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第二章.12

プラフィ達の登録から3日、2人は今初心者講習を受けている。午前中に講習を受けて、午後からフロウは訓練中の英雄と合流して一緒に頑張っている。プラフィは僕の手伝いだ。ちなみに僕はと言うと

「いらっしゃいませ。」

ギルド併設の酒場でウェイターをしていた。

ん?ウェイトレスではないのかって? 仕事を依頼してきたアズレトさん、英雄、僕の意見で迷わずパンツスタイルにしたのだ。こんな所でスカートを穿いたらその日の内に剥がれるのが目に見えている。黒のズボンとベストに白のシャツという至って普通の格好なのだが、お客様には大変人気を博した。特に年下の女の子から・・・・

まあ格好が男なだけで、ウェイトレスなのは間違いないんだけどね。

「アスマさん、これ6番テーブルに運んでください!」

「はいはい・・・・あー獣人さんか。警戒して行かなきゃ。」

料理を目的地まで運ぶ事でも僕にとってはかなりの訓練だったりする。何故なら、さりげなく尻タッチをされるからだ。

最初の内は男女問わず(何故だ?)下卑た視線を送られていたのだが、僕が男時代・・・に培ったおさわり回避スキルを遺憾無く発揮していると、だんだんと相手側も燃え上ってきてしまい、今では獲物を狙う肉食獣の目つきになってしまっている。これが結構怖いのだが、以前誘拐未遂が有った時に別のお客さん達が協力して制裁してくれたので、最悪の事態には陥らないだろうと思っている。犯人の敗因は僕を捕える時に紐での結び方に拘り過ぎたのが原因だった。簀巻きでは無くボディラインを強調するように結ぼうとして手間取ったのである。そいつはある意味英雄視されながら訓練所でボロ布と化した。動けなくなった姿があまりに哀れだったので『まあ、熱意は認めるよ。次、別の事に頑張れ。』と声を掛け、最低限の回復魔法を掛けてあげたのだが、周りから『男前な聖女』の称号を頂いた。いらんわ。

1番の脅威は獣人で、実は2位が魔族だ。プラフィによると心の美しさに集まってくるらしい。その時彼女に『他の魔族に盗られるのは少し嫉妬心が湧きますね。』と苦笑していたのが可愛くて、つい抱き締めてしまったのは内緒だ。少し慌てる彼女に嗜虐心が湧きました。すべすべの翼が最高で、機会が有ったらまた撫でたいな。


僕らは朝仕事を覗いて、夕方まで帰って来ないから知らなかったのだが、この酒場、かなりの客入りだった。何故もっと人を雇わないのか疑問でならない。先輩の女の子達やマスター(茶目っ気のあるオジサマ)は僕とプラフィが来てからだと言うが、そこまで自惚れてはいない。プラフィのエロさに惹かれて来たのだろう。僕が女だから嫉妬しない様に気を使ってくれているのだと思う。


勤務時間は英雄達が訓練を終える夕方までなので、フルタイムの仕事だ。集客効果で日給が予定していたより高くなったのは有難い。最も貢献しているであろうプラフィに取り分やお礼の話をしたら『主様の体が出来上がってからで構いませんので精気を頂きたいのですが。』と妖しい目つきで言われた。それぐらいなら構わないので2つ返事で了承したのだが、凄く嬉しそうにしてくれていたのは予想外だった。方法、確認しなかったのは僕の落ち度だよね?


とりあえず朝は捌き切ったので10時の休憩に入ると、僕より1週間ほど前にアルバイトで入ったエルフの女性アドリアーナと出会った。覚えているだろうか? 彼女は僕達がこの街に来て最初に巻き込まれた厄介事の女性だ。今はリハビリも兼ねてここで働いている。姉たちに置いて行かれたことが悔しいらしく偶に不貞腐れているのが可愛い。今日は今からなのだろう。

