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ロミジュリ未満⑤

 動こうと決めた菫は、まずは知らぬ内に迷惑を掛けてしまっていた倖一に対して謝罪をしなければならないと思い、すぐに彼の家に連絡を取ってもらい、次の休みに合う約束をする。


 当日、両親に出掛ける旨を伝え、使用人の佳純を伴って家を出た菫は、緊張に耐えながら待ち合わせ場所の喫茶店へと到着した。

 店の前にはすでに倖一が到着しており、挨拶をした後で店へと入る。

 二人掛けの席に座り、注文した飲み物が揃ったところで、菫が倖一に向かって深々と頭を下げた。


「存じ上げなかったとはいえ、被害を受けた側の娘が関わるのはご迷惑だったかと思います。本当に申し訳ありませんでした」

「朝比奈が謝ることじゃない。それに謝罪をするのはこっちだ。俺が朝比奈と関わることで、朝比奈のお母さんやお姉さんに嫌な過去を思い出させていたのだから」

「そんな……! 倖一様のお父様が直接母に迷惑を掛けたわけではございませんのに……」

「それでも、あの人は俺の親族なんだよ。血の繋がりだけはどうしようもできない」


 倖一はそっと目を伏せた。

 本人達が悪いわけではない、この状態。開き直ってしまえば話は早いのだが、真面目な二人だから、余計に重い展開へとなってしまう。

 どうなるのかと思われたが、ギュッと手を固く握りしめた菫が口を開く。


「親族が多ければ多いほど、そのような方は一人くらいは居るものです。本人を取り巻く環境次第で善にも悪にもなるのです。それは母も姉も理解していると思いますし、母からもそのようなことを倖一様のご両親にお伝えしているはず。ですので、母も姉も倖一様を通して過去のことを思い出す、というようなことはないのだと思うのです」


 菫の言葉を倖一はただただ神妙な顔をして聞いていた。


「むしろ、わざわざ私の方から倖一様に関わっていくような真似をしたことで、倖一様やご家族の皆様を嫌な気分にさせていたのだと思うと、なんてことをしていたのだろうと」

「……別に俺は迷惑だと思ったことは一度もない」

「え?」


 驚いた菫が倖一の顔を見ると、彼はどこか困ったような顔で微笑んでいる。


「素直で感情表現が豊かで、これでもかというくらいに好意を向けてこられて嫌な思いになる男はそう居ない。それに朝比奈は可愛いし」


 突然、倖一の口から可愛いと言われたことで、菫は顔を真っ赤にさせた。


「倖一様、倖一様って言って、後ろから追いかけて来る朝比奈が妹みたいに可愛かった」

「……妹みたい……」


 恋愛対象に見られていないことに彼女はショックを受けている。

 椿が菫に対して向けている感情と同じものだと知り、彼女の胸が痛くなった。


「なあ、朝比奈は覚えているか? 俺の名前が人を幸せにすると書くのですねって言ったこと」

「……はい」


 未だにショックを受けている菫は力なく返事をした。


「俺が誰かを幸せにできる人間なんだと言ってくれて嬉しかったよ。でも、それを言われた後ぐらいに、俺はあの人がやったことを聞いてさ。俺にもあの外道と同じ血が流れているのかと思うと心底嫌だったし、朝比奈の家族に悪いことをしていたなって思ってた」

「倖一様は、その方とは違います! 倖一様はお優しくて勇気があって、真面目で面倒見が良くて。それに倖一様は、迷子になって誘拐されそうになった私を助けて下さった恩人ではありませんか! あのときから、倖一様は私のヒーローなのですよ?」

