存在
今自分がこの世に存在している意味がないと思う人は何人いるのだろう。
何人??いや何万人といるに違いない。
もしこの疑問符が自分にもあると思うなら少しの間、お付き合いいただきたい。
この少年は普通の家庭に育ち、普通に暮らしていた。
しかし、この少年は今、自ら命を絶とうとしている。
若干、まだ20歳という若さだ。
彼自身も何で自殺をしようとしているかはわからい。
ただ茫然と生きているのに疲れたそうだ。
私は近寄り、彼の顔を伺った。
人は死の直前はどんな顔をするものか??誰もが疑問を持つと思う。
私は何万人とその顔を見てきた。
はたしてこの少年はどんな顔をするのか?
興味本位で顔を覗き込んだ。
彼は普通だった。
涙ひとつ流さず立っている。
何も感情が無いみたいだ。
ここで思う。
彼はどんな人生を送ってきたのか。
見てみたい。
ただ、そんな思いがした。
その時、少年の目が私を見つめた。
見えるのだろうか・・・?
いや、見えるはずがない。彼は大きく深呼吸をした。
大きく息を吸い込み、そして目を閉じた。その瞬間、落ちた。
私は思う。
人が死ぬというのはこんなにもあっという間にも終わってしまうのか。
あたりは赤い色がにじみ、私はただ上から見つめるだけだった。
鈍い音に気付いた住民たちが騒ぎはじめ、群がっている。
誰かが、携帯で救急車を呼ぼうとしている。
懸命に彼に呼びかける人もいる。
もうすぐだろう。
彼は死にそしてこちらにやってくる。
雨が降ってきた。彼の死を偲んでだろう。
私はいつもの様に彼についていった。
病院についた時にはもう意識もなく、慌てて来た両親が彼の枕元で泣いている。
その時だった。
彼が私の隣に現れた。
「こんにちは。」と平然と挨拶をする彼。
「こんにちは。」と返す私。
彼は下を向き眺め
「僕、死んだんだよね?」
と私に聞いてきた。
人は死んだときやはり確認する癖があるらしい。ここで「違いますよ。」なんて言えるわけも
ない。
「はい。あなたは死にました。」
彼に私は告げた。
でもその答えに、彼は別に普通で、何ともない顔で私を見つめ直した。
「そっか・・・。」
彼は少し悲しげな顔をしていた。
何でだろう。確かに彼は自ら命を絶ち、さっきまで平然としていたはずだ。
私は不思議に思った。
「・・・・?だってあなた死にたくて死んだんでしょ??」
「・・・・・」
黙る彼。
変な質問をしてしまったな。と後悔をしていると、
「僕、本当は・・・・死にたくなかった・・。」
「え、じゃぁ何で、自殺なんかしたのさ。」
「だって生きていても意味がないような気がして・・・もしかしたら、一回リセットすれば
違う人生が楽しめるかな・・・っておもって・・・」
リセット・・・・。
この言葉は、今ゲーム社会に生きている子供達全員が知っている言葉。
ゲームの主人公が死んでも、生きている動物が死んでも、命の重さをリセットという一言で表
現してしまう。現代を生きる大人から生まれた言葉だ。
人の死をみとる私にはわからない言葉だ。人の死はそれほど軽く無い。
私は呆れて
「あのね、命をリセットなんて出来ないから。」
何も言えないみたいだ・・彼はうつむいたままだった。
その姿がなんだか本当に寂しそうで、このままでは彼を見送る事も出来ない。
私はつい
「何かやり残した事でもあるの??」と聞いてみた。
「えっ・・・?」
彼は驚いた様子だった。
「えっじゃないよ。そんな顔されてたら見送ることもできないよ。」
彼はキョトンとした顔をしている。
「見送る??」
「そう!死んだあなたを見送るのが私の仕事なの。だからそんな顔で行かれたら私が怒られるのよ。」
「そんな顔って言われても・・・。」
「でも一応、やり残したことがあると成仏は簡単にはできないからね。」
あの世の規約書をパラパラ見ながら私はちらっと彼を見た。
「あるんでしょ、やり残した事。」
彼は小さい声でいった。
「うん・・・・・」
やっぱり。と思った私。でなきゃ、死んだあとあんな顔をするはずがない。
規約その一、この世に未練あるもの成仏出来ない。
やはり・・・・。彼の未練をかなえさせるしかないみたいだ。
私は襟を正して彼を見下ろしながら言った。
「さて、困った・・・。あなたは実際まだ未練があるようなのであの世に行くことができないようです・・。」
「はい・・・」
「ここで提案ですが、あなたに残された時間は肉体がなくなるまでの3日。あなたは残された時
間を振り返りますか??それとも未練を叶えるために肉体に戻り、3日後の死を受け入れますか??」
この質問も酷だな。と私は思う。
どっちにしろ死ぬ。という事実に変わりはない。
でもそれが真実。甘いことは言えない。
もしこれが自分だったらどっちも選ばないだろう。
でも生憎、私は選ぶこともできないから別に関係もないのだが。
彼は相当迷っているみたいだ。
それもそうだろう。死ぬという事実には変わりはないのだから。
数時間後、彼は決断を出した。
「わかりました。では今からあなたに3日間の時間を差し上げます。」
そう、彼は選んだ。
「ただし時間になり次第あなたの命は消滅をします。よろしいのですね?」
「はい・・・。」
生き返り、現世に帰ることを・・・。