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84-2

 一方、グラウンドでは次々と競技が行われ、恭介と篠崎が出場する障害物競走が始まる。

 ゴール地点にはストップウォッチを持った黄組の生徒が待機しており、本当にタイムで勝負するつもりなのかと椿は遠い目になる。


 恭介と篠崎の順番が終わり、二人は計測していた生徒を囲んでタイムを見ている。

 ほどなくして、恭介が小さくガッツポーズしていたのを見ると彼の方がタイムが速かったと見える。

 戻ってきた恭介達は同じチームの生徒達に拍手で迎えられていた。

 障害物競走での活躍もあり、今のところ黄組が総合でも一位になっている。

 

「おめでとうございます」


 椿の隣に腰を下ろした恭介に向かって、椿は声を掛けた。

 恭介は当然だとでも言わんばかりのどや顔をしている。


「僕が出るんだから当然の結果だ」


 どや顔のままの恭介をスルーした椿は篠崎に声を掛ける。


「篠崎君もお疲れ様でした」

「あぁ、タイムはコンマ二秒ほど及ばなかったが、チームに貢献できて良かったよ」

「あら、ギリギリでしたのね」

「ギリギリだろうが何だろうが勝ちは勝ちだ」


 ドヤ顔で恭介は言っているが、内容はかなりせこい。

 だが、もう何も言うまいと椿は口を閉ざした。


 この後も次々と競技が終わり、ついに午前最後の競技である三年生色別リレーが始まる。

 アンカーは恭介で彼にバトンを渡すのは篠崎という順番である。

 リレーの走る順番でもまた揉めたのだが、例の如くジャンケン勝負となった。

 ことごとく勝ってしまう恭介はジャンケンが強すぎる。


 そして、グラウンドではリレーの第一走者がスタートしていた。

 黄組は二番目と三番目の間を行ったり来たりしている状況だったが、バトンが篠崎に渡って一気に一番目へと躍り出る。

 彼は二番目を大きく引き離して一番で恭介へとバトンを繋げた。

 バトンを受け取った恭介はさらに二番目を大きく引き離し、かなりの差をつけて一着でゴールテープを切ったのだった。

 ゴール付近では黄組のリレー選手達が喜んでいる姿が見える。

 恭介は篠崎とお互いに健闘を称え合っていた。


 午前中の競技が終わり、杏奈と昼食を食べ終えて午後の競技が始まる。

 午後一番の競技は借り物競走。ついに椿が出場する競技がやってきたのだ。

 さすがに変な借り物が書かれていることはないと去年までの借り物競走を見ていて知っていたので、気は楽である。

 

 ピストルが鳴ると同時に椿は走りだし、机の上に置かれている沢山の封筒の中からひとつを選び開封する。

 中身を取り出し、書かれているものを確認すると、そこには『クォーターの女子生徒(ドイツ系)』と書かれていた。


 なんだよ! このピンポイントな借り物は! 一人しか思い当たらないというか、一人しか居ないだろうが!


 心の中で悪態をつきつつ、椿は赤組の応援席へと走って行く。

 赤組の応援席の生徒達は一斉に椿から目を逸らしているが、一人だけ椿を見つめてくる人物を見つける。杏奈である。

 椿は杏奈の手を掴み、やや混乱しているらしい彼女を連れて一着でゴールした。


 椿の借り物が何だったのかをアナウンスされた瞬間、ささやかではあるが笑い声が聞こえてくる。

 一気に疲労感が襲ってきた椿の耳元に杏奈が顔を寄せてきて囁く。

 

「……それ書いたの、私なのよね」

「どんな確率よ!」


 思わず椿は瞬時にツッコミを入れていた。

 当の杏奈はお腹を抱えて爆笑している。


「ま、まさか、あんたが引くなんて思わないでしょうよ」

「中学最後の体育祭でこんなミラクル起こしたくありませんでしたわ」


 笑いながら杏奈が死んだ魚のような目をしている椿の背中をバンバンと叩いている。

 周囲の生徒はギョッとした顔で二人を見ていた。


 借り物競走が終わり、椿が黄組の応援席へと戻ると、恭介が下を向いて肩を震わせていた。

 こいつもツボに入ってしまったらしい。


「あれは偶然ですわ」

「あの数の中から狙って見つけられる訳がないし、お前が不正するわけないだろう。だから尚更可笑しいんじゃないか」

「そうですか」


 椿は自分でやったことだとはいえ、非常に不本意な結果にすっかりやさぐれていた。


「朝比奈様、一位おめでとうございます」

「……ありがとうございます」


 素直に勝利を称えてくれる鳴海の姿が今の椿にはまぶしく映る。


「落ち込んでいるんですか?」

「あまりにピンポイントな借り物でしたから」

「でも、分かりやすかった結果、一位になれたんですし、チームに貢献できたんですから良かったじゃないですか」

「そ、そうかしら?」

「はい!」


 力強く言ってのけた鳴海に椿はすっかり機嫌を良くする。

 そうか、チームに貢献できたんだから良いよね、と椿は切り替えた。


「あいつ、椿の扱いを心得てるな」


 という恭介の呟きは上機嫌な椿には聞こえていない。


 体育祭は部活対抗リレーと大玉転がしが終わり、最後の競技である三年生のフォークダンスが始まる。

 一組から四組、五組から八組で別れて輪になって踊り、パートナーが順番に変わる形式なのだが、椿の順番になると男子生徒は表情が強張り、目も合わそうとせずに淡々とダンスをして移動していく。

 いっそ足でも踏んでやろうかと思った椿であったが、嫌われようが怖がられようがどうでもいいかなと思い直して、義務感だけでダンスを続ける。

 

 途中、篠崎や佐伯とも踊ったが、彼らは椿の人となりを多少なりとも分かっている人達なので、軽く言葉を交わしたりして和やかにダンスを終える。


「もうお前のクラスまで回ったのか」

「六組の恭介さんがいらっしゃったということは、そろそろダンスも終わりということですわね」


 男子は逆に回っているため、六組の恭介が七組の椿のところにきたということは、終わりが近いということだ。


「……全く、なんで校庭でダンスなんてしなくちゃならないんだか」

「三年生への思い出作りみたいなものでしょう? 後は、これが切っ掛けで異性と仲良くなって交際に発展するというお見合いのような意味も昔はあったとか」

「現代じゃいらないだろ」

「皆さんがそうではないでしょうけれど、これが切っ掛けで卒業後にご結婚なさった方が今でもいらっしゃいますから、無くすのは保護者の反対もあるでしょうし、無理では?」


 恭介は椿の言葉を聞いて、「それもそうだな」と呟いた後で、彼女とのダンスを終えて隣へと移動していった。

 恭介が移動して間もなく、三年生のフォークダンスは終わり、閉会式となる。

 

 閉会式では、恭介と篠崎の活躍もあり、椿達の黄組が総合優勝となった。

 最後の学年で初めての優勝を体験することができて、椿も顔には出さなかったが非常に興奮し、優勝に貢献できたことが何よりも嬉しかったのである。

 

 閉会式後、黄組の生徒達に恭介と篠崎は囲まれ、さすが水嶋様と篠崎君と賞賛されていた。

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