第一章.4
そんなこんなでバカな日々も過ぎて行き、大学4年目に入ったある時、遊馬が俺に子供時代のゲーム機が残っているかと聞いてきた。
今度はどうしたのかと話を聞くと、昔俺たちが遊んだゲームを中古屋で買って来たらしく、2人で今度こそクリアしないかという話だった。
そのゲームは遊ぶために据置き機が必要で、協力プレイをするために携帯ゲーム機と専用コードが必要という子供には絶対に手が出ない無茶苦茶な作品だったのだが、時が流れて価格が雀の涙となったのを機に、懐かしくて手に入れたらしい。
俺もクリアできなかったという苦い思い出が有り、休日と被ったので喜んで遊ぶことにした。
今でもあいつに付き合ってNINTEND○64やSF○で遊ぶからグラフィックは全然問題ない。まあ、あの頃は感動したけど今見ると荒く見えて年取ったなと悲しくなった。あの頃に戻り・・・・戻るとこいつとの関係はどうなるんだ? いいか、このままで。
記憶に埋もれた名曲のOPを聴き、ステージ開始時の語りに言葉に出来ない何かを感じて、ゲームに没入していった。
余談になるが俺は遊馬に付き合う事が多く、目が肥えていたので、新作のPVやイメージを見てもワクワクしなくなり、RPGを冠したギャルゲー擬きが跋扈するようになってからは年単位で手を出していない。
いや、たまに手を出すのだが、あまりのめり込めずに1週間持たないで積むか売るかをしていた。
遊馬が好きなステルスアクションシリーズがあったのだが、最新作のPVがワクワクしないと悲しそうに言うものの、今までの事を信じたこいつは発売当日に買いに行き非常に痛い思いをすることとなる。
『10年前のシステムを前作含めて2回も使い回すとは思ってなかった、システムは我慢しても他が完全に死んでるどころか未完成のこんな塵を平然と売り出すなんてどうかしている』と言って本気で冷たい目をパッケージに向けていた。どうやら主要スタッフが抜けたらしい。
ちなみに俺達はゲームに置いて懐古主義だという事は認めているので、あくまで俺達の感想だという事をここに記しておく。
典型的な日本人の俺達にオープンワールドは辛いんだよ。ターンとかコマンド性で悪の親玉を倒す典型的なRPG帰ってこないかな。
最後に俺は懐古主義の1人として、親友である遊馬が中古のゲームを買った帰りに言った言葉を残しておこうと思う。
『思い出補正に浸っているだけかもしれない。でもこいつらには確かな面白さがある。確かな夢を魅せて、数百円を数千円に変えるだけの価値と、社会人の数時間を使う価値があるのだ、喜怒哀楽のある僕たちプレイヤーは金と時間を払うだけの機械じゃない!!』
『僕はこれに関わった全ての人に、作ってくれてありがとうと、夢を魅せてくれてありがとうと、有意義な時間をくれてありがとうって言いたいだけなんだ・・・・
新作が出ても流し見すらしないなんて、もう嫌だよ。』
さて、そんな荒れに荒れそうな個人の評価は置いておいて、本筋に戻ろうと思う。
一緒に手に入れた攻略本を片手に2人で順調に進んで行ったのだが、さすがに集中力が切れて全滅してしまい、休憩がてら昼食をとることにした。
作るのはいつも通り遊馬に任せて俺は両腕を上げて伸びをしながら、料理を作っているあいつの後姿を見て思う。
(こうやって自分の好きな事を共有できて、話の合う相手と結婚できれば最高なんだけど、上手く行かねえよな)
聞こえないように溜息を吐いて、出来上がるのを待つ。
少しして完成した料理を食べ終わり、あいつが食器を洗おうと台所に立った時、異変が起こった。遊馬の足元に光が広がっていたのだ。
何が起きているのか全く分からなかったが、俺は直観的にこいつをこのままにしてはいけないと感じ、慌てて遊馬の手を取ろうとするが、俺の手は遊馬の腕をすり抜けた。
