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94.5 美緒side

 期末テストの後、冬休みに入っていた美緒は、これまでのことを思い出して一人憤りを感じていた。


「美緒ちゃん、これからは自分が何を言ったらどうなるのかを考えて発言しなければならないよ?」


 気の弱い継父が美緒に対して初めてした注意に彼女は苛立ちしか感じなかった。

 更に、ほとんど美緒と顔も合わさない母親が久しぶりに彼女と二人になった際に、ため息交じりに呟いた言葉にも腹を立てていたのである。


「種が悪いから出来損ないが生まれたのね。人の顔に泥を塗って楽しい? 全く、貴女のお蔭で私が他人から笑われるのよ。いい迷惑だわ」

「そんな男を選んだあんたの責任じゃない」

「なんですって!?」

「図星だから怒るのね。いいのよ? 私を秋月家に追いやっても。でもそうなったらあんたは他人から後ろ指を指されることになる。子供を捨てた人でなしってね」

「本当に、貴女は口だけは達者なのね。口だけだけど」


 悔しそうな母親の顔を見て、美緒はとても満足していた。

 だが、年季が入っている分、母親の立ち直りは早い。


「ああ、そうだわ。貴女が冬休みってことで思い出したけど、最近は成績の報告が無いじゃない。あれだけ私に自慢していたのにね」

「……別にどうでもいいでしょ? いちいちあんたと話したくないだけよ!」

「あら、そうなの? 色んな人から聞いてるんだけど、随分と成績を落としてるみたいね。私に大口を叩いていたくせに難しくなったらこれなの?」

「……それは! 仕方ないじゃない! だって習ってなかったんだもの! 知らなかったんだから仕方ないでしょ!」

「授業をちゃんと聞いてれば分かる筈でしょう。何を訳の分からないことを……。少なくとも勉強していればここまで成績は落ちないはずよ。私の産んだ子がここまでバカだと本当に恥ずかしいわ。お願いだから、これ以上恥を晒さないで頂戴。出来損ないなら出来損ないらしく日陰で大人しくしていればいいのに。ああ、全くもう、なんであんたなんて産んだんだか……。もっと頭の良い男を選んでいたら違ってたのかしらね」


 "出来損ない"

 この言葉が美緒の心に暗い影を落とす。

 目の前の母親と前世の母親の姿が重なる。あの女も美緒を蔑んでいた。

 出来損ないと口癖のように言っていた。

 美緒が思っている以上に、前世でから言われていたことはトラウマとなっている。


「…………産んだのはあんたでしょ! 私は悪くない!」

「またそれ? 二言目には私は悪くないって言ってるけど、もう聞き飽きたわよ。もっと他にバリエーションはないの? つまらないわ」

「何よ! 事実でしょ! 母親の責任も果たしてない女が偉そうに言わないでよ!」

「養育義務は果たしてるわ。衣食住は満足させてるんだから知らない。だからこれ以上失態を演じるのは止めて頂戴。もう水嶋家なんかに頭を下げるのはごめんよ」

「椎葉のことは私のせいじゃないわよ! 悔しいならあんたが朝比奈椿をどうにかすればいいじゃない! それこそ前の時みたいに上手くやれるでしょう!?」

「嫌よ。そんなことしてもお母様は私を褒めて下さらないもの。あの女の娘である水嶋百合子を負かして初めて私はお母様から愛されるのよ。でも一度、水嶋百合子の子供に会ってから、どこに行っても会えなくなったのよね。まぁ、子供如きを叩きのめしても意味がないからいいんだけど」


 淡々と母親は言ってのけているが、美緒は異常なまでに母親の愛情を得たい彼女のおかしさに気付いていない。

 恭介の愛情を得たい美緒にとってすれば、母親の言い分が多少は理解出来るからだ。


「……っ」


 言い返すことが出来ない美緒は母親を睨み付けて、派手な音をたてながらリビングから出て行く。


 自分の部屋へと入った美緒は地団駄を踏む。

 元はと言えば椎葉が全部悪い。実際にやるなんて馬鹿げているし、よりにもよって朝比奈椿のせいにするなんて信じられない。

 ちょっと考えれば気付けたはずだし、実際にやっても美緒の命令だなんて言うはずがない。


「あいつのせいで全部台無しよ」


 美緒は中等部で大人しくして高等部で挽回しようと思っていたのだ。

 そもそも『恋花』内の中等部では攻略相手と付き合うまではいかない。精々友人以上恋人未満の関係までにしかなれない。

 本番は高等部。高等部では中等部以上に恋愛イベントが沢山あるのだ。

 また、美緒は中等部での恭介関連のイベントが上手くいかなかったことの原因が入学式の時のイレギュラーな自分の行いにあると思っていた。

 あの時、きちんと放課後に恭介と会っていれば、美緒は彼のイベントを起こせたはずである。


「だからこそ高等部の入学式で今度こそ間違わないようにしないと……。大丈夫よ。椎葉との一件は恭介様に見られてないし、周囲に関心の無いキャラだもの。耳に入っても聞き流して忘れるはず。ゲームではそうだった。だから大丈夫よ」


 最終的に恭介ルートへ入る為に必要なイベントは起こしているのだから、ルートから外れたなんてことにはなっていないはずである。

 美緒はそう信じていた。

 

「大丈夫よ。中等部で上手くいかなくても高等部できちんと好感度を上げられるシステムだったもの。大丈夫。まだ間に合うわ。それに体育祭で恭介様の家庭について話してあるし、ちゃんとフラグは立ってる」


 ブツブツと呟いた美緒の表情は鬼気迫っていた。

 だが、高等部ではもう一人の主人公である夏目透子が出てくる。

 彼女よりも先に美緒が恭介のルートに入らなければならない。


「仮に恭介様と仲良くなるようなことがあったら、こっそり邪魔をすればいいだけだもんね。大丈夫よ。夏目透子も恭介様を狙ってるなら朝比奈も邪魔をするはずだもん。だから邪魔をした私が攻撃される訳がない。見逃してくれるはず」


 ふふふ、と美緒は笑い、高等部ではきっと上手くいくはずと微笑んだ。

 早速、美緒は記憶に残る高等部のイベントをノートに書き出していく。

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