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 打つ手がなくなりどうすることもできずにいた椿は、白雪から放課後に話があると空き教室に呼び出された。

 相手が白雪であったことからもしかしたら透子の件で話でもあるのかと思い、椿は快諾し空き教室へと向かう。

 するとそこには白雪の他に透子も居て、彼女は椿が入ってきたことにひどく驚いていた。


「なんで、朝比奈様を!」

「一番事情を知ってそうな人に聞くのが一番だと思ったからよ」

「だからって!」

「夏目さん、落ち着いて」


 興奮している透子は白雪へと詰め寄るが、椿は落ち着かせようと彼女の肩に手を置いた。

 止められたことで透子は我に返り、白雪から離れる。


「……白雪君、ここに夏目さんが居るってことは話は恭介さんのことでいいのね?」

「そうよ。それと話は変わるけど、透子に対してその話し方で大丈夫なの?」

「ああ、去年の冬にコンビニで買い物してるの見られてね。こっちの口調がバレたの」

「何してるのよ……」

「バレたのが夏目さんだったんだから問題ないでしょ? それよりも今は夏目さんの話よ」


 そうだったわね、と呟いた白雪は本題を口にする。


「……椿は最近の水嶋様の態度は知ってるわよね? まだ透子に話してないことで何か知ってることがあれば教えて欲しいのよ」

「残念ながら、恭介は夏目さんだけじゃなく私まで避けてる状態でね。メールも電話も無視されてるの」

「椿まで? 徹底してるわねぇ」

「でしょ? それで、恭介さんがああなったのって、この間の昼休み以降よね? 夏目さんが階段から落ちそうになった日。あの時の恭介さんってどんな感じだったの?」

「……あの日、午前中までは水嶋君の態度は普段通りだったんです。でも階段から落ちそうになって尻餅をついて上を見たら顔面蒼白の水嶋君が私を見てて……。なんていうか、その時の水嶋君は物凄く怖いものを見たような顔をしてました。それからは凪君が立ち上がれない私をおんぶしてくれてその場を離れたので、水嶋君の様子は分からないんですけど」


 話を聞いても、やはり恭介の態度が変化した理由が椿には思い浮かばない。


「あの、朝比奈様……。もしかしたら水嶋君は私が階段から落ちかけたのを見て、あまりの鈍くささに引いてしまったんじゃないですか? みっともないと思われてしまったんでしょうか? 見限られてしまったから、もう関わりたくないと思ってしまったんでしょうか?」


 言いながら透子は泣きそうになっている。

 咄嗟に椿はそれはない! と強く否定したが、透子は下唇をかんで首を横に振っていた。

 透子にこんな顔をさせた恭介を殴らないと椿の気は収まりそうもない。


 一方、透子と椿のやり取りを黙って聞いていた白雪は、顎に手を当てながら冷静な口調で話し始める。


「ねぇ、ちょっと疑問に思ってたんだけど。透子は水嶋様に冷たくされていることを気にしすぎじゃない? 何でだろうって思う気持ちは分かるわよ? でも、前に別の子が同じように透子を無視した時は、透子は自分にも悪いところがあったかもしれないからって、とりあえず相手が落ち着くのを待って時間を置いてから動いたじゃない。どうして水嶋様に対してだけすぐに動いたの?」


