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ホワイトセイバー  作者: 藤原明日來
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セイバー探し

俺は今、とんでもなく面倒な依頼を受けてる。

何の依頼かは前回の話観りゃ分かるだろ?セイバー探しだよ。

依頼人も物好きだよな。セイバーを探したいとか。しかも「私と一緒に」だぜ?同行するんだぜ?どうかしてるぜ。あいつを探すのは警察だけで十分だっつうの!

ってかギルドもどんだけランク上げてるんだよ。Sランクだと!?冗談!いくらセイバーでもたかが人探しにSは付け過ぎだ!

だいたいよく俺みたいなランク外のヒーローなんかに依頼しようとか思ったよな。って言うか上位ヒーローでも無理だった依頼をランク外に依頼すんなっての!


「前金貰っている身でそんなに愚痴らないで下さい。それにこの依頼を受けなかったら本当に死活問題なんですよ?」


と言ったのは助手のドロシーだ。

ハハ!このガキ、痛い所を突いた積もりか?そんな言葉、俺の左胸しか刺せてねぇぞ。……グハッ!

俺の体が床に崩れ落ちた。

「何をしているのジャックは?」

おぅ、俺を心配してくれるのかい、我が愛しのミラちゃん……?

「前金10000ドルも頂いたくせに仕事に愚痴っていただけですよ」

とドロシーが依頼人のミラちゃんにあること無いこと言いやがる。……おい何だよ読者!そんな「うわ~コイツクズだ~」って眼で読んでんじゃねぇ!

「そう。……止めても良いのよ?」

グハァ!止めが来た!?

「い、いえ、喜んで依頼を続けさせて頂きます……」

「宜しく」

クソゥ、悪魔共め……!ミラの方は大人の色気もプラスされてるから困る。


今回の依頼、セイバー捜索は前金10000ドル、そして成功報酬40000ドルの総額50000ドルと言う多額の報酬で行われている。もちろん俺らが決めたんじゃなくてミラちゃんが提示したものだ。ホントだよ?脅して請求したわけじゃ無いからな?……何今度は「コイツ面倒くせぇ~」とか言いたそうな顔してるんだよ!

それは置いておいてもどっからそんな額が出てきてるのかは知らねぇけど。


ところでここはとある廃ビル。不振人物がたまに目撃されるらしいのでセイバーが居るんじゃないかと目星をつけて捜索中だ。

まぁそんなに簡単じゃ無いだろうけどな。でも手がかりがあれば捜査するのがセオリーな訳で。

「ねぇ、ジャック」

真面目な声音でミラ様が俺を呼ぶ。俺も真面目に返事をした。

「何だい子猫ちゃん?」

俺が近づくと何故か小声で話し出した。

「あなた、気付いてる?」

「いや、周りを囲まれてる事なんてこれっぽっちも気付いてないよ?」

「そう。じゃあ教えてあげる。囲まれてるわよ」

「何ぃ!囲まれてるって!?」

えっと、読者さん?そんな「わざとらしい」とか言わないでくれます?


「ほう、とっくに気付かれていたか」


その声と共に俺らの周りに人だかりが出来る。

ほら、何か物騒な兄ちゃん達が出てきたじゃないか!

「アンタらこんな所で何の用だ?」

とリーダーらしき男が聞いてくる。

「えっと、その……人探しです」

あれぇ……俺もの凄く緊張してる。

「へぇ、それ、俺らの事じゃないよな?」

きゃあ!釘バットなんて持ってるんですけど!時代遅れだけど怖い!

「いえいえ違いますよまったくはい全然違いますですはいはい!」

「私たちはセイバーを探してるの。貴方達、何か知らない?」

あれ、ミラ様何その落ち着きぶり?ドロシーなんかその後ろに隠れてるってのに。って何で俺の後ろじゃないんだよ。俺そんなに信用ならんか。

「セイバー?知らねぇな。そうだ。アンタらヒーローかなんかだろ?特にそこのカボチャ頭は。なら『オモテナシ』しないとな?」

やばい。皆物騒なものを取り出した。凄い言いがかりみたいなもんで俺らを襲おうとしてるんですけど!

ってか何!?『オモテナシ』って!良くそんな海外のネタ知ってるな!だが、んなもんとっくの昔にすたれたネタだろ!

