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第二章.18

街を出てから早二日、広がる青空となだらかに隆起した平原を1台の馬車が進んで行く。

御者席にエゴールが、英雄は荷台に座っている。

依頼人である彼に御者をさせている理由は簡単で、荷台が幌などの付いているものではない事と、緊急の際すぐに護衛の者が行動出来る様にする為だ。(予算が有るならここで御者を雇う。)

それに乗る男2人を他所に、僕は自身の背中から生やしたチチリの羽で優雅な空の旅を楽しんでいた。

本職ではないのだが、今は僕が周囲の警戒を行っている。

最初こそ飛ぶ事に苦労したものの、これまでに受けた依頼の合間に練習していたお蔭で今は自由に飛び回れる。空の旅はとても気持ち良い。

チチリとルルに頼まず、態々自分で索敵に向かったのは空の味を占めた事が理由だ。

チチリは自分の羽を使ってもらえてご機嫌だが、ルルが少しだけしょんぼりしていたので、この後は予定通り彼らに任せよう。

「おーい、このまま街道を真っ直ぐ行った先に、休憩地点を見つけたよー。」

目的地を見つけた僕は、2人に声を掛けながら馬車の荷台にゆっくりと降り立つ。

街同士を結ぶ街道には、所々で小屋が立っている。場所によっては有人の施設もあるが、今回は無人である。

「腹も減って来たし丁度良かったぜ。」

「私もそろそろお尻が痛くなってきたので助かります。」

彼らの言葉に苦笑すると僕は羽を仕舞い、辺りの警戒をルルとチチリに頼んで荷台に腰掛けた。ルルがとても楽しそうに走って行ったのが印象的である。帰って来るよね?

「これだけ広大なドッグランだから運動不足にはならないだろうな。」

「広大過ぎるでしょ? 規格がアメリカサイズだよ。」

大型犬と散歩するのは楽しそうだが僕では間違いなく引き摺られる。辺りが平原で本当に良かった。

「今日の夕飯にまた何か獲って来てくれるんでしょうか? アスマさんの料理は美味しいので楽しみですねぇ。」

エゴールが笑いながらルルの走って行った方角を見る。

打ち合わせの段階で決めていたのだが、男手は料理が出来ないので食の担当は全て僕になっていた。

古来より食は士気に直結する問題なので疎かには出来ない。

と言うか僕自身美味しい物が食べたいし、料理は好きなので久しぶりに調理器具が触れる事から譲らなかったのである。

そのおかげでエゴールの胃袋をがっちりと掴まえる事に成功した。

英雄は元から掴まえているので問題ないが、彼から『食材が違ってもまたこの味が食べられるって感動だな。』と言われた時は少し胸が熱くなった。出先なので簡単ではあるが、しっかりと腕を振るった甲斐が有る。

態々ヤナギの調味料を探しに出たのはやはり正解だったと2人でしみじみと感じたのが昨日の事だ。

「あの施設に厨房が有るなら、もう少し本格的に作って良いかもね。材料の関係的にルルの成果次第だけど。」

「生鮮食品は仕方がないが、他は大事に使えよな。盛大にやるのは帰り道にしようぜ。」

「そうですね、遺跡の調査次第では期間が延びますから、その時に食材が足りないと悲しい保存食生活になってしまいます・・・・」

不味い訳では無いのだが、手料理に比べると数段味の落ちる携帯食糧の事を考えると、3人で苦笑しながら街道を進んで行った。



建物が見えた辺りでルルとチチリが合流し、とりあえず撫で回す。

成果はレイルラビットを1匹ずつ捕まえて来たので、食事は少しだけ贅沢に行けそうだ。うむ、良くやった。

「ん? どうやら先客がいるみたいだな。」

英雄が目的地を見て声を出す。

「本当だ。僕が見た時は誰もいなかったから、その後に来たんだろうね。」

撫でるのを止めて正面を向くと、建物の庭に3台の馬車が止まっていた。

「ふむ、遠目なので確証は有りませんが、どうやら商業ギルドと護衛の方々みたいですね。しかし・・・・なんだか様子がおかしくありませんか?」

僕らは顔を見合わせて目を凝らしてみようとした所で、向こうもこちらに気が付いたのだろう、彼らは遠距離間の連絡に使う発光信号を出してきた。出された色を見て僕達に電気が走る。

