勇人
蝉がうるさくないている。
ミーンミンミンミンミン…
「今年も暑いねー」
横にいた彼女がそう呟いた。
「ちゃんと水分取ってるか?」
と問うと、
「取ってるわよー!バカにしてるの?」などと言われ、頬を膨らまして僕から背を向けた。
「ごめんって」
などと若干笑いながら言うと
「別に怒ってないよー?」
と笑顔で僕の隣に戻って「行こう」と自分から手をつなぐ姿はとても可愛かった。
そんな幸せでごく普通の青春を送っていた、ある時だった。
「じゃあねー」
そういって彼女が僕の家から帰って行く時。いつもだったらすぐにメールがきて、今日はありがとうねとか言ってくれるのにその日はいつまで経ってもメールが来なかった。
その時僕は、もう充電が無かったのかな?と思い、しばらく待っていた。
一時間
二時間
ずっと待っていたのだが、いつまで経ってもメールが来なかったため、不安になり自分から今日はありがとうね。と送っておいた。
だが、メールの返信は全然来ず、これはおかしくないかと心配した。
いや、心配しすぎか。もしかしたら携帯を没収された…なんてこともあるのではと考えると、まあ大丈夫か。という考えに辿り着いた。
だけど、それは間違いだった。
その次の日だった。
「勇人…」
お母さんが震えた声で僕の名を呼んだ。「何?どうしたのお母さん」
「落ち着いて聞きなさい…」
「えっ何?」
「唯ちゃんが…」
「唯が、どうかしたの?」
「唯ちゃんが昨日亡くなったらしいわ」
それを聞いた僕は力が抜けて、気がつけば赤信号の交差点の真ん中に立っていた。
「ごめんね」
僕は最後にそう言って、車に轢かれた。