第4話
「・・・・・・ふざけるな」
声が少し震えたかもしれない。
でも、言わなきゃ気が済まない。
「俺はこの仕事が好きなんだ。やりたいんだよ。他の仕事?秘書?回りくどい言い方すんな!!いらないなら『クビ』って言やあいいだろう!!」
皆と一緒にいられない。
もうおいちゃんに教えてもらえない。
俺はもう、ココには居られない。くそっ!
治療のためにと取られていた手を振りほどいて、俺はそのまま飛び出した。
まだ昼を過ぎたばかりで、街は人で溢れていた。
(帰りたくない)
今までの苦しくとも楽しかった毎日が、もうできないと思うと気分は奈落の底。
学校に通ってる子供な俺を雇ってくれた、社長。
貧乏な俺のために弁当を作ってくれた、おいちゃん。
覚えも悪いってのに根気強く教えてくれた田所さん。
からかわれることが多いけど、兄貴のように温かい槙田さん、斉藤さん。
もう一緒にはいられないのか?
もう会えないのか?
こんなんで一人っきりのアパートになんて帰りたくなかった。
母親に振り回されて引越し三昧だった俺は、いつでも移動できるようにと貴重品を持ち歩いてる。
通帳・印鑑・カード・保険証、そしてパスポート。
今だって全部ここに有る。
(母ちゃんとこ行こうかなあ)
最終便は夕刻。
今から向かえば間に合うはずだった。
4時間ほどで到着。
夜も遅いけど、迎えが来ているはずなんだ。
『お帰りなさいませ』
迎えは、執事という地位についてるらしい、以前隣に住んでいた爺ちゃんだ。
『ただいま、爺ちゃん』
独身の爺ちゃんにとって俺は孫のようなものらしい。
俺にとってももちろん爺ちゃんだけどね。
『もっと頻繁に帰ってきてください。リオータ』
いつも爺ちゃんが迎えに来て、いつも同じことを言う。
『自分で稼いで生きろって、母ちゃんの言いつけだからな』
『まったく奥様も、飛行機代くらい出して差し上げたらいいのに・・・・・・』
お約束のやりとりが今は嬉しかった。
父ちゃんはいない。
母ちゃんは女手一つで俺を育ててくれた。
何でも出来る母ちゃんはレストランやバーをいくつも開いている、実業家ってやつだ。
そんなんだから頭が上がらないってのに、どうしよう、俺ってば帰ってきちゃったよ。
急に不安が沸いてきたけど来ちゃったんだから今更だな。
日本でのムシャクシャした気分と一緒に、とりあえず封印することにしてやったね、俺。