「「 !? 」」
驚愕する俺達だが、それ以上にまずい問題がある。遊馬の両足が少しずつ消え始めたのだ。それに構わず俺は踏み込もうとして止められる。
「馬鹿!! 無暗に近寄るなって、さっきの見ただろ? たぶん今の僕には触れられない!! お前は離れてろ!!」
身体を震わせながら言うこいつに対して言い返す。
「ふざけんな!! いくら異常事態とは言え、お前を放っておけるか!!」
今度は体を掴みに行こうとしたが間に合わない、ギリギリの差で体が完全に消えてしまい、顔を確認しようと目線を上げた時には顔の部分が消え始める瞬間だった。
「おい! 遊馬!! 返事をしろっての、おい!!」
全く反応を見せない事から聞こえてないのだろうと判断するが、何も考えず手を伸ばした瞬間、遊馬は完全に消え去り、足元の光も無くなる。
「どうなってんだ!?」
悪態をつく俺に答えを返す者はおらず、辺りはしんと静まるだけだった。
(落ち着け、今のところ俺に異常はない。次だ、何が起こった? 目の前で遊馬が消えた。俺は3回触れようとしたが、全てすり抜けた。超常現象か? まあいい、次だ。 俺やあいつが狙われる理由は? 全く心当たりがない。 最後だ、俺の背後にいるのは誰だ?そもそも人なのか?敵か?味方か? くそっ、怖ぇ!! だけどここで止まったらマズそうだ。覚悟を決めろ、行くぞ!!)
俺は右側へ飛び、そのまま回転して後ろを向き、腕を胸の前に挙げて殴り易いように構え、自分の事を考えていた僅かな間に現れた気配の正体を睨む。
そこには悔しそうな顔をしてこちらを見ている、金色の刺繍が入った白い服の女が立っていた。
「お前がやったのか?」
「違うわ、話を聞いてくれる?」
「信用できるとでも? 今の現象を知っているようだな、あれはなんだ?」
「それで良い。一方的に話させてもらうから。厳しい言い方をするけど、あなたでは彼を助ける方法が一切ないわ。」
事実なのだろうがイラつく俺は声を荒げる。
「質問に答えろ!! あいつは無事なのか!?」
「相手は今回の為にかなり準備をしてきた様で、悔しいけど私にも救う方法は無いの。」
俺は軽く拳を握り、踏み込む準備をする。
「最後だ、答えろ。」
声を低くして女を睨む。
「犯人は私じゃない、使われたのは転移術、あの子は生きている。協力して、あの子を助ける為に。」
「無事なのか?」
「時間の問題ね、方法を説明するわ。私の力を乗せてあなたを遊馬君の所に送るから、連れて帰って来るだけ。」
「勝算は?」
「低い」
理解できない方法で消えたのだ、今更怖気づけるか。
「良いだろう。どうせ出来ることは無い。終わったら話してもらえるんだろうな?」
「これからの事に関わるから無理矢理にでも聞いてもらう予定よ。」
俺は警戒を緩めずに構えを解いて、相手の提案に乗る事にする。
「どうすれば良い?」
女は安堵したように微笑み、床に光の円を広げて告げた。
「その光の中に飛び込んで。そしたらそのまま飛ばすから。建物内に飛ぶのは確実だけど、遊馬君が何処にいるかまでは不明よ。見つけたら離さないようしっかりと掴まえて。そしたら帰りの光を出すからその中に飛び降りてくれたらいい。邪魔者が出てきたら相手を吹き飛ばすイメージを持って殴るか蹴れば衝撃波が飛ぶわ。質問は?」
早口で説明する所を見ると、この女も急いでいるのだろう。俺は最低限聞きたいことを選ぶ。
「素人だぞ?いきなり実戦で使えるのか? それとその攻撃で味方を巻き込む危険性は?」
女は胸を張って答える。
「戦闘に関しては、見えないけどサポートするから大丈夫よ。吹き飛ばして時間を稼ぐだけで良い。止めは刺せないから気を付けて。あの子に対する攻撃だけは完全に防ぐから巻き込んで振って大丈夫よ。急いで。」
