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一方、美緒の計画など全く知らない椿は、祖父の件が解決したことで安心していた。
また先日、三年生は内部進学が決まる重要な試験があったのだが、椿を初めとする面々は無事に希望する学部への進学が決まったのである。
椿も鳳峰大学の文学部への進学が決まり、後は期末テストと三学期最後のテストを残すのみとなったことも彼女の気を緩めていた。
けれど、文化祭以降ずっと透子を見張っていた美緒が大人しくなったのが、椿は気掛かりであった。
あれほど透子が一人になるのを窺っていた美緒の姿を最近全く見ないのだから、気になるのは当たり前である。
そこで椿は、友人が多く情報を持っている杏奈へと話を聞いてみることにした。
「ねぇ、杏奈は立花さんが今、何をしているか、知ってる?」
「ごめん、分からない。立花さんが口を割らないから、彼女の周りに居る人も何をしているのか知らないみたい」
「そう……。でも、こんなに大人しいなんておかしすぎる。中等部の時から、あれだけ恭介にまとわりついてたし、自分が恭介と結ばれるって信じてるっぽかったのに、アクションがないなんて。……もしかして、立花さんの側には彼女に入れ知恵してる人が居る、かもしれないから、その人が動いてる可能性があるんじゃ」
「かもしれないってだけで、確定じゃないんでしょう?」
「そうなんだけどね……。でも前に護谷先生にそれとなく聞いたら知ってるっぽいこと言ってたのよね」
知ってても知らなくても椿には言わない、と護谷は言っていたが、知らなければ知らないと答えればいいだけだ。
思わせぶりなことを言ったということは、彼は美緒の取り巻く環境をよく知っていて、且つ入れ知恵している人物が実際に存在していることを知っているのではないかと椿は思っていた。
護谷のことだから、その人物が誰なのかも予想している、もしくは知っているのではないか。
そこまで考えた椿は、一度護谷に話を聞こうと決めた。
数日後の休日。
椿は志信に声を掛けて護谷のところまで送ってくれと頼んでいた。
けれど、志信はやんわりと拒否している。
志信は、椿を傷つけるかもしれない護谷にわざわざ会わせたくないのだ。
「護谷に伺いたいことがあるのでしたら、私の方から訊ねてみますから。わざわざ椿様が出向くことはございません」
「聞きたいこともあるのは確かだけど、私は護谷先生ときっちり話をした方がいいと思うの。これまでも護谷先生と話したことはあったけど、最後まで私に気を許してはくれなかったし」
「護谷如きのために椿様が動かれる必要はございません」
「でも、知ってるのは護谷先生だけだと思うんだよね」
「護谷が知っているのであれば、大旦那様か旦那様が御存じのはず。奴が報告を怠ることはしないはずです。ですので、大旦那様か旦那様に私の方から訊ねてみます」
ですから、内容を教えて下さいと言われ、椿は美緒に入れ知恵をしている人物がいるかもしれないこと、また護谷がその人物を知っているかもしれないことを伝えた。
途端に志信は申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「……申し訳ございません。仮に実在していた場合、恐らく大旦那様も旦那様も御存じだとは思いますが、椿様に教えることはないかと思います」
「どうして?」
「恐らくは、椿様が自ら動かれるのを懸念して、だと思います。椿様は自ら危険に足を踏み入れる方であると大旦那様も旦那様も思っていらっしゃるので」
「だったら尚更、護谷先生に聞くしかないじゃない」
「ですので私が訊ねてみます」
堂々巡りの会話に椿は疲れていたが、じゃあよろしく、とは言えなかった。
透子が祖父を説得したように、椿はやはりきちんと相手と向き合わなければならないと思っていたからである。
椿が聞いて素直に護谷が教えてくれるとは思えないが、それでも彼女はこの場で引くつもりはなかった。
