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第一章.1

 僕こと鈴木遊馬すずき あすまは男である。だが、身長は156㎝で体系は、細見な上に肌は何故か白く、トドメとばかりに顔付が中性どころか女顔であった。それが嫌で一度、髪を短くしてみたのだが顔型の為、致命的に似合わず、(ロボット好きの友人からはパ○フェクトソルジャーと言われた。)泣く泣くショートヘアにしていた。(髪質はすっごくサラサラです。)

 その為、学生時代は何度も男から告白やお手紙を貰う羽目となり、断っても「男の娘だから良いんだ!!」などと全力で愛を叫んでくる馬鹿共に押され、全身を襲う恐怖から完全な拒絶が出来ずに「これからもいい友達でいてね?」と引き攣った笑顔と涙目で言ってしまい、それを見た男がさらにファンとなるという究極の悪循環に陥っていた。

(この時ばかりは男子校でなくて本当に良かったと自室でお尻を押さえながら泣いたものだ。)


 さて、そんな色々と残念な僕だが、昔から家が隣同士で同級生の親友がいる。

名前は佐藤英雄さとう ひでおと言い、僕とは対照的に非常に男らしい奴だ。

身長185㎝で広い肩幅と熱い胸板を持ち、鍛えられた筋肉でがっしりと覆われている。顔はイケメン、頭は上の下、運動神経抜群という非常にうらやましい奴で、実際モテる。

 仲間内から「なんで脳筋じゃないんだよ!!」と怨嗟の声を向けられていたが、本人は「運動してる奴は脳も鍛えられるって本に書いてあってな」と言いながら勝ち誇った笑みを向けていた。

この時ばかりは長い付き合いの僕も怒りを覚えたものだ。

 だが、こいつはただのイケメンではない。非常に悔しく、いっその事呪いたいぐらい精神的にもイケメンなのだ。


 あれは高校生活2年目に入ってすぐの事だった。


どこかの馬鹿が声高らかに宣言したのが始まりで、そいつはニヒルに笑いながら言った。


「フ、俺たちも、もう2年目だ。先輩もいて後輩も出来た。所謂エロゲの主人公的な立場だ。そこで、そろそろ誰が一番、遊馬さんに似合うかを決める時が来たと思うんだ。」


この救いようのない馬鹿の発言を聞いた時僕は、アホらしくて溜息を吐いたのだが、周りの反応は違った。

ギラつくような視線を僕に向け、息は荒く、目は血走り、何故か中腰になっている男も数名いる。

もちろん女生徒も呪詛の様に何かつぶやきながらこちらを見ていた。

恐怖に竦む僕を他所に、この馬鹿は正々堂々を掲げ、こう続ける。


「この宣言を学校中に流せ!! そしてクラスの中ではなく、学校の中で、誰が、一番、彼女に相応しいのかを決めるのだ!!」


もう一度言うが僕は男だ彼女ではない。


で、こいつの馬鹿な宣言の後、目に何か危ない色を宿した者達が、


「「「 オオオオオォ!! 」」」


と雄叫びを上げて情報を拡散する事となった。


結果?あぁ、もう最悪だったよ。

今まで暖かな視線を向けて微笑み、色々と気にかけてくれた優しい先輩達(男)や、すれ違う時にまだ学校に慣れないのか、こちらを恥ずかしそうにチラチラと見ていた微笑ましい後輩達(雄)に、幾度となく被害者として名前が上がる僕を何度も弁護してくれた先生方(既婚者含む)が、まるで『この関係に二度と戻れなくても良いという覚悟』といった顔つきで続々と参加し、関係者の2/3が参加する大イベントとなった。この間わずか10分の出来事である。


勿論僕の意志は抜きだ。


 ちなみにイベントの内容は、校内に潜伏する僕を見つけアタックを仕掛けて、その返事次第で勝利となるというシンプルなもの。

 僕の静止など振り切り血走った目を向ける彼らに、心の底から恐怖を覚えた僕は本気で逃げなくちゃと考えていた。

涙目になった僕は同じクラスの親友である英雄に視線を向けると、彼は不機嫌そうに顔を歪めており、溜息を吐いてもう一度僕を見る。

英雄は、僕が困った時はいつも助けてくれる奴だっただけに、こいつのこの視線はさすがに堪えた。昔から何度も迷惑を掛けていた僕は、これ以上迷惑を掛けたらいけないと思い、ついに目から一滴が零れた所で決意した。

ちなみに僕の目から流れた雫を見たクラスメイトは息をのみ(数名は何故かベルトに手を掛けていた)英雄はギョッとしてこちらを見ていたが、意志の固まった僕に躊躇いは無い。


(ありがとう英雄、今まで頼り過ぎてごめん。これからは僕の力で何とかしてみせるよ。)


この決意を胸に僕は宣言した。


「ここまで進んだイベントだからね、今更言う事は何もないよ。僕だって男だ、正々堂々とかかってこい!!」


(言った! 言い切った!! どうせ告白されても断ればいいんだし、もうどうにでもなれ!!)


