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第二章.5

翌朝、僕は頬にキスされた事で嫌悪感では無く羞恥心を感じていた事に気が付き、少し泣いた。幸い英雄は起きていなかったので、気付かれずに済んだ。

普通では絶対に経験する事の無い、良く分からな過ぎる心中を整理し、涙を拭って動き出す。

そんな事などおくびにも出さず、2人で準備を終えると街へ繰り出し、旅装や調理器具を見て回る。


「っく、これも欲しいけど、袋の容量が・・・・」

「とりあえず、基本的なフライパンとか鍋に包丁でいいんじゃねえか? こっちの食材なんて完全に未知の世界だろ?」

英雄が苦笑しながら僕に言う。

ちなみに僕の料理の腕は、一般的な家庭レベルだ。料理の先生たちに出せるような物ではなく、レシピ本片手にお袋の味に近づけた至って普通の力量なのだが、形から入る人間なので色々と目移りしていた。

「旅先だとやっぱり汁物が優先だよね。そうなると鍋か。」

僕は諦めて必須のものを選ぶ。と言っても今日は価格を控えながら見て回るだけだ。いくつかのお店を巡り、路地を歩いていた所で英雄と腕を組む。

「偶にはこうやってデートするのも悪くないね。」

楽しそうに言い、笑顔で相方を見上げる。

「ああ、最近は仕事に掛りっきりだったからな。今日は目一杯羽を伸ばそうぜ。」

嬉しそうにこちらを見返してきた事を確認すると、こちらは動きを阻害しない様、腕に抱き付き、英雄は僕の耳に顔を近付けて来たのでお互いに囁き合う。

『いつから居た?』

『わからん、俺が気付いたのはさっきの店を出てからだ。完全に油断してた。そっちは?』

『同じだね。アデリーナさん達程訓練された動きではないけど、厄介事には違いないよ。このままギルドに向かおう。』

小声で言うと頷いたので、そのままカップルを演じて移動する。

『俺の方だと2人だな。』

『ルルも同じだって。』

僕がグイグイ押す形のバカップルを演じながら、屋台でクレープを2人分買う。

「はい、あーん。」

「え、いや、さすがに恥ずかしいんだが。」

親友が困った様に視線を逸らす。

「もう! 食べてくれないの?」

楽しい声音でパートナーにおねだりすると、渋々とだがこちらを向いてくれたので、周りの生暖かい視線に耐えながら、お互いに食べさせ合う。

『これは、死ぬほど恥ずかしいね。』

英雄もそう思っているのか、僕のクレープを食べた時の動きはぎこちなかった。

そうやって少しずつ移動を続けていると気配が距離を少しずつ詰めてくる。

『チッ、マズイな・・・・急ぐぞ。』

『武器は?』

『ポーチのボックスに入れてある片手剣だけだ。もっと早く大剣用の袋を作っておくんだったな・・・・』

人の流れに乗って出来るだけ早く進む。この壁のお蔭で相手も近付きあぐねているのは実にありがたい。

『この感じだと俺達と同ランクか?』

『たぶんそうだと思う。でも隠密担当って訳じゃなさそ――やられたよ。もう1人本職がいたみたい。右側三つ先の路地から出てきたフードの男。ルルは間違いないって。』

僕は笑顔を崩さずに、組んでいた腕を離す。

背中を冷や汗が流れたが、それでも無理矢理会話を続ける。

「えー? でも、それな――避けろ!!」

演技を続けようとした所で、男の手が鈍色に光る物を抜いた事が見え、親友に回避を促す。

僕よりも身長が高い分、人混みに隠れた手元が見えなかったので反応は遅れたが、何とか投げられたナイフを躱してくれた。

凶器は後ろの石壁に当たり硬質な音を立てて地面に落ちる。

(こんな街の中で何を考えてるんだ!?)