「だあクソ!二人とも伏せろ!」

俺はサブマシンガンを二つ取り出し、ぶっ放す!

ゴロツキの数はざっと数えて……五十!これくらいならこのサブマシンガンで十分やれる!

……ああ、でも、できるだけ殺さずに済ませないとな。殺すと警察とかがうるさいんだよな。最悪裁判とかなるし。

「テメェら!防げ!」

男が叫ぶと、何人か男が前に出て来る。

すると、半透明のバリアを張りやがった!

「嘘だろ、こいつらキメラかよ!?」

前言撤回!殺らなきゃ殺やられる!

キメラ共は銃弾を防ぎながらじりじり迫ってくる。しかもその後ろで銃打ってきてるし……。

うん。これダメだ。無理。逃げよう。

「ミラ!ドロシー!逃げるぞ!」

俺は外套の内側から煙幕弾を取り出して打ち出す。

弾は爆発するように煙を吐き出し、ドロシーを抱きかかえて逃げる。

「何やってるんですか!ヒーローのくせに逃げてどうするんですか!ロケットランチャーとか持ってるくせに!」

ドロシーは不満そうな顔して文句を言う。ってか殴ってくんじゃねえよ!落とすだろうが!

「五月蠅ぇ!戦略的撤退だよ!それにロケランなんかこんな所で使ってみろ!ビルが崩れて俺らは神に召される破目になるぞ!」

とにかく走り、階段を下り、で俺らは廃ビルの外まで出た。

「ふう、危なかったな」

取りあえず疲れたんでドロシーを降ろす。

「そうですね。……あれ、ミラさんは?」

とドロシーは周りをきょろきょろ見渡す。

「おいおい、何言ってんだ。ミラちゃんは一緒に逃げて来て……ない!?」

ゲ、もしかして逃げ遅れたのミラちゃん!?

「ちょっとレイモンドさん!依頼人を置いて来てどうするんですか!」

マズイな……。依頼主の安全(もちろん市民の安全もな)はヒーローの義務だ。このまま放っといたら裁判どころじゃ済まん!