 透子は、それは……と言葉につまり口を閉ざした。

 彼女自身もなぜそうしたのかが分かっていないようで考え込んでいる。


「分からないなら、このまま水嶋様の気持ちが落ち着くまでは放っておくのね。今、本人に聞いても話してくれないだろうし」


 放っておくという言葉に反応した透子が勢いよく顔を上げた。


「どうしてそこまで過剰に反応するのよ。他の子と水嶋様に違いなんてないでしょう? それとも……嫌われたくない理由でもあるの?」


 白雪から聞かれ呆けていた透子であったが、しばらくすると彼女は一気に顔を真っ赤にさせて恥ずかしそうに顔を伏せてしまう。


「え?」


 恋愛感情を自覚したような透子の行動に、椿の動悸が激しくなる。

 全くのシリアスな場面であるにも拘わらず、椿は口元に笑みが浮かびそうになった。


「な、夏目さん! そうなの!? まさかそうなの!? 恭介さんのこと」

「ぎゃー! 言葉にしないで下さい!」

「やっぱり! やっぱり好きなんだ!」

「ハッキリ言われると恥ずかしいので止めて下さい!」

「いよっしゃー! 天は我に味方したぞー!」


 立ち上がり両手を挙げている椿と顔を手で覆ってジタバタしている透子。

 一見異様な光景である。


「あーもう! 透子も椿も落ち着いて頂戴。ほら椿は座って」

「あ、ごめん。つい興奮して」


 椿と透子を落ち着かせた白雪は、盛大なため息を吐いた後で真面目な表情になり口を開く。


「ねぇ、椿。本当に水嶋様が透子を避ける理由を知らないの? 何かこれまでに疑問に思ったこととか無かった?」

「私からもお願いします」


 白雪と透子から聞かれたが、恭介から話を聞けていない椿はさっぱり分からない。

 階段から落ちそうになった透子を見て恭介が何を思ったのか。何故あそこまで動揺したのか。

 先ほど透子は恭介が何か怖いものでも見たような顔をしていた、と言っていた。

 怖い、怖がる? 恐れる? あの恭介が怖いと思うものがあるのか? と椿が考えた所で、そういえば中等部の時に冷静な彼が美緒に対して怒りをあらわにした後で、彼女に「死なないよな?」と不安そうな目をして聞いていたことがあったのを彼女は思い出す。

 あの時は切っ掛けが"死"というワードであったことから、恭介は階段から落ちそうになった透子を見て、もしも彼女が死んだら、と考えて途端に怖くなった可能性がある。

 けれど、それだけで透子を遠ざけようとするだろうか? と椿は疑いを持ってしまう。


「何? 何か気付いたことでもあったの?」


 椿の表情の変化を察知した白雪がいち早く訊ねてくる。

 

「……夏目さん、白雪君。今から私が言うことは絶対に誰にも言わないと誓って」

「言わないわ。でも、とんでもない秘密を共有させられるのはごめんよ」

「絶対に誰にも言いません。だから言って下さい。朝比奈様」


 二人の表情から、本当に絶対に誰にも言わないと判断した椿は大きく深呼吸をした後で話し始める。


「あのね。恭介は三歳の時に母親を亡くしてるの。どの程度かは私は分からないんだけど、母親の死がトラウマになっている部分があって、近しい人が死ぬことを恐れてるんだと思う。これは本人から聞いた訳じゃないから私の予想なんだけど。でも、それだけで夏目さんを遠ざけるのはないかなって思って……」


 悩んでいる椿と違い、白雪は彼女の話を聞いて何か考え始める。


「白雪君、どうしたの?」

「いえ、うちと状況が似てるかもって思っただけよ。……ねぇ。確か水嶋様と椿のお祖母さんも早くに亡くなってたわよね?」

「うん。確かうちの母が学生の頃だって。何か気になることがあるの?」

「気になるっていうか。……仮定なんだけどね。でもそう考えると納得できるのよね」

「何が?」


 首を傾げた椿は聞き返して、白雪に先を話すよう促した。

 彼はしばらく考え込んだ後で椿へと視線を向ける。


「あのね。前にあたしの父は小学校に入る前に亡くなったって言ったわよね?」

「うん」

「うちの母は、かなりしっかりした人なんだけど、今の父にプロポーズされた時に、ちょっと情緒不安定になってね。理由を聞いたら『私のせいで相手が死んだらどうしよう』って泣き出したのよ。っていうのも、実の父は駅まで母親を迎えに行く途中で事故にあって亡くなったから、父方の親族に色々と責められたりしたせいで、自分のせいだって思い込んで結婚相手を不幸にしてしまうかもしれないって信じ切ってたみたいなのよ」

「……それって、お祖母様やおば様が亡くなっているから、恭介さんは自分の相手もそうなるかもしれないって考えたってこと?」

「水嶋様がどう考えてるのかは分からないけどね。でもそう考えると納得はできるのよ」


 話を聞いた椿は、確かに気にしすぎるところがある恭介だから、そう考える可能性はあると思った。

 同時に、恭介は透子から嫌われた方がいいとも言っていた。今の話が合っていた場合、その恭介の言葉は理解できる。

 また、その場合は恭介の態度が軟化することは絶対にない。

 どうする? と悩みながら椿は、避けられている張本人である透子の様子を窺う。

 意外なことに彼女は先ほどまでの悲しげな表情からやや落ち着いた表情に変わっていた。


「夏目さん、大丈夫なの?」

「はい。大丈夫です。って言いたいところですけど、正直に言うと色々混乱してます。水嶋君から話を聞いた訳ではないので、本当かは分かりませんけど、何も知らない時よりは落ち着きました」


 恭介の気持ちを知ったら透子はもっと安心できるのではないかと椿は思ったが、本人から彼女が好きだとは聞いてないので、あいつも同じ気持ちだから大丈夫だよとは言えなかったし、それはさすがに首を突っ込みすぎである。

 ということで、椿ができることといえば恭介にしつこく話を聞くことくらいだ。

 それも避けられているので、透子の役に立つことは難しいものがあるが、やらないよりはマシである。

本来、一話だったのを途中で切ったので一日二話更新致しました。

来週からはいつも通り一話ずつの更新となります。

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