第二章.11
熱いお話を先輩方と行っているであろう英雄を置いて、僕とフロウとジナイーダさんは別の部屋で襲撃事件の報告を聞いていた。
「しかし全員逮捕まで早かったですね。」
「ええ、最初に捕まえていた傭兵と容疑者数名を面通ししたら簡単に見つかったわ。これは残り二人が所属していた工房からの迷惑料よ。」
ジナイーダさんはそう言って小さな革袋を一つ渡してくれた。うむ、なかなかの重さである。
「内容を要約して聞くのと、調書に書かれた面白くない部分まで聞くのとどちらが良い?」
彼女がそう聞いて来たので、迷わず全てを聞く。予想は出来るが、僕が女だからこそ話を渋るのだろう。今回の報告がアズレトさんやイヴァンさんではない事もこちらを気遣ってだと理解できる。
「犯行動機は予想通り嫉妬からよ。2人の容姿とランクで侮ったらしいわ。予定では貴方達を使い材料を集めて箔を付けた後に、ヒデオは殺して、アスマは数人がかりでのお楽しみを狙っていたそうよ。」
どうやら救い様の無い外道であった。英雄に手を出そうとしていた事を知り殺意が灯る。
「落ち着きなさい。実行犯の3人は既に捕まっていて、関係者が2名捕まっているわ。まだ魔法や薬物で情報を引き出している所だから、あと数人出てくるかもしれないけど今週中には終わるから。」
1度深呼吸をして心を落ち着ける。
「もう大丈夫なんですよね?」
「残りの容疑者には監視を付けているし、魔術師ギルドでも対応しているから何かしてくる可能性は低いと思う。貴方達の腕なら奇策を取られたり油断しない限りは大丈夫よ。不安にさせたくはないけど、解決まで警戒は怠らないようにね。」
心配そうにこちらを見るジナイーダさんを見て頷く。
人の命を軽んじる凶行に出た人間が相手なのだ、何をしてくるか分からない怖さを感じて少し体が冷える。これについては後で相棒ともしっかり相談しておこう。
「犯人の処遇はどうなるんですか?」
フロウが真剣な顔で彼女に聞く。これは僕も気になる。
「その事に付いて相談が有るのよ。」
僕達が首を傾げるとジナイーダさんは悪い顔をして言った。
「フロウ、英雄を連れて来てくれない? 今回の件でデートは流れたって言えばある程度は落ち着くと思うから。」
「俺が捕まる可能性は?」
僕のお願いに、彼は凄く悲しそうな顔でこちらに確認して来る。
「プラフィに頼んでも良いけど、そうすると『こんな美人とフロウは関係が有るのかー』って言われるかもよ?」
「行ってきます。」
それを見ていたジナイーダさんが苦笑して付け加える。
「ついでに私が呼んでいると言えば良いわ。」
フロウは頷いて部屋を後にするが、その背中は悲壮感が満ち満ちていた。
「ごめんね・・・・」
「今の悪乗りしてる彼らにアスマが近付いたら問答無用で捕獲されるわよ。プラフィならヒデオの被害が増えるわね。」
僕らは笑い合って、彼らの無事を祈るのだった。
「良かった、生きてた。」
「帰りに回復魔法を掛けてもらわなかったら悲惨でしたよ・・・・」
「私刑にはするが、しっかりと服に付いた血や泥を落としてくれる優しさはあるんだよな、あの人達。」
「一部を除いてスポーツ感覚で遊んでいるだけだからね。さあ、とりあえず座りなさい。」
衣服に破けはあるが、無事に帰って来た親友を労うと彼らは席に付いた。
「まず僕の方からだね、とりあえず事件は解決に王手をかけている所で、念の為に今週中まで警戒をすれば大丈夫そうだよ。これが今回の迷惑料だって。」
僕がそう言うとジナイーダさんが続く。
「とりあえずこれを読んでみて。」
彼女は僕達に1枚ずつ紙を手渡してきた。サラッと目を通したが、内容はさっき聞いたものを含めて現状の詳細だ。隣に座る英雄の顔が露骨に歪む。
「それを読んだ上で二人に聞くわね。捕まえた犯人の処遇はこちらで一任するとの事だったけど、変更は無い?」
そう聞いて来た彼女に英雄が待ったを掛ける。
「今の所予定している内容がどういったものかだけ教えてもらっても良いですか?」
「ええ、体力のある傭兵は犯罪奴隷落ちで、実行犯の魔術師二人は魔術師ギルドの実験台になる予定よ。丁度前任の犯罪者が死んだみたいで喜ばれたわ。残りの連中はまだ未定ね。」
犯罪奴隷とは犯罪者を魔法で縛り危険なお仕事に喜んで就いて頂く、就職斡旋サービスである。実験台は現代でもあった新薬の臨床試験ではなく、毒物を服用させて回復魔法使いの練習台にしたり、今回の様な拷問の練習台にしたりなど、世の為人の為になるお仕事だ。目先の金と自尊心の為に、残りの人生を血で贖うとは真似できない心がけだと思う。
ちなみにこれはどのギルドでも最初の講習で必ず説明される事だ。忘れていたのか舐めていたのかは分からないが、襲われた側として擁護するつもりは一切無い。
「決まりね。これから生じる追加報酬は後日支払うわ。」
これで終わりかと思ったのだが、ジナイーダさんに少し待つように言われた。彼女の連絡用魔道具にイヴァンさんから連絡が来たのだ。
「3人とも、もう少しだけ付き合ってちょうだい。イヴァン達から話があるみたい。」
僕達は了承すると、それから5分ぐらいで彼らは来た。
「ここだけ見るとかなり豪華だね。」
「ああ、ゴールドが3人揃うってとんでもないな。俺達の場違い感が凄い。」
僕らの言葉にフロウも頷いている。
それを見てイヴァンさんとアズレトさんは苦笑していた。自覚はある様だ。
今の状況を考えると、超有名なハリウッドスター3人と、演技を始めたばかりの素人が同席しているのだ。場違いにも程がある。
「俺達に師事しておいて、何を今更言ってんだ。」
豪快に笑うイヴァンさんを見て他の2人は苦笑しているが、確かに今更ではあった。
「まあ、ウチはフランクで有名だからな。あまり気にするな。さて、本題に入ろう。実はお前たちに頼みがあってな。とりあえず聞いてくれるか?」
アズレトさんが茶目っ気たっぷりに笑う。本当に大丈夫なんだろうな?