今の動きで確信した。決して高レベルの人間ではない。投げられたナイフが他の人に当たらなかったのも、壁に当たったのも偶然だ。

丁度、人の波が途切れた所に投げたから怪我人が出なかっただけに過ぎない。僕達の後ろに誰かいようものなら最悪の事態に陥っていただろう。

その馬鹿を見るとこちらを見てニヤニヤと笑っている。

間違いない。気配の隠し方はともかく、こいつは3流だ。手を打たないと周りに被害が出る。

「突っ込むぞ!!」

英雄の声に合わせて魔法を使う。

『ウォーターボール!!』

街中での戦闘は本来禁止されている。だが背に腹は代えられないし、緊急時に置いてはその限りでは無い。

射線が開いているうちに、6発の水球を飛ばす。

街中で魔法を使うとは思っていなかったのか、相手の顔が驚愕に歪む。

逃げる為に慌てて振り返るが遅い。足に狙いを定めて、全てを叩き込む。

「があっ!?」

後ろから思いっきり踏まれた様な衝撃が走ったはずの犯人はバランスを崩して転がる。脹脛ふくらはぎに当たった1発が特に効いたのだろう。

倒れた拍子に足首が変な方に曲がったので簡単には逃げられない筈。

「ごめん、やり過ぎた。」

「まったくだ、俺の出番がなくなったな。」

周りの一般人たちが異常に気が付いて騒ぎだす。

「落ち着いてください! 私達は冒険者です! 暴れていた犯人は取り押さえたので、もう心配はありません。」

英雄が大声でそう言うと周囲からは安堵の声が漏れる。足元の馬鹿は激痛でのた打ち回り、聞こえていない様だ。

その間に壁際へ落ちた最初のナイフを拾っておく。

ルルに確認してもらったが、最初の2人は逃げ出したのかいなくなっている。

「さて、足をやっちまっているみたいだが、どうやって運ぶ?」

親友の悪そうな笑みを見て僕は、楽しそうに言う。

「わざわざこんな塵にポーションを使うなんて勿体無いからね。手足を縛って引きずりながら行こう。2人で運べば問題ないさ。」

その意味を理解したのか、フードの男が慌てて口を開く。

「てめえら、こんなことをしてタダで済むと思ってるのか!! 俺達はこの街のグギャッ!?」

英雄が顎を下から上に蹴り飛ばし、さらに口を踏みつける。歯が数本折れたようだが、舌を噛み切ってはいない様なので回復魔法の必要はなさそうだ。

「殺しちゃ駄目だよ? 後始末が面倒なんだから。」

「ああ、気を付けるよ。」

そう言ってポーチから紐を取出し、両手両足を手際よく拘束した。解体で何度も縛っているから慣れたものである。

「俺は右足を引っ張るからお前は左足な。」

僕は頷くと、自分の紐を取り出して、左足を括った

非力な僕が、利き手で引ける様にしてくれた心遣いに感謝する。

「それじゃあ行こうか。」

僕達は冒険者ギルドへ足を向けた。後ろから悲鳴が聞こえたが、あえて無視する。今回狙われたのは僕達だ。次回の事を考えると見せしめは必要だろう。

そもそも組織だって動いているのであれば、こいつを見逃した所で第二第三のお客さんがやってくるのだ。それならギルドで合法的・・・にお話を聞いた方が良いという判断から捕獲した。

尊厳や人権とはそれを尊重し合う人間にのみ適応されるべきだと思っている。いきなり街中で物騒な事を始めた相手に対する慈悲など無い。


ちなみにこれは冒険者に喧嘩を売った馬鹿に対する罰としては非常に優しい方だと思っている。イヴァンさんやマルコヴナさんは片腕と片足を潰すらしい。激痛に悶えているうちに無事な方の手と足を紐で括り、僕らの様に引き摺る事で徹底的に戦意を叩き潰す様だ。ジナイーダさんは最初の拘束時に手や体に火傷を負わせて事故を装うらしい。移動を促しても動こうとしないなら傷口を踏みつけたりなどの方法を採ると教えてもらった。