「ヒーローとか大袈裟だな。ガキの頃は体力が有り余ってたこともあって、ただのガキ大将だったってだけなのに」

「ですが、私を助けてくれたことは事実です。あのときから私は倖一様をお」


 お慕い申し上げているのですから、と思わず言いそうになり、菫は慌てて口を閉じる。

 何を言おうとしたのか倖一には分かったのか、彼は目を丸くしたあとで、参ったな、と口にした。

 やはり、好意を寄せられるのは迷惑なのではないか、と菫が落ち込んでいると、倖一から声を掛けられる。


「口にしないでくれて助かったよ。こっちの格好がつかなくなるところだった」


 告白されても困るだけ、菫はそう解釈し、涙目になってしまう。

 彼女の様子を見た倖一は、勘違いされていることに気付いたのか、慌てて違うと口にした。


「……何が違うのでしょうか?」

「いや、それは、その」


 歯切れの悪い倖一に菫はやっぱり困るのではないかと思い、いたたまれなくなって視線を逸らした。


「参ったな。ここで言うつもりじゃなかったんだけど」


 ああ、でも、言わないと勘違いされたままだし、でも、などと言って、倖一は頭を悩ませている。

 ちなみに、完璧に余談であるが、店内の少し離れた席にこっそり様子を見に来た椿が歯噛みしながら二人を見守っていた。

 さっさと言えよ! まどろっこしい! と今にも二人のテーブルに突撃しそうな感じの彼女の肩を掴んだレオンが「あれはさすがに空気を読め!」と言って止めている状態である。


 さて、頭を悩ませていた倖一であったが、心が決まったのか、菫を見据えた。


「朝比奈から、俺の名前は人を幸せにすると書くのですね、と言われるまでは、お前のことを妹みたいだと思ってたよ。だけど、そう言われた後から俺の中で朝比奈の存在は別のものになったんだ。お互いの親のことを考えれば、遠ざけなくちゃいけない、関わっちゃいけないって分かっていたのに、俺は朝比奈との関わりを断ちたくなくてキッパリと拒絶することができなかった」

「それって」


 もしかして、と菫の心臓が早鐘を打つ。

 期待に満ちた目を倖一に向けながら、彼女は次の言葉を待ち侘びていた。


「俺の名前が人を幸せにするというなら、名前の通り大切な人、一人を幸せにしたい。その大切な人は、俺の目の前に居て俺をずっと好きで居てくれた子で、まあ、その、つまり……菫、俺は君を幸せにしたいんだ」