「じゃあ、護谷先生が私に失礼な態度をとったら、志信さんが護谷先生に注意して」
「椿様?」
「悪いけど、私は引くつもりなんてないよ。護谷先生に会いに行く。ダメっていうなら学校で勝手に一人で会う。むしろそうする」
今の提案は最大限譲歩しているのだと椿は志信に告げた。
さすがに椿一人で護谷と会うのは避けたいと思ったのか、志信は渋々納得してくれる。
では、行こうかと玄関まで行ったところで椿と志信は佳純に見つかってしまう。
「椿様、お出掛けですか? 予定にはなかったと思いますが」
「ちょっと護谷先生のところへ行ってくるね」
「なっ!」
と佳純は言った後で志信を睨み付けるが、彼は目を閉じて受け流している。
「……でしたら、私も同行致します」
「え?」
「動き出した椿様が止まらないことは存じております。ですので、護谷の馬鹿が馬鹿をしたときにお守りするために同行致します。よろしいですね?」
志信にしろ佳純にしろ、護谷に対する態度が悪すぎではないかと椿は思うが、これまでの彼の態度諸々を思い返してみて、それも仕方ないかなという気持ちになった。
結局、椿は志信と佳純を連れて護谷のところまで向かったのである。
護谷のマンションまで行き、インターホン越しに志信が彼に話し掛けるとドアが開き椿達は室内へと案内される。
「いきなりなんです?」
不機嫌さを隠そうともしない護谷に、椿の後ろに控えていた志信と佳純の纏う雰囲気が変わったことに彼女は気が付いた。
このままでは言い合いが始まるかもしれないと思い、椿はさっさと本題に入る。
「単刀直入に伺います。護谷先生は立花美緒に入れ知恵をしている人物に心当たりがありますね?」
「ああ、それですか。前にも申し上げましたが、たとえ知っていたとしても椿様にはお教えすることはできません」
「なぜですか?」
「それならこちらもなぜ? ですよ。どうしてそこまで立花美緒のことが気になるんです? いくら異母妹だからといっても」
「晃!」
使用人として言ってはならない言葉を口にした護谷に志信の咎める声が響く。
すぐに椿は志信を手で制して、彼に口を出さないようにと意思表示をする。
「立花さんのことが気になる、というよりもこれまでのことを考えると、彼女が大人しくしているのが不思議で仕方ないんです。仮に嵐の前の静けさなのであれば、夏目さんに害が及ぶ前に阻止したいだけです。そのために彼女に入れ知恵しているのが誰なのかを知りたいんです」
「なるほど。理由は分かりました。ですが、その人物を知ってどうするんですか? 知ったところで何が起こるか分からないのにどうやって阻止するつもりでしょうか?」
「少なくとも立花さんのグループ全体を監視よりも、特定の個人を監視した方が見落とすことはないと思っていますし、こちらから相手に何かを仕掛けて情報を得ることも可能だと考えています」
護谷は顎に手を当てて、ニヤニヤと楽しそうに笑っている。
彼の望む答えを言ったのか、予想外の答えが出て楽しんでいるのかは椿には分からない。
「あと、護谷先生。実は私は立花さんに入れ知恵していた人物が、もしかしたら居るかもしれないし居ないかもしれないと疑っていたんです。でも先生は私が聞いても、そんな人物は居ないとは仰いませんでした。つまり、立花さんに入れ知恵をしていた人物は実際に居る、ということですよね?」
どうなんですか? と椿が護谷に問うと、彼は笑みを消して全くの無表情へと変化させた。
しばらく無言で二人は見つめ合うが、先に口を開いたのは護谷の方であった。
「……さすがというか、分からないだろう、となめていましたよ」
「騙すようなことをして申し訳ありません。こちらも必死なんです」
「いえ、気にしておりません。ですが、なぜ椿様が動くのですか? 夏目透子にそこまでする価値がありますか? ただ、水嶋様と付き合っているというだけの少女でしょう? 今は良くても未来ではどうなるかなんて分かりませんよ。ここで椿様が夏目透子を守るために動く理由はないはずです」