「バイクが欲しいね。」

「せめて馬にしてやれよ。」

取り留めのない会話を聞きながら、ギルドへ荷物を運ぶ。

今度は別の意味で周りの視線が痛くなると思ったのだが、住民の皆さんは何事も無かったかのように笑顔だ。

「この街、怖過ぎんだろ・・・・」

「視線に好意的なものを感じるのが何より恐怖を引き立てるよね。」

困惑を顔に出さない様に『良くやった!!』と酒瓶片手にこちらへ手を上げて労う人へ手を振り返す。

ようやく目的地まで付いて僕達は気が付いた。このまま建物の中に運ぶと床が汚れてしまう事に。

「俺が見ているから人を呼んで来てくれ。」

分かったと頷くと、泣いている荷物に蹴りを入れてギルドへ入り、受付で相談する。


「分かりました。今担当の者をお呼びしますので少々お待ちください。」

手慣れた受付のお兄さんを見て僕は聞こえない様に溜息を吐いた。

それからすぐに出てきた男の人を見て僕は驚く。

「え、アズレトさん?」

「おう、アスマ。相変らず厄介事の中心地にいるらしいな。」

イヴァンさんの親友であるゴールドランクの冒険者が出てきたのだ。驚かない方がおかしい。そう思って周りを見るが、みんな全く気にしている様子は無い。どうやらおかしいのは僕の様だ。先の言葉も含めて誠に遺憾である。

「ジナイーダ達から聞いてないのか? 喧嘩の仲裁は俺達の仕事なんだぞ。暴れても鎮圧できるし、年齢的にも文句を言う奴は少ないからある意味当然の人選だぞ?」

全くその通りである事から頷くしかない。

(そういえば前にアデリーナさん達に襲われた時にイヴァンさんが似た様な事言ってたな。)

遠い目をしていると彼が苦笑しながら口を開く。

「ほれ、犯人を確保したんだろ? 入り口に行こうぜ。」

犯人を転がしている入口へ行くと、アズレトさんは驚愕に目を見開いた。

見張りをしていた英雄は、まさかゴールドが出てくるとは思っていなかったので驚いている。そう、これが普通の反応ではないのか?

「お、お前ら・・・・何でこいつは五体満足なんだ?」

こいつの反応に満足していると、隣から聞こえた言葉に僕は固まった。

「え? あの、今なんて?」

親友も理解できなかったのか同じように困惑を深めている。

「やっぱりお前たちは優しすぎるな・・・・」

アズレトさんは溜息を吐くと、ギルド内にいる冒険者数名に声を掛ける。選ばれたのは筋骨隆々の見るからにパワーファイターの方々だった。

彼らは呼ばれるときに仲裁関係だと聞いて、笑いながら出てきたのだが、やはり獲物を見て驚いていた。

『馬鹿な綺麗過ぎる!?』

『おい、見てみろ、骨折が一か所も無いぞ!!』

『精々歯が折れているぐらいじゃねえか。』

『後ろは、まだ綺麗そうだな。楽しみだぜ。』

再確認しておくが、こいつは顔面を踏みつけた為に、歯が折れていて、神経が剥き出しになった事から舌が触れるどころか、風を受けるだけでも激痛が走っている筈だ。それに地面を引き摺って来たので擦り傷だらけでボロボロだ。


これで温いとドン引きされたのである。


「アズレトさん、他の人はどんな状態で連れてくるんですか?」

英雄が嫌そうに聞く。

「そうだな・・・・駆け出しほど無我夢中で殴打するから傷が酷いな。4割は死んでいる。腕が良くなってくると、的確に四肢を骨折させて持ってくる。後はそう言う性癖がある奴だと楽しんだ後に持ってくる奴もいる。人の金品や命を奪おうとするやつに人権は無いからな、戦士職はボコボコになって送られてくるのが殆どだが、魔法職になると酷いもんだ。」