「ドロシーは警察呼んでここで待ってろ!俺は助けに行ってくる!」

嗚呼、またあそこに戻らないといけないの?嫌になる。



一方、ミラは逃げ遅れ、男共に捕まっていた。手足を縛られ、地面に転がされている。

「あのヒーローも情けないモンだな。こんな良い女を置いて逃げるたぁな」

逃げ遅れたのはこの男たちの銃で足を撃たれたからだ。幸い掠めた程度で済んだが、しかし歩くと痛い。

「何をするつもり?」

「そうだな。ここにヒーローが来たって事は次期に警察も来るかも知れないしな」

男は思案するように歩きまわる。

「すぐに移動して、その後で楽しむか!」

男が言うと周囲から下卑た歓声が生まれる。

ミラは胸中で舌打ちした。心底嫌になる人間と言うのはこう言った奴らの事だろう。

「ン?何だその顔は?」

「……くたばれ豚共」

ミラはその嫌味な態度を隠さず、そう吐き捨てた。

「…………ハッ」

男はミラを睨み付け、笑う。

「ハ、クッハハハハハハ!」

そして笑いながらミラを蹴りつけた。

「――ッ!」

「これはヤり甲斐が有りそうな女だ!こんな状況だってのにまだ睨んできやがる!」

「……ッ、ァア!」

ミラは髪を掴まれ、持ち上げられる。目の前にはしゃがんだ男の醜く口元を歪ませた笑みがある。

「後でたっぷり嬲って犯して、ヒィヒィ言わせてやるよ」

男はミラを乱暴に投げ捨てる。そして部下を見渡し、声を張り上げた。

「おい、確か瞬間移動できる奴居たよな?」

「…………」

誰も返事をしない。

男はおかしいと思った。自分の部下の中には確かに瞬間移動できるキメラが居たはずなのだ。

「おい、居ないのか!?ここに来る時使っただろうが!」


「そいつはとっくに片付けたよ」


「――な!?」

部下の集団が二つに分かれる。開いた通路の先に、一人の男が立っていた。

白と青を基調としたスーツを身に纏った、頭に二つの突起を有し、胸にXマークが付いており、手には二刀の日本刀を持った男。

ミラは眼を大きく見開いた。

――ミラはあの男を知っている。

「ホワイトセイバー……!」

セイバーは刀を振り、近くに居た男の腕を切り落とし、血飛沫を上げた。

「――ぎゃああああああ!!」

直後に聞くのが嫌になるほど悲痛な悲鳴を上げ、男は地べたで悶える。

セイバーはもう一人近くに居た男を断ち切り、またも悲鳴と血が上がる。

「おい、何してる殺せ!」

リーダー格の男が悲鳴混じりの命令を下す。

そんな事部下たちはすでにやっている。しかし、

「ぐああああああああああ!!」

銃を持った相手を集中的に狙い、切り殺すセイバーには追い付かない。

「これでも食らえ!」

部下の一人がサブマシンガンを取り出し、引き金を引く。

しかし、セイバーは既に男の真後ろに回り込んでいた。

「……もう少し狙いを付けてから撃たないとお仲間に当たるぞ」

落ち着いた言動の直後セイバーは背中を切りつけ、返り血を浴びる。

「おい、キメラ!テメェらの出番だ!」

男の声と共に、数人の男達が前に出る。

そして、その内三人がセイバーに向かい走り出す。

一人は大柄で三本の腕を有しており、もう一人は獣の様な爪と牙をチラつかせ、最後の一人は音速でセイバーに襲い掛かる。

恐らく全員、身体変形型のキメラだ。


キメラには二つの分類がある。

一つは身体変形型。

その名の通り身体的に発達、もしくは変形したキメラの事だ。

セイバーに襲い掛かっている男達の内二人は解りやすい。腕を一本多く得た者と、獣の様に変化した男だ。もう一人は、身体能力が異常に発達したのだろう。地を蹴る力が強ければ高く跳べるし速く走れる。そう言った理屈だ。

もう一つの分類は情報操作型。

こちらは解りやすく言えばテレキネシスやテレポーテーション、火を操ったりする事ができるキメラの事を言う。例としては先程バリアを張った男達もこれに入る。


「死ねえぇ!」

音速の男が叫び、刃物でセイバーを襲う。

だが、直後に男の方が真っ二つになる。セイバーが構えていた刀に触れ、切れたのだ。

「――な、何…で……!?」

「お前みたいなキメラは身体能力が発達しているだけで動体視力は並みの人間と変わらないのが多い。自分の身体に脳が追い付いてないんだ。もう少し状況判断をしっかりしとくんだったな」

死体と化したキメラが地面に落ちる。

それを意に介さず、残りのキメラがセイバーに迫る。

「ハハァ!」

獣男が爪を伸ばしセイバーに切りかかる。

セイバーは避けるが獣男は続けて攻撃を仕掛ける。

その攻防を、三本腕の男が妨げる様に腕を振り下ろした。

床が振動する。

セイバーは後ろへ下がり、その合間に三本腕の一本を切り落とした。

「グアアアアアアアアアアア!」

「これでお揃いだな」

「…………フンッ!」

三本腕の男は苦悶の表情の中に僅かな笑みを浮かべた。その直後、男は咆哮を上げる。

「ウアアアアアアアアアアア!」

切り落とされた三本目の腕が血飛沫と共に生えた。

「へぇ、生えるのか」

「余所見してんじゃねえよ!」

感嘆の声を上げるセイバーの背後から獣男が襲い掛かる。

だが、セイバーは一瞥もせず刀で男の首を切り離す。

「奇襲する時は声を上げない事だ。でないと奇襲の意味が無い」

セイバーの助言はもう彼の耳には届いていない。

「さぁ、お前はどうする?来るか?逃げるか?」

セイバーは刀の切っ先を三本腕の男に向け徴発する。マスク越しでも余裕の表情を浮かべているのが分かる。

「なめんなあああああああああああ!」

男は憤慨し、セイバーに突進する。だが男の突進はあっさり躱され、後ろから縦に真っ二つにされた。

「簡単に挑発に乗るな。動きが単調になってるぞ」

言い終えたセイバーはこちらに顔を向ける。

「まだ続けるか?できればさっさと人質を解放したいんだがな」

リーダーの男は額に青筋を浮かべている。自分の部下をいとも簡単に切り伏せられているのだ。彼はかなり焦っているの違いない。

しかし、そもそももう手遅れだ。瞬間移動を使えるキメラはもう居ない。この建物から逃げる術はもう無く、次期に警察がやってくる。さらに、セイバーが目の前に立ちふさがっている。彼らは既に王手をかけられているのだ。

