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第一章.13

「その、さっきはごめんね。どうしても確認したい事があって、暴走気味になっちゃって・・・・・」

金髪ロングのエルフ、アデリーナさんは申し訳なさそうに頭を下げている。

だが僕と英雄の視線はキツイ。当然だろう、さっきまで力づくでも誘拐しようとしていた犯人グループと同室にいるのだから。


僕達はイヴァンさんとご飯を食べた後、もう一度ギルドに向かった。そして奥にある防音の個室に通されて先ほどの4人と再会したが、まだ僕には苦手意識が残ってる。

特に青い髪のお姉さん、ジナイーダさんは滅茶苦茶怖かった。

部屋に入ると先に座っていた彼女たちに言いようのない怖さを感じる。だって、美人のお姉さん3人が、何とも言えない顔をして、表現し辛い瞳でこちらをじっと見てるんですよ?

流石に男の英雄はきついだろうと思い、イヴァンさんの次には僕が続き、促さられるままに座った。その時に応自己紹介だけはしてある。と言っても名前だけだが。


イヴァンさんが、『何かあったら責任をもって対処するから安心しろ』と言っていたが、僕達は何かあれば自分たちで一矢報いる覚悟でいた。

「許す許さないは置いておいて、どうして私たちに襲い掛かろうとしたのかを答えてください。」

英雄は平坦な声で聞く。

「えっとね、私達エルフ族って精霊の声を聴く事が出来るんだけど、貴方達が入ってきた瞬間、私と契約している精霊達が急に慌てだしたの。

それでその子たちに話を聞くと、皆が2人の事を外に出さない様警戒し出して、これは放っておくとマズイと思って、探知に優れた子を使って貴女を調べたの。そしたら君が持つ特殊な体質に反応しちゃって・・・・」

言い辛そうにする彼女の言葉に僕の背中を冷や汗が流れる。チラリと英雄を見ると顔を逸らされる。

どれだ!? どれに反応した!!

誘惑系が見つかって冷遇か? 召喚系が見つかって冷遇か? それとも―

「ねえ、貴女もしかして、生命族せいめいぞくの生き残りなの?」

真剣な顔と言うよりは、思いつめた顔で僕達は問われ、事前に話していたのであろう女性陣の目つきが鋭くなり、イヴァンさんは驚きに目を見開き椅子から立ち上がり、僕と英雄は顔に出さない様に何の話か困惑した。

事情を知るが故、僕達に唯一気がついたイヴァンさんが確認をしてくれる。

「その前に確認だ。お前さんたち生命族って知っているのか?」

「いえ、俺達の身の上は話した通りですので、全然知りません。」

英雄が答えると『やっぱりな』というイヴァンさんと、『なんで知らないの!?』と言った顔で女性陣から見られた。フ、性別が変わっても女性からのこういう視線は辛いぜ。侮蔑の視線なら心が折れていただろう。困惑気味の視線でよかった。

イヴァンさんは頭をガシガシと掻き説明してくれた。

「昔々の話だこの大陸には生命族って種族が住んでいたんだ。と言ってもそいつらは種族と言うよりは人種族に突然現れるようなもんだな。

今では『体質的な物だったんじゃねえか』と言う風に見られている。

で、この生命族になっちまった奴は、見た目とかに変化は無いんだが、体の何処を使っても凄まじい魔力を持った素材になるんだよ。

だから胸糞悪い話だが、同じ人種に乱獲されちまってな。

今は絶滅したと言われている。俺も長いこと冒険者をやっているが1度も見た事が無い。」

僕達はようやく理解する。ああ、【神の器】の事だと。

やっぱり足を引っ張りやがったな、この疫病スキルめ。これは冒険の後は山暮らし説が濃厚だな。現代人に出来るだろうか?

「ああ、その話ならさすがに俺達も知ってますよ。名前までは知りませんでしたが。で、貴女方はこいつを生命族だと判断して追掛けてきたわけですか。」

英雄が聞くとアデリーナが真剣な顔で頷く。それを見て続ける。

「私たちが『いいえ』と答えた所で信じるとは思えませんし、私達が答える必要は有りません。

それよりも目的は何でしょうか? 攫って売るつもりですか? 女だから考えが外れても買う所は買うでしょうし、それこそ研究か魔道具の材料にするつもりでも?」

英雄が心底落胆し、侮蔑するような顔で彼女を見ると、向こうは慌てて否定する。

「違うわ!! 私達にそんなつもりは―」

「それが信じられないのは、あんな方法を採った、貴女ご自身が良く分かるのでは? 逃げようとした時、確実に逃走経路を潰しましたよね?

