「はみでた」
わたしの名前は佐山貴子。実家から大学に通っている、ごくごく平凡な大学二回生だ。
いや~、すっかり暑くなったよね。私なんて、もう、毎日クーラーをガンガンにきかせているよ。
女なのに寒くないかって? へーき、へーき! 部屋では基本、お布団に包まっているから!
クーラーって、ちょうどいい温度にならないじゃない? 手加減したら微妙に暑いし、やり過ぎるとちょっと寒い。
でも、なるべく暑さは感じたくない……そこで編み出したのが、この、布団に包まるスタイルだ!
はあ~……夏なのに、ぬくぬく布団の快楽を味わえるなんて……私、天才。
でも、この完全無欠に思えるスタイルにも、弱点がある。
それは――――。
「はみでた」
ああ、このままだと、眠ってしまうな。
おぼろげな意識のまま、私はそのことを自覚していた。
涼風に、ぬくぬくお布団。このコンボで、ベッドの上で転がっているんだ。眠くならないわけがない。
ああ~、なんて分析している間にも、まぶたが閉じて……閉じ……。
……ん~、右の足首から先が、布団からはみ出してる……。
でも、布団に引っ込めるのもめんどくさいな~……このまま、寝よ寝よ。
そう決め込んだ私は、そのまま、夢の世界へと旅立つところで――――。
不意に、誰かに右足首をつかまれた。
眠気なんて一気に吹き飛び、すぐさま跳ね起きたんだけど……。
部屋には、私以外、誰もいなかった。
「な、なんだったの……?」
結局、誰が私の足首をつかんだのか。それはわからずじまいだった。
ただ、私はその日以来、布団から足がはみ出ていないか、気にするようになった。