だが、その事に男は気づいていない。もう眼の前の事で頭が一杯なのだ。

「クソッ!殺れ!何が何でもその男を殺せ!」


男は地獄の門を叩いた。



「や、やめろ!止めてくれ!」

「もう遅い」

セイバーの刀で、男は悲鳴と共に血を流し倒れる。心臓を刺された男の顔にもう生気は感じられない。

結局、セイバーに傷を付けられる者は一人も居なかった。この場で生きているのはセイバーと捕らわれていたミラだけだ。

「ふぅ」

セイバーは一息吐いて、縛られ床に転がったままのミラに視線を向ける。

「とりあえず、今解放してやる」

「……ありがとう」

ミラに近づき、彼はしゃがみ込む。刀で縄を切ろうとするが、縄に触れる直前で刀が止まった。

「なぁ、開放する前に一つ良いか?」

「……何?」

「あんたが俺を探してるって言う女か?」

「そうよ」

「俺に何の用だ?」

「…………」

ミラは黙り込む。セイバーは「おいおい」と困ったように頭を掻く。

「俺は人が来る前に立ち去りたいんだ。本人が居る内に話しておいた方が良いぞ」

セイバーの言葉にミラは意を決して言った。

「ズリエル・ジンブラー」

「――っ!」

その名前はセイバーを硬直させた。その反応を見て、ミラは確信を得た様な表情を浮かべた。

「知ってるわよね?本人なんだから」

「……何を言ってる?」

「とぼけないで!」

ミラはかっとなり叫ぶ。

「十年前、突然家を飛び出して行方知れずになって、あの後母さん達どうなったと思ってるの!?貴方が家を飛び出したショックで八年前には病気で亡くなったのよ!?『後継ぎが居なくなった』って最期まで呟いて!」

「…………」

「両親が亡くなって私は養子に出されて、貴方は私の人生を滅茶苦茶にしたのよ!だから貴方をずっと探してきた!」

「……それで、俺をどうするつもりだ?」

「――!それは……!」

「そうやって言いたい事を言うだけなら、話は終了だな」

「な、待ちなさい!」

セイバーは立ち上がる。ミラの縄はそのままで。

「……もうすぐここにヒーローが来るはずだ。縄はその時外して貰え」

「兄さん!」

セイバーが立ち去ろうとした時、ミラはまだ話があると言いたげに呼び止めた。

彼は足を止める。

「……一つ言っておく」

そしてミラを一瞥する。

「俺はお前の兄貴じゃない」

そう言い捨てたセイバーは窓から外へ姿を消した。



俺が駆け付けた時には酷い有様だった。

辺り一面血の海だぜ?

で、ミラちゃんに何が起きたか聞いた訳だけども、なんとあの後セイバーが現れて助けに来たんだと!

「それ、マジか?」

「ええ。マジよ」

スゲエな!まさか依頼の途中のトラブルで捜索対象の本人が助けに来るなんてな!

「……って何その暗い表情?」

「何でも無いわ」

素直じゃねェなミラちゃん。何でも無いって顔してないぜ。今にも泣きだしそうな顔だ。

まぁ、言ったらなんか地雷踏みそうなんで突っ込まないでおこう。

「で、これで依頼は達成って事で良いか?」

「そんな訳ないじゃない。確かに『セイバーを探して欲しい』としか言ってないけど、そこには『捕まえて欲しい』って意味も当然付いてくるはずよ」

えー。

「不満そうな顔しないで頂戴」

「でもな~」

「仕事が無いんでしょ?」

ギクゥ!痛い所付かないでくれミラちゃん!

「あぁ、クソ仕方ねぇな!分かったよ!捕まえればいいんだろ!?」

「ええ。それと一つ良いかしら?」

「……何ですかミラ様?」

「早くこの縄を解いてくれない?」

あ、そう言えば縛られたままでしたね。

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