それにあなた方は中堅パーティーだと伺いました。そんな人たちに新人が目を付けられたのであれば、噂に尾ひれが付いてこれから先どうなるかなんて考え着く筈では? 仮に俺かこいつが生命族だった場合は間違いなく悪意ある者に捕まってましたよ?」

英雄の冷たい声に、彼女は俯いて黙る。すると後ろから狼のお姉さん(自己紹介の時に狼だと知った)が口を出した。

「そちらの言う通りよ、私達が浅はかだったわ。やってしまった以上、謝って済む問題じゃないけど、本当にごめんなさい。

厚かましいのは分かっているわ。でも、私たちの話を聞いて欲しいの。」

頭を上げたカリーナさんが真剣な顔で僕達を見る。

英雄は不機嫌を隠そうともしないが、このままでは話が進まないので僕は溜息を吐き、話だけでも聞く事とした。

「ありがとう、私達は本来4人パーティーなの。あと一人ここにはいない、アデリーナの妹がいるわ。事の発端は2か月前よ。私達は知人からの依頼で遺跡発掘の護衛依頼を受けたの。探索も順調に進み、後は帰るだけと言う所で私達は偶然隠された道を発見してね。

探索隊も私達も食料や安全面の問題から満場一致で撤退を決めたわ。そこまでは良かったのだけど、その奥から新種の魔物が1匹現れた。

私たち護衛チームは非戦闘員を逃がし、その魔物を倒したの。でもその魔物が厄介な特性を持っていて、亡骸から一気に瘴気を吹き出し近くにいた者を巻込むだけでなく、それを躱して油断した相手に呪いを掛けると言う習性を持っていたのが問題だった。」

彼女たちはその時の事を思い出したのか、それぞれ苦い顔を浮かべている。

チラリとジナイーダさんを見ると頷いてくれたので信用して良さそうだろう。

二段構えの自爆技とは本当に嫌になる魔物の様だ。というか自爆技を持つ奴もいるんだ。気を付けよう。

一呼吸を置いてカリーナさんが続ける。

「私達は完全に油断してて、呪いの発動に気付くのが遅れたの。そして仲間の一人が回避しきれずに直撃を受けてしまって、最初の数日は良かったのだけど、1週間を過ぎた頃から苦しみだし、今はずっとベットの上で生活しているわ。日に日に体力が落ちてどんどん痩せて行くあの子を、何とか助けようと私達は方法を探していたのだけれど、凄まじく強力な呪いだったらしくてね。

私達が解呪できる神官を見つけた時にはもう体力が落ちすぎて回復魔法を掛ける事が出来なかったのよ。」

解呪や解毒の魔法は受ける側の体力も問題になるらしく、今回は後手に回りすぎたとジナイーダさんが教えてくれる。

「あの子は持って今月一杯だと言われたわ。最近では食事も残すようになってきてね、それだけは何とか回避しようと、方法を探している所にアスマ君が現れたのよ。私には見えないけど、精霊は君達なら解呪する方法を知っていると何らかの方法で知り、慌てて逃がさない様に警戒したんだと思う。それをアデリーナが探知して、今回の様になってしまったのが事件の経緯よ。」

そう涙声で言ってカリーナさんはふっと息を吐く。

アデリーナさんは涙を流しながら嗚咽を堪え、狐のお姉さんに抱かれている。彼女も目に涙を浮かべていた。

英雄がイヴァンさんに確認すると、

「ああ、間違いなく事実だ。アデリーナの妹、アドリアーナは現在ギルドの関係医療施設で闘病中だ。持って一ヶ月だが、医者の話じゃそこまで長くないとの事だ。姉に似て美人でな、俺達の方でも何とかならないか方法を探しているが、おそらくは時間が・・・・

俺とジナイーダはこいつらが心配で一緒に様子を見ていたら、お前さん達に迷惑を掛けちまったわけだ。すまねえな、下手な手は打たないだろうと思って距離を取っていたせいで止めるのが遅れちまった。俺達の監督不足だ。」

と苦虫を噛潰したような顔で言われた。ジナイーダさんもやるせさそうにしている。

それが今回の責任に対するものだけでないのは分かる。年齢から見ても彼女たちとは長い付き合いなのだろう。

どうやら僕達が思うよりもずっと重い理由だったようだ。

英雄も振り上げた拳を何処に下ろして良いのか分からないのだろう。複雑な表情をしていた。

「はぁ・・・・分かりました。明日のお昼ぐらいにまたお話をする事は出来ますか?」

僕の言葉に部屋の全員が一斉に顔を上げた。

「いいんだな?間違いなく足がつくぞ? 人の口に戸は建てられない。解決法が見つかり仮に治ったとしても、この人たち以外から洩れる可能性は高いぞ? 精霊に気付かれたんだ。他の方法も間違いなくある。」

