、また中へと戻って行く。辺りに敵意を持つ者はいないらしい。どうやら終わった様だ。

膝が笑いっぱなしで動けなく、そのまま後ろにゆっくりと倒れる。

「は、はははは。6対1でギリギリか。洒落にならないや・・・・」

乾いた笑いを浮かべ、生きていた事を純粋に喜ぶ。

「あれは無理だよ。」

深く息を吐いて上体を起こし、ぼんやりと前を見る。


目の前に広がる泉は生の充足を感じた所為か、とても美しく輝いて見えた。


『剣術三倍段』

 ・剣は槍に比べて短いので、互角に戦う為には相手より3倍高い段位が必要という考え。


『5分間だけ勇敢であろう。』

 ・第40代アメリカ大統領 ロナルド・レーガン

 ・ラルフ・ワルド・エマーソン

 上記2名の言葉を参考にしました。


名言に付いては使い方や言い方など様々な意見が有ると思いますが、これを聞いた遊馬はこのように受け取ったと考えてください。

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