 言われた言葉が嘘のようで、菫は少しの間呆然としていた。

 頭の中で何度も何度も繰り返し、告白されたのだと理解した瞬間、彼女の顔はこれまでにないほど真っ赤に染まった。

 両手で顔を覆い、はしたないと分かっていながらも足をジタバタとさせてしまう。

 これ以上の喜びの感情を表現する方法を彼女は知らない。


「あの、菫。できれば返事を欲しいんだけど」

「え? あ、そうですね」


 喜びに浸っていた菫は、返事の件が頭からスッポリと抜け落ちていた。

 返事なんて悩むまでもない、と菫は満面の笑みで倖一を見つめる。


「私も、倖一様を幸せにしたいです!」

「……いや、そこは幸せにして下さい、じゃないの?」

「いいえ、愛を受け取るだけなんて失礼です。ちゃんと私も倖一様に愛を差し出します。それに、私も倖一様を幸せにしたいのです! これは譲れません」


 やけに男らしい菫の言葉に倖一は目を丸くした後で笑い声を上げた。

 笑うなんて失礼だと頬を膨らませた菫が抗議している。


「ごめん。菫はいつも俺の想像を軽く超えてくるから。それが楽しいんだけどね」

「楽しんで頂いているのなら、よろしいのですが……。あら? 倖一様? 私の名前」


 菫はこの時点でやっと倖一が下の名前を呼んでいることに気が付いた。


「ダメだった?」

「とんでもございません! ただ、久しぶりに呼ばれましたので」

「本当はずっと下の名前で呼びたかったんだけどね」

「……もう一度、呼んで下さって嬉しいです」


 はにかむように笑う菫とそんな彼女を見て柔らかな笑みを浮かべる倖一。

 思いが通じ合った初々しい二人は互いのことしか目に入っておらず、テーブルに近づいてくる人影に気付いていない。


「そこの倉橋倖一。ちょっと面貸しなさい」

「お姉様! どうしてここに?」


 倖一の手前に手をついた椿を見て、菫が驚いて声を上げる。

 対して倖一は視界の端にチラチラと映っていたので、椿が居ることは気付いていたせいかさして驚いてもいない。

 かけていたサングラスを下にずらし過ぎている椿は、倖一を睨み付けていた。

 小道具を使ってやってくるなんて、余裕じゃねぇか、と倖一は思ったが、口が裂けても言葉にはしない。


「どうぞ、そちらにお掛けになって下さい」


 倖一が隣のテーブルを差すと、サングラスを外した椿と苦笑しているレオンがそちらに座った。


「さて、とりあえず、倉橋倖一君。おめでとう」

「貴女から祝われると怖いんですけど」

「だがしかし! 菫を泣かしたら地獄に突き落とすから覚悟しておきなさい」

「はあ」


 これまで、あまり好意的に見られていないと思っていた倖一は、椿の言動に少しばかり驚いている。


「正直、反対されるかと思っていました」

「私の気持ちと菫の気持ちは別でしょう? 私の気持ちを押しつけてどうするのよ。それにこの世に存在する男の中で君が最も菫を幸せにしてくれるだろうと判断しただけよ。悔しい!」

「最後、本音が混ざってるじゃないですか」

「とにかく、私は菫が幸せになってくれれば問題はないわけ。それは両親も同じ。ここまではいいわね?」


 椿が真面目に話しだしたことで、倖一も姿勢を正して真剣に話を聞く。


「問題は、部外者よ。特に母と倉橋家のことで色々と言ってくる奴らが絶対に出るわ。このまま結婚しようものなら、妨害があるかもしれないし、とにかく悪い目で見られることになるのは理解している?」

「ええ。よく分かっています。だから、誰にも文句を言われないくらいの大人になろうと思っているんですから」

「なるほど。でもね、もっと簡単に部外者を黙らせる方法があるって言ったらどうする?」


 ニッと笑った椿に、菫も倖一も首を傾げている。


「ねえ、倖一君は倉橋の跡を継ぐつもり?」

「いえ、あの会社は音羽のおじさんの物ですから、次の社長はおじさんが決めると思いますし、俺はいりません」

「ご両親もそう言っている?」

「絶対に継ぐな、関係のない職業に就けとは口うるさく言われています」

「それは好都合」


 自分の思い通りになっているかのような笑みを浮かべた椿。

 彼女が何を言いたいのか、菫も倖一も分かっていない。


「簡単に言えば、倖一君、君が朝比奈家の婿養子になればいいのよ」

「婿養子?」

「そう。朝比奈倖一になるの。その場合、朝比奈陶器社に入社してもらう」


 未だに首を傾げている菫と違い、倖一は椿が何を目的として言っているのか分かったようである。


「監視しているという体をとりたいんですね」

「正解。やっぱり頭が良いわね」

「正直、うちに欲しい人材だな」

「やらないわよ。うちが貰うのよ」


 椿とレオンに取り合われ、当人の倖一は遠い目をしている。

 また、監視、という言葉が引っかかったのか、菫は不満そうな表情を浮かべた。

 

「倖一様は私を傷つけるような方ではないと、お姉様もお父様もお母様も御存じのはずです」

「身内は分かっているわ。でもね、倖一君を知らない部外者はそう思わないの。母の二の舞になるに違いないと思われて、倖一君が辛い目に遭うのよ。菫にだって色々と言ってくる余計な人達が寄ってくると思ってもいいわね。だからこそ、二人を守るために倖一君に婿養子になってもらった方がいいの」