英雄が僕を見て言う。

「分かってるけどさ、人の命が相手だよ? 可能性が1でもあるならね。」

「そうでなくちゃな。付き合うぞ。と言っても今回俺に出来る事はなさそうだがな。」

自分たちの馬鹿さ加減を苦笑して言った言葉に、彼女たちがこちらを期待の目で見る。

「協力するかどうかを今夜こいつとじっくり話したい。僕達の切り札を切るんだ、協力する前に、それを使ってどれぐらいの成功率が有るかを確認する。それぐらいの時間はあっても良いですよね?」

僕の言葉に英雄以外、部屋の全員が頷く。

アデリーナさんは縋る様な目で見てくる。考えが有るとはいえ、まだ成功するか分からないのだ。心が痛いから止めて欲しい。

「あんまり今回の事、期待しないでくださいね。僕達の知人に連絡を取って、可能であれば手の内を明かす。不可能であれば諦めてもらいます。」

僕がそう言うと英雄が、

「それじゃあ今日の所は宿に戻らせてもらうぞ。イヴァンさん、この後に予定が無ければ俺達を宿まで案内していただけませんか?あまり道に自信が無くて・・・・夜に女連れで迷いたくありません。」

その言葉にイヴァンさんは頷き僕達は腰を上げ、ギルドを後にした。



「で、俺にいったい何をさせたいんだ?まさか本当に道が?」

イヴァンさんは外に出ると僕達に声を掛ける。

「それも本当ですが、その前に彼女の妹に会わせて頂きたいのです。今の彼女たちに案内を頼むと、不安にさせてしまいそうですから。」

そう英雄が言うとイヴァンは頷く。

「わかった、しかし今の時間は薬で眠っているぞ?」

僕は構わないと言うと、アドリアーナさんの所へと案内してもらった。



「これは・・・・」

英雄が顔を歪めて呟く。

僕も全く同じ気持ちだった。

イヴァンさんの案内により僕達はギルドの医療施設に来ていた。こんな時間だが流石イヴァンさん顔パスだ。

そしてアドリアーナの病室でベッドに眠る彼女を見て僕達は愕然とした。

本当に痩せ細っていたのだ。まるで現代の広告などで見た栄養失調に陥った患者の様に。それ以上に気になるのは所々肌に広がる黒い模様だった。イヴァンさんの話ではこれが呪いらしい。

「ねえ、英雄、反対する?」

「元々俺は反対してねえよ。俺が怒っていたのはお前が危険に会う事についてだし、手伝うにしろ本当に覚悟は出来ているのか確認したかっただけだ。いつも俺がいる訳じゃないんだ、今回の様に格上が来たら一発アウトだ。良いんだな?」

僕が力強く頷くのを見ると英雄は僕の頭を撫でながら

「ありがとう。」

と言った。

そう、僕も英雄もなれるのであればヒーローになりたいのだ。アドリアーナさんの話をする時の彼女たちは本気で心配して、おそらく間に合わないだろうという事をどこかで覚悟していた。

そんな彼女たちは悪人ではない。方法に問題はあったが思いつめた故の結果であり、僕達も同じ状況になったらと考えた時、十分に理解できる内容だった。

そんな人達が助けられるかも知れないのであれば、青臭かろうが、これからが危険になろうが、僕達は助けたいと思っていた。


今回の事で2人とも確信したのだ。【トラブルメーカー】は上手く使えば『零れ落ちる命』と言うトラブルに遭遇して、無理矢理に救えるかもしれないと。

人に言えない形で寿命まで長々と生きるよりは、短命でも人に誇って生きて行きたい。

これから先の経験でこの信条は変わるかもしれないが、変わるまでは、精一杯やってやる。


英雄と強く頷いた僕達はイヴァンさんに宿へと送ってもらった。店主のマルコヴナさんから部屋の鍵を受け取り、防音を聞くとイヴァンさんが昔酔って暴れた時でもバッチリだった様なので、僕達はすぐに部屋へと戻り鍵を閉めてマレフィさんへ連絡を取る事にした。

インチキに思えるかもしれないが、知った事か。人の命がかかってるんだ、一寸やそっとで諦められるか!!

