依頼人スコープアイ
お久しぶりです。都合が悪く前回からかなり経ちましたがやっとできました。もうひとつの方も書いている途中なのですが、ネタを考えながら書き進めているためまだまだ時間がかかりそうです。
よう。久しぶり。また会ったなお前ら。元気か?
俺は超絶疲れた!
だってセイバーを捕まえろだぜ!?捕まえられるはずないじゃん‼
どんだけ探したと思う!?
廃墟に裏通りに下水道!!お陰様で外套が泥まみれのヘドロまみれだよ‼
はぁ、仕事無いからって依頼を受けて早一週間過ぎました。成果はゼロでありますミラ大佐!
「はぁ、そんな眼でこっちを見ないで頂戴」
ミラ様は俺と同様の溜め息を吐く。
本人も分かっているんだろう。だがしかし、こちらから言ってやらねばなるまい!
「いや、すみません……。ですがですね。流石に一週間も成果が無いのはどうかと。ってか諦めた方が良くね?」
そう言った途端凄く鋭い視線が俺を貫いた。
「駄目よ。もう後が無いの。彼を捕まえて話をつけないと」
こ、怖いっすお姉さん!
「何で?前から思ってたけどセイバーとはどういう関係な訳?」
「貴方には関係無いわ」
ミラは冷たく言い放つ。顔を俺から背け、髪をふわりと揺らし、仄かに良い香りが鼻を掠める。その仕草は妙に魅力的だ。
一応こっちは付き合ってやってる側ですよ~?言ったら間違いなく殺されるけど。
「まぁ、答えたくないならいいんだけどさ。……ん?」
とりあえずさっき買ったダブルチーズバーガーでも食おうかと袋包みを開放しようとしたがその時、俺の股間付近で固いものが微動していた!
「こ、これはまさか‼?」
まさかこんな時にやって来るとは思わなかったぞ!
俺は確認しようと震える手でソレに手を伸ばしーー!
携帯電話を取り出した。
おい、ここで変な想像した奴、腕立て五十回だ。その場伏せ‼
……さて、腕立てしている読者以外は先に進もうか。ごめんな?意味不明な演出して。
ディスプレイに表示されている名前は、ドロシーか。まぁ俺に電話してくる奴なんてアイツと取り立て屋くらいなもんだけどな。
「おう、ドロシー。どうした?」
『レイモンドさん、大変です‼』
電話に出ると、かなり慌てた様子のドロシーが電話越しに叫んだ。
「ドロシーちゃん、耳痛いっす。もうちょっと静かにお話し願います」
『それどころじゃないですよ‼』
それどころじゃないって。おいおい、流石に様子がおかしい。マジで何が起きたんだ?ここは真剣に聞かなければなるまい。
「どうしたんだよ?そんな慌てるほどの内容なのか?」
『依頼が来ました!』
「それは大事件だ!すぐ事務所に戻る!」
「な、ジャック!?」
ミラは驚いた顔をしてこっちを見る。
「ごめん、ミラちゃん!今依頼が来たらしいから今日はここまでで宜しく‼」
「ちょっとジャック‼」
ミラ様は突然去ろうとする俺を捕まえようと手を伸ばすが、颯爽と翔る俺には届かずそのまま遠ざかってしまう。
ミラちゃんごめんよ~!こっちは生活が懸かってるんだ!
■
「で、貴方がジャック・ザ・ファイアで間違いないですか?」
何かとんでもなく面倒臭そうな奴が訪ねてきたようです。
まずフルフェイスの白マスクを被って更にその上に帽子を被ってる。しかも右目に眼帯、もう片方にレンズが数個付いてる機械を取り付けていて、何か出で立ちだけでも探偵業やってるヒーローだなぁって印象を受ける。だって、コート着てるし襟たててるし。
「そうです。物好きな貴方の依頼に堪えてあげますジャックで~す」
あぁ、ものっ凄いテンション下がって棒読みになってる。依頼に来るならミラ様くらい美人でミラちゃんより面倒臭くない依頼人が良かったなー。
「はは、面白い方だ。」
何がですか~?
「レイモンドさん、依頼人の前でそんな態度をとらないで下さい」
そう言われてもな~。
ドロシーは男にコーヒーを差し出し、男はそれを受け取る。
まぁいいや。取り敢えず依頼を聴こうじゃないか。
「で、何を依頼しに来たんだ?あんた、見るからにヒーローじゃないか。ランク外の俺に何をさせたいんだ?ってかまず帽子取れや室内だぞボケ!」
「おっと、それは失礼」
男は帽子を取り、机の上に乗せる。ってマスクは取らねぇのか!コーヒー受け取ったんじゃないのか!?それで飲めるのか‼
「私はクリス・C・テニスン。貴方の言う通り、ヒーローで探偵業を営んでいます。ヒーロー名はスコープアイ。ランクは四千二十三位です」
何だよスコープアイって。そのままじゃねぇか。ってか順位まで言うとかランク外の俺を馬鹿にしてんのかコンチクショウ。
クリスと名乗った男は懐から名刺を取り出し、こちらに差し出す。
名刺を作るとか凝ったもんだな。登録証だけで良いだろうに。
あ、因みにだけど、登録証ってのがないとヒーローって認められないんだ。何て言うか、免許証みたいな物だ。ランクとかもこれに記録されてて、もちろん俺のはランク外って記録されてる。月一回、ギルドだとかで更新しなきゃいけないんだが、俺みたいに仕事が来ない奴には意味無いんだよな。
「最近、私はとある調査をしていまして」
「ははぁ、その調査を手伝って欲しいって話か」
「……ええ、その通りです」
クリスは俺の洞察に驚いた様子を見せた。ははあ‼どうだ!驚いたか俺の洞察力‼読者様もビックリだろ!?
