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第一章.24

いつもの訓練用個室でジナイーダさんにハルシシープとの激戦と、あの恥ずかしい叫びを報告すると大変喜んでいただけた。

「ふふふ、若いっていいわね。それにしてもヒデオ君ったら随分と大胆ね。」

「まったく、本気で心配したのにあの馬鹿は・・・・これで少しは反省してくれるといいんですけどね。」

「そうね。でもアスマ君自身はどうだったの? 同じ部屋に泊まるぐらいだから嫌いではないんでしょ?」

その言葉に僕は首を傾げる。

「え? うーん、英雄は確かにいい奴だし、男だとは思ってますけど、何と言うか、距離が近すぎてあんまりそこまで意識した事は無いですね。」

僕がそう言うとジナイーダさんは悲しそうな顔をした。

「ヒデオ君も可哀想に・・・・誰かに取られてからじゃ遅いわよ?」

「あいつが幸せになってくれるなら僕に文句はありませんよ。そりゃあ先を越されたりすると嫉妬はするでしょうけど。」

僕がそう言うとジナイーダさんは額を押さえて溜息を吐いた。

(僕よりも英雄の方が分かってる筈なんだけどな? 僕は元男だし、僕達は親友だ。異性だから興奮こそしても、恋人になる事は無いって。そもそも、あいつにだって好きな相手の1人ぐらいできるだろうから、そんな相手に全力を向けてくれたら僕はそれでいいさ。)

そう僕は呑気に考えているとジナイーダさんにもう一度溜息を吐かれて、自衛用として初級の攻撃魔法を教えてもらった。


ロビーに戻ると親友がボロ雑巾の様にテーブルに倒れていた。

「反省した?」

「反省した。次は上手くやる。」

「ばか・・・・」

あの時の事を思い出して恥ずかしくなり俯く。すると僕達に視線が集まり、英雄は青くなっている。

「ど、どうしたの?」

「いや、後で話そう。とりあえず飯にしないか?腹減ったよ。」

「うん、そうだね。それじゃあ宿に帰ろう。」

そう言って僕達は帰路へと着いた。

(僕が話しかけてから、男女問わずに凄まじい視線が英雄に送られたけど、何故だ? やっぱり女連れはリア充扱いされるのかな。でもそれなら女性からは僕の方へ視線が来てもいい筈なのに。)

まあ、それは後で聞く事にしよう。


「「 大量を祝して乾杯!! 」」

僕と英雄はグラスを打ちつけ合い、並ばれてくる食事とお酒を楽しむ。実は新しい身体がどれぐらい強いか分からなかった事もあって、お酒は嗜む程度にしていた。と言っても僕は元々強い方ではないので果物酒が主流だ。それでも飲み過ぎた後は記憶が無くなっている事が多々ある。そんな時に参加者たちへ自分の症例を聞いたら、飲みすぎたらそのまま寝ていたそうだ。

酒場はマズイが、ここでなら眠っても女将さんや英雄が起こしてくれるから大丈夫だろう。

「ん~、やっぱりこれが一番好きかも。」

僕は羽目を外して飲めるのが嬉しくて、どんどん飲み進める。

「っくう~、命のやり取りの後に呑む酒は最高だ!!」

英雄もどんどん飲んで、料理を啄む。

負けじと僕も料理に手を伸ばし、どんどん飲む。

今日は飲もう。飲んであんな事水に流そう。



今日の仕事では大失敗もしたが、間違いなく最高の日の1つにカウントできるだろう。理由の1つは稼ぎだ。文句なしに過去最高の宿代1ヶ月分と少しのお金を稼いだ。

次に俺がやらかした大失敗だが、これは被害を受けた遊馬も許してくれたし、俺本人としては非常に美味しい思いをしたので、ギルドの非モテ達とこいつを気に入った女性陣に保護者(?)的なポジションいるイヴァンさんから制裁を受けたが、まだまだプラス収支の方がでかい。あれは、最高に興奮したからな。

