第2話
俺の不器用は笑いの種。
今日もやっぱり、俺以外が大笑い。
まあ、いつものことだけど。
「どうしたんですか~、社長ぉ。今日はしっかりスーツですよぉ」
ポヤヤ~ンの斉藤さんの声に誘われて見れば確かにそうだった。
いつもは皆と同じ静電対策済作業用ジャンバーなのに、どうしたんだ?
「う~ん、皆、作業止められるかい?報告したいことがあるんだけど」
おしゃべりしていたくらいだ。
ちょうどキリがよかった。
「すまないね。皆。あ~、皆も気づいてると思うけど、今、うちは受注が減ってきていて、3ヶ月先は受注0の状態だ」
みんなの顔が厳しくなった。
景気が上向き始めたとはいえ、末端のこの会社が良くなるのはまだまだ先だ。
「俺だけでは資金調達も厳しいというのが本音だ」
倒産か?
仕事失うのもだけど、せっかく皆と仲良くなったのに。
「そこで、人も設備も仕事も、丸ごと買い取ってもらうことにした」
「え?しゃ、社長は?」
俺は社長も大好きなんだ。
未経験の子供を雇ってくれるなんて他にはいなかったんだからな。
「もちろん私も残るよ。ただし、従業員としてね」
「「「「え?」」」」
居なくならないって分かってホッとしたけど、ありえね~って。
実際に作業するのか?
「もうすぐ新しい社長が来るから、小綺麗にしておいてね」
そう言って社長は事務室に入って行った。
「阿部さんは知ってらしたんですよね?」
槙田さんの言葉はもっともだ。
だって、おいちゃんと社長がこの会社を立ち上げたんだから。
「すまん。継ぐヤツがいなくてな~。そろそろお迎えも来そうだし」
「・・・・・・お迎えなんて来ないよ」
うな垂れて突っ込んだ俺の頭を、苦笑いのおいちゃんが小突いた。
「新しい社長はこの会社を、技術の継承のために使いたいそうだ」
「技術の継承、ですか?」
田所さんが身を乗り出して尋ねる。
「ああ、試作基板の受注と一緒に、ド素人を新人に、新人を中堅へと研修させて、ものつくりの技術を学ばせる会社にするそうだ」
なんだか、大層な計画だ。俺にできるのか?ちょっと怖いかも。
「仕事は変わらんから安心しろ」
おいちゃんが頭を撫でてくれた。
う~ん、安心できるぅって、俺も単純だな。
「いつもの仕事に、時々新人プラスってところですかね」
おお~、さすがナンバー2田所さん。分かりやす~。
「まあそんなところだ。新社長からも話あるだろうから、疑問点は直接聞いてみるといいさ」
俺は何を聞いたらいいんだかも分からない。
だから、いつものように、田所さんや槙田さんに任せておくつもり。
でも、こんな話の後だからか、皆の仕事はペースダウン。
納期の鬼も時々天井を眺めている。
そして、俺は本日2度目のヤケド。
今度も左手人差し指。
指紋消えました。あ~あ、また白い・・・