「で、何の調査をしてるんだ?まさかセイバーとか言わねえだろうな?」
「ええ、そうです」
は~。帰って貰おうかな~。
「ですが貴方に手伝って貰うのは別の調査です」
前言撤回の余地あり!
「で、その調査って何だ!?」
「テンションがコロコロ変わりますね」
クリスは苦笑して呟き、マスクを鼻のてっぺんまで上げ、コーヒーを一口飲む。
こりゃ驚いた。こいつマスクの下が傷だらけだ。それも手術痕みたいなもん。
俺の様子を見たせいか、クリスはカップを机に置く。
「……驚きましたか?」
「うん、驚いた。だが説明は後で聞くから取り敢えず依頼内容を言ってくれ」
「フフ、そうですね。では本題に入りましょう」
こいつが気になる読者様には悪いが俺は焦らされるのが嫌いなんだ。しかもこいつの傷については大体予想付いてる。だから聞いても「ああ、やっぱりね」位にしかならん。という訳でまた後でな。
「私が今調査しているのは、この街で暗躍している秘密結社についてです」
秘密結社?何それ、どこぞの『ヒ○ラ』かなにか?ハイル、○ドラ!
おっと、口が滑っちまった。
「その秘密結社は『ブラッドファング』と名乗り、まだ公にされていませんがヒーローが十人殺されています」
「ブ、ゲホッ、ゲホッ‼」
クリスの爆弾発言にちょうど自分のコーヒーを飲んでいたドロシーが噎せた。
「それ大問題じゃないですか!?公にされていないっておかしくないですか!?」
「このアメリカには約二万人のヒーローが居ます。それに、事件事故によるヒーローの死も多々あります。それを加味すれば、公にするには少ない数値です」
「む……」
ドロシーちゃん撃沈!スコープアイ君も容赦ないね~。
クリスは話を続ける。
「ブラッドファングはヒーローを殺す度に、牙が描かれたステッカーを現場に残しています」
クリスは手持ちの鞄から十枚の写真を取り出し、俺に見せた。
十人のヒーローの殺人現場と白い牙のステッカーが写っている。
このステッカーの柄、何これ?白インクをただ縦に何度か垂らしただけって感じじゃねぇか。デザイナーもテキトーだな。
……あれ?ドロシーちゃん、何でそんな青ざめてるの?死体がそんなにショックでしたか?俺と一緒に行動してるからこいつ死体とか見慣れてる筈なんだけどな?
「これ、上級ヒーローまで殺されてるじゃないですか‼」
え、マジで?
俺は十枚の写真を確かめる。
「マジかよ、こいつらランク入りしてる奴ばっかじゃん」
「はい。その事から政府やギルドからも危険視されています」
は~、恐ぇ。
「政府から危険視されてるって事は結構調べが着いてるのか?」
「いいえ。彼らついての情報は今のところ多くありません」
政府も役に立たねぇな。
「そこで私は貴方にこのブラッドファングについて調べて欲しいのです」
「嘘、ここで俺の出番なの?それ凄く面倒臭そう」
クリスは鞄から依頼書を取り出し、机に提示する。そこには依頼の内容とランクが記されている。用意周到だな。
「もちろん彼らの全てを調べて欲しいと言うわけではありません。調べて欲しいのは彼らのリーダーが誰かと言うことです」
そんな事まで分からなかったのかよ。マジで政府は何やってるの?
「この依頼のランクはC。大事件と呼ばれ始めるクラスですが、貴方なら調べられる筈です」
クリスは確固たる根拠を持ってるのか、自信持って俺に言う。
「何で?俺ランク外だぜ?Cランクなんて低くてもランク入りしてる奴じゃねぇと駄目じゃん」
「この一月の間、貴方について調べてさせて貰いました」
「は?嘘だろ?」
「レイモンド=ベルロイド。アメリカ、アラスカ州生まれ。今年で二十八歳。高校には通わず実家の飲食店で働いていた。しかし両親が流行り病で他界したため実家を離れる。ヒーロー認定を受けたのは十年前。場所はこのシンセンスシティ。当初はパートナーが居たそうですがどういうわけかヒーロー名、本名等の個人情報はほとんど情報が入りませんでした」
うわ、スゲー。大体あってる。最後は「え?」って思うけど。
「今まで受けた依頼は現在受けているセイバー探しを除き最高はBまで。さらにキメラでないにも関わらず八年前の一件を除き全てを完遂している。しかし受けた依頼量が少ない為に未だランク外に腰を落ち着けている」
「……」
「以上の事から、私は貴方の実力は相当なものだと思っています。さらにランク外なのでブラッドファングに眼をつけられる可能性も低い。だから私は貴方に依頼しているのです」
クリスはペンを取り出し依頼書の横に置き、人差し指でトントンと署名欄を叩く。
「セイバー探しで忙しいと思いますが、どうか引き受けてくれませんか?」
クリスは頭を下げ、スコープ越しでも分かる程の真剣な眼差しを俺に向けた。