第一章.18
その日の夕方、僕は魔力の使い過ぎで完全に足腰が立たなくなった。
半日使ってこれなのだ。そう考えるとルルの召喚は思ったよりも魔力を使っていたのであろう。このまま最大量を上げて、早く他の子が欲しいな。生活面でサキュバスか、探索面で梟か・・・・そういえば現代で見た梟の緩みきった画像は可愛かったな。
ちなみに今僕は、ギルド併設の酒場にあるテーブルにまるで生気が抜けたように座っていた。
隣にはジナイーダさんに泥を落とされたとはいえ、ボロボロになった英雄が項垂れていた。
「坊主、胆力もあったが、腕っ節もなかなか良いじゃねえか。これは鍛え甲斐がありそうだ。」
英雄の正面に座るイヴァンさんが豪快に笑う。
「アスマも中々ね。今は基礎を叩きこんでいるけど、実技も時間の問題ね。」
そういってジナイーダさんが口元に手を当てて微笑む。
「あ、ありがとうございます・・・・」
「が、頑張ります・・・・」
僕達にはそう返すのが限界だった。
事実僕はジナイーダさんにお姫様抱っこで、英雄はイヴァンさんに抱えられてここまで運ばれた。
今までに似たようなものを見た事が有るのであろう者達は『やっぱりか。』という顔で。知らないのであろう駆け出し組は驚愕でこちらを見ていた。お前たち、あの羨望の瞳はどこに行った?
その後2人とは分かれ、少し休むと僕達は宿に帰る事にした。
英雄はまだ良かったが、僕は生まれたての小鹿のように足がプルプルと震え、中腰になった所へ周りから熱っぽい視線が突き刺さり、恥ずかしくて真っ赤になった事に気が付いた英雄が背負ってくれたので街の中で醜態をさらすことは無かった。
ちなみにこうやって運ばれることは、魔力切れで倒れた魔法使いを運ぶ図としてこの街では有名らしい。事実何名か同じように運ばれている人と目が合い、僕達は頷き合う事で魔法職にしかわからない何かを感じた。
宿の食堂で夜食を取り、部屋に戻る頃には僕も動けるようになっていた。
流石に今日は自主練をするほどの体力は無かったので、個室のシャワーを浴びて寝た。
次の日も午前中は講習を受け、念願の解体方法を学ぶ。それを見越して優しい2人の先生が現れて僕達は鍛えられる。
ジナイーダさん曰く、初心者期間の間はずっと最大量を上げるらしい。これが無いと続けて精密操作の練習などが出来ないからだそうだ。
そして彼女に誘惑系のスキルが2つともバレた。
説明を聞いたら笑われたのだが、僕からしたら笑い事ではないと言うのに・・・・
訓練が終わってからは『女の子なんだからその体質には本気で気を付けなさい。そろそろ慣れる人間も出てくるわ。いくら私達が後ろ盾にいるからって、下半身直結の馬鹿が手を出さないとは限らないわよ?』と真顔で言われた。
そんな事無いですよと笑って返すと、目の座ったジナイーダさんが『現実を見なさい。貴女は実年齢の事もあってかなり好色的な目で見られ出しているのよ。』と教えられた。最近感じる視線はそれか・・・・
全く嬉しくない。
英雄に相談すると、凄く嫌そうな顔をしていた。なんでこいつがそんな顔をするんだ?
それからあっという間に数日が過ぎ、昨日でめでたく初心者講習が終わった。
町の外には一度も出なかった。と言うよりイヴァンさん達が出してくれなかった。
午後を見計らって僕達を強襲し確保。その日毎に訓練のレベルが上がっていくので、体力や魔力の余裕など有る筈が無く、夕方になるたびに僕達はボロボロになる。
その間に僕に対してデートのお誘いが何件もあり、すべて断ったのだが、断った相手に『ありがとうございます!!』と何度か言われた・・・・僕はどういう見方をされているんだ?
