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舞台裏・独白の主はもういない
「探さなくていい」
きつく抱きしめられながら、震える声を服越しに聞いた。頭が強く胸板に押し付けられて、そこからは温かな体温と、底の見えない冷たい恐怖の両方が伝わってくる。
「でも……っ」
「一緒に探そう。一人は駄目だ。お願いだ」
涙が溢れるかと思った。だがそれは相手もきっと同じだった。
皆、いなくなる。何も残らなくなってしまう。その恐怖で震えて身を寄せ合う私達は、間違いなく家族だった。
床に落ちた包丁。その柄を少女が家族と見下ろし、拾おうと手を、伸ばした時。
世界は、音もなく白い光に包まれた。
そして、何も残らなかった。




