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舞台裏・独白

 その姿は、痛々しかった。

 夜明け前の青い薄闇の中、白いシーツに包まる姿はあまりにも華奢だった。規則的に繰り返される呼吸が聞こえなければ、生きている事さえ疑ったかもしれない。たとえ本当に死んでいたとしても、きっと不思議には思わなかった事だろう。それほどまでに何もかもが、か細く、脆く、柔い。

 いつだって綺麗だった。最近になって特にそう思う。憂いを帯びたからだろうか。もしそうだとするなら、そんなものは永遠に要らなかったのに。

 す、と手を伸ばして、結局触れずに手を止めた。

 もし、起こしてしまったら。きっとそれは躊躇になる。

 だったら、何もしない方がいい。そんなお別れでいいのだと思う。

 日に日に憔悴していくと思っていたのに、予想を少しだけ裏切った。生気を宿した目がこちらを見た時に、ああ、と瞠目したのを生々しく覚えている。まだ諦めていないのか、と。

 だが、傷ついていないわけではないのだ。今もきっと血を流している。悲しみの中にいる。その絶望はどれほど人との関わりを重ねても、一生分の時間をかけても、永遠に埋まらない。あの傷が生んだ穴は、そういうものだと知っている。

 ――キスをした、と。

 クッションを抱きながら恥ずかしそうに俯き、ホットミルクのカップを握りしめた姿を、忘れないでいようと思う。辛い現実の中で見つけた幸せの欠片を、自分だけは覚えていようと思う。

 昏い眼差しをしていると自覚しながら、目を扉へ向ける。

 部屋を出る為にドアノブを掴み、回した。

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