「はい、それではプレートを出してください。」
登録をした時と同じエルフのお兄さんに初心者プレートを渡す。彼はそれを機械に通し、何か作業を行っていく。
僕と英雄はワクワクしながらそれを見る。
そう、ついに今日この日、僕たち2人は初心者を卒業し、冒険者となるのだ。
本当は講習が終わった昨日の段階で出来たのだが、最終日の戦闘基礎が終わった後に、笑顔のイヴァンさんとジナイーダさんに捕まり、そのまま訓練をする事になった。
同期の仲間たちが羨ましそうに見ていたのだが、他のベテラン勢に止められ、英雄の訓練を見て青くなっていた。僕はその表情を見送り、水晶の個室へと移動した。
それが終わった後に更新できるほどの元気は無く、そのまま宿へと直行したのだ。
「では、こちらが新しいプレートになります。ようこそ、冒険者の世界へ。」
エルフのお兄さんは灰色のプレートを渡してくれると同時に笑いながら言ってくれた。
僕と英雄はお礼を言って離れる。
「やった、これで僕達も冒険者だ!!」
「ああ、長かったな・・・・遊馬、これからもよろしくな。」
「うん、こちらこそ宜しく。」
僕達は他の人達の邪魔にならないように小声で喜び合った。僕は満面の笑みだったと思う。
先輩方の温かい視線が少し恥ずかしいが、今日ぐらいは良いだろう
「よう、冒険者への昇格おめでとう。」
イヴァンさんが僕達に近づきながら祝ってくれる。
ジナイーダさんは仕事が有る様で今日はいない。
「で、どうするんだ? 早速仕事に行くのか?」
彼はそう聞いてきたが、僕達の今日の行動は決まっていた。
「いえ、今日は仕事の種類を軽く確認して、資料室でお勉強です。」
「それが終わったら装備品や道具類を見に行く予定ですね。明日も準備期間に当てる予定でいます。」
僕と英雄の順に答えるとイヴァンさんは頷いて、傭兵連中と揉めるなよと笑って離れて行った。
揉め事と聞いて僕達は苦い顔をするが、一度深呼吸をして今受けられる低ランク専用の掲示板へと向かった。
「Fランクで受けられるのはここにある奴みたいだね。」
「とりあえずお互い気になる仕事をメモして、資料室だな。」
そう言っていくつかの仕事を書いて移動した。
資料室は僕たち以外誰もいなく、貸し切り状態なので純粋にありがたい。ジナイーダさんによると、この辺出身の人間であれば街周辺に出る基本的な魔物の事は先輩冒険者からの話などで知っているらしく、自分の知らない相手や、行った事の無い土地へ行く時に、ここへ来るらしい。
とりあえず薬草類の詳細や群生地などが書かれた資料と周辺の地図に、出没する魔物関係の資料を取る。地図は分厚い物と薄い物があったので、とりあえず概要だけにしようと思い薄い本にしたのだ、これが大失敗だった。
「ねえ、英雄、これ見てよ・・・・」
地図の後半に書かれた文章を指差して、彼に見せる。
「ど、どうしたんだよ? 何でそんなに落ち込んで―」
それを見た英雄も固まった。文章にはこう書いてあった。
『ここから先は、君の目で確かめてほしい。』
「「・・・・」」
僕達は無言で頷き、薄い地図を片づけ、厚い方を取り出した。
「横着はいけないね。」
「こっちであれを見るとは思わなかったぜ。」
僕らは心の底から沈み調べ物を続ける事にした。
「地図を見た感じだと、近くに洞窟と森が有るけど、森の入り口ぐらいなら危険度は低いみたいだね。洞窟は外しても良さそう。」
「あー、こっちの薬草は高いけど、群生地が遠いな。森の中だし、レッドベアの目撃例もあるか。今の俺達には危ないな。基本から行かなきゃダメか。」