そして現在進行形の最後だが、これも中々だ。

「えへへ、ひでお~。」

酒を飲んで完全に酔っ払った遊馬は俺に甘えまくっている。うむ、幸せだ。

左側に座っているこいつに俺は我慢が出来なくてついやってしまった。

「ほら、遊馬。あーん。」

「あーん。」

「美味しいか?」

「うん!!」

酔いの所為で赤くなっているのが妙にエロい。昔は飲ませすぎるとそのまま眠ったんだが、これは嬉しい誤算だ。椅子まで完全にくっつけて俺に体を預けている。ほんのりと香る甘い匂いと混ざる汗の匂いに、軟らかくて暖かい身体から感じる重さがたまりません。

両手でグラスを持ち、こちらまで微笑むような満面の笑顔でチビチビとお酒を飲みながら料理を摘み、デレッデレに甘え、先ほどの様にご飯を与えると嬉しそうに食べてくれる。楽園はここにあった。こいつそのものが楽園だった。

女将さんが溜息を吐いてこちらを見て、息子君が普段とのギャップに驚きながらも顔を赤くして生唾を呑みこんでいる。

悪いな、お前の気持ちに俺は気付いているが、手加減はしない。後ろからは顔馴染みになった連中から嫉妬と怨嗟の声が上がっている。

女性陣がこいつに『あーん』をさせたがっているが、お互いに牽制し合う事で逆に動きを固めているし、遊馬は一番左端の椅子に座っているから男共が反対側に座る事も無い。

後ろの連中からは見えないが、肉料理の油が口の端を垂れた時に人差し指で拭い、それを銜える仕草は蠱惑的で、厨房側に偶然いた息子君が釘付けになっている。今夜は大変だな息子君。俺達現代組も昔通った道だから気にするな。

それからもうしばらく食事を続け、お腹一杯になったのと、遊馬が少し眠そうにしている事から切り上げた。惜しい、実に惜しい・・・・また理由を付けて飲ませねば。

後ろからも『お願い、もう少し! もう少しだけ!!』 『余裕のあるお姉さんがデレると、ああなるのか・・・・いいな、年上。』 『すまん、またトイレ行って来る。』 『アスマさんってあんなに乱れるんだ・・・・欲しい。』

と後ろから聞こえる声を無視して立ち上がり、俺は調子に乗って遊馬をお姫様抱っこした。

「ひゃっ、ふぇ? えへへ、ありがとう。」

急に抱き上げられたことに少し困惑した様だが、すぐに落ち着いて腕の中で持ち易い様に丸くなる。そして俺の首に抱きついて頬を摺り寄せる。こ、これはマズイ!?

俺は下半身が反応するより前に食堂を後にした。その時に耳元で、こいつは

「ひでお、だいすき~」

なんて言いやがる。昼に一線を越えそうになったばかりだが、もう、我慢できん!!

部屋に帰ったら頂こう。美味しく、大事に可愛がろう。


俺は自室に戻ると鍵を掛けて遊馬をベッドに下ろす。香る汗の匂いと、少し汚れながらも広がる艶やかな髪の毛でドキドキする。ほんの少し見惚れていると、プラフィが現れて遊馬の服を脱がしだした。自分で脱がす楽しみは無くなったが、眠った遊馬をサキュバスが着替えさせているのは見ている俺にとって凄まじい背徳感を湧き上がらせる。

だが、プラフィはそのまま下着姿にさせると、遊馬をベッドに寝かしつけ、こちらを向いて首を振る。だがその顔は慈愛ではなく、『もっと美味しくなった時を頂こう』という、もっと黒く、背中をゾクゾクとしたものが這い上がる様な顔をしている。

その証拠に彼女の目は妖しく笑っていた。

遊馬と俺を見る目つきで分かる。これは『もう少しお待ちください。』だ。俺はプラフィに大きな借りが有るのでここは頷く事にする。それを見届けた彼女は頷き、遊馬の中に消えようとするが、その前に俺は言わなくてはならない事があった。