「俺は別に構いませんよ。両親もその方が安心すると思いますし」


 全く気にもしていない倖一の言葉に、菫は本当に良いのかと彼に問いかける。


「菫と一緒に居られるなら、名字なんてどっちでも構わない」

「……倖一様」

「あ~見つめ合っているところ、申し訳ないけれど、早い内に家に挨拶に来なさいね。父が逃げないように捕まえておくから、事前にいつになるか連絡して」

「逃げるんですか?」

「前科があるのよ」


 椿がチラリとレオンを見ると、彼は神妙な顔をして頷いている。

 ああ、この人が挨拶に行ったら逃げたんだ、と倖一は理解した。


「交際自体は反対されないと思うわ。君、うちの両親から信用されているし。ただ、事情が事情だから結婚前提でのお付き合いになると覚悟しておいてね」

「元からそのつもりです」

「気にくわないけど、大変結構よ。それじゃあ、私は帰るわ。菫、あまり遅くならないようにね」


 じゃあ、と言って椿はレオンを連れて喫茶店を後にした。

 菫と倖一はこれまでのこと、これからのことを話した後で帰ることになり、レジに行くと、すでにお金が支払われていると言われる。

 つまり、椿が菫達の会計をすでにしてくれていたということだ。


「敵わないな」


 倖一がポツリと呟いた言葉は誰にも聞かれることはなかった。



 朝比奈家への挨拶をするなら早いほうがいい、と翌週に倖一が菫の自宅へとやってくる。

 事前に話を聞いていた椿は一週間、使用人に父親を監視させ、数日前から逃げないようにと側に居たことで、応接間に落ち着かない様子の父親を閉じ込めることに成功していた。


「今は母が捕まえているから逃げてないと思うわ。部屋に入ったら、私も父を押さえつけるから、さっさと交際宣言しちゃいなさい」

「それ、いいんですか?」

「娘を持つ父親の宿命よ。諦めてもらうわ」


 そうして、椿に連れられて菫と倖一が応接間へと入ると、彼女の父親は文字通り、菫の母親に腕を掴まれ、もがいていた。

 父親の拘束に椿が参加し、さあ、早く! と言われたことで、倖一はなんだかなぁと思いながらもその場で頭を下げる。


「倉橋倖一です。菫さんとお付き合いしています。色々と思うところはあるかと思いますが、菫さんとの交際を許して頂きたく、挨拶に来ました」

「聞こえない!」


 聞きたくない! という父親の姿に菫はオロオロとしているし、倖一は途方に暮れている。

 ただ一人、父親の隣に居る母親だけがニコニコと笑みを浮かべて嬉しそうに菫と倖一を見ていた。


「菫ちゃんは、ずっと倖一君に片思いをしていたのは知っていたから、自分のことのように嬉しいわ。倖一君、菫ちゃんのことをよろしくね」

「はい。幸せにします」

「百合ちゃん!?」

「この人のことは気にしないでちょうだいね? ただの悪足掻きだから」


 なんとも酷い言い種である。

 椿も椿で父親の頭を掴んで、無理矢理頷かせていた。


「はい、頷いた! 了承を得ました! お母様、もう手を離して頂いて構いません」

「あら、もう良いの?」

「うぅ……。ひどいよ、二人とも」


 泣き言を言っている父親に向かって椿は冷ややかな目を向けているし、母親は、あらあら困ったわねぇというような表情を浮かべている。


「前科があるのだから仕方ないでしょう?」

「だって、椿ちゃんは二十三歳だよ! まだ早いよ!」

「ですから、婚約の時期はいつ頃にするかという話を含めて相談しようとしていたのに、逃げるんですもの。まあ、お母様とあちらのご両親とで決めましたけど」

「聞いてないよ!」

「逃げた人に知る権利はありません」


 娘からピシャリと言われ、父親は肩を落としている。

 さすがに扱いが可哀想だと思ったのか、倖一が彼に近づき、その場で膝をついた。


「朝比奈さん。俺……自分は、菫さんを幸せにします。決して彼女を裏切りません。彼女が不安に思わないように頑張ります。ですから、どうか、認めて下さい」

