第3話
期待と不安の中、少しは綺麗になったところで知らない声が聞こえてきた。
ニコニコ顔の社長が、長身のデカイ男を連れてきたようだ。
「彼が新しく社長になる―――」
「大塚芳春です。技術に優れたこの会社を特に変えるつもりはありません。安心してください」
にっこり笑った新社長は、立派な体躯なのに男臭くない。
顔がいいと、ラガーマンじゃなくてモデルに見えるんだから、得なんだなぁ。
生っ白いうえに華奢な俺には羨ましい身体だ。
「技術の継承と聞きましたが、具体的には?」
さっそく田所さんの質問だ。
「昨今はコストダウンを名目に、基本となる部分でさえ海外製作が主流になっていますが、私はその部分こそ日本の誇れる技術だと考えています」
おおぉ、って顔で社長も皆も頷いている。
俺も、もちろんそう思う。
おいちゃんの技術なんか神業だと思ってるもんね、実際。
「海外で製作させるということは、賃金を払いながら技術を垂れ流していることにほかならない。そうして無造作に奪わせた技術は、やがて製品開発そのものを奪われることへとつながり、やがて、日本が海外の下請けになってしまうことでしょう」
拳を握って力説する新社長。
「確かに、修理するのに日本じゃなく海外工場へ運んだ、なんて話を聞いたことがあるなあ。本当のところは分からんが」
大きく頷きながら返す田所さん。
「情けない話ですな。修理できないってことは、分かってないってことを知らせているようなものなんだがねえ」
おいちゃんの弁。
皆一緒になって嘆いている・・・・・・ようだ。
ごめん、無理。
難しくなってきて俺にはついていけそうにない。
えっえ~・・・っと、垂れ流して奪わせて奪われて、修理できないいんだ。
んん?分かってない?
俺のことか?うわ、マズ、凹みそうだ。
「皆さんには今まで通り、メーカーの開発品、試作機の一端を担っていただきながら、その技術を後に続く若者に教えて頂きたい」
新社長の声はちょっと低めの響くような感じで腰にくる。
何でも信じ込ませるような力さえ感じられる。
皆は納得したみたいだ。
気合の入ったときのような顔をしてるんだから、絶対そうだ。
よ~し俺もやるぞって思って、気合を入れるべく自分の頬をパンパンって叩いた。
んん?ん?新社長、顔が険しくなったぞ?
「どうしたんだ、これは」
えっ?えっ?何?
「どうしたんだって聞いているんだ。この指だ」
勢いに押されて、口調が変わっていることには気づかなかった。
「な、何って、ヤケドだよ。ただの」
「ただのなわけないじゃないか。冷やしたのか?薬は塗ったのか?」
秘書らしき人に薬を持ってこさせて俺の白くなった指を手当てし始めた。
「やんなくても治るって。固くかさぶたみたくなって、そのうち・・・」
「無理だ。他の仕事があるだろ。俺の秘書でもいい」
何?何言ってるんだ?
俺はここに居ちゃいけないのか?
ていのいいリストラか?