「理由ならあります。私は夏目さんも恭介のことも好きなんです。だから好きな人同士でくっついて、これから先も一緒に居てくれるというのなら、私は全力でバックアップするし、外敵から守るために行動します。それは間違いでも何でもないと思ってます」
護谷の目が、そんなことで? と言っているように椿には見えた。
椿にとって大事なのは母親と恭介の幸せ。
透子と恭介が互いに支え合い、幸せになってくれるし、結果として母親も傷つかないということになるのだから全力でサポートして当たり前だ。
さらに、椿は透子のことが好きなのだ。彼女が泣くような結末にだけはしたくないと強く思っている。
だからこそ必死に護谷に教えてくれと言っているのだ。
「だから、私に教えて下さい。お願いします」
そう言って椿は護谷に向かって頭を下げた。
志信も佳純も慌てて椿にお止め下さい! と声を掛けているが、彼女は頭を下げたまま動こうとはしない。
「プライドというものがないんですか?」
呆れたような護谷の声に椿は下げていた頭を上げ、彼の目をしっかりと見つめる。
「プライド云々を持ち出して頑なに頭を下げないのは愚か者のすることです。自分の家の地位なんて関係ありません。誰が相手であろうとも同じことです。地位が上だからと頭も下げずにお願いするのは命令でしかない。私はそんな愚かな人間になりたくありませんから」
椿の言葉を聞いた護谷は目を大きく見開いた後で、片手で目を覆う。
一体彼に何があったのかと椿は首を傾げるが、とりあえず彼女は護谷の言葉を待つことにした。
大きく深呼吸した護谷は、目を覆っていた手を外して椿の方を見た。
「浅はかで愚かで甘い考えですね。とても水嶋様の血縁だとは思えません。やはり、あの父親の」
「晃!」
実父のことを言おうとしていた護谷に気付き、怒りを露わにした志信が彼に近寄り、殴り掛かろうとしている。
「ちょ! 志信さん! 落ち着いて! 殴っちゃだめだよ!」
咄嗟に椿は、護谷と志信の間に立つ。
椿が目の前に居たことで志信は我に返ったのか、二、三歩後ろに下がった。
「冷静になって。ちゃんと話し合いで解決しよう」
「……畏まりました。お蔭で頭が冷えました」
落ち着いた様子の志信を見て、椿は一安心して二人から離れようと背中を向ける。
その瞬間、ガッ! という音と共に人が転倒する音が椿の耳に聞こえてきた。
「え?」
振り返った椿の目に、殴った体勢の志信と尻餅をついている護谷の姿が目に入る。
この人、全然冷静じゃなかった!!!
「よくやったわ、志信!」
「ええ!?」
椿は、ただただ目の前の出来事に目を丸くしていたが、後ろから聞こえた佳純の声に我に返る。
「佳純さん! よくやったじゃないよ! 私が言えた義理じゃないけど、殴るのはだめでしょ!」
「何を仰るのですか。あの馬鹿は主人である椿様に暴言を吐こうとしたのです。殴るのは当たり前のことではありませんか」
「いやいやいや! 平和的に解決しようよ!」
「椿様、落ち着いて下さい。大丈夫です、ちゃんと護谷をご覧下さい」
佳純は、慌てふためいている椿の肩を持ち、反転させる。
護谷は未だに尻餅をついている状態で顔を下に向けているために表情が分からない。
志信は腕を組んで、そんな彼を見下ろしていた。
「晃、気は済んだか?」
それは静かな声であった。
先ほど、感情を高ぶらせていた人物と同じとは椿には思えないほどに、志信は冷静であった。
「歯が抜けたらどうしてくれるんですか」
「お前の希望を叶えてやっただけだ。文句を言うな」
「俺は椿様から殴られるか平手打ちにされるかを望んでいたんですよ。志信兄さんには頼んでません」
「椿様に手を上げさせようなんて、図々しいにもほどがある。それに、これまでお前がやってきたことを俺は許すつもりはない」
「……分かってますよ。凝り固まった思考のまま馬鹿をしたことは理解しています」
