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第06話 男子高校生は機甲騎兵の夢を見るか?



 おっちゃんが手綱を取る荷馬車に揺られること3時間、道中野盗に襲われることも無く、俺たちは無事街に到着した。

 出発は山から太陽が顔を覗かせ始めた早朝だったので時間的には午前9時頃。

 街道とは言え長年の人の(あるいは荷馬車の)行き来で踏み固められた地面にすぎない道筋はでこぼこも多く、サスペンションなど望めない使い古された荷馬車は地面のでこぼこをダイレクトに伝えてくる。

 おかげでケツが痛いのなんのって……。

 最初はのどかな田舎道の風景を楽しめる余裕がありはしたが、途中から響くケツの痛さにそんな余裕など消し飛んでしまった。

 護衛を兼ねていたとはいえ、ワザワザ送ってくれたのだから文句など言えようもない。

 

 さて、ルベランスの街だ。

 大陸中部に位置するノックロウド王国の最北の街ルベランスは、大陸の背骨オンタリオ山脈への入り口としてそれなりに栄えているのだとか。

 なにせ山は様々な天然資源の宝庫。

 とくにこの辺りの森は様々な薬草の群生地としても有名らしい。

 森や山で採取できる薬草には他の土地では手に入りにくい希少価値のある薬草種も多く、その取引のため日ごろから多くの商人が訪れるらしい。

 商売繁盛でなりよりだ。

 とは言え、一本で金貨数枚する超高価なレア薬草などはめったやたらと取り引きされるわけも無く、その多くは日常的に使用する傷薬や内服薬などの原料となる薬草が主となる。おっちゃんによると、この街の冒険者ギルドにはそうした薬草採取の依頼が常設依頼として依頼掲示板に張り出されているのだとか。


 いいね。

 ごく普通の現代高校生である俺にとって、危険の少ない依頼が多いというのは実に有難い話だ。高収入より身の安全のほうがより重用。と言っても、山中の街だからして魔獣などの討伐依頼も頻繁に出るらしいが。

 多くは畑を荒らす害獣退治とのことなので、ちょっとホッ。


「さあ着いたよ。ここがルベランスの街だ」


 おっちゃんは顔見知りらしい門の守衛と親しげに言葉を交わし、商用で訪れたことを伝えて簡単な荷の検査をすませ荷馬車は高さ10メートルはあろうかという馬鹿デカイ石造りの城門をくぐり街へと入った。

 こんなデカイ門と頑丈そうな分厚い壁で街を覆うってことは、それを必要とする事態を考えてのことだよな……。戦争に備えてというよりも魔獣対策なんだろう。デンジャラスな世界だ。

 だがまあ、今はそんなことよりも……。


「おー……ケツがイテェ」

「ははは。街に入って最初の言葉がそれかい?」


 街の中は思ったより清潔だった。

 路面は石畳で道に馬糞などのゴミも落ちている様子はない。

 日本の都心の道と比べればせまいが、それでも片側一車線程度の道幅はあり、俺達以外にも数台の荷馬車が行き来している。

 道行く人々の表情も闊達で明るく、ふと視線を向ければ道ぎわの商店主(ありゃ果物屋か?)が元気に主婦らしき女性に声をかけている。商品の果物らしきものを手に威勢よく売込みしていた。

 なんだか街全体が活気に満ちているな。

 思った以上に良い街みたいで感心するが―――今はそれよりもケツが痛いのだ。


「いやマジで痛くってさ」

「ルベランスはこの辺りじゃ一番大きな街さ。オンタリオ山脈で取れる薬草のお陰で商人も頻繁に街に来て景気がいいから人も多いし、日用品を含むいろんな物が売られている。仕事でここを拠点にする冒険者も多いから、冒険者登録するならいい街だと思うよ。でも始めは無理せず薬草採取の仕事からすると良いよ」

「なんだか経験者のような口ぶりだね」


 街への道すがらおっちゃんと色々話ししてたが、山村の猟師にしては冒険者のことに詳しい。ひょっとして元冒険者なのか?

