第1話:目覚め
鬱蒼とした森の中を彼は獣のように駆けていた。
《流石に此処まで来れば大丈夫だろう。》
心の中でそう呟いて立ち止まり後ろを振り返ってみる。
意識を集中させ気配を研ぎ澄ます。
10秒ぐらいすると居ない事が分かり
「フゥ」と一つ息をついた。
《……突然〈トレーニングだ!!〉とか言っておきながら、本気で殺しにくるとかおかしいだろ………》心の中で溜め息を吐きながら彼(栗原 拓)は少しだけ額に浮き出た汗を拭いた。
「甘いなぁ〜拓」
!!背後から突然の声に内心焦りながらも反撃に出ようと力を腕に込めるが…
首筋に木の感触が伝わると、その力を抜き腕を軽く上に上げる。
「何だ拓もう降参か?」
ニヤニヤしながらその人(瀬戸 迅)は嫌みたっぷりに言ってきた。
拓 「後ろからのあの状態では何も通用しませんよ。
それに、トレーニングですからね。トレーニング。ねぇ先生。」
この人は一応俺の先生だ。
首筋の感触も今は無く、ゆっくり振り返りながら言った。
後ろを振り向くと見慣れた肩まである金髪、すらっとした体型、年は20代前半ぐらいの先生が苦笑していた。
迅 「おい、おい…………ちょっとマジになっただけだろ?」
必死に言う先生だが
拓 「ちょっとか〜へぇ〜木刀で木を軽く切り落とすのがちょっとマジになっただけですか。」
先生はそれが効いたのか冷や汗を大量にかいていた。
拓 「じゃあ今日のトレーニングはもう終わりですよね?
先に帰らせてもらいます。」
それだけ言うと返事も聞かず背を向けて歩き出す。
迅 「ちょっ、待ってくれよ拓!!
俺が悪かったから許してくれ〜!!」
その後を慌てて追いかける。
森は夕暮れに染まり黄金色の輝きを放っていた。
この後に拓に起こる出来事など想像もつく訳が無かった。