「そうか。じゃあ、これから先は己の愚行を思い返してのたうち回ればいい。あと、さっさと起きろ。いつまでも椿様に見苦しい姿をお見せするな」
左頬をさすりながら、護谷は立ち上がると椿の方を向いて口を開いた。
「椿様。これまでの数々の無礼、大変申し訳ございませんでした。朝比奈家の血縁者ではない、というだけの愚かな理由で椿様を軽んじていたことを謝罪致します。本当に申し訳ございませんでした」
衝撃的すぎて、椿は何も言うことができず、ただ護谷を凝視するしかない。
すると護谷は椿に近寄り、その場に跪いた。
「椿様は、血ではなく中身が大事であるという初歩的なことを俺に気付かせて下さいました。許してくれとは申しません。ですが、これから先、椿様のためだけに尽くすと誓います。ですからどうか、椿様のお側にこの護谷晃を置いて下さいませ」
一体どんな心境の変化があってこうなったのか椿には見当もつかない。
あまりの護谷の変貌に、椿は混乱していた。
「え? あの、これ、どういうこと?」
「恐らくこの馬鹿はすでに椿様を主として見ていたのだと思います。ですが、己のプライドと価値観が邪魔をして、素直になれなかったと。それで、今回の椿様のお言葉に胸を打たれてけじめとして、椿様から罰を与えて欲しかった、ということでございます」
「馬鹿のしたことを考えれば、生ぬるすぎます。護谷の一族から追放すべきかと」
「椿様から、そうご命令されれば従います。それで許していただけるのならば構いません」
「待って! どんどん悪化してるから待って! 大丈夫だから。私、怒ってないから! あと護谷先生のこと馬鹿って呼ぶの止めてあげて!」
罰を与えようとしない椿の寛大さと優しさに護谷は尊敬の眼差しを彼女へ向ける。
キラキラした目で見られ、椿はなぜこうなったのか、と途方に暮れた。
信頼関係を築ければいいと思っていたのは確かである。だが、ここまで尊敬されたいとは椿は思ってもいない。
何が彼の琴線に触れたのか、椿には分からない。
「椿様のご命令であれば、この護谷。いかなることでも成し遂げてみせましょう」
「どどど、どうしよう志信さん。護谷先生が気持ち悪い」
「昔からです」
「昔からなの!? 手遅れじゃない!」
「ええ。手遅れです。ですので諦めて下さい」
そんなぁ、と言いながら椿は護谷に目を向ける。
彼は椿に向かって跪いて彼女の指示を待っていた。
まるで犬のようである、と彼女は感じた。
「えっと、じゃあ。護谷先生」
「晃、とお呼びいただけると嬉しいです」
「名前で呼んでもらおうなんて図々しい男だな」
「あんたなんて産業廃棄物で十分よ」
「もー! 志信さんも佳純さんも口出ししないで! 話が進まないから!」
椿の言葉に、志信と佳純は黙り込み、一歩後ろに下がった。
「護谷先生。立花美緒に入れ知恵をしている人物に心当たりがあるのなら、教えて下さい」
その問いに護谷は一度目を瞑った後で口を開いた。
「……琴枝美波です」
琴枝、と聞き、椿は美緒の側に居る取り巻き達の顔を思い浮かべる。
目立つ人物ではなかったことから少々時間が掛かったが、椿は琴枝美波の名前と顔を一致させた。
「随分と大人しい子だと思ってましたけど」
「そう見せているだけです。彼女は他人が揉めている姿を見るのが好きなのです。それとなく周囲を操って悪い方へと転がすのを得意としています。だからこそ、大人しい性格の人間だと思われるように行動しているのです」
「……悪趣味ですね」
「全くその通りでございます。それで一度、私は素を見せている琴枝と接触して、それなりに信頼を得ております。……椿様のご命令であれば、私が琴枝に接触して立花美緒が何を企んでいるのか聞き出してご覧にいれましょう」
「本当に可能なんですね?」
その問いに護谷は、しっかりとした声で「はい」と答える。
「でしたら、護谷先生。琴枝美波から情報を聞き出して下さい」
「畏まりました」
「よろしくお願いします。それと報告は近いうちにお願いします」
「すぐにでも」