 このあたりに生えている薬草分布なんかも教えてくれたし。ありがたやありがたや。


「ああ、これでも昔は冒険者だったんだよ。子供の頃から憧れててね。まあ、子供がかかる病気みたいなものさ。剣一本で成り上がってやるなんて意気込んで村を飛び出したんだが……結局鳴かず飛ばずでさ。騎兵乗りなんて夢のまた夢だったよ。

 いやはや現実は厳しいね。結局数年で村に戻って猟師になったんだ」


 おおう。いきなり重い話が。


「……えっと、悪いこと聞いたかな」

「昔の話しだしかまわないよ。今は猟師として充分やっていけてるからね」


 夢破れたかつての少年。

 おっちゃんの過去を思わぬ形で知ってしまった。

 ぬう。古傷を抉ってしまったか。今後、その部分にはあまり触れないようにしよう。


 ぬ? そういえばさっきのおっちゃんの台詞に気になる部分が。

 ええと、騎兵乗り―――

 ああ、パンツァー・リートのパンツァー・リートたる所以、


「機甲騎兵か」


 すっかり頭から抜け落ちていたが、この世界には機甲騎兵というロボット兵器が実在していたのではないか。

 ついでに戦車も。


 ミリタリーだのロボットだのの漫画やアニメに傾倒する趣味はない俺だが、そこは正常な日本の高校男子。まったく興味がないわけじゃない。

 ロボットアニメ花盛りの時代に青春してた親父から、ロボットアニメの素晴らしさを耳タコで聞かされてきた少年時代。そして、親父はアニメの花形がロボットの熱いバトル物から学園ラブコメに主軸を移してしまった現状を激しく嘆いていた。

 それはもう煩いくらいに。親父、仕事しろ。


 そんな親父につき合わされ、幼稚園の頃からロボットアニメのLD(LDだよLD! レーザーディスク! DVDですらないんだぜ!)を見せられ続けてきた俺は正直ロボットアニメには食傷気味なのだが―――、

 リアルで動くロボットがじかに見れると言うのであれば話しは別だ!!

 それも等身大でなく全高6メートルを越える有人戦闘用ロボ! ついでに戦車!

 良いではないか、良いではないか。

 マジモンがリアルで動いているなら一見の価値くらいはありそうだ。


「その顔は、君も機甲騎兵好きなのかい? やはり冒険者するなら機甲騎兵に乗りたいよね!」


 俺のいきなりな言葉に戸惑ったようだったおっちゃんは、機甲騎兵と言う言葉にすぐさま反応し、少年のように瞳をキラキラさせながら興奮気味に返してきた。


「良いよね、機甲騎兵! 目指せ機甲騎兵! いつかは機甲騎兵! 冒険者するならやはり騎兵乗りに憧れるよね!?」


 荷馬車の手綱を握りながら、興奮したように身振り手振りを加えて語り始めた。

 いや、おっちゃんよ。おっちゃんが機甲騎兵好きなのはわかったが、出来れば街の往来を通りながら、しかも荷馬車を操ってるのに前向かずこっち向いて話すのは止めて頂きたい。事故ったらどうする。

 ……さっき、どこぞの主婦のおばちゃんに当たり掛けたぞ。後ろからおばちゃんの金切り声が聞こえてくる。


「なら良いところに案内してあげるよ!」


 そう言って手綱をピシリと叩く。

 おっちゃんに導かれ荷馬車は進行方向を変えた。十字路を左に折れた荷馬車は入って来た門とは別の門に向かうようだ。ええと、確か街に入ったのが東門だから目的地は南門か? 