応援の4人も頷くのを見て僕達はげんなりする。

「風魔法でミキサーにかけられた奴や、土魔法でミンチより酷くなった奴なんてざらだぞ。」

どうやら僕達が先ほど考えていた『優しい』は、次元が違ったようだ。

僕は不安になり、イヴァンさん・ジナイーダさん・マルコヴナさんからの話を参考にした事を相談すると『いやそれは無い。あいつらの拘束は鬼なんてもんじゃない。今では大人しくなったが、若い頃はその引き摺るまでに何度も回復魔法を掛けて私刑にしたからな。』というお答えを頂いた。

ズタズタになったフードの男はこちらに憎悪の視線を向けている。

「な? やり方が甘いとこういう風に逆恨みする馬鹿がいるんだよ。そもそも昔からギルド単位で行う私刑が有るのに、それでもこういった犯罪へ手を出す相手に手加減は要らねえよ。第一に常識が通用しねえからな。情報を引き出す必要が無ければその場で殺したいって言う奴の方が多いんだぜ。」

アズレトさんの疲れたような言葉に僕達は迷いなく頷いていた。


それから証拠品のナイフを渡し、必要な情報を伝え、拷問おはなし方法は全てお

任せにして、頷いた拘束班がフードの男を持ち上げると、そいつは言った。

「てめえら覚えておけよ! 顔は覚えたからな! 女ぁ、お前は何度も犯して泣き叫ばせてやる!!」

とりあえずこいつの貞操は待ったなしだな。

その気が有りそうな拘束中の人に、これからコイツを可愛がってもらう様にお願いしようとして、僕は動きを止めた。

アズレトさんが軽めとは言え、殺気を飛ばしたからだ。

「小僧、安心しろ。お前の仲間も含めて、仕事以外で優良冒険者に手を出した奴はギルド権限で処刑できる。そして俺達はこの2人と違って甘くは無い。必要な情報を引き出したら必ず殺してやるから、もう女を抱くことは無いぞ。」

フードの男はその言葉に震えあがり、何度も助けてくれと喚いていた。拘束している4人がこちらを見たので、決定権は僕達にあるのだろう。

「街中で笑いながらナイフを投げる様な奴なので、最後は確実に殺してください。野に放たれて別の人が襲われても困りますからね。」

その言葉に拘束していた4人は頷いて、奥へと運んで行った。

「ここで『可哀想だから助けてあげて』なんて言われたらどうしようかと思ったぜ。」

「その時は俺が殺していたから大丈夫ですよ。」

アズレトさんがおどけて聞くと、英雄が笑って答える。

「明日ギルドには来るだろ? その時に今日の調査報告をしよう。」

彼はそう言うと、今度は真剣な顔になる。

「これから先、お前たちをまた狙う奴がいるかもしれん。他の街はともかく、ここでは遠慮するな。ここに運んでくる時、住人が友好的じゃなかったか?」

僕達が頷くと続ける。

「あれはな、今回の様な一般常識が通用しない馬鹿を合法的に間引ける、またとないチャンスだからだ。ああいう奴は、どこかで同じ様な事を必ず起こす。もしくは起こしているかもしれない。昔の事例で言うと、街の中で粋がる犯罪グループに繋がっていた事もある。あいつらを反省・・させる事は被害に遭った当事者にも、街の住人にも得になるから思いっきり行け。なに、街の美化活動に協力したと思えば良い。」

あまりにもしっかりした内容を聞き僕らは驚いていた。

「随分と徹底しているだろ? これは昔、この街のチンピラから限度を知らない盗賊を輩出した過去から学んだのさ。自分達の街は自分達で守ろうってな。」

その後僕達はこういった時の話を聞き、宿へ帰った。マルコヴナさんから『甘過ぎる。』と言われたので、次はもっと徹底する事にしようと心に決めたのだった。


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