他にも色々と話を詰めて椿達は帰宅した……のだが、その一時間後、調査を終えた護谷が朝比奈家にやってきた。
まさか、もう分かったの? と思いながら、椿は彼から報告を受ける。
「それで、何か分かりましたか?」
「ええ。簡単にカマをかけてみましたところ、あっさりと引っ掛かってくれました。立花美緒はどうやら創立記念パーティーで夏目様が恭介様のパートナーとして出席しないようにしたいらしく、彼女を攫おうと考えているとのことです」
「え!? 攫う!? 攫う? って、もしかして……」
ここで椿は、美緒がゲーム内で倉橋椿がやったことを再現しようとしていることに気付いた。
「立花家の使用人が使えないことから、彼女は母親のイトコに当たる秋月の社長にお願いして秋月家の使用人を使おうとしているみたいですね。それと立花美緒は、どうやらここがゲームの世界だと思い込んでいるのだと琴枝は言っていました。それで夏目様が誰とも結ばれることのないエンディングを再現しようとしていると」
「何のために……」
「夏目様が居なければ、自分が恭介様に選ばれるという理由だそうです」
とんでもない理由を聞き、彼女は深いため息を吐く。
「それと、ついでに調べたのですが、秋月家はかなり経営が苦しいみたいですね。銀行の融資も断られているとか。それに、社長はかなり現実的な方らしく、色々と画期的な策を提案しているようですが、しきたりや伝統を重んじる父親や重役に口を出されてどうにもならないようで、彼らを排除したいと思っているようです」
「社長って、血縁的には立花さんの母親のイトコに当たるのよね?」
「はい。水嶋様と昔、色々とあった女性は社長の叔母だそうですが、社長本人は特に水嶋様を憎んでいるだとかの感情はないようです。叔母もイトコも余計なことをした、と酒の席で友人に話していたとか」
だとしたら、その社長をこちらに引き込めるかもしれない、と椿は考えた。
「志信さん、伯父様に連絡して」
志信に告げ、椿はどうやって美緒の計画を阻止しようかと考える。
秋月の社長を引き込めれば断然楽になるのだが、琴枝美波のことも気になった。
「琴枝さんについての情報はさっき言ったことだけ?」
「色々と話は聞き出しております。取りあえずはこちらを」
護谷は胸ポケットから細長い機械を取り出して椿に差し出した。
「これは?」
「ICレコーダーでございます。琴枝美波との会話を全て録音しております。好きにお使い下さい」
躊躇しながらも、椿は差し出されたICレコーダーを彼から受け取る。
彼女はすぐに志信に手渡し、伯父に持っていくようにと頼んだ。
「……予想外に本当に仕事ができる人だったのね」
「これまで椿様に対しては意図的にお見せしておりませんでしたから。これから貴女様のお役に立つために、遺憾なく発揮させて頂きます」
「ありがとうございます。頼りにしてますから」
椿が声を掛けると、護谷はそれはもう満面の笑みを浮かべながら「はい!」と口にしたのである。
幻覚だとは分かっているが、護谷に犬耳としっぽが見えた。
物凄い勢いでブンブンしっぽを振っているような護谷の雰囲気に、彼女は選択肢をどこで間違えたのだろうかと頭を悩ませる。
けれど、今は護谷の態度の変化に戸惑っている場合ではない。
なんとしても透子を守らなくてはいけない。
こうして計画が分かったということは、対策がしやすいということだ。
慎重に、でも迅速に動かなければならない。創立記念パーティーまで時間がないのだ。
それからの椿の行動は早かった。
伯父に頼んで、秋月社長と接触してもらい、水嶋側についてもらうことに成功する。
また、護谷達に隠れて見ていてもらうことを条件に出し、椿は美緒と対峙して事前に計画を潰そうと考えていた。
中等部の時とは違い、美緒のグループの人数は本当に少なくなっている。
よって、椿が美緒に近づいても前のように連絡を取り合って彼女を避けようという動きはできないはずだ。
この椿の読み通り、創立記念パーティーまで残り数日というところで、彼女は美緒と対峙することになる。