第01話 職業選択は自由
突如空中に浮かび上がった自分のステータス画面は消えろと念じたら消えた。
ステータス画面表示と念じたら再び浮かび上がった。
決定。
ここはなんのゲームだかわからないがとにかくゲームの世界で、どういう方法でか解らないが俺はその世界に迷い込んだ。
だがしかし、CGやポリゴンにしては周囲の様子がリアルすぎる。手に触れる様々な物から寄せられる感覚はヴァーチャルなもとは思えないほどに「生々しい」。
だいいちVR技術なんてまだ確立されてないし、俺は直前まで高校の教室で授業を受けていたんだ。
これはあれか?
ネット小説によくあるゲームそっくりな異世界に来てしまったとか言うやつか。所謂ひとつの異世界トリップ。
そこはゲームの法則が生きていて、スキルだの能力値が現実に存在し作用する世界。
…………。
落ち着け俺。
まずは何のゲームなのか考えよう。
常識的(?)に考えて、まず思いつくのは『パンツァー・リート』だ。
悪友に誘われ、先週の金曜から始めたその筋では有名なMMORPG。
MMORPGとは、コンシューマのゲームと違いインターネットを介して多人数がひとつのゲーム世界を遊ぶと言うジャンルのゲームだ。まったくの見知らぬ他人とアバターを通じて楽しむ、そんなゲームのひとつ。
人付き合いの苦手な俺はコンシューマのほうが気楽なのだが、悪友がしつこく誘ってくるので根負けしてしまい付き合わされることになった。
まあ、基本無料のゲームで金掛からないからプレイするくらいはいいんだけどさ。
この『パンツァー・リート』はファンタジー系ロボットアクションとか銘打たれていて、ファンタジー世界を基本にしているくせにゲーム中にロボットだの戦車だのが登場する。
正直馬鹿じゃないかと思う。
ロボットアニメは嫌いではないが、正直俺はミリタリーとかにはあまり興味がない。剣と魔法のファンタジーなら純粋に剣と魔法だけでいいじゃん、と思う人間だ。
そのことを悪友に話すと、「馬鹿だな。ファンタジーの中にロボがあるからいいんじゃないか」とか言われてしまった。
なんで?
正直あまり意欲の湧かないゲームだったが、ロボット以外にもゴブリンだのオークだのと言ったファンタジー系の敵もちゃんと登場する。俺はそっちを相手すればいいやと思いゲームを始めた。
悪友の「ロボはいいぞ。戦車はいいぞ」と呪詛のように繰り返される台詞がうっとうしかったけどな。……たぶんコイツはゲーム内で友人が出来ず、その寂しさから俺を誘ったのだろう。
とっととどこぞのギルドにでも入ればよかったものを。
あいつも俺同様人見知りするたちだからな。
哀れなヤツめ。
改めて空中に浮かぶステータス画面を見てみれば、ここ数日よく見たレイアウトのステータス画面だった。
間違いなくここは『パンツァー・リート』の世界なのだろう。どういう理由なのか不明だが、おれはロボと戦車と剣と魔法がミックスされたゲームにそっくりな異世界にゲームキャラの能力を持って来てしまったのだ。
だが腑に落ちん。
なぜに俺は1レベルなのか。
金曜の夜からゲームを始め、土日ぶっ通しで悪友につき合わされた我がマイキャラの一番高い職業は20レベルを超えていたはずだ。
なのに今現在俺は1レベル。ゲーム開始直後にリセットされている。
よく見れば職業まで未選択のままだ。
『パンツァー・リート』は職業制のゲームではあるが、就ける職業はひとつではない。ゲーム開始時点での職業枠はみっつで、経験点を消費して職業を選択すれば同時にみっつの職業の能力値補正やスキルを利用できる。
経験点を金銭に見立てて職業を買うわけだ。
ゲーム内で特に重要とされる【戦士】や【魔術師】など、所謂冒険者として必要な職業を冒険者クラスと言い、それ以外のクラスは一般クラスと呼ばれて区別されていた。職業の総計は冒険者・一般あわせて100種類を越えている。
プレイヤーはその中から好きな職業を選択してゲームを楽しむわけだ。
戦闘を楽しむなら冒険者クラスを選び、それ以外に楽しみを見つけたなら一般クラスを選ぶ。ゲームを楽しむのはプレイヤーだから、中には戦闘より製造職や商人を選びプレイを楽しむ者もいる。その数は意外と多い。
俺は素直に冒険者職業を選択してたけどね。
職業は経験点さえあれば初期状態で7種類まで購入可能だ。だが各職業に設定されている補正やスキルを同時に利用できるのはみっつまで。これを常設クラスと言う。
職業の入れ替えはいつでも出来るから深く考える必要は無いがね。
まあ、とりあえず経験点使って職業決めるか。
「俺が使える経験点は3020点か。……20点? なぜ端数があるんだ? たしか初期経験点は3000点だったはず」