「プラフィ、昼は邪魔しないでくれてありがとう。最高の食べ時が来たら協力してくれ。」

俺は無防備な遊馬の寝顔を見て、嗜虐心で顔を歪めると、彼女も似た様なもので顔を染め、頷き消えて行った。


「ひでおー、一緒に寝よぅ?」

遊馬が少しだけ目を開けてこちらを見上げながら言ってくる。完全に起きたのではなく、今にもまた眠ってしまいそうだ。俺は笑顔で頷きシャツを脱ぐと隣へ潜り込み、一緒に寝る事にした。頭を撫でてやると嬉しそうに目を細めて、すやすやとまた眠りだす。

(トロイの木馬か・・・・確かに内側に味方がいるのは助かる。

時間の問題だぞ遊馬? 早く俺だけのものになれ。)

俺は微笑むと、遊馬の体温を感じながら、ゆっくりと意識を手放した。




「ふぁ、んん・・・・」

僕の意識がゆっくりと覚醒する。といってもまだまだで目を瞑ればそのまま寝てしまいそうだ。目の前に逞しい男の6つに割れた腹筋が有る。上を見ると英雄が優しそうにこちらを見下ろしている。英雄が僕より先に起きたのは初めてかも。

僕は頭が上手く動かなかったので、そのままもう一度蹲り、頭を英雄のお腹に押し当てて、人の温もりを感じると、そのまま深呼吸する。なんだがいい匂いがする。それから30秒ほどボーっとしていると意識が完全に覚醒して、僕は真っ赤になって飛び起きる。

「うわぁ!? ひ、ひでお、い、今のは、ちがっ!!」

僕が慌てて手を正面でバタバタさせると自分の異常に気が付く。

「うっ、あれ?なんだか気持ちが悪い・・・・」

「馬鹿、果物酒とは言え、昨日飲み過ぎたんだよ。ほら、プラフィが準備してるから、熱めのシャワーを浴びてこい。昨日はそのまま寝ちまっただろ?」

そう言われて自分を見ると、下着姿な事に気が付いた。英雄はプラフィが脱がしてくれたと言ったので、眠っている間に何かされたわけではなさそうだ。

「うーん、頭痛いし汗臭い・・・・ちょっと浴びてくる。」

そう言ってベッドから降りて脱衣所でプラフィ―から着替えなどを受け取り、シャワーを浴びる事にした。

誰かが先に使った事を見てようやく理解する。

(そうか、あいつが先に浴びたからいい匂いがしたのか。ていうかあの腹筋凄かったな。正直ドキドキした。今度また触らせてもらおう。)

僕はそんな取り留めの無い事を考えて酔いを少しだけ覚ました。


その後プラフィにドライヤーの魔道具を当ててもらい準備が出来ると、まだまだ重い頭を振って、部屋へと戻った。英雄も既に準備済みだ。

「さて、時計を見てみろ。もう昼だが・・・・飯は食えそうか?」

僕は時計を見て少し驚き、頷く。

「食べる。味噌汁飲みたいけど無いよね?」

「飲めるなら二日酔いでなくても頼むっての。なあ、昨日の事、何処まで覚えてる?」

英雄に聞かれて僕は首を傾げる。

「最初の方は覚えてるけど、後からは全然覚えてない。また寝ちゃった所を英雄が運んでくれたの?」

「ああ、そんな所だ。そういう訳だから、親しい人間のいない所で無防備に飲むなよ? 迷惑を掛ける程度ならまだ良いが、純粋に危険すぎるからな。」

そう言われて僕は頷く。確かに危なそうだ。今の僕ならそのまま連れ帰られて酷い事をされる可能性の方が高いからね。

「ありがとう、英雄。気心の知れたいい奴が一緒で本当に良かった。」

僕はそう言って微笑むと、こいつは一瞬だけ驚いた顔をするが、苦笑しながら『気にするな』と言って先に部屋を出た。

僕もそれを追掛けて廊下に出ると鍵を掛け、親友と並んで食堂へと向かった。その時にチラリと横顔を見たのだが、笑っていた顔を元に戻そうとするのが一瞬だけ見えた。先に部屋を出たのは照れ臭かったからだろな。


こんないい奴がいてくれて、僕は幸せ者だと思う。


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