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第二章.1

無事にブロンズへと昇格した僕達は、2日後またまた森の中にいた。

材料集めに来た錬金術師の護衛である。

見た目はこの地方に多い茶髪で、眼鏡を掛けている青年だ。糸目な所が知的に見えて印象深い。

森歩きの経験が浅い上に、ここで瀕死にされた幸薄い僕達だったのだが、依頼人はむしろ喜んでくれた。『たった2人でレッドベアを相手に生還したのなら、ぜひお願いしたい。』と言われた時は、少し目頭が熱くなった。

契約に成功した後でマルコブナさんから聞いて知ったのだが、形はどうあれ熊相手に生還した人間は依頼人側からしたらかなりの優良物件なのだそうだ。彼らからしたら『生き残る事』を最優先にしているので戦う力だけでは判断しないらしい。

一緒に巻き込まれたブロンズPTは採取が主な仕事なので旨味は少ないが、これのお蔭で少し有名になった。


「いや~、ここまで楽に採取に来たのは初めてですよ。ルル君とチチリ君には頭が上がりませんね。」

森で採取をしていると依頼人のエゴールが眼鏡を上げ、ホクホク顔で言う。

「俺達は森の経験が浅いんだが、普段はそんなに大変なのか?」

英雄が辺りの警戒をしながら聞く。

言葉遣いだが、年齢が同じだった事もあり向こうから砕ける様に言ってきたので、お言葉に甘えている。言い出した向こうは硬いままだが。

「ええ、この群生地へ来るまでに最低でも4回は戦っていますよ。回り道をする事で時間や体力は使いますが、戦闘になるよりずっとマシですね。そもそも私に戦闘力なんて無いですから、逃げるのも大変なんですよ。」

彼は採取を続けながら笑っている。

魔物は生き物だ。だからこそ戦いになると、一番弱い相手を狙い易い。そうなると狙われるのは勿論彼らなので、一番は遭遇しない事なんだそうだ。

「それじゃあ、普段はその籠一杯に採取する事って無いの?」

僕が首を傾げて聞くと、彼は苦笑しながら頷いた。

「ええ、殆どが7分目に満たないですね。戦闘の疲れでヘトヘトになった所を鞭打ち採取して、また別の素材を探しに行き、精神面まですり減らせながら帰り道の余力を残すと、滅多な事では満載に出来ません。さらに運が悪いと予定地点を全て回れない事もありますからね。」

僕達は現在3ヶ所目の群生地にいた。優秀な索敵のお蔭でエンカウント数は0である。

「あのー、もしよろしければお二人にお願いがあるのですが。」

エゴールが申し訳なさそうに僕達に聞いて来た。

「どうした? 最初の取り決め通り中層は無理だぞ。死に掛けたから言っておく、絶対に止めておけ。」

「そうだよ、命あっての物種だって。」

まだ今日一日の付き合いだが、悪い人ではなさそうなので死んで欲しくないのだ。僕達は困った様に彼を見ると慌てて否定された。

「違いますよ! 私達生産業の人間が中層に入るなんて、魔術師ギルドから調査依頼が来た時ぐらいで、もっとランクの高い人の仕事です。」

エゴールは深い溜息を吐いて言い切る。僕達は顔を見合わせ、とりあえず話を聞こうと促した。すると地図を出して、帰り道にある4ヵ所目ではない地点を指差す。

「実を言うと帰る前にここに寄りたいのです。ですが、少し問題があって・・・・」

僕達は首を傾げる。

「ここに群生しているのがマンドラゴラなのです。」

それを聞いて納得した。


マンドラゴラとは植物であり、魔力の濃い地に生息している。

イメージとしては、人参に短い手足が付いて、表面に顔が付いている感じだろう。

根も葉も薬師や錬金術師にとってかなり優秀な素材になり、繁殖力が高いので少しだけ残しておけば1ヶ月ほどで蘇る事から非常に重宝されている。

そこだけ聞くと生態系が心配になるが、ある一定以上には増えないのだ。増えすぎると独特の匂いに引かれて集まった草食の魔物に食べられるのでその為だと言われている。

一番の特徴は根が生きている事だ。生物だから生きているのではなく、地中から引き抜くと手足をバタつかせ、大声で悲鳴を上げる特性を持つ。

昔から『マンドラゴラの悲鳴を聞くと死ぬ。』という言い伝えがある。これは大声を聞いて集まってきた魔物に襲われて命を落とす者が後を絶たなかったからだそうだ。

この時に草食の生き物を呼んでしまい、群生地ごと壊滅する事も珍しくない。

ただ、捕食者の糞から新天地へと運ばれるので絶滅はしない逞しい奴なのである。


「うーん、ここなら緊急時に森の外へ逃げられそうだけど、集まってくる魔物次第かな?」

僕は手を顎に当てて言う。

「確かにな・・・・戦力は俺達4人しかいないんだが、急ぎで必要な材料なのか?」

英雄がエゴールに聞くと、彼は気まずそうに頬を掻く。

「実を言うと、生産職が彼らを現地で捕まえてくるのは、かなり縁起が良い事で有名なんですよ。私の師匠の師匠ぐらいの時代には、これを採ってきて初めて一人前と認められたそうで、その名残が有るんです。」