そう言って胸を張って宣言した僕は向けられる濁った視線を受けてようやく間違いに気がついた。


彼らのウンと言うまで放すつもりはない狂気に。


 ちなみに僕の言葉は非常に残念なことに、スマホのアプリを使って、全ての参加者へとリアルタイム(映像付き)で送信されていた。勿論涙を流したところからである。

全身を悪寒が走り、お尻に謎の震えが来て、僕は全力で逃げようとしたが、時既に遅く出入口を全て参加者に囲まれ、息を荒くしながら少しずつにじり寄ってくる狂人達から『逃がさん、お前だけは』という空気を感じ、胸に手を当て、震えながら後ろへ下がり壁に当たる。(ねえみんな、これって告白イベントだよね?)

もう逃げ場は後ろにある窓の外(2F)しかないと思い外を見ると、下には、いつ飛び降りても大丈夫と言った様に救護用の大型マットが準備してありその周りにもハイエナ共が集まっていた。


(何なんだよこの準備の良さと連携は!? 

それと、そのマット何処から持ってきたんだお前ら!!)


 驚愕する僕を他所に、誰かがいきなり僕の腰をつかんで引き寄せ、犯人の胸元に収まる。

目に涙を溜め、捕まった恐怖に震えながら恐る恐る上を向くと、そこには僕が良く知る親友の顔があった。

そして彼は勝ち誇ったような目で回りを見て、全員に聞こえるように静かに、そしてはっきりと言った。


「こいつは俺の、俺だけの男だ。今までも、これからもな。」


 僕を見てウィンクをする英雄を見て、僕は意図に気付き慌てて頷く。

それを見た(生中継有り)参加者たちは、この世の終わりの様な顔や、諦めきれないという顔、清々しい顔などをして出て行った。

なぜか一部の女性は頷きながら、今年の夏とか言ってたけど何の話だろう?


 この日この親友は、本来余裕で送れるはずの青春を当たり前のように棒に振り、友人である僕の大切な何かを救ったのだ。

今回の件で逆恨みや闇討ちが行われることも理解して。(実際何度も襲撃された)