三日前にゲームを始めたばかりだからそのあたりはまだ憶えている。
俺は首をかしげた。
「……これはあれか。さっきまで走ったりこけたり怪我したりしたからその分が経験点として換算されたのか?」
そういえば俺怪我してるじゃん。HP5点も減ってるしMPにもダメージ入ってる。
ここは怪我を治すために【神官】を、と言う選択肢は実は無い。なぜなら【神官】の回復魔法【治癒】は【神官】20レベルのスキルだからだ。
これは悪友から聞かされた話だ。
悪友:「初期プレイヤーはポーション使う以外、自力で回復する方法が無いのが『パンツァー・リート』というゲームなんだよ!」
俺:「ナ、ナンダッテー!?(AA略)」
開発者出て来い。俺に謝れ。
それはさておき俺の経験点は3020点。
職業は1レベルひとつ得るために1000点必要で、2レベルに上げるためにはさらに1500点の経験点が必要となる。つまり、現時点で俺は1レベルを3種類か2レベルひとつしか職業を選べないと言うことだ。
治療費がタダになる【治癒】は遠い。
怪我には気をつけよう。健康保険などないだろうしな。
職業を1レベル取得すると、各職業に応じた10個ある初級スキルの中からひとつを選んで憶えることが出来る。2レベルになればさらにもうひとつと言った具合にレベル毎に数は増える。
10レベルになれば10個の初級スキルすべて取得できるわけだな。そして10レベルごとに新しいスキル欄が表示され、100レベルになれば100個のスキルが使えるようになる。
これはすべての職業で共通だ。
スキルはこの他に経験点で直接購入する汎用スキルや特殊スキルもあるから『パンツァー・リート』はスキルだらけである。
悩んだ末に、俺は【剣士】【賢者】【錬金術師】をそれぞれ1レベルずつ取得した。
この世界で生きていくためには最低ひとつの戦闘職は必要だろう。そのための【剣士】。
ゲームでも【剣士】メインで戦ってたし勝手は分かる。武器はその辺に落ちている木の棒で代用するか。無いよりゃましだからな。
武器無しで戦える【格闘家】と悩んだが、えんがちょなモンスターと遭遇する可能性もあるから止めておく。ゾンビとか素手で殴りたくない。切実に殴りたくない。
選択したスキルは【ステップ】。
これはスキルレベルにつき0.5メートル瞬間的に移動できるスキルだ。前後左右一方向にしか移動できず、間に障害物があれば下手すればそれに衝突する欠点があるがとっさの回避に役に立つ。
今の俺は下手に攻撃スキル取るより回避に役立つスキルを取ったほうが利口だろう。怪我しないことが重要だ。
一回につき3MP使用する。
【賢者】を選んだのは初期スキルに【鑑定】があるからだ。
【鑑定】を使えばそれがなんなのか、どのような効果があるの調べることが出来る。食い物や薬草探すのに便利だと思って選んだ。
使用MPは1MPだ。
【錬金術師】からは【下級HPポーション作成】。
『パンツァー・リート』の回復魔法が20レベルからである以上、早期に使えるなんらかの回復手段が必要だ。【鑑定】と合わせれば、見つけた薬草で下級とは言え回復ポーション作成できることはデカイ。
職業レベルを上げていけば他のポーションや爆発物など色々な道具も造れるようになる。将来において有望なはずだ。
一回3MP使用。
職業は選び終わった。
常設クラス欄にセットも出来たしコレで自由にスキルを使えるはずだ。
ステータスを表示して確認してみる。おっと、そう言えば能力値を成長させる成長ポイントも残ってたな。ついでに使ってしまおう。
俺のステータスは職業特典も付いて以下のように変化した。
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氏名:神崎祐一 年齢:16歳
性別:男 種族:人間
冒険者レベル:1 未使用成長P:-
使用/未使用経験点:3000/20
所属パーティ:-
能力値 補正値
器用度:11 +1
敏捷度:13 +1
筋力 :13 +1
生命力:11
知力 : 9 +3
知覚力:12
精神力:12
HP:20/31 MP:18/29
常設職業
【剣士】1Lv 【賢者】1Lv 【錬金術師】1Lv
取得職業
【剣士】1Lv 【賢者】1Lv 【錬金術師】1Lv
特徴(人間:1Lv)
根性 3分の間、特定の能力補正値を倍に出来る(知力以外) 消費MP:3
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さて。
すべての準備は整った。
さっそく薬草探すとしよう。
……体中痛いよ。痛たたたた。
H24/08/21 文章一部修正