「おはよう、今日も大変だよ。こうやって見てみると、ギルドの構成員って本当に多いんだね。全然知らなかったよ。」

この子とは治療に携わった事もあり、僕達は友人同士として付き合っている。

僕がそう言うと挨拶を返した後に溜息を吐かれた。疲れてるのかな?あの頃に比べるとだいぶ肉も付いたが、まだまだ細いから無理はしてほしくないのだが・・・・

「アスマはもう少し自分の容姿を考えるべきよ。そんなんじゃヒデオが泣いちゃうよ?」

ジトーっとした目でこちらに非難を向けてくるが、僕だってそこまで馬鹿じゃない。

「確かに地元で少しはモテたけど(男に)こっちの美形には全然かなわないよ。」

苦笑しながら言うと彼女は額に手を置いて盛大に溜息を吐いた。

それを見て僕は慌てる。

「もしかして、変な所が有る!?」

慌てて自分を見下ろすが、何かが付いていたりボタンのかけ間違えやファスナーを開けっ放しという事はなさそうだ。そもそもフロアに出る時はエプロンを掛けているのでその辺りは見えない。顔か髪だろうか? 鏡を見ようとして声を掛けられる。

「ねえアスマ、前からずっと聞きたかったんだけどさ、これまでどんな環境で育ったのよ?」

僕は首を傾げて正直に告白した。

「至って普通だよ? 子供の頃から英雄を含めた仲間内で遊んだりとかで、特に特筆するようなことは無かったかな?」

まあ変質者に襲われたり同性に告白されたり、ある程度年をとっても女装させられた事とか普通ではない事もあったが、あえて言うまい。

「それってさ、女の子同士じゃなくて、皆男の子じゃない?」

「うん、そうだよ?」

何も考えずに頷いてしまったが失敗だったかな? つい忘れそうになるが、僕は今女なのだ。変に思われたらどうしよう。

「あー・・・・まあ男として育てられたのは認める。」

結局、後腐れのない様に正直に話した。決して視線に耐えられなかった訳では無い。

「うん、何となくだけど予想が出来てきた。あとはヒデオに聞くかな。」

もう1度溜息を吐いた彼女は準備を終えると、仕事場へと歩いて行った。

以前アドリアーナが美人だからお客さんが多いのではないかと聞いたら『この国の人間はエルフに慣れているから、いなくはないけど多くは無い』と返された。贅沢な連中である。だと言うのになぜ僕が注目を集めるのか疑問でならない。

ジナイーダさんとの特訓の成果から、漏れている効果を自分でだいぶ抑えられる様にはなったが、やっぱり魅了系の体質がまずいのかなぁ・・・・



10日ほど前、辛い闘病生活を終えて、ようやく外に出る事が出来た。最盛期には程遠いので本職である冒険者家業には連れて行ってもらえなかったが、このまま何もしていないのも暇なので、私は今リハビリを兼ねてギルドの酒場で給仕をしている。

自分がエルフだという事もあり、周りから美形とは言われていたが、いざ働いてみても復帰祝いと称して遊びに来た顔馴染みが最初に訪れたぐらいだ。

それから1週間ほどして後輩が入ったのだが、驚いた事に相手は姉達から聞いていた命の恩人だった。『偶然素材を持っていた冒険者と接触する事が出来て、イヴァンさん達協力の下、それを譲ってもらった。』そうで、あの人達にはいくら感謝してもしきれない。

件の彼らは駆け出しだった様で、ゴールドの訓練が受けられるならと喜んで応じてくれたらしい。同じタイミングで休憩に入った時、アスマに何故そんなものを持っていたのかと聞いたら『故郷で貰った餞別が偶然役に立った』と教えてくれた。

まあ私の身の上話は別にいいのだ。不幸自慢するほどだとは思っていない。

そう、問題はこのアスマだ。

彼女は仲間が初心者講習の間だけ入ったのだが、背はこの国だと小柄で、顔立ちは良くスタイルもバランスがとれている。腰より少し上に伸ばした艶のある黒髪は所々が癖で跳ねていて本人に恐ろしく似合っていた。彼女を目当てに客が増えるのを理解できるほどに。

戦力としても別格で、初日に先輩の女の子が基本を教えると『僕の所と大体同じだね。』と言って細かな所こそメモを何度も読み返しているのだが、初日から7割がた完璧にこなしたのだ。これにはスタッフ一同大喜びをした。話を聞くと経験者だったらしく、この動きも納得だと皆で頷いたものだ。普段からしているらしい顔の力を抜いた自然な笑み(ヒデオにはアルカイックスマイルと呼ばれていた。)と同時に目尻を優しそうに下げた顔は、同性であってもドキリとさせられて、とてつもない母性を感じ、不覚にも抱き締められたくなったのは内緒だ。女性スタッフで真似しようと頑張ったのだが、1日でどうこう出来るものではなかった。本音を言えば軽く嫉妬するレベルで凹んだものだ。