 この精神的イケメンっぷりを見せながらこちらを見下ろして笑う彼を、僕は腕の中から見上げ、笑顔を向けた。

演技とは言え『俺の男』宣言は流石に恥ずかしく、頬が赤くなっていたと思う。

こいつも頬を赤くしてすぐに目線を逸らし、どちらからともなく離れる。

悔しいが僕は英雄に男として完敗し、その器の大きさに改めて尊敬の念を抱くことになる事件だった。


 ちなみに今回一肌脱いでくれたお礼は、これから毎日お弁当を作るという事で合意した。

何を隠そう僕の女子力は非常に高いのだ。

自分のお弁当のついでなど楽な物だったので、こいつからの提案は2つ返事で了承した。


 まあこの手作り弁当のせいで僕が休み時間に麻袋に入れられて空き教室に連れ込まれるなど様々な事件があったのだが、それは割愛しよう。


 そんなよく分からない高校生活も終わり、無事(?)に卒業した僕は実家の喫茶店で働き、英雄は近くの大学へと進んだ。

それから数年経ったが、僕達は昔と変わらない付き合いを続けている。

 今は英雄の部屋でお酒を飲みながら少し前のゲームで遊んでいた。

チョイスは僕だ。


「よし、こっちに狙いが来た!」


「助かった、回復終わったよ!」


「行くぞ!タイミングを合わせろ。」


「オッケー、これで止めだ。」


「「せーの、ファイア!!」」


画面で暴れ回る大きな蟹のボスモンスターに火魔法を重ねて止めを刺す。


「ほんと、面白いのに惜しいよなぁ、このゲーム。」


イベントが一息ついたところで英雄は悲しそうな顔でコントローラーとなる携帯ゲーム機を見る。


「これさえなければ1.5倍は売れてもおかしくなかったと僕は未だに信じているよ。」


 今回持ってきたゲームはキラータイトルのスピンオフ作品であるアクションRPGであり、協力プレイでストーリーを進める事が出来るものである。

ネットの評価も高く、楽譜にはプレミア価格が付くほどだ。

だが、このゲームには唯一にして致命的な欠陥があった。

それは、協力するためには据置き機のコントローラーではなく、携帯ゲーム機とそれをつなぐ特殊なコードが必要なのだ。

当時子供であった僕らは泣く泣く協力プレイを諦め、ソロで遊んでいたが、システムをよく理解していないために2人とも途中で進めなくなってしまったのはいい思い出である。

これはゲーム好きな僕が中古ショップで見つけ、懐かしさから捕まえて来たものだった。



「あの頃は僕がアドバン○を持っていなくて諦めたんだよなぁ、攻略本も買ったし、今度こそクリアしてみせるぞ。」


「遊馬!予定通り2人とも明日は休みだ、今度こそ俺たちの手でこれをクリアしよう。子供時代の無念を晴らす!!」


 強く頷き合う僕たちは、子供時代にあまり感じなかったステージ開始の語りに、言葉に出来ない何かを感じながらゲームを進めて行った。



「あぁ、しまったやられた!!」


「え、俺蘇生できないぞ!?」


「運命?これが運命だというのか!!」


「エインフェリ○にでもなるつも、あっ! くっそぉ駄目か」


 英雄のキャラがモンスターに蹂躙されるのを見て僕たちは笑いあっていた。

途中僕がコントローラーを投げそうになったりもしたが、(○ドバンスが大変なことになるので絶対に止めましょう。)いい感じで進んでいて、今回の全滅を機に電源を切り休憩にする。

僕は立ち上がり、勝手知ったる英雄の家で昼食を作ることにした。


「さて、そろそろお昼にしようか。何か食べたいのがある?」


「ん?何でもいいぞ?」


「それが一番困るんだけどね。」


 そう言って僕は冷蔵庫の中から事前に買って来ていた食材を出して簡単に料理を作り2人で食べた。


「しかし家事の出来ない男を1人残して旅行に行くなんて薄情な両親だぜ。」


 英雄がぼやくのを見て僕は笑って答える。


「ちゃんと僕に面倒を見るように頼んでたからね。心配はしてるんじゃないかな?」


 英雄と僕の両親はなんと僕達を残して4人で温泉旅行に行ったのである。


「俺も砂蒸し温泉入ってみたかったのに」


「僕だってそうだよ。父さんたちに言ったら、二人は新婚旅行で行くと良い。なんて言うんだよ? 僕たちは男同士だし、仕事が実家の喫茶店だから出会いすら無くなったって言うのに・・・・」


 遠い目をする僕を英雄が複雑そうな顔で見てくる。


「英雄もせっかくの連休なんだから彼女に面倒見てもらえばいいのに。」


 僕が羨ましそうにじっとりとした視線で英雄を見るが、彼はばつが悪そうに視線を外す。


(そういえばこいつの浮いた話って全然聞かなかったな。新しい友達は何人か紹介してもらったけど・・・・)


「ねえ、英雄の彼女の話って全然聞かなかったけどさ、もしかして高校時代の俺のもの宣言が尾を引いてたりしないよね?」


 当時の先輩や後輩の中には彼と同じ大学に進んだ者も多かったので、尾ひれが付いた噂になって、大変な迷惑を掛けたのではないのだろうかと慌てて確認した。


「あ、それは大丈夫だ。確かにあの話は拡散されてたんだが、装飾され過ぎて全然違う話になってた。前に紹介した奴らがいるだろ?あいつらがお前を見て、それまでの俺の発言を統合した結果、俺の彼女説はデマだって流してくれたから。

まあ、その、つまり、今フリーなのは俺のせいだから気にしなくていいぞ。

むしろ、面倒な女はあいつらと撮ったお前の写真で追い払ったから逆に助かったと思ってる。何が役に立つかホント分からないもんだよ。」


遠い目をする英雄に僕は苦笑していた。

 ちなみにその新しい友人たちとゲームで対戦をして、その時の敗者はコスプレをして写真を撮られる事となった。この時大柄な者はピチピチで凄まじい犯罪臭がして、小柄な僕はダボダボになり、やはり犯罪臭がした。参加者全員から写真を撮られる時、萌え袖な上に手のひらで目を隠した時はあまりのアウトっぷりに全員が一度動きを止めたほどだ。

全員に罰ゲームが回ったとはいえ、辛い記憶に違いは無いので僕は話を変えることにする。


「まあお前がその気になったら彼女ぐらいすぐに出来るか。よーし、洗い物が終わったらゲームの続きを・・・・・え?なにこれ!?」


 台所に歩いて行った僕の足元に急に光が浮かび上がる。居間で寛いでいた英雄が異変に気がつき、慌てて立ち上がり僕の腕を掴もうとするが、その手は僕をすり抜けて空を切る。


「「 !? 」」


 僕たち二人がその現象に驚愕した後、僕の体は少しずつ薄くなり、足元からテレビの砂嵐の様に霧散していく。

僕はそれを見て頭が真っ白になりながら、英雄がこちらに踏み込もうとするのを手で制する。


「馬鹿!! 無暗に近寄るなって、さっきの見ただろ? たぶん今の僕には触れられない!! お前は離れてろ!!」


「ふざけんな!! いくら異常事態とは言え、お前を放っておけるか!!」


 英雄がもう一度、今度は僕の体を掴もうとするが、その前に僕の砂嵐化は頭まで進み、何も見えず、聞こえなくなる。


「――――!!」


 何となくだけど、あいつが何かを言ってる気がする。お前だけでも無事でいてくれよ?

そうぼんやりと考えながら僕の意識は途切れた。


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