それを聞いて英雄は少し楽しそうに笑う。

「なるほど。俺は賛成だけど、遊馬は?」

「僕も行くべきだと思うよ。そう言うのって大事だからね。」

そう微笑んで言うとエゴールが嬉しそうに破顔し頭を下げてきた。

「ほら、頭を上げてよ。まだ採った訳じゃないんだから。」

「そうだぜ、群生地が潰れてたら駄目だからな。まずは行ってみようぜ。」

僕らの言葉を聞いて頭を上げた彼の顔はとても明るい。

もう一度地図を見て、ルートを決める。チチリを呼んで目的地の変更を告げると、また偵察に出てもらい僕達も出発する。少し疲れが出ていたエゴールの足取りは非常に軽かった。


「さすがに一度も遭わないってのは無理か。」

「凄い牙だね、初めて戦う敵だから少し怖い。」

僕達は正面にいる下顎から鋭い牙を生やした大猪を見る。

迂回しようとしても、複数の魔物がいるので単体であった直進ルートを選んだのだが、これは正解なのだろうか?失敗なのだろうか?

「タスクボアですか。ランクはCですが、バランスの良い皆さんなら問題ないと思いますよ?」

どうやら間違いではないらしい。

魔物のランクは1人で安全に倒せる目安である。レッドベアならBであり、戦闘主体のシルバー冒険者になれば一人で倒せるという事だ。

つまり僕達Eには少しばかり荷が重いのだが、イヴァンさん曰く『個々を戦力だけで評価するとDの入り口ぐらいは有る』そうなので、一対多なら何とかなる。

「何処が欲しい?」

「可能ならあの牙ですね。粉末にするといい材料になります。」

「善処はするけど、期待しないでね。」

僕と英雄が前に出る。ルルは隠れるエゴールの直衛に当たっている。

英雄が猪目掛けて走ると、相手もこちらに気が付き牙を振り突っ込んでくる。

『ロックブラスト!!』

僕はいつもの石杭では無く、横30cm縦10cm程の四角柱を4つ作り地面すれすれに飛ばす。

「英雄!!」

「任せた!!」

英雄は速度を落とし、背中の剣を抜き構える。

タスクボアはどんどん速度を上げて彼に突き進む。

僕の作った石柱が英雄の両脇を走り、3つが地面と擦り速度を落とすが、先頭の1本が最高速度で相手の足と正面衝突した。

『――――!?』

猪が声を上げて転倒するのを見て僕はガッツポーズを作る。だが、まだ終わってはいない。

すかさず英雄が、倒れたタスクボアの背中側へ走り、首に重い一撃を叩き込んで両断した。

仕留めた合図を見て、僕は準備していた魔法を解除する。

「ふぅ・・・・良かった。」

深呼吸を繰り返し、うるさい動悸の音を鎮め、親友の下へ向かう。

「完璧だ、遊馬。見ろよ、前足が見事に折れてる。」

狙い通りに行った事を見て僕は心の底から安堵する。

「見事ですね。前に護衛を頼んだブロンズの方たちは、もっと苦戦していましたよ。しかも体中に傷を負わせたので毛皮も肉もかなりズタズタでした。」

後ろから少し興奮したような声が掛けられて振り向く。

「怪我はしなかったか?」

英雄が近付いてきたエゴールに声を掛けると、彼は問題無いと言って獲物を見る。

「取り分は牙で良いんだよね?」

僕がそう聞くと彼は固まる。

「え、冗談で聞いたのではなかったのですか? これ程立派なタスクボアの牙ならいい値で売れますよ?」

僕と英雄は軽く笑う。

「俺達は金の為じゃなくて、好きで冒険者やってるからな。初勝利の祝いも込めて牙の1本ぐらいならお裾分けするさ。」

英雄がそう言うが、彼はまだ渋っている。

「安心して、僕達なりの処世術だよ。エゴールなら大丈夫だけど、独り占めすると必ず嫉妬する人間が出てくるからね。誰にでもはしないけど、気に入った相手なら全然構わないから受け取ってよ。」

僕がそう言うと、彼はようやく頷いてくれた。

それを見て英雄と協力して解体に入る。

「お二人は本当に欲が無いですね・・・・人によっては喧嘩する程なのに、何故そこまでされるのですか?」

その言葉を聞いて苦笑して答えた。

「たぶんお国柄かな? 見て分かる通り、僕らはこの国の生まれじゃないからね。価値観が相当違うんだと思う。それとさっきこいつが言った様に、お金目的で冒険者になったんじゃないのも強い理由だよ。」

「俺は戦いによる成長を、こいつはまだ見ぬものを見る為に冒険者になったんだ。確かに金は必要だが、それよりも出会った人との繋がりを大事にしたいのさ。気に入った相手限定でな。」