「2人とも!!」

「ああ!!」

「急ぎましょう!!」

発光信号には所属する勢力により様々なパターンや意味があるのだが、今回使われた物はそのどれでもなく、全ての組織が共通して使う非常時用・・・・のものであった。

意味は『怪我人有り・救助求む・命に係わる情報あり。』だ。

こちらも専用の魔道具を使い『初級の回復魔法有り』

と返事を返し馬車を急がせる。


「大丈夫ですか!?」

休憩用の建物に着いた僕らはすぐに馬車を降り、迎えてくれた人による案内で全体に指示を出している女性の下に向かう。恐らく隊商の責任者だろう。

ルルの鼻によるとかなりの血の臭いが濃いらしい。チチリに空から確認させたのだが、やはり罠の可能性は低そうだ。

英雄の声に反応した彼女はこちらを見て口早に自己紹介をする。

「私はゾーヤと申します。クルイローへ行商に向かおうとしていた商業ギルドの者です。」

「初めまして私はヒデオと申します。彼女は同じ冒険者ギルドの者で、今回は魔術師ギルドである彼の護衛で通りかかった所です。」

僕達4人は示し合せた様に首から下げたプレートをそれぞれ見せ合う。

切羽詰った状況からお互いに敵ではないと確信し合い、ゾーヤさんが僕らの後ろにそっと目配せをする事で近寄っていた人たちが離れる。

これで盗賊の類で合ったら悲惨だからだ。もし救助に化けている者ならこの場で斬るのが普通だ。悪い事はいけない。

ふっと一息ついた彼女が早速本題を切り出す。

「信号によると回復魔法を使える方がいるという事でしたが、ご協力いただいてもよろしいでしょうか?」

声にはかなりの悲壮感があり、それを聞いて2人が僕の方見るので僕が頷いて返すと、彼女は怪我人がいる所まで案内してくれた。


「これは!?」

エゴールが驚きの声を上げる。正直言って誰かが言わないのであれば僕が言っていただろう。事実その光景を見て息を呑んだのだ。

そこには数人の者達が血の滲んだ包帯を巻いて転がっていた。辺りを別の者達が応急処置の為に走り回っている。

だが怪我人を見回して僕は安堵で軽く息を吐く。

どうやら四肢を欠損した者や、重要器官を負傷した者はいなそうだ。傷は深いがこれなら何とかできる。

「皆さん、私は回復魔法使いです! これから皆さんを治療しますので症状の軽い歩ける方からこちらに並んでください!!」

こちらの声を聞いて手当に当たっていたスタッフや傷を負った者達に明らかな安堵の色が広がる。今回は1番魔力を使わずに治せ、治った後すぐに戦えるものから治す。

この時の判断で恨まれる事もあるが、力には責任が伴う。

僕の切り捨てる判断で大が助かるのなら甘んじて罵倒を受けるつもりだ。それがヒーラーの仕事でもある。

軽傷を負った者達を次々と治して行き、それが終わると次は動けないほどの深い傷を負った者達の番だ。

最初に飛ばした指示に従って他のスタッフが順位付けをしてくれていたので遅滞なく動けたのは非常に助かった。

動けない者の隣で膝立ちになり、体に直接触れる事でしっかりと魔力を流し込む事で傷を癒していく。

僕の腕では1人1人に対して時間が掛るので、その間に助かった人達が残りの人に声を掛けて励ましている。

それを数度繰り返し、何とか全員を捌き切った僕は重い身体を引き摺り、片付けの邪魔にならない所まで進むとそのまま仰向けに倒れ込んだ。

「つ、疲れた・・・・」

目を瞑り肩で息をしながら、何度も深呼吸を繰り返す。

「お疲れさん。ほれ。」

息が整ってきたところで腕を引っ張り体を起こしてくれた英雄から冷えた飲み物を貰い、改めて患者達を見回すと、仲間同士で涙を浮かべながら軽く抱き合っている。致命傷は無くても血を失い過ぎた事で危なかった者が多かったのでこの結果は完璧だろう。我ながら良い仕事をした。それを見て、僕も目頭が熱くなる。

最初に手当を行っていた者達から味に定評おいしくないのある飲み薬を渡されて皆が固まったことを確認すると、僕は暫く絶対安静にする事と言い、ゾーヤさんへ報告する為立ち上がった。

皆が口々に何度もお礼を行って来るのがくすぐったい。

その時に英雄が『ゾーヤさんに報告して来るから、口説くのなら後にしてくれ。』と茶化してくれなければ、もう少し動けなかっただろう。

笑って手を振る彼らにこちらも振り返す事でその場は収まった。


「仲間たちを助けて頂いて本当に有り難う御座います。」

深々と頭を下げるゾーヤさんを見て改めて全員を助けた事の実感が湧いてくる。

「気にしないで下さい。それよりもいったい何があったんですか?」

僕がそう聞くと彼女は頭を上げてその時の事を教えてくれた。

「実はここに来る少し前に魔物の群れに襲われたのです。ランク自体は低い相手だったのですが、数が多かった事と何度も別の集団に襲撃される事でここまで被害が拡大してしまいました。持っていた回復薬ポーションを全て使ってから被害が少しずつ蓄積してしまいここまでの損害となったのです。」

何名か亡くなった者達が居ると言って彼女は辛そうに視線を逸らす。

護衛の数が多かった為ゴブリンやコボルトの集団までなら良かったのだが、そこにタスクボアの様な突破力のある魔物が乱入、前衛を抜かれて後衛に被害が出てしまい、その時に回復魔法使いが死んでしまった事が拙かったようだ。

彼女が発光信号で伝えたかった情報もこの魔物の事についてだった。

ほんの少し何かが違えばここに転がるのは自分達である。こういった情報はかなり重要なのだ。

その後ゾーヤさんと別れて、護衛をまとめていた傭兵ギルドの者に話を聞くと『食糧が足りなくなったか、少し強めの魔物が縄張りに入り逃げて来たのではないか。』と言われた。

これに関しては僕達3人も同じ考えである。今回の様な事は偶にあり、出会った奴は運が悪いと言われるが、無くは無いのだ。

神に攫われ熊に襲われている僕達からしたら普通にあり得る事だと考えている。


話を聞き終えると、僕達も休憩する事にした。もう限界です。

休憩施設の1ヵ所を借りて料理しながら僕らは溜息を吐く。

「この調子で行けば生きているうちに奇跡だって拝めそうだな。」

「死の淵から生還した以上の奇跡? 勘弁してよ・・・・」

テーブルを拭いているエゴールに聞かれると不味いので言ってはいないが、そもそも神との遭遇すら果たしたのだ。もはや確率など信じられない。

ちなみにそのエゴールだが、最悪の場合は不運を招いて戦闘に巻き込まれる事をしっかりと説明しておいたので実はバッグの中に攻撃用道具を詰めている。

全力で守るが、もしもの時は何とか生き残って欲しいものだ。


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