騒ぎが起きたのはアスマが一時的に働いている情報が凄まじいスピードで冒険者仲間達を駆け抜けてからだった。一応言っておくがまだ2日目だ。

その日は朝から魔族と獣人が席の取り合いをしていた。彼らは自分の泊まっている宿屋で出るはずの朝食を摂らずに、態々ここに食べに来たのである。だが、私はこいつら馬鹿だろうと一蹴出来なかったのも認める。考えても見てほしい、常に命の危険をはらんだ仕事をする冒険者が、少しの間とはいえ、美人が理想のお母さん的な優しい笑顔を向けてくれるのだ。全員に行き渡る訳では無いが、少しぐらい甘えたくなる。私の様に死の淵を見た事がある者なら尚更だ。そうでなくても暖かな笑顔なので効果は非常に高いだろう。


その時の客たちから聞いたのだが、アスマは魅了系の特殊体質を持っているらしい。

本人から聞いた訳ではないが、過去にそれを体験した事のある獣人達(男女問わず)が鼻で探り当てていたのだ。凄まじい執念である。

確かにすれ違う時などにほんのりと良い香りがしたのだが、あれは能力だったらしい。最初はちょっと羨ましく思ったが、これを見ると分かる。危険なだけだ。

そしてアスマにとって運の悪い事に魔族達がもう1つの方にも気が付いていたのだ。

しかもこっちは、完全にエロ特化だった。

淫魔系の魔族が先天的に多く持つものらしいのだが、彼女はその中でもかなり高ランクらしい。発動すると、どんな動きでも劣情を抱かせると聞いた時は、あの子は泣いて良いと本気で思った。

ただ、アスマ自身がその2つを本気で抑えているので、周りへの被害はかなり少ないらしい。私の感じた様にほんの少し効果があるだけで、相手を狂わすことは無いと皆が笑っていた。


だが残念な事にこの努力は、それを目当てに席を埋めた連中に対し、完全に無意味と化していた。


何故なら、いくら発動側が全力で抑えていても、それを使われる側が本気で受けたいと思えば、本人の意思に関係なく無条件に発動してしまうのだ。『相性が良いなら貴女も経験できるはずよ。最悪の場合は絶対に止めるから軽く試してみなさい。良い? 軽くよ?』と獣人の友人に言われて試したのだが、これは凄まじい。体中を走る獣欲で理性が吹き飛びそうになる。泣いて拒んでも私の全てを受け入れて欲しくなり、友人がゆっくりと引き戻してくれなければ休憩所で押し倒していただろう。本気で発動した時の事を考えると体が歓喜で震えた。これは非常に危険だ。

この体質だが、人の口に戸は建てられない様で、彼女で楽しみたい信用のおける連中にだけ、すぐに拡散されてしまった。


まだ2日目の午前中である。


その日の午後、ついに事件は起こった。1人の男が加減を間違えたのである。

男はおさわりを巧妙に回避するアスマで色々と楽しんでいたのだが、少しだけ調子に乗っていつもより強く効果を受け入れてしまったのだ。

抑えきれなくなった男はアスマを妙にスタイルの浮き出る方法で縛ろうとした所で他の有志たちに拘束された。

誰も彼を責める事はしなかったが、嫌がる彼女を無理やりというシチュを寸前まで体験した事に嫉妬した者達から制裁を受けた。様子を見にいったアスマが帰って来た時は、新たに『男前な聖女』と一部から呼ばれるようになっていた。本人に聞いても『回復しただけなんだけどね・・・・』と苦笑していた。ちなみにこの称号は隠語で、実際は『聖母』らしい。ごめんアスマ、あの微笑みを見ると否定できない。

後に聞いたのだが、毒牙に掛りかけたというのに、その性癖と熱意を認めてくれた優しさから送られたらしい。


あの子はもう少し危機感を持つべきだと思う。


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