俺は頷き光の中へと飛び込むと、一瞬だけ浮遊感に包まれ一気に落ちていく。
そして俺は気がついた。
(しまった、慌ててたから靴の事忘れてた。締まらねえなぁ)
俺は苦笑したあと数回深呼吸をして遊馬を助ける事だけに集中する。
『聞こえるかしら?』
さっきの女の声が響く。
「ああ、どうした?」
声音が沈んでいる悪い知らせなのは間違いないだろう。
『遊馬君を見つけたわ。でも遅かったみたいで無事ではないわ。今は五体満足で生きているけど、このままでは私でも治す事が出来なくなる。』
その言葉を聞いてまだ見ぬ犯人に殺意を頂く。拳を握りしめ、震える唇を開く。
「まだ、助かるんだな?どうしたらいい?」
『あの子は今、犯人と一緒にいて、立ちながら大切そうに抱かれているわ。このままゆっくりしているとあと数分で貞操が危ういわね。私のお気に入りによくも・・・・』
そうか、どうやら犯人に手加減は一切いらないらしい。しかしお気に入りと言ったか? 助けた後も注意が必要だな。
『予定変更よ。無理矢理あの子のいる所にゲートを繋げるから、今の勢いのまま遊馬君を抱いている男に衝撃波を叩き込んでちょうだい。これだけ勢いが付けば、今の貴方でもなんとか行けるはずよ。チャンスは1回だけ。無理に繋げる関係で音声サポートは出来ないけど、それ以外は継続しているから思いっきりやっちゃって。それと、あの子、体が動かないみたいだから自分で確保する事。』
俺は深く息を吸って頷く。
「いつでもいいぞ。」
『オッケー、それじゃあ行くわよ!! 』
前方に光が集まっている所が見える。
(これが出口ってことか。ん?人がいる?あれは・・・・・遊馬!! 一緒にいるあの野郎、まさかあのままキスするつもりか!? 間に合え!!)
光から勢いよく飛び出ると共に俺は右腕を思いっきり男の方向へ伸ばした。
(吹き飛びやがれえええ!!)
拳の先から凄まじい衝撃波が飛ぶのを感覚的に理解する。
俺は腕が吹き飛ぶのを覚悟したが、反動による怪我は無い様だ。これがサポートかと考えるが、男の周りを緑色の膜が覆った事で思考を中断する。
(マズイ止められる!!)
動きが止まったしまった今、これ以上の威力を出すことは出来ない。
俺の背中を冷たい汗が流れると、後ろから別の声が聞こえた。
『人の、お気に入りに、何してんのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!!』
俺の後ろから虹色に光る風が吹き抜け、緑色の膜を吹き飛ばして止まる。
『しまった、浅い!!』
何が起きたのかを把握すると、俺は迷わず右腕で目の前の空間を殴りつけ、衝撃波を飛ばした。
(これで!!)
ゆっくりと遊馬に迫る男が一気に壁まで吹き飛んでいくのを確認して俺は心を落ち着けながら言う。
「ほら、いつまでボケッとしてるんだ、それとも本気でそいつと結婚するつもりか?」
内心の動揺を全力で隠して、微笑んでやると遊馬は泣きながら俺の胸に飛び込んでくる。
(ウエディングドレスか本気で危なかったな。)
救出プランの中に描いていた、どさくさに紛れて行うお姫様抱っこ作戦が失敗したショックを顔に出さず、壁の近くであの糞野郎がゆっくりと立ち上がろうとしているのを見て、俺はこいつを不安にさせないように次の行動へ移る。
帰り道は今出てきたこれでいいのか?
『そのまま後ろの光へ飛び込んで!! それと私と代わって!!』
とうとう本性を現したなこいつ・・・・とりあえず離脱だ。
「どうやら今は動けるようだな。ほらしっかり掴まれ、逃げるぞ。」
壊さない様に力いっぱい腕の中の遊馬を掴まえると俺は後ろの光へと飛び込んだ。
身体に浮遊感を感じ、続けて落下すると同時に胸元から
「ひゃあああああああああああああああああ!?」
と可愛い悲鳴が聞こえ、俺は悶えるの全力で我慢した。