「薫さん」


 そっと母親に手を握られたことで、父親は観念したのか大きなため息を吐く。


「付き合うのなら、絶対に結婚して貰うけどいいね。途中で嫌になっても知らないよ」

「むしろ、菫さんが自分以外の男と結婚する方が許せないし、菫さんを嫌になるわけがありません」

「結婚の条件は朝比奈家の婿養子に入ることだけど」

「全く問題ありません。両親もそれで構わないと言っていました」

「なら、娘をよろしくお願いします」


 父親がその場で頭を下げると、倖一は立ち上がり深々と頭を下げた。


 後日、倉橋家と朝比奈家で話し合いの場が持たれ、大凡、椿が言っていた通りに決まる。

 菫と倖一が付き合っているという話は、瞬く間に広まり、母親の二の舞になるに違いないとせせら笑う人がある程度見受けられた。

 けれど、倖一が日本で一番合格するのが難しいと言われる大学に合格すると少しだけ風向きが変わり始める。

 そして、倖一が大学を卒業後、朝比奈陶器社に入社し、婿養子となる形で菫と結婚したことで、大半の人達は朝比奈家が彼を監視するためにそうしたのだと思うようになった。

 朝比奈陶器社に入社したときは、あの倉橋家の親類ということで、白い目で見られていた倖一であったが、彼の真面目さや優秀さ、面倒見と人柄の良さを間近で見たこともあり、次第に信頼されるようになっていったのである。


「倖ちゃん! ワイン、持ってきたよ!」

「帰れ」


 玄関扉が目の前で閉じられ、光は家のチャイムをピポピポピポピポと絶え間なく押し続ける。


「うるせぇな! 近所迷惑だろうが!」

「親友を閉め出すからだろ!」


 玄関先で言い合いをしている二人の許に、お客様ですか? との声と共に奥からお腹が大きくなった菫が姿を現した。


「あ、光さん。いらっしゃいませ。どうぞ上がって下さいな」

「ありがとう、朝比奈さん。ホント、奥さんは優しいのに、旦那は鬼だよね」

「ワインだけ置いて帰れよ」

「嫌ですぅ。今日は仕事の愚痴を聞いてもらうんだから」

「そうかよ」


 光は玄関で靴を脱ぎ、勝手知ったるという感じでさっさとリビングへと行ってしまう。


「ここはあいつの家か。頻繁に入り浸りやがって」

「賑やかになって良いではありませんか。それに私は光さんのお話を伺うのは楽しくて好きですよ?」

「……それ、あいつの口から俺の昔話を聞くのが好きってことだろ?」

「ええ、もちろんです」


 菫が照れたように笑うと、ニヤッと笑った倖一の手によって彼女は髪の毛をぐしゃぐしゃにされてしまった。


「もう、倖一さん! 酷いじゃないですか!」

「あんまり、昔のガキ大将やってた頃の話を聞かせたくないんだよ。黒歴史だから」

「あら、私はどのようなお話でも幻滅したりしませんよ? むしろ、そういうところもあるのだなと嬉しくなります。私の知らない倖一さんの一面を知るのは特別なことなのですから」

『ちょっと~倖ちゃん! これ開けていい?』


 良い雰囲気をぶち壊された倖一は、あいつ、と呟き、リビングへと向かおうとするが、ハッとして、菫に向かって手を差しのばした。


「菫」

「はい」


 伸ばされた手を菫は取る。

 身重の菫を気遣って、倖一が側に居るときは常に彼が手を取ってくれるのだ。

 しっかりと握られたことを確認した倖一は歩き始めた。


「倖一さん」


 菫が呼び止めると、倖一は足を止めて振り返る。


「私、幸せですよ」

「俺も幸せだ」


 互いに笑い合った後で、まだぁ? と催促している光が居るリビングに向かったのだった。

これにて菫と倖一のお話は終わりです。

後は椿とレオンのお話となりますが、こちらは不定期での更新となります。

更新した際はよろしくお願い致します。

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