僕達が置いたままにしていたリュックからそれぞれ青と赤の石を取り出すと、二つは光を放っていた。(青は英雄専用で、赤は僕専用だ。他の人は使えないらしい。)

「どうやらマレフィさんはずっと見ていたようだな。」

「今は助かるよ。1から説明するのも大変だからね。」

そう言って二人で魔力を通すと、空中に2つの窓が現れた。どうやらテレビ電話方式の様で片方は何も映らず、もう片方にはマレフィさんが難しい顔をして映っていた。

「話は全部聞いていたよ。というか君達が危なくなった辺りからずっと見ていたからね。単刀直入に言うと、簡単に助ける方法はあるけど、『方法を聞いたけど、やはり彼女の体力の関係で無理だった』と言って手を引くべきよ。理由は簡単で、あの子を助けると遊馬君はこれから激動の中心で生きる事になる。勿論関係者の英雄君もね。はっきり言って2人で生きて行ける確率はかなり低いわ。

あの子たちが話していた生命族と言うのは遊馬君の持つ【神の器の】下位互換なの。【神の器】を持つ者達の血がどんどん薄くなり、生命族となったのね。まあ、あの頃にはどちらもいたのだけど、当時は魔法がまだ今ほど発達していない事もあって、生命族には『効果の高い個体と、低い個体がいる』ぐらいの区別でしかなかったわ。だからアデリーナ達の生命族と言う判断はある意味正しいのよ。

そして貴女はこの世界で唯一の個体であり、その効果は間違いなく史上最高だから、追う人種はいくらでもいる。だから私は反対よ。」

僕と英雄はお互いを見て口を開く。

「今更止まれないよね。」

「ああ。こんな大切な事なんだ。命を掛ける価値はあると思ってるよ。

遊馬、俺はこれから先お前を守れない事が間違いなく出てくる。もしお前が死んだり実験材料になったりしたら今日この時の判断を一生後悔すると思う。

それでも俺は止まるべきではないと思うんだ。だから今のうちに言っておく。

俺の命の事は気にするな。好きで付いて来て、自分から選んだんだ。いざ俺が殺される瞬間や、お前を失う瞬間が来た時に泣き喚いて後悔するだろうけど、異世界にまで来たんだ。格好良く好きな事をやろうぜ。」

英雄はニッと笑って僕に言う。本当にこいつは・・・・僕が欲しいと思った時に欲しい言葉を言ってくれる。

「ありがとう。僕も全く同じ考えだよ。後悔するまでやってみても良いよね。ごめん、僕と一緒に地獄に付き合って。」

そう言って英雄に微笑むと、彼はしっかりと頷いてくれた。

「あー、もう、本当に馬鹿なんだからこの子たちは・・・・でも、そういう選択をするからこそ私達神々は君達を選んだのだけどね。もし自分たちで抱えきれなかったら私達に当たり散らすのもアリだって覚えておいてね。

それじゃあ方法なんだけど、本当に簡単よ。遊馬君の血を混ぜた解呪薬を作ってもらうだけ。それを1日1回定期的に飲ませれば治るわ。後は毎日ご飯を食べてもらって体力を回復させるだけ。それだけ?って思うかもしれないけど、これが一番早い上に効果が高いの。遊馬君の体には遊びが一切なく、それだけの力を秘めているという事よ。」

僕達は何とかなりそうな条件だと知ると喜ぶ。確かに予想より楽だが、時間の無い今ならお手軽な事に越したことは無い。

「あとは少しでも情報の流出を遅らせる様に信頼できる錬金術師か薬師を探す事ね。それはイヴァンに頼むといいわ。

それと遊馬君の血は劇薬だから、飲ませる量が多すぎると相手は間違いなく死ぬから気を付けて。服用の際は1日1本を徹底させる事。それと製薬の時に使う一回の分量が分かるように今から小瓶を送るわ。それの内線まで血を入れて頂戴。」

