オープニング
本編ほっといて外伝始めちゃった……
「―――なあ、見てくれこれを。こいつをどう思う?」
空中に浮かぶ「それ」を見ながら、俺は独り言を呟いた。。
周りに人の気配など無く、その上で独り言を呟いたのだから当然返ってくる言葉などあろうハズが無い。
「すごく―――」などと何処かから突込みが返ってきたら逆に怖い、すごく怖い。
下草が生い茂る藪の中に胡坐をかき、俺は誰からも突っ込みが返ってこないことに半ば安堵していた。
ボーボーと生い茂る草は地面に腰を下ろした俺の顔くらいの高さまであり、油断すれば葉っぱの先っちょが鼻の穴に突撃しそうでうっとおしいったらありゃしない。
俺がいるここは森の中。
そりゃもう見事なくらいの森の中だ。
どんだけ見事かと言うと、周囲には見た事も無いくらいぶっとい幹の巨木が数多く生い茂るそりゃもうすごい森の中だ。
幹の太さは俺が手を回したくらいでは到底囲めないくらい太い。あと腕が1メートルほども長ければ囲めるかもしれない。
苔むした巨木は数年単位でなく、数十年あるいは100年を超える樹齢を持つのかもしれない。そんな巨木が生え揃う森など俺は聞いたことがなかった。
「右を向いても左を向いても見えるのは木と葉っぱと草―――つうか、よく分からん植物。遠くから聞こえてくる泣き声のようなのは鳥にしちゃごっついよな。ぎょえーってなに、ぎょえーって」
鳥か? 鳥なのか!?
森の中で出会う動物ならば気の良い熊さん希望なんだが、そんなの出てくるのなんざ歌の中だけだよな。現実の熊さんなどに出会ったら俺など美味しく頂かれてしまうだろう。
「さてクマった」
じゃない。困った。
いい加減現実逃避をやめて現実と向き合わなきゃマジやばそうなんだが、つい先ほどまでパニくって森ん中を駆け回ってたお蔭で絶賛息切中だ。
酸素がなかなか脳に回らず思考がちっともまとまらない。
おーいえー。
とりあえず深呼吸しようか俺。
ひっひっふー。
ひっひっふー。
なんか深呼吸じゃないような気がするがとりあえず落ち着いた。
不思議深呼吸で息を整えた俺は、いよいよ目の前の「それ」と視線をそらさず真正面から向き合おう。
なんの支えも無く空中に浮かぶ「それ」。
くっきりと虚空に己を映し出し自己の存在を主張している。だが手を伸ばしても触れることはできず、そこにあるはずなのに指は空を舞うばかりだ。
目の前60センチほど先の空中に浮かぶ「それ」は、高さ40センチ・幅30センチほどの大きさの一見すれば板のようなものだ。ただし厚みは無い。完全二次元の存在だ。
えすえふ的な呼び方をするならば「それ」はホロウィンドウとでも言うのだろうか。
所謂ひとつの立体映像。
そこに映っているメインの代物は、ある意味とっても馴染みのある人間の立ち姿だ。
まあ、ぶっちゃけて言うとだ。
「……これ、俺のステータス画面だよな?」
なのだった。
―――回想中―――
その日、麗らかな心地よい日常が続いていたとある春の日。
これまでと同じ、いつもと変わらない穏やかな日々が続くと信じきっていたその日の俺。暁を覚えない春眠に誘われ、空に浮かぶ雲が逆らうことなく風に流されていくのと同じように天然自然のあるがごとく、睡眠に誘われ身を任せた俺は気が付いたら緑生い茂る森の中にいた。
ほわい!? なぜ!?
いやちょっとまてやこら。
つい今しがたまで授業中だったはずだぞ!
授業中爆睡してたからって、どこかの森の中に捨ててくるほど教師(32歳 男 独身)も暇ではあるまい。さすがにその前に隣の悪友が起こしてくれるはず。
―――いや。ヤツなら笑って見てるだけというのも否定できない。
いやだがしかし。
ちょっとまて。
きょろきょろと周囲を見渡しても見えるのは苔むした木々と下草が生い茂る地面だけ。周囲に建物はおろか木々には人の手が入った様子も見えない。
人の手が入った森なら下草が50センチ以上も茂っているはずがない。てことは、ここはホントに原生林の森の中?
「おいおい。冗談じゃないぞ!」
半ばパニックに陥った俺は駆け出した。
そのときは必死だったから気づけなかったが実はこれは悪手だ。
山で迷ったときは動かずじっとして助けを待つのが最善手。だがしかし、サバイバルの知識や経験などない一般高校生の俺にそんなこと解ろうはずがなく、加えてパニックに陥っている俺に冷静に状況判断する余裕などあろうはずがない。
冷静でいれば、天を覆うほどでもない木の葉や下草の茂り具合でさほど深い森ではないと気が付いただろう。
もちろん、そのときの俺が気づくはずがない。
駆け出したところで当てなんかあるはずがない。
何処に行けばいいのか分からない。方向も進む先になにがあるのかわからないままただ闇雲に走った。
木々の間を抜け生い茂る藪を掻き分けて走った。
この先に悪友のいる教室があるのを信じて。
きっとこれは爆睡中の俺が見ている夢の中で、教師にたたき起こされればクラスの連中の失笑と共に日常の日々が戻ってくるに違いない―――そう信じて。
―――回想終わり―――
で、走っている途中、草か木の根に脚を引っ掛け盛大に転びそうになって顔面から地面にスライディングするのかと思えば丁度そこに頭大の石があってまともにぶつかりそうなんで必死に頭そらしたら首からクキッとか嫌な音がして避けるの半端になっちゃったもんだからかわしきれずに只でさえ低い鼻の頭を摺るわおまけに目の前2センチのところを石が通り過ぎて怖いわ恐ろしいわ側頭部が地面とキスするわ鼻擦るわ捻っちゃったのか首とか背骨とかいろんなところが痛くてもんどりうって地面を転げまわったら転がりすぎてせっかく避けた石に後頭部がこんにちわして目から汗とか花火とかお星様が出てきて天に昇ったと思ったら息するの忘れてたの思い出して大きく息したらふうーって息吹きかけると空飛んでくタンポポの種みたいなものまで吸い込んじゃって今度は喉痛いわ気持ち悪いわせっかく吸い込んだ息吐き出したから苦しいわ神様もうカンベンしてって懺悔したら目の前に「それ」が浮かんでたって訳だ。
そのときの俺の驚きようったらひつじつにかたしがたい―――じゃなくて筆舌に尽くし難い。
だってそうだろう。
それはどう見てもゲームなんかによくあるキャラクターのステータス画面。しかも写っているのは俺で能力値なんかも数値化されている。
ちなみにこんな感じ。
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氏名:神崎祐一 年齢:16歳
性別:男 種族:人間
冒険者レベル:1 未使用成長P:1
使用/未使用経験点:0/3020
所属パーティ:-
能力値 補正値
器用度:11
敏捷度:12
筋力 :13
生命力:11
知力 : 9
知覚力:12
精神力:12
HP:20/25 MP:18/22
常設職業
未選択
特徴(人間:1Lv)
根性 3分の間、特定の能力補正値を倍に出来る(知力以外) 消費MP:3
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あー、これが"俺"か……。
よく分からんが、なんか能力値低い? 特に知力が。
それにしてもホントにゲームみたいだな。
ここってネット小説によくあるゲームの世界なのか?
H24/08/21 文章一部修正