そう言ってテキパキと解体を済ませる。

「私の師匠が以前『国が変われば人も変わる』と言いましたが、ここまで違うとは思っていませんでした。『異国人との交流は良くも悪くも良い経験になる』とも言われましたが、お二人を見ると確かに納得出来ますね。」

3人で笑い合うと、後片付けをして目的地へと歩く。


「あれがマンドラゴラです。」

「まだ残ってて良かった。」

「さて、後は引き抜くだけだが・・・・どうする?」

あれから魔物には遭遇せずに、真っ直ぐ群生地へ進み、僕達は乱雑に生えるマンドラゴラを眺めている。

「切っても簡単には死なないので、普段は引き抜いたマンドラゴラの口に布を詰め込んで窒息させます。この時指を噛まれない様に気を付けるのがコツですね。」

それを聞いて英雄が頷き答える。

「その間、俺達は周りの警戒だな。遊馬、周りに魔物は・・・・どうした?」

2人が怪訝そうな顔で僕を見る。

「あ、今の所魔物はいないよ。いないんだけど・・・・・ねえ、マンドラゴラって水に漬けると品質が落ちたり、痛み易くなるとかの問題ってある?」

僕の質問を聞いてエゴールは首を振る。

「いいえ、そう言った話は聞かないですね。そもそも店頭に並ぶ前に土を落とす為、水洗いをしますから。それがどうかしたのですか?」

彼らは僕を見て首を傾げる。

「いや、考えたんだけどさ、僕が水球を作って、それ越しに引き抜けば声も漏れない上に溺死させられて早いんじゃない?」

そう言うと英雄は驚き、エゴールは感心したように僕を見た。

「なるほど、確かにそれなら抜いた人の腕が濡れるぐらいで済みますね。」

「警戒は俺がすれば問題ないからな。しかし良く考え付いたな。」

彼らの賞賛を聞いて僕は遠い目をする。

「思い出さないか? ピクミ○だよ。まとめて池にダイブさせたじゃないか・・・・」

あの悲しき事件を思い出す。飲み物を取ろうとして体を傾けた時、Cスティ○クにお腹が当たり、80匹近くの赤い精鋭を失った事を。

「あれか。」

英雄も思い出したのか笑いを堪えている。

そう、一番の失敗はこいつの見ている所でやってしまった事なのだ。おかげで暫くは笑い者だった。

首を傾げているエゴールへと説明する。

「えっとね、僕が子供の頃にミスをして、仲間達をまとめて池に落とした事があってね。それを参考にしたんだよ。」

そう言うと彼は苦笑しながら納得し、僕達は作業を始めた。

英雄はルル達と辺りを警戒して、僕は水球をマンドラゴラの直上に作る。

その水にエゴールが腕を入れて葉を掴むために反対側から両手を出す。前腕が水の中にある形だ。

「では行きますよ。」

その言葉に僕達は頷く。

彼はそれを見ると、勢いよく引き抜いた。

『ギャア― ゴボボボォ!? ボボ!! ォボボ・・・・・』

口が閉じられないみたいだ。30秒もしないうちに動きを止め、さらに10秒程様子を見てエゴールがゆっくり水から出す。

「ど、どう?」

自分の提案した作戦なのでやはり気になる。

「ええ、これは早いですね。悲鳴も最低限で抑えられます。水の位置を地面と接触させてください、そうすれば恐らく声すら出せない筈です。」

僕達は力強く頷き、一部を残して乱獲した。


後に採取を得意とする冒険者から聞いたのだが、これは水が得意な魔法使いによる有名な採取方法だったらしい。

他にも土を温めて引き抜く前に熱で仕留める方法や、土を固めて窒息させる方法がある。


「本当にお二人には驚いてばかりですよ。大体は大声で魔物が現れて、もっと少ない場合がほとんどなのに・・・・」

そう言ながら彼は自分の籠を重そうに背負っている。

帰りに寄った最後の群草地で、エゴールの籠は一杯になっていた。今は森を出る為に歩いている。

「本当に良いの? 僕達が貰っても、ギルドで売るしかないよ?」

僕達は収穫したマンドラゴラの1/3を渡されていた。

「ええ、どうか受け取ってください。その代りにそれが今回の追加報酬という事でお願いします。実を言うと痛まないうちに使いきれるか怪しいんですよ。なにより、私もこんな繋がりは大事にしたいですしね。」

そう言ってエゴールは笑う。

「有難く貰っておこうぜ。」

英雄が言うと僕も頷く。追加報酬と言うのはルート変更へのお礼という事だ。依頼主側の裁量なので、相手によっては痛い目を見る。

「あ、たぶんこの量だとギルドで採り過ぎていないか魔道具で判定されると思うのですが、お2人とも時間は大丈夫でしょうか?」

彼に問題ない事を伝えると空を見上げる。もう日が傾き出しているので、街に戻る時は夜だろう。

「少し急ごう、いくらルルとチチリがいても、夜は危ないからね。」

その言葉を機に僕達は足を速めた。


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