「おっちゃん、おっちゃん。どこ行くんだよ」

「騎兵隊が丁度今の時間くらいに街の外で演習しているんだ。機甲騎兵に乗ってね! ルベランスの騎兵隊には3騎の機甲騎兵があって、うち一騎は街の中で待機だけど、演習とは言え機甲騎兵同士が切り結ぶ戦いが直にこの目で見られるんだ! 好きな人間にはたまらないよ!」


 ……なんか、おっちゃんの語尾にハートマークでも付いていそうだな。

 そうか、おっちゃんは機甲騎兵のフリークか。


 それはともかく、訓練とはいえ、戦闘用ロボがバトルするにはそれなりのスペースが必要になるよな。

 街の中じゃそんな場所は望めそうもないし。え? ひょっとして街の外に出るのか?


 せっかく街に入ったってのにすぐ外に出るなんてゴメンだぞ。また入市税払わなきゃならないだろうが!

 ボウウルフの毛皮が臨時収入になったとは言え、手持ちの資金には限りがある。この世界の物価に詳しくないし、この先どれだけ必要になるか分からん。けして贅沢は出来ない。

 俺は慌てておっちゃんを止めた。


「ストップ、ストップ! おっちゃん、演習見学はまた後日だ。先に冒険者ギルドに案内してくれ」

「えー」


 おっちゃんは不服そうだ。

 そんなに楽しみだったのか。演習の見学。


「でも早く行かないと演習終わっちゃうよ? 良い席は早く行かないと埋まっちゃうしさ」

「良い席って何だ、良い席って。劇場かなにかかよ」

「うん。良い席というのは言葉のアヤだ。訓練は10時ごろ終わっちゃうから急げばまだ30分は見れるんだ。特に最後の30分は訓練の締めくくりとして実戦形式での模擬戦するから一番の見所なんだよ!」


 ……昨日の晩、出発は日の出前とか言ってたのは演習見学に間に合わせるためかい!

 なるほど。出発時間を告げられたとき、回りの村人達の視線が生温かったのはこれが原因か……。この様子だと、おっちゃんが街に出かけるときはいつも模擬戦に間に合うような時間帯にしているんだな。

 つまりはワザワザ日の出前に出発する必要はなかったと……。どんだけ騎兵が好きなんだよ。


「おっちゃんには悪いが、目下のところ俺の最重要案件は今晩のメシと寝床の確保、明日からの飯のタネだ。俺はギルドで登録してくるから見学はおっちゃん一人で行って来ると良い」

「え、そうなの? 悪いね!」


 朗らかな笑みを浮かべるおっちゃん。

 ……俺ってば一応命の恩人だよね!? 


 そこは嘘でも「そんな悪いよ。分かった。先にギルドに案内するよ」くらいは言って欲しかった。そしたら気持ちよく「いいよ、いいよ。模擬戦の見学楽しみにしてたんだろ。俺は良いから見てきなよ」って言えたんだけどな……。

 まあいいや。ギルドの場所聞いてとっとと登録してこよう。


「一人で行って来るからギルドの場所教えてくれ」

「ああ、冒険者ギルドならさっき左折した十字路のところにあるレンガ造りのあの建物がそうだよ。それじゃ、こちらはお言葉に甘えて見学に行って来るから~♪」


 背後を振り返り目的の建物を指し示すおっちゃん。荷馬車の速度に合わせてレンガ造りの建物が遠くなっていく。

 ……おいこら。通り過ぎてるやんけ。

 世界が45度傾きそうになったけど……。まあ、いいや。突っ込むのはやめておこう。

 荷台にかけてあったガーランドを引っつかむと俺は荷馬車から飛び降りた。

 おっちゃんは一度だけ振り返って笑顔で手を振ると、そのまま南門に向けて荷馬車を走らせていく。けしてスピードを落とすことなく。


「俺ってば命の恩人のはずだよね……」


 過ぎ行くおっちゃんの姿に釈然としない物を感じつつ、俺はため息をひとつ漏らすと冒険者ギルドの建物に向け来た道を後戻りすることにした。




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