「この近辺に出る魔物は平原だとゴブリン、コボルト、レイルラビット、ハルシシープ、フラッシュゴート、グリーンゼリーだね。講習を聞いた感じでは、僕達だけで狩れそうだから、狙いはこっちにする?」
「その方針で行くか。」
「薬草類を調べて思ったんだけど、やっぱり錬金術をどちらか覚えた方が良いのかな?」
「どうだろうな。初級ポーションの作成ぐらいなら買った方が速そうな気がする。それに俺達は生産職より戦闘職の方が好みだしな。」
「それもそうか。」
「とりあえずは基本報酬を貰いながら、討伐部位と素材の剥ぎ取りで上手く稼いでいこう。基本は馬鹿に出来ないからな。」
「上手く稼いで二人部屋、目指せ夢の1人1部屋。」
「・・・・そうだな。」
そんな感じで仕事や動きを決めて、僕達は念願の商店を回る。
実は今まで回っていなかったのだ。街についてすぐの襲撃と講習明けの訓練はそんな元気と時間など残さない。それに僕がいる関係で夜間の外出は控えた。
「必要な物はこれで全部か?」
「うん、しかし容量は小さくてもアイテムボックスの素があの値段で買えたのは助かるね。」
「ああ、まだしばらくは持てないと思っていたからな。」
アイテムボックスの素とは、鞄などの入れ物に使う事でアイテムボックス化できる魔道具というか素材である。今回買ったのは最低ランクの拡張だが、これだけでも大きなボストンバッグぐらいのサイズになる。他にも時間停止などの素が有るのだが、とてもじゃないが手が出なかった。
とりあえず講習で学んだ必要な物の中で、魔法で代用できないすぐに必要な物だけを揃える。
日が傾いて来たのを見て僕達は宿へと帰った。
食堂で冒険者になった事を細やかに祝い、宿への追加料金を払って部屋に入る。
お風呂に入った後に2人でベッドに腰掛け、これからの目的や欲しいもの等を語った。
「今のより大容量で時間の止まったアイテムボックスだね。」
僕は自分のリュックを見て、初めて平原を歩いた時の苦労を思い出して言う。
「ああ、効率を考えるなら必須だな。俺は武器が欲しいな。イヴァンさんと訓練して感じたが、やはり大火力の武器は好きだ。練習用の武器だったけど、バスターソードが気に入ったよ。」
英雄は剣の感触を思い出しているのか自分の手を見て子供の様に笑いながら言った。
「Eランクに昇格したら武器防具は絶対に揃えようね!」
僕だっていつまでも素手は怖い。それに新装備と言うのは憧れる物だ。現代のゲームでも、街に入ったら真っ先に武器屋と防具屋を探すのは戦闘職の性だろう。
ちなみに冒険者のランクはS~Fで別れている。
それぞれプレートの色を取って、Sはプリズム、Aはゴールド、B~Cはシルバー、D~Eはブロンズ、Fはアイアンと呼ばれている。イヴァンさんとジナイーダさんはAランクのゴールドであり、本物の実力者として他の国にも知れ渡っているそうだ。アデリーナさん達はCのシルバーらしい。
Dぐらいになると悪くない稼ぎの仕事が増えてくるが、ちょうど競争も激化するので大変なんだそうだ。
武器・防具の中に、職人見習いの方が作った作品も並んでいて、僕達駆け出しの為に格安で販売されているのだが、純粋にお金が心配で止めておいた。ゲームでもやった事のある、『装備やアイテムに使い過ぎて、泊まるお金が無くなった』というのを、今の現実でやりたくない為だ。
シリーズ恒例として出てくる薄目の宿屋め、夜にだけ効果が出る回復の水を飲みに行かされた事は絶対に忘れないぞ・・・・
「ああ、まずは明日だ。色々と試して無事に帰ってこような。」
僕達は明日まで街の中にいる予定だったのだが、そろそろお金が心許無いので、一度稼ぎに行くことにした。
僕は英雄の言葉に頷き、今日は寝る事にする。
早くそこまで上りたいなー。