そう言うと床の一部が光り、箱に入った小瓶が出てきた。数は6つ。

それを受け取ると、今まで何も映っていなかったもう1つの窓に、瓶に血を入れる動画が流れ出した。

僕は腰につけていたナイフを取出し、手首に当てようとした所でマレフィさんに怒られた。

「こら、落ち着きなさい!! まだ貴女回復魔法覚えてないでしょうが!! それにナイフはしっかりと熱で消毒しなさい!!」

僕はその言葉にハッとなり、隣で見ていた英雄は事実に気が付き青い顔になる。

「ルルとのリンクで自然治癒力が上昇しているから両方大丈夫でしょうけど、横着しないで出来る事はしっかりとやりなさい。

輝いて死んだなら兎も角、こういうミスでコロッと死んだら魂を回収した後が酷いわよ?」

その言葉に僕は背筋が寒くなる。絶対にこの人なら躊躇い無くやる。笑顔がすっごく怖い。

僕は鞄にしまっていた魔法入門書の回復系統に関する欄を開き一番最初の魔法を見る。

やはり回復の入門と言えばこれだろう。本を覗きこむ英雄と一緒にクスリと笑った。



『ヒール!!』

2人で体に魔力を通し、何度も練習すると、僕は30分で成功した。実際に治した訳では無いが、確実に発動したという感触が分かるのだ。練習の度に切り傷などが必要かと思ったのだがそんなことは無かった。

マレフィさんは練習方法を伝えると『ヒール』だけ終わったら呼ぶように言って電話(?)を切った。

まだ練習する英雄を見ると、こっちは気にするなと言うので僕はマレフィさんへと赤い石で連絡を取った。

「はーい、もしもし。」

今度は枠が一つだけ表示されてマレフィさんが映る。

「あ、マレフィさん、お疲れ様です。遊馬です。」

「お、あれからそっちの時間だと・・・・30分ぐらいか~さすがに適性があると早いね。お疲れ様。どうする?このまま採血を始めるなら手伝うよ?」

僕はそれを聞いて首を傾げる。英雄も練習を中断して此方を見ていた。

「うん、冷静に考えてね。そこって宿屋だよね? 床を血で汚すつもりかな? 勢い良くやったら吹き出してして大変な事になるよ。それに煮沸消毒するなら水と炎の練習が必要だよね? そこでするの?」

僕は画面からそっと目を逸らした。

「ふふふ、あんまりお姉さんを心配させると~ドジっ娘の称号を送っちゃうぞ?」

全身に悪寒が走る。これ以上色物など必要あるか!!

僕は英雄を見ると、彼も忘れていたのだろう、さっと顔を背けやがった。

「・・・・ごめんなさい。」

僕が謝ると彼女は自分を抱いて悶える。

「そうね、ドジっ娘回避の為に条件が有るわ。」

僕は嫌な予感がしたが、諦める。状況が状況だし効率を優先しよう。

「これからは、私の事を『お姉ちゃん』って呼ぶこと。

『ねえねえ』でも『フィー姉』でも好きなように姉と呼んで!!」


「英雄、今すぐ武神様に連絡して。マレフィさんにセクハラされたって。」

「ああ、待ってろ。」

「残念ね。今日はノー残業デーで誰も残ってないわよ。私は自宅で受けているから平気なの。さあ、観念しなさい。人の弱みに付け込むのもまた戦略だと思いなさい。」

僕は観念して言った。

「さすがマレフィ様。このままでは愚鈍で矮小な私達が目を覆うような失敗を犯してしまう所を、慈悲深き貴女様はその偉大な叡智で我々を―」

「ストーーーーップ!! なんかそれヤダ、余所余所しいどころか何の愛着も感じないから絶対ダメ!! 様もさんに戻して!! そんな遊馬君可愛くない!!」

「なるほどさすが女神の教えだな。確かに精神攻撃は有効そうだ。」

そう英雄が笑う。

「分かったわよもう、今回は私が悪かったわよ。はぁ・・・・遊馬君、採血の準備はもういいの?」

彼女は今までの冗談を言う雰囲気ではなくなっていた。

僕も英雄も何となく気が付いた。自分たちに余裕が無くなっている事に。この人はわざと馬鹿をやって肩の力を抜かせたのだ。悔しいが落ち着いた。

「ええ、お願いします。と言っても、どうするのですか? 瓶はこちらにありますよ?」

僕が首を傾げるといきなり瓶の時のように床が光り出し、そこからマネキンが現れた。

それがこちらに一歩近づくが、正直怖い。と言うか僕はそれに合わせて一歩引いた。

「待って待って、その子は私が遠隔操作してるのよ。」

僕はおろか英雄までマレフィさんに疑いの目を向ける。

「貴方達その世界に着いてまだ初日でしょうが!! このレベルの厄介事を連れてくるなんて予想できる訳無いでしょう!! はぁ、その子はまだ製作途中で、本来なら1週間ほどで作り上げる予定だったのを、魔法の練習中に急遽動けるようにしたのよ。」

そう教えてくれる。

「それじゃあやりますか。」

マレフィさんの言葉に僕達は頷き、行動を始めた。


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