心配になってジナイーダさんを見ると笑っている。これはどっちだ?
「アスマの召喚出来るので、人型はフロウとプラフィだけか?」
僕と英雄はお互いに見合って頷く。召喚士は何が召喚出来るのかが分かってしまうと、対策がとられてしまうのだが、この二人は既に見られているのでアズレトさんにだけ隠す必要は無いだろう。
「その2人さえ良ければ、冒険者ギルドに登録をして欲しいんだよ。」
あまりにも意外な提案だったので僕達は少し驚く。
「急にどうしたんですか? まさか、今月は会員募集のノルマが足りないとか?」
英雄がかなり困惑した様子で聞く。こっちの世界でもあるのか・・・・世知辛いな。
「いや、そっちは大丈夫だ。この街は大きいし、俺達ゴールドがいるから集客は上々でな。新人募集には困ってない。」
さらっとアズレトさんは返すが、場所によっては苦労していそうだ。目標数が実際にあると聞いて、言い様の無い悲しさを感じたが、あえて突っ込むまい。
「理由をお聞きしても?」
僕が聞くと彼は大仰に頷いた。
「魔術師ギルドから要請があって『召喚士なんて珍しい人間がいるなら是非ともウチへ移動させてくれ!!』と譲らないんだよ。で、直接向こうへ引き抜かれる前に、今いる人型だけはこちらで擁護出来る様に確保しておこうかと思ってな。」
僕は額を押さえていた。何でギルドから追い駆けられないといけないんだ・・・・頭痛い。
そこに英雄がおずおずと聞き出してくれた。
「ちなみに、2人が冒険者にならなかったら、どんな事が考えられますか?」
大事な事だけど、あんまり聞きたくないな。
「向こうのスタッフに偶然道端で捕まって喫茶店で勧誘されるかな。俺達としては、全員が冒険者になる事で間接的にNoって意思表示をして欲しいんだよ。」
「わかりました登録します。」
「プラフィからも確認を取りました、大丈夫です。」
僕とフロウが即答すると彼らは嬉しそうに笑ってくれた。
「助かったぜ、お前らみたいに優秀なスタッフはギルド間で引き抜きがよくあるからな。これでこっちも少し動きやすくなる。あ、ヒデオは傭兵ギルドから熱い視線を送られてるが、行かないだろ?」
英雄が苦笑しながら頷く事でこの話は一応終わりとなった。
それからいくつか確認をして僕らは退室し、ギルドの新規登録の窓口へと向かう。部屋から出る前にプラフィを召喚しておいたのだが、黒の扇情的なドレスを着た女性の登場にロビーは騒然となった。
『ヒデオめ、また死にたいようだな。』
『いや待て、あれは・・・・サキュバス!? ヒデオめ、殺してやる。』
『落ち着け、アスマとかもしれないだろ?』
『3人でって可能性もあるんじゃないかしら? ヒデオは消すとして・・・・ふふ、アスマはどうやってお仕置きしようかしら。』
背中を冷たいものが走る。は、早く帰りたい・・・・
「姉さん、話題にすら出ない俺はどうしたらいいんだ?」
フロウが凄く寂しそうに呟いた言葉に、僕達3人は何も言えなかった。そう、僕らは。
『ね、姉さん? お姉ちゃん? ははは、あの鬼の人は何を言ってるんだろう? アスマさんは私のお姉ちゃんなのに・・・・』
『つまりあいつはエッチで綺麗なお姉さんという男なら1度は憧れる状況にいるのか。そうか。』
『アスマはエッチなのか? それはそれで構わない、いやむしろ良いんだが、弟プレイなのかもしれないぞ? ゆ”る”さ”ん”。』
『奴が姉に踏まれたい派なら、俺は友好を結ぶと同時にあいつを殺そう。』
どんな耳してるんだよあいつら・・・・
フロウがダラダラと冷や汗を流しているのを見て僕は重い溜息を吐く。
「フロウ、生きようぜ。」
「はい、英雄さん。」
男共は熱い絆を結んだようだ。もう向こう側ではないのが少し寂しい。そう思っていると後ろから優しく抱きしめられた。
「大丈夫ですよ主様。ゆっくり行きましょう。確かにこちら側になりましたが、近寄れないことは無いのですから。」
「うん、ありがとう、プラフィ。」
そう言いながら振り返って微笑むと、彼女も笑顔を返してくれた。美人だなぁ。
視界の端で喜怒哀楽の混じり合った、言葉に表せない集団が見えたが、努めて無視をした。
もう少しだけこの街にいる